ジャン・アレチボルトの冒険

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ディズニー映画の自己改革が教えるもの、乃木坂運営は現場主導によるステージ力重視へ方針転換を [25Nov14]

2014-11-25 17:00:00 | 芸能
NHK総合で昨夜放送された『魔法の映画はこうして生まれる ~ジョン・ラセターとディズニー・アニメーション~』は、良質なエンターテイメントを生み出すには何が必要かを考えさせられる、見応えのある特集番組でした。

ジョン・ラセター氏は、1957年生まれの57歳、現在、ディズニー・アニメーション・スタジオのクリエイティブ統括責任者で、ディズニーの映画制作部門トップです。

番組は、ディズニー・アニメーション・スタジオの長期内部取材を通して、ディズニー映画がどのように作られているのか、CGアニメーション映画におけるラセター氏の業績と絡めながら、詳しく紹介しています。

番組の流れに沿って、ちょっと、彼の歩みを辿ってみましょう。

# 以下、読みやすくするため敬称を略した箇所あり


ラセター氏は、1979年、カリフォルニア芸術大学のアニメ課程を卒業して、22歳でディズニーに入社します。

手描きのアニメーターとして出発しますが、1982年公開の『トロン』で使われたCGアニメーションに感銘を受け、ディズニー社内でCGによる作品制作を試みます。

ところが、この「新技術」への警戒感は強く、社内で反発が起こり、結局、彼は解雇されてしまう。

小さい頃から憧れて、努力の末に入社したディズニーを追われ、大きなショックを受けたラセターですが、1984年、ルーカスフィルムのエド・キャットムルから、短編CGアニメの制作を持ちかけられます。


ルーカスフィルムで、アニメーターとして経験を積んだラセターは、所属部署がスティーブ・ジョブズの出資する「ピクサー」として独立した際、その創立にも関わり移籍。

このピクサーで、本格的なCG制作を開始して、1986年、初監督作品である『ルクソー Jr.』を発表して、高く評価されます。

その後、ピクサーが、長編CG映画の制作に主力を移すと、その中心で活躍、1995年、監督として『トイ・ストーリー』を大ヒットさせ、さらに、制作総指揮として、『モンスターズ・インク』(2001)、『ファインディング・ニモ』(2003)と、ヒット作を連発していきます。


ピクサーは、2006年にディズニーに買収され、ディズニー・アニメーション・スタジオの社長に、ピクサー・アニメーション・スタジオの社長兼任でエド・キャットムルが就任、それに伴い、ラセターも、二つのスタジオの現場トップとなります。

20年以上前に解雇された会社に、責任者として戻ってきたわけですが、当時のディズニー映画部門は、行き詰まっていたそうです。

というのも、経営陣主導で映画制作が進められ、現場のクリエーターは自信をなくし、アニメーションのCG化も上手くいってなかった。


そこで、ラセターは、違う映画を作っているスタッフも、会議に参加させ、アイデアを出してもらうなど、現場に関わる人が、誰でも自由にものがいえる雰囲気を作り、意識を変えていったそうです。

こういった現場主導への転換が功を奏して、『塔の上のラプンツェル』(2010)、『シュガー・ラッシュ』(2012)、『アナと雪の女王』(2013)など、ディズニー映画は、かつての輝きを取り戻す、端緒を掴み始めています。

もちろん、現場に任せるといっても、どこかで意見をまとめたり、議論の方向を決めなければ、話は進まないわけで、ラセター氏は、クリエーターの心理をよく知っていて、口の出し方のさじ加減が、非常に上手いのだと思います。

CGアニメーターとしての能力だけでなく、現場を取りまとめるリーダーシップに傑出したものを持っている、そういう印象を受けました。


ディズニー映画の制作現場にカメラが入って、長期の取材を行なうのは極めて異例のことだそうです。

今年の紅白歌合戦で、大ヒットした「アナと雪の女王」の人気にあやかりたいNHKと、巨大かつ好意的な市場である日本で、映画を今後もヒットさせ続けたいディズニーの利害が一致して、今回の特集番組が誕生したような気がします。

実際、番組はディズニーの新作映画「ベイマックス」の制作過程と内容を、公共放送としてはやり過ぎなくらい(笑)、かなり詳細に報じていて、12月下旬から公開されるこのお正月映画の相当な宣伝になっています。

大人の話し合いがあったんでしょうね、NHKとディズニーの間で(笑)。


しかし、面白いヒット作を生み出すためには、何が必要なのか、ラセター氏の歩んだ道を通して、それを明らかにしていく流れには、乃木坂の現状とも関係する部分があって、いろいろ考えさせられました。

とくに感銘を受けたのは、ディズニーのクリエーターたちに向かって、彼が語った次の言葉です。

主役は君たちだ
経営者が映画を作るんじゃない
クリエイターが作るんだ

一見当たり前のことですが、巨額の資金を必要とする映画制作では、経営陣は内容に介入したがる傾向が強く、しばしば忘れ去られることなんだと思います。

ディズニー映画は、ピクサーが快進撃を続けているとき、「経営的判断」が現場を振り回し、作品は面白さを失い、やがて徐々に世間が離れていった。

そういう危機を、ラセター氏が救ったという話に、番組ではまとめられています。

ラセターさんは家族を大切にし、おもちゃに夢中になる子どもたちの心を重視し、また宮崎駿を尊敬していて、直接の親交があり、日本好きでもあるとのこと。

いささか彼を格好よく描き過ぎている気はするけど、仕事の進め方などで頷けることは多く、秀逸な特集だったと思います。


乃木坂の「何度目の青空か?」は、メロディラインから分かるように、もっとも歌いやすい部類に入る表題曲で、おそらく紅白での生歌ステージを念頭に、意図的にそう作ったのでしょう。

しかし、前回の記事で指摘した通り、先日の「ベストヒット歌謡祭」で、乃木坂は「何度目の青空か?」を生で歌いませんでした。

さらに、紅白で歌って欲しいというファンの声が多い「君の名は希望」は、代々木ライブでも、武道館ライブでも、神宮ライブでも、生歌で披露することが出来ませんでした。


なぜ、こういった要となる勝負曲を、乃木坂は生で歌えないのか。

正確に言うと、大きな会場を使ったコンサートで、生歌できちんと披露出来た曲は、ほとんどないと思います。

理由は簡単で、歌える人に歌わせないからです。

スタジオではなく、武道館や代々木体育館など、大きな会場で歌う場合、あるレベル以上の歌唱力がないと、長いフレーズをまともに歌い切るのは不可能です。

大きな建物内で、複雑に反響するメロディと歌声に惑わされず、音符に従って正確に発声し続ける、高度の音感が不可欠で、加えて十分な声量も要求されるので、誰にでも出来ることではないと思います。


乃木坂を見渡すと、生田絵梨花、桜井玲香、衛藤美彩、川村真洋、中元日芽香の5人は、このレベルをクリアしていると思います。

ひめたんは、音程にちょっと不安があるけど(笑)、「NOGIBINGO」のカラオケ企画で、審査員の高橋ジョージが言ったように、少々のブレは木っ端微塵に吹き飛ばすほど、パワフルな歌声を持っているので、大丈夫でしょう。

この5人に長いソロパートを割り振って、歌の中心軸を作ってしまえば、短いフレーズのぶっ込みは、それほどスキルは要らないので、大箱での生歌も十分可能になる筈です。

ところが、運営が、握手会人気を基本にした「序列」に従って、選抜メンバーを並べ、歌うパートまで、歌唱力ではなく、この「序列」で決めてしまう。

しかも、個々人のより正確な発声が求められるコーラスを多用するので、随所で音が割れて、歌がますます厳しくなっていく。

そのため、大きな会場どころか、スタジオライブですら、生歌が困難になってしまうわけです。


もし、現場の音楽担当者が、歌割りを決められるのであれば、「何度目の青空か?」では、いくちゃん、キャプテン、みさみさに長いソロパートを任せるなどして、生歌ステージに対応出来る態勢を整えるでしょう。

さらに、選抜メンバー16人を現場が決められるなら、低音域にも強いろってぃとひめたんを入れるなどして、より完成度の高い、魅力的な「何度目の青空か?」の生歌ステージを実現出来ると思います。

もちろん、歌だけでなく、ダンスにしても、乃木坂には、伊藤万理華という素晴らしい踊り手がいるのだし、成長著しい井上小百合のダンスも、多くの人にぜひ観て欲しい。

乃木坂というグループには、歌の上手い人、ダンスの上手い人が、実は、たくさん揃っていて、才能の宝庫なんですね。

しかし、エンターテイメントの単位である選抜の人選や歌割りにまで、握手会人気や「序列」という、帳簿の論理を持ち込んで、歌やダンスを無視した、強烈な現場介入が行なわれているため、これらの才能をほとんど生かせず、宝の持ち腐れになってしまっています。


大きな音楽祭で、生歌がボロボロだったり、踊りがバラバラだったりしたとき、「乃木坂って、ビジュアルは良いけど、パフォーマンスはダメだね」というコメントがネットに溢れますが、そういうものを読んで、ファンがどれだけ悔しい思いをしているのか、選抜を決めている運営トップは、分かっているんでしょうか。

メンバーが能力的に出来ないことであれば、しょうがないと思えるけど、歌える人、踊れる人が揃っているのに、運営の極端な握手会人気重視のために、「歌えない」「踊れない」グループにさせられてしまっているのだから、本当に困ったものです。

そして、こういった現場介入が少なければ、乃木坂が魅力的なステージを披露出来ると示したのが、アンダーライブだと思います。


アンダーライブでは、メンバーがセットリストやMCの内容に、自分たちの意見を反映させられるほど、現場がかなり自由に動けたようです。

その結果、さまざまに工夫を凝らしたステージが実現、まりっかやろってぃを始め、実力のあるメンバーが揃っていることもあって、人気がどんどん上がっていった。

正直、ちょっと人気が出過ぎているのか、有明コロシアムでの12月12日(金)「セカンド・シーズン FINAL!~Merry X'mas "イヴ" Show 2014~」へ申し込んだのに、落ちてしまいました(笑)。


ジョン・ラセター氏がディズニー映画を建て直した鍵は、あらゆる人の意見を聞いて、良いと思ったら、どんどん採用することで、アンダーライブ成功の原動力もそれだったのかもしれません。

ラセターさんによると、『アナと雪の女王』で、そうやってより印象的になったシーンがあって、映画の内容に踏み込むので、詳しくは触れませんが、女性から見て最低のダメ男は、「キスをしない奴」だそうで、ちょっと勉強になりました(笑)。

経営陣が作っていたのでは、確かに、到底発想出来ないだろう細かな感情描写だと思います。


ディズニーは、手描きアニメーション中心で、経営陣が口を差し挟む、旧い映画制作システムを、CGアニメーションによる、現場主導の新しいシステムに思い切って転換して、次の時代に生き残る模索を続けています。

一方、日本のレコード会社は、CDによる音楽配信が、インターネットによるダウンロードに圧倒され、苦戦を続ける中、女性アイドルの握手会など、特典商法によって、その場しのぎのCDセールス回復策を繰り返すばかりで、抜本的な改革を行なおうとする気配がありません。

その結果、日本では、CD売り上げが低迷するだけでなく、音楽業界そのものが、冬の時代に入りつつあるんじゃないでしょうか。


今年の紅白最大の目玉が、ディズニー映画の主題歌や挿入歌というのは、それを象徴する出来事だと思います。

CDはあくまで音楽の配信方法に過ぎないのに、レコード会社がそれにこだわり続けるため、楽曲セールスそのものにも低迷の影響が出て、かつて毎年あった筈の、誰もが知っているヒット曲が、日本では出なくなってきています。

乃木坂運営によるCDセールス最優先の現場介入によって、選抜のステージ力が向上せず、せっかくの楽曲の魅力が一般層に伝わらない状況は、大手レコード会社が現在抱える病理を、ダイレクトになぞっている気がします。


ディズニーという世界最大級のエンターテイメント会社でも、時代の変化に合わせて、旧い技術から最新技術への転換を図り、自己改革を断行しています。

日本のレコード会社も、CDからインターネットへ移行すべき時期なんですが、ネット技術の開発や利用が思うように進んでおらず、ディズニー映画が陥っていたのと似たような困難に直面しているように見えます。

今こそ意識を変えて、CDへの過度の依存から脱却しないと、レコード会社は、結局、次の時代に進めず、買収などによって、消滅してしまう危険があると思います。

そうなると、日本の音楽界も、破滅的なダメージを受けるでしょう。


乃木坂の運営も、そろそろCDを売ることではなく、楽曲とパフォーマンスを売ることを、真剣に考えて欲しい。

それに応えられるだけの才能溢れるメンバーと、素晴らしい歌が、乃木坂には豊富に揃っている、私はそう思いますよ。


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# 記事中の青字部分は、テレビ番組、公式サイト、書籍、歌の歌詞などに、掲載されたものを、そのまま抜粋引用したことを表しています

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