チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第5章 幸せを願い その42

2011-10-14 19:45:57 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
 処置室から帰る道、
「アイス、買いに行く!」
走って行くあの子、ナユタって子だ。こうして見ていたら、何が悪いのか全然わからないけれど・・・。ひょっとしたら、私だってそう思われてるのかもしれないな。
 よいしょ!部屋にたどり着き、再びカーテンに囲まれたベッドへ。ケータイには、メールは一通もないけれど、
『確定ではなくても、だいたいでいいから、ユイの意思を、退院までには一度伝えた方がいいと思うわよ。』
この間のお母さんの意見。・・・本当にどうしようか?
単純に、上の高校への進学を希望するか、しないか。この二つの選択肢しかないんだけど。どうしたものだろうなぁ。ハヅキ先生から聞いている通り、三分の一規程の問題も。はぁ・・・ユイはため息をつき、天井を仰いだ。 
学校に行くか、退学するか、よその学校に行くか、でも、どこの学校へ行くか、今のまま不登校を続けるか、教室以外の場所に登校するか・・・考える時間は沢山あったこの入院生活。これまで考えてきた事を振り返っても、人生の選択肢ってそれほど多くないんだな、と思う。
 『あなたは若い。未来には、無限の可能性がある』
なんて、嘘ばっかり!自分の頭で考えて、大人の言葉にどれほど嘘が多いものなのか。私は嫌というほど悟った。もう、大人をあてにしてはいけない。信用できない。自分で考えて、自分で見出さないと。
 ・・・だけど、どうしたらいいんだろう?そう考えるとまた不安になってきた。テレビをつけてみる。
『夏休みこども劇場』
わぁ、懐かしいアニメ、いっぱい再放送するんだ。なんか、嬉しくなってきた。ユイはついついテレビに見入ってしまった。
 懐かしいという言葉も、わりと昔から使っているような気がするなぁ。だけど、時間は巻き戻す事は出来ないし、昔だって、楽しい事ばかりではなかったはずだよね?と、なると、懐かしいなんて思う気持ちは、今の辛いことから逃げ出して、もう戻れないあの頃の、幸せな部分ばかりに浸ることを願う、ある種のわがまま以外の、何物でもなくなってしまうんじゃないだろうか?