セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「泥の河」

2017-09-11 23:07:52 | 邦画
 「泥の河」(1981年、日)
   監督 小栗康平
   原作 宮本輝 「泥の河」
   脚本 重森孝子
   撮影 安藤庄平
   照明 島田忠昭
   美術 内藤昭
   音楽 毛利蔵人
   出演 田村高廣
       朝原靖貴 桜井稔
       柴田真生子
       藤田弓子
       加賀まりこ

 昭和30年の大阪、安治川の川べり。小さな食堂を営む板倉夫婦と小学生
の息子・信雄。
 或る日の朝、向こう岸に一艘のボロ船が繋がれていた・・・。 

 あのラストシーンは、どういう意味なのだろう。
 艀に曳かれる宿船が、信ちゃんの目の前でアーチ橋の暗闇に吸い込まれ
て行く。
 しかし、少しだけだけど出口の外の明るい空間も見える、ほんの少しカメラ
を橋に寄せれば出口のない闇だけの絵が撮れるのにしなかった。
 原作では、その後を「お化け鯉」(死)が付いて行くのだけど。
 あの向こう側の世界は、単に親子三人の次の生活場所に過ぎないのか(信
ちゃんとは二度と交わらない別世界)、それとも、物語に残す僅かな希望なの
か・・・。

 それにしても、死の匂いのする映画でした。
 三途の川を象徴するようなドブ川、信ちゃん一家は此岸の端で懸命に生き
てるけど、此岸と彼岸に掛かる橋の上、川の舟で人が死んでいく。
 きっちゃんの家族が水上生活なのは、まだ彼岸に上がってないだけだけな
のか。
 きっちゃんが燃やす蟹の火は、まるで鬼火のようだし、きっちゃんの母、加賀
まりこのこの世の人でないような妖しい美しさも、既に彼岸の人と考えれば何
となく納得してしまいます。
 此岸が照らす彼岸の闇、彼岸が浮き彫りにする此岸の活気と懊悩、脆さ。
 その対照的な世界を束の間行き来する子供達。
 明と暗の一瞬の邂逅と無常、やるせなかったです。

 演技が皆、素晴らしいですね。
 板倉家の3人、松本家の3人、何も言うことは無いくらい。
 その中でも田村高廣、加賀まりこ、銀子役の柴田真生子の三人が特に印象
に残りました。

 評判はリアルタイムで知ってましたが、スチール写真等で暗い芸術系?と感
じ、ちょっと避けてて。(汗)
 確かに明るくはないけど、噂通りの名作でした。
 只今、「午前10時の映画祭」で上映中!

※きっちゃの目、何処かでとデジャブ感、考えたら「砂の器」だった。(きっちゃ
 んの方が真に迫ってる)
 他に「大人は判ってくれない」と「禁じられた遊び」を思い出しました。

 H29.9.10
 TOHOシネマズ日本橋

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  母子して 曳かれていくは 無残なり
  この世の常と 気にもとめずに

コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする