木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

アニメキャラの行列に並んでみる

2012-02-16 16:53:17 | お知らせ
先日、QB被害者対策弁護団の方から、ご著書をご恵送いただいた。

ronner『アニメキャラが行列を作る法律相談所』総合科学出版

まことにありがとうございました。

お返事がおくれてしまい恐縮でありますが、書評を記事にしてみたいと思います。


以下の記事を読まれる方に、ぜひお願いがある。

みなさんは、畑健二郎・漫☆画太郎両先生をご存じだろうか?

もしご存じないという方は、ここから先を読む前に、
両先生の画風をチェックしていただきたい。


さて、気になる本書の内容であるが、
アニメ、コミック、ライトノベルなどの場面で問題となる法的問題を分析しながら、
法学入門をするという、大変興味深いものである。

私は、コミケに作品を出品していた友人が何人かいたこともあり
また、数々のライトノベルの著作もある山本弘先生を
『急所』に引用していることもあって、
ronnerさんが「こっちの世界」と呼ぶ世界(同書164ページ)にも
それなりの知識を持っていたつもりであったが、
残念ながら、その自信は打ち砕かれた。

……分析されているアニメやコミックのほとんどの内容を知らない。
わずかに知っていたのは、三作品。
いずれも『憲法の急所』と縁のある作品である。


一点目は、おそらく国民的作品といって良い『名探偵コナン』。
ちなみに、昨年末、
東大生協書籍部で『憲法の急所』が1位になっていたとき(9月)
慶大生協書籍部では、コナン最新刊が1位であった!
というニュースがネットや週刊文春で話題になっていた。
不思議な縁というものである。


二点目は、憲法入門として利用されていた『涼宮ハルヒ』シリーズで、
実は、『憲法の急所』第4問妄想族追放条例事件のもとになった
「あるライトノベルの舞台となった高校にファンが無断で立ち入り
 落書きをしたという事件」の「あるライトノベル」こそ、
涼宮ハルヒシリーズである。
ふむ。不思議な縁というものだ。


最後に、ジブリの映画にもなったコクリコ坂。
急所第五問で、X社がペットボトルを輸出しようとした港は
コクリコ坂の舞台、横浜港である。
ここまで来ると、縁というより、こじつけであろう。



さて、私事はこの辺にして、書評である。

法学に限らず、専門的・学問的な知識を
アニメやドラマなどを素材にして説明する作品は多い。
最近では、ガンダムの名セリフの対訳で、英会話を学ぶ著書まであるのだ。

しかし、この種の作品のバランスは難しい。

たとえば、ガンダムの名セリフを日常生活やビジネスの場面でしゃべることは、ほとんどない。

アメリカに入国するときに、入国目的を尋ねられ
「黙れ俗物!(Shut up! Snob!)」と言ったりするだろうか?
あるいは、留学先の友人と会話するときに、骨董品を指ではじきながら
「いい音色だろ・・・。(Hmm,good sound.)」と言うだろうか?
(ハマーンとマ・クベを引用するあたりから、
 思想的偏向がバレそうで気になるところである)

本気でやると、英会話の入門書にはならないのである。

さりとて、ガンダムの場面から、
本当に日常生活やビジネスの場面でしゃべるような会話を拾っていくと、
(そういう会話を拾うことが極めて困難なのが、
 ガンダム制作陣のすごさであるが・・・。)
今度はただの英会話集になってしまう。

検討対象のアニメ・コミック等の場面設定の異常さを、
どのように法学入門の枠におしこめるか。
このあたりのバランスが、本書はすばらしいのである。


まず、作品紹介部が素晴らしい。
無駄のない文章で、未読未視聴の作品でも、内容が把握できるようになっており、
対象となっている作品の魅力をよく伝えている。
ちなみに、私は、この書を読んで、魔法少女まどか☆マギカを見てみたくなった。

また、法学入門において必要なのは、
あえて細かい知識に立ち入りつつ、
基本科目の骨太の体系につなげる語り口、
そして、法学における頭の使い方・精神の在り方の解説である。

本書は、この点でも適切である。
語られているのは民刑憲の基本科目だが、
知識はけっこう細かいうえに、
法的知識の解説としては適切極まりない。

また、法律家の矜持として、本書は次のように言う。

「法が想定しなかったからといって、
 かわいそうな人を放置して事案の解決を諦めるようなことは、
 法律家は決してしない。」(同書15ページ)

まさにその通りであろう。


法学を勉強されている方であれば、
本書の法解釈論、とても面白く読めるはずである。
また、アニメやコミックに詳しくない方でも、
日本でいま、どのような作品が創造されているのか、を知ることができ、
ronnerさまが「こっちの世界」という世界の豊かな営みを理解する一助となろう。


さて、最後に、私が電車の中でおもわず吹いてしまった一節を引用して
本書紹介の結びとしたい。


「いくら同じプロ漫画家であっても、畑健二郎先生が履行するのか
 漫☆画太郎先生が履行するかでまったく違う。
 ある日突然『ハヤテのごとく!』の絵が
 漫☆画太郎先生の絵柄に変わったら困るわけである。」


この一文ほど、民法474条1項但書の適用場面を適切に解説した文章があるだろうか。

というわけで、ronnnerさま、楽しい著書をお送りくださり、ありがとうございました。

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2 コメント

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Unknown ()
2012-02-16 18:04:47
はじめまして。
ブログいつも楽しく読ませていただいています。
『魔法少女まどか☆マギカ』は素晴らしい作品ですので、
是非是非是非是非お時間のあるときにご覧ください。
昨年のアニメではNO.1の話題作です!
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Unknown (杏アフター)
2012-02-17 16:30:49
はじめまして。
いつも興味深く拝読いたしております。
蕾さんのおっしゃるように、あの作品は非常にいい作品で、文化庁が賞をあげてくらいなんで、ぜひご覧になってください。

ちなみに、先生が今回書評を書かれた本と同じ著者(サークル)が書いた本で、「魔法少女契約規制法」の合憲性を検討しているものがあります。その本まで読むかどうかは別として、個人的には、その論点について、先生の意見を伺えたらなと思います。
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