ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

恩寵と言わず、何と言うのでしょう?

2012-02-10 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
愚痴るために照さんの許を訪れた訳ではない。ただ、彼女を見ると、つい…、
「どうして、そうやって笑っていられるのですか?」治らないのに、苦しいはずなのに、
なぜ…?と、不躾にもこんな質問を投げてしまった。
照「え…?」
池田「その薬は“ややにも”使える弱いもの…あなたの…には気休め程度。それ“一本で治せるものではなく”、一時的に赤みを抑えても、また発疹を起こす。この薬では、治せない」
薬は万能ではない。強い薬を使えば、それだけ副作用などのリスクが高まる。免疫抵抗力、自己治癒能力を低下させてしまいかねない。それに、妊婦に塗り薬は限定される。
「すみません、聞き流して下さい」頭を下げた。すると、意外な答えが返ってきた。
照「嬉しいのです。…だから、笑っていられるのですよ」
池田「え…?」
照「嬉しく思いました。普段、髪で隠し、見せないように努めておりましたので、隠す髪が無くなり、それを取り戻すために走り、見えてしまった湿疹に、お薬を届けに来て下さった。池田様の御好意、嬉しくないはずがありません」それに、髪が、夫 土岐と池田様の心を繋いだ、それを誇らしく思った。ふわぁと香る月桃の葉ローションを鼻に近づけて、微笑んだ。
「これをギフト(恩寵)と言わず、何と言うのでしょう?」
池田「ギフト…湿疹が?」
照「生まれついて、与えられた体に、ギフトが授かれるよう、神が計られたのです」
池田「神の計らいだと、仰るのですか?」
照「お医者様は完治する事はない、とはっきりと申されました。なぜ、私に…とそう思った時期もございます。ただ、こうして長く体とお付き合いしてみると、なかなか良いものです。ほら…こうして、」ローションをコロンコロンと振った「いい香りに出逢えた。人生とは、何がきっかけで好機に転じるか、分かりません。全ては天の、粋な計らい(計画)なのです」
池田「きっかけ…」それは、妹の死だった。蔵にある医学書や薬書を読み漁(あさ)り、疫(はやり病・伝染病)について調べた始めた。その頃から、医者を夢見るようになり、匠が疫病に掛かった時、それが目標となった。しかし、父が急遽。池田の家を継いで…、戦まで起きた。
夢は絶たれ…「そういう見解に至った事が無く…、」
照「志無くして医士に非ず、心欠くして薬師(くすし)に非ず。私のような者を診て、悩み、苦しむ、そういうお心を持った貴方様は、薬師と呼ぶに相応しい、私はそう思います」
池田「薬師…」苦しみを救済する薬師…そう呼ばれて、急に恥ずかしくなった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。