チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その14

2013-08-31 21:30:17 | ADHDとともに「君の星座」
 自力解決・・・そんなものはとっくに不可能だということは、とっくに自覚してる。解決してたらもうバリバリ仕事していて、ジョブサポートセンターになんて行っていないし。何より、「助けますから」と言ってもらえたことが本当によかった。苦しんで苦しんで困り果てて・・・涙が出そうになりながら、私は三十代になって初めて、自分の味方をしてくれる大人の人たちに出会えたことに心から感謝した。
 考えたら、私の周りの大人は酷い人ばっかりだった。

 ハルカ、十歳。小学五年生。
 廊下って、ついつい走らないといられなくなっちゃうんだよね。
『バン!』
あいたたた・・・向こうから走ってきた、クラスメイトのヤマダ君とぶつかって、二人ともこけてしまった。
「いてててて。」
私が先に謝ろうと立ち上がったその時、担任のノムラ先生!私の腕をつかんで、上体だけを起こしたヤマダ君に、
「どうしたの?」
「え?あ、走っててぶつかって。」
先生は鬼みたいな顔して私に怒鳴りつけた。
「ツキシロさん、謝りなさい!」
「私、今・・・」
「謝りなさい!」
 私は謝ろうとしていたところだったのに!それに、ヤマダ君も走ってきた、それなのに私だけが悪いみたいに言われたのが納得できなくて、
「お母さん!」
家で相談してみたけど。
「そりゃ、ハルカが、先生が来る前に謝ったらよかった話でしょ?先生のおっしゃることのほうが正しいと思うわ。」
「そうだ!ハルカが悪い!」
 大人は何でも私を悪者にしようとするんだ。ねえ、どうして私の話をきいてくれないの?一番ひどいのは担任のノムラ先生。
「はい、この問題の答えは?・・ツキシロさん?」
わざと難問を私に振って、
「へぇ、あの難しい塾に通っててこんな問題も解けないの!」
ゲラゲラゲラゲラ!何かとチャンスを見つけてはみんなの前で恥をかかせるように仕向けて。そう、進学塾に通わされてることも、この担任がみんなに言いふらした。 
 大人なんか大嫌い!大人は私の敵!・・・だけど私は辛くない。
「シオリちゃん、おはよう!」
そう、友達がいるから。シオリちゃんと友達になったことで、ナツコちゃんって言う新しい友達も出来たんだ。
「何する?今日雨だし。」
「トランプ!」
「いいね、やろう!」
私たちは仲良し三人組。学校にいる時間はずっと一緒だ。

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その13

2013-08-30 21:35:14 | ADHDとともに「君の星座」
 週が変わって、ニシカワさんとの二回目のカウンセリング。
「どうでした?マツウラさんのカウンセリングは?」
「あ、はい。よかったです。何か、すっきりしました。ありがとうございます。」
「よかった。じゃあ、これからは僕とは仕事探しのほうを、マツウラさんとは人間関係とか、今までの問題整理という形でやっていこうか。」
 ここで私は、改めて書き直してきた履歴書を差し出した。
「いい機会でしたし、一度書き直してみたんです。そしたら、これ、私は仕事が見つかってないんじゃない、続いてない。むしろ、それのほうが本当の問題じゃないかって。」
・・・・・真剣に目を通しているニシカワさん。
 深い話になるのかと思いきや、世間話みたいなのに発展していき。
「ここにもね、教師を辞めてきたって相談、結構多いんですよ。僕もたくさん見ていますよ。」
そうなんだ!
「やっぱり、仕事のハードさでやめるんですか?」
「それもあるけど・・・むしろ、時代の変化。ほら、昔の学校って先生のほうがずっと立場が強かった。でも今は逆。子どものほうが圧倒的に強いでしょ。」
「あ!それ、私も思いました!」
「そうでしょ。で、教師を辞めてくるのは皆、ツキシロさんの年代なんですよ。」
つまり、ポスト団塊ジュニア世代・・・
「ここ二十年の間に、先生と子どもの力関係が逆転してしまった。ツキシロさんの年代が、そのギャップを一番感じているのんですよ。」
 た、確かに。私も現場に行って正直びっくりした。『暖房つけてあげなさい』なんて、私の時代には絶対にありえないことだもん。全て子どもの主張が通っているというか。
「それでも、子どもが気の毒な状況になってるのは全然変わってないんですけどね。」
ワハハハハ。
 もう一度私の履歴書に目を通しながらニシカワさんが、
「うん、あなたはね、確かに転職は多いけど内容的には一貫性があるんだ。人助けの仕事って言う一貫性がね。この辺を追求していくと、何か見出せるかもしれないね。」
よかった・・・
「それとね、就職って言うのは世間を相手にすることですから。本来一人で解決できることじゃないんです。
カウンセリングが終わり、席を立とうとしたとき、もう一度念を押すようにいわれた。
「ツキシロさん、あなたはもう自力解決は出来ません。絶対にこちらを頼ってください。僕らが助けますから!」

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その12

2013-08-29 19:31:26 | ADHDとともに「君の星座」
 よかった。これで、最良のパイを打つことだけはできた。最後にニシカワさんが、
「この紙、このまま預かっていいか?」
って、私の困り事リストを持っていかれた時の顔、ニシカワさんもたぶん感づかれたんだと思う。私のその内容は、全くの発達障害。ちょっと知識のある人が見たらすぐにわかるだろう。
 だけど、診断があるわけじゃないから、私も「発達障害があります」とは言えないし、キャリアのカウンセラーさんに「発達障害でしょうか?」って聞くことだってできない・・・本当なら医療機関に行くべきなんだ。心理のカウンセリングも気休めにしかならないかもしれないけど、心理士じゃなくて保健師さんである意味よかったと思う。医療関係の人だし、何か言い情報持ってるかもしれないもんな!
 ただいま!さてさて報告。
「新しいカウンセラーさんも、なかなかよさそう。でね、しばらく詰めてカウンセリングしようって。」
「へぇ。それはまた融通もつけてもらえて。ありがたいところね。」
よかった。これで親を納得させられた。帰りのバスの中でずいぶん悩んだんだ。正直、嘘をつくのは好きじゃない。だけど、今のうちの状況を考えると、こうでもしないと。
 その三日後。またジョブサトートセンター。今日は始めて、保健師さんにお世話になる。
「ツキシロさん!」
「どうも、お世話になります。始めまして。」
小柄な女性で、マツウラさんってお名前。年齢は五十代後半ぐらい?
「カウンセリングのお部屋ね、こっちなんですよ。」
いつもと違う部屋へ案内される。へぇ・・・個室になってて、なんかすごい。
「防音室なんですよ。」
「そうなんですか!」
なんか感動!そりゃそうだよね。人に聞かれたくない深い相談もあるだろうし。
 で、ここから本題。
「あの、私、セキモトさんに小学校の講師の任用が切れて、これからニシカワさんにお世話になることになりまして。それで、職場で色々困ってきたって話をしたら、マツウラさんのカウンセリングを勧められたんです。」
「うんうん、で、何で一番困ってるの?」
「うーん、人間関係、ですね。」
「あー。それは誰にとっても難しいわね。でもね。人間って、ちょっと接点があれば関わっていけるのよ。同じ職場にいるとかね。で、お互いにもっとこうして欲しいなって思ってるわけ。でもその辺はお互い目をつぶって生きているわけよ。」
「なるほど!」
 帰り道。何だか物凄く心が明るかった。なるほどね・・・お互いに目をつぶっている、か。さてさて、問題解決に向けて、どんどん行動しなくっちゃ。私は次のニシカワさんのカウンセリングに向けて、一度、履歴書を書き直すことにし・・・あーあ。ずいぶん職歴が長くなったな。しびれた手をマッサージし、インクが乾くのを待ちながら読み返した時、
「!」
・・・これ、やっぱりおかしい。今まで仕事が見つからなくてそうなってるんだと思ってたけど、違う!私、仕事は見つかっている。問題は逆。仕事が続いていないんだ!
 

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その11

2013-08-28 21:31:41 | ADHDとともに「君の星座」
 「えー!カウンセラーさんが変わるの?」
お母さんも驚いている。担当者が変わるんだから、人間関係の構築からやり直しだ。理由が理由だもん、致し方ない。何回も同じ話するのもしんどいし、私は、今までの経緯を、今の私の状況を簡単に紙にまとめて持っていくことにした。
 予約日。ジョブサポートセンター。ここに来るのは九ヶ月ぶりか・・・景色が少し変わっている。
「ツキシロさん。」
カウンセリングスペースから、長身の男性が出てきた。この人がこれからお世話になるニシカワさんだ。
「はじめまして。」
「はじめまして、ニシカワです。」
一緒にカウンセリングスペースへ。中もちょっと配置が変わった?
 挨拶もそこそこに、早速本題へ。
「あの、以前、セキモトさんにお世話になりまして、それで、去年の九月に小学校の常勤講師に決まったんです。三月に任用が切れて今、待機中なんですけど、このまま待ち続けていてもって思いまして・・・」
「なるほど、引継ぎでだいたいのことは聞いていましたけど、よくわかりました。実は、三月に電話入れさせてもらったのも僕なんです。」
あ!
「すみません!掛けなおそうと思ってそのままになってました!ちょうど仕事で出られなかった時で・・・」
「いえいえ。いつもタイミング悪くなるんです。こちらこそ申し訳ない。」
ワハハハハ。仕事が決まってからも、定期的にお電話くださることになってるんだって。心強いことだね!
 ここからはもっと深刻な話。
「実は、仕事探しも重大なんですけど、もう一つ、もっと解決したい問題があるんです。私、どこの職場でも色々嫌な思いしていまして・・・」
私は今までの職場でのエピソードを書き出した紙をニシカワさんに差し出した。

コミュニケーションが取れない。
自分だけ「もっとがんばれ!」と突かれる。
自分の気持ちをわかってもらえない。
職場の人から頻繁に暴言を吐かれた。
小学生から「空気が読めない」と言われた。
絶対音感のため、物音に疲れる(特に音楽)。

渋い顔をしながら目を通してくださっているニシカワさん。
「・・・・・。」
しばしの沈黙の後、
「これ、カウンセリングをお勧めします。」
「え!」
「心理カウンセリングです。」
「あ、はい。でも・・・って、私じゃないんです。親が反対するんです。」
「親御さんが反対ね、じゃあ、僕のところに週二日来るとか、嘘をつくことは出来ない?」
私が沈黙しているところに、
「どうしてそうなるのか、ちゃんと解決してから仕事に行かないと、あなた、また短期離職を繰り返しますよ。」
一番危惧しているところを突かれた。私だって、私に良いことならどんな手でも使いたい。
「・・・お願いできますか?親への言い訳はゆっくり考えます。」
「うん、じゃあ、予約入れておこうか。心理士さんは今しばらく満員だし、保健師さんになるけど、いいかな?」
「はい、よろしくお願いします!」

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その10

2013-08-27 21:56:59 | ADHDとともに「君の星座」
 ゴールデンウィークもすでに明け、五月十日、十一日、十二日・・・任用の連絡は何もないまま。

あんたは障害なんかじゃない!
そうだよ、人付き合いが手な人なんかいくらでもいるさ
わしだって、友達ないぞ
個性なのよ、ハルカ
だから、ね。検査なんか辞めておきなさい

『障害があっていいことなんかないんだから。』

 また思い出した・・・まあ、確かに人生には、運が関わってる部分もある。私もその辺は認めている。だけど、人生を丸々運任せにしてしまっていいわけがない。そんなことしたら、下手したら裏目にも出て・・・
「ハルカ!まだ何も言ってこないの?いい加減に待ってるばかりじゃなく、行動したらどう?」
お母さん!・・・ったく。運に任せなさいって言う割には、せっかちなんだよね。
 あまりそう思われてないけど、私は、じっとしていられる人じゃない。せっかちでもないけれど・・・私はもう、学校の任用が切れる頃に行動方針をひそかに決めていた。ゴールデンウィークが明けるまではとにかく待って、五月中旬になっても話が来なかったら、ジョブサポートセンターにまた行く!
 今日はもう五月十五日。即、計画実行!家の電話の子機を取り、緊張しながら・・・プルルルル!かかった!
『こんにちは、ジョブサポートセンターです。』
「あの、こんにちは。私、以前セキモトさんにお世話になっておりました、ツキシロと申します。あの、実は仕事が切れまして、またカウンセリングをお願いしたいんですけど。」
『セキモトが担当していた方ですね?申し訳ございませんが、セキモトは三月で退職しまして。』
「え!退職されたんですか?」
『はい。申し訳ございませんが、ニシカワカウンセラーが引き継いでおりまして、これからの担当はニシカワになりますが、よろしいでしょうが?』
「はい、わかりました。ニシカワさんですね、よろしくお願いします。」
 よかった。明後日、予約が取れた・・・子機を戻して・・・そうなんだ、セキモトさん、退職されたんだ。そんなに大きな問題でもないのかもしれないけど、ちょっとショックだった。

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その9

2013-08-26 18:57:14 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、十歳。小学五年生。
 進学塾と、その勉強に生活の殆どが塗りつぶされていく。せっかくのゴールデンウィークなのに。
「ハルカ、今日は模擬試験だからね、がんばるのよ!」
しかも、もっと最悪なのは、
「ほら、ワンピース。ピンクで柄も可愛いでしょ。安かったからハルカに買っておいたのよ。これ、着て行きなさいね。」
「えー!」
その横からお父さんが、
「ハルカ!買っておいてもらって何を文句言ってるんだお前は!着て行け!」
私は泣く泣く、そのワンピースに袖を通さざるを得なくなった。スカートだけでも辛いのに。ワンピースなんてもっと・・・
 進学塾の教室には、一人、かなり嫌な女の子がいて。
「あんた、精神科行ったら?」
こんなことばっかり面と向かってずけずけと言う。あーあ。週に三日しか会わなくて良いのがまだ幸いだよ。基本的に塾の子は意地悪ばっかり。勉強も大変すぎるし、しんどいだけ。正直、辞めさせてほしい!
 でも、お父さんお母さんに言ったところで、絶対やめさせてはくれない。この間、塾に行くの嫌だって言ったら、
「誰か、嫌な子でもいるのか?」
って言われて。そう聞かれると、かえって本当のことが言えなくて・・・で、通わされてる塾、個別指導部門があるんだ。それと模擬試験だけ受けてる子も結構いるらしくて。どうせ辞めさせてくれないんだったら、せめて個別指導のほうにいかせてくれないのかな?だけど、そういう話も大抵、
『駄目駄目!みんなと一緒に勉強しないと。ハルカのためにならない!』
 そんなことだけど、反対に、学校のほうはすごく楽しくなってきた。
「シオリちゃん、おはよー!」
気のあう友達が一人出来たこと。
「ワハハハハハ!」
漫才師みたいな男の子が何人かいて、毎日笑わせてくれること。担任は相変わらず細かい細かいし、それだけは腹立つけど。
「さあ、遊びに行こー!」
中間休み、昼休みはクラス全員で運動場に駆け出していく・・・不思議だな。四年生の時は女の子ばっかりのほうがいいって思っていたのに。今は、男の子と一緒に勉強すること、一緒に遊ぶことが普通のことなんだって思える。
 晴れの日も雨の日も、私にとって学校は楽しい遊び場になった。日曜日も祝日もいらない。私、毎日学校に行きたい。
 
  

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その8

2013-08-25 16:30:05 | ADHDとともに「君の星座」
 言われなくても、そこまでには何とかしようってがんばってきた。いや、もっと早く解決できるって思っていた。まさか、ここまで長引くなんて。
『ジョブサポートセンター』
一瞬頭をよぎった。またあそこへ行こうか。ううん、もうちょっと自分でがんばってみよう。まだ四月だし。ほら、一般的な求人もそうじゃない?ゴールデンウィークを過ぎると、またたくさん出てくるって。

『連休明けごろから、休職する先生が増えるのよね。』

 えーと、あ、またここ間違えた。私、昔から筆記試験が苦手。どうがんばったって点数取れない。それでもがんばらなくちゃ。努力すれば何とでも出来る。将来のために、がんばって働けるようにしていかなくちゃ。
 だけど、本当にどうして私だけこんなことに。いつまで仕事で苦しまなければならないんだろう?私ぐらいの歳だったら、職場でもそれなりのポジションについて、家庭を持っていたりもして・・・理由はもう、はっきりしている。私に発達障害があるからだ。なのに、検査は駄目と言われてしまった。

『このまま放っておいたら、とんでもないことになるんじゃないか?』

私は、とたんに身震いした。
 いけない。こんなこと。ちょっと気分を変えよう。えーと、あ、そうだ。暖かくなってきたし、そろそろ半袖を出しておきたい。ト、ト、ト、ト、ト。二階に上がっていく私にお母さんが、
「ハルカ、何しに行くの?」
「衣替え。そろそろ半袖を出しとく。」
「え!・・・まあ、いいわ。さっさと済ませて、採用試験の勉強しなさいよ。一分、一秒でも勉強に当てないと。・・・あ、そうだわ。ハルカ、自分の部屋の掃除しなさいよ、ずっとクシャクシャじゃない!あんなの、夜中に電気消して歩いたら、確実に躓くわ!危ないから、さっさとしてしまいなさい!」
もう!また、あれしろ、これしろが始まった!

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その7

2013-08-24 20:53:07 | ADHDとともに「君の星座」
 もしや!・・・大急ぎでバッグからケータイを取り出したら、なーんだ。
「もしもし、お母さん?ハルカです。」
『あ、ハルカ?よかった!』
「どうしたの?」
今、スーパーで買い物中のはずだけど。
『あのね、ごめん。恥ずかしいんだけど財布が空っぽだったのよ・・・お金、持ってきてもらえない?』
「はい、わかりました。」
やれやれ。これもずっと治らないな。うちのお母さん。
「おじいちゃん、行ってきます!」
「ハハハハ。気をつけて。」
 自転車に乗って、お母さんのいるスーパーに急ぐ。あ、あそこのレジだ。・・・あ、あの子ですわ!
「本当にすみませんでした。お恥ずかしいことで。」
「いいえ。」
笑顔の店員さん。
 荷物を半分引き受けて、二人で自転車の帰り道。
「ごめんね、いつもハルカに迷惑かけちゃって。」
「ううん、そんなの全然いいよ。でさ、おじいちゃん、すごく耳いいわ。」
「え!」
お母さんが驚くのは普通。おじいちゃん、だいぶ前から耳が遠いって言ってたもん。
 家路の半ば。話題が変わって。
「それよりさ、ハルカ、勉強のほうはどう?何とかなりそう?」
「まあ、どっちみち付け焼刃だけどね。何もしないよりはいいと思う。」 
「え?要するに、かなり可能性ないの?」
「・・・!」
そういう風に力押しで言われたら、私は何も言い返せなくなる。お母さん、その辺はわざとなのか無自覚なのか・・・
 家に帰って、冷蔵庫にしまうのを手伝いながら。
「倍率的には、どうなの?」
「あまり聞いたことはないけど、中学社会は持ってる人多いらしいし・・・」
「ハルカ、ちょっと遠回りして、小学校の免許取りに行くのはどう?」
「えー!そんなの、また時間もお金もかかるじゃない!」
それ以上に、それを取ったところでやっぱり普通学級の担任は出来ない。私は音楽の授業が出来ない。合唱とか、あれだけの音を聴かされたらやっぱりしんどい。
「とにかく、来年の春でお父さんが定年なんだから!そこまでに何とかしてちょうだいよ!」
「わかってる!」
 

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その6

2013-08-23 21:19:39 | ADHDとともに「君の星座」
 四月七日、四月八日、入学式が終わった、四月九日、とっくに授業も始まった。だけど・・・ケータイはいつまで待っても鳴らず。
「はぁ・・・・」
テキストを放り出して、思わず天助を仰いだ。
「ハルカちゃん、お茶。」
おじいちゃんが。
「あ、はい。」
 年寄りがいるといっても、基本元気だから。世話と言ってもこのぐらい。食事や掃除は若い者だけでもしなくちゃいけないことだし。
『中学校教諭採用試験直前対策集 中学校編』
とにかく、できるだけのことはしているけど・・・だけど・・・
 半年間の、小学校での勤務のこと、そして、学生時代に行った、中学高校での教育実習のことを思い出しながら、私は正直無理だという確信のほうを強めていた。確かに、特別支援学級とか、支援員なら問題なく出来る。でも、普通学級は。結局私、二十一歳の時と全く一緒。十年も経ってるのに私は何も変わっていない。

年輪を重ねるほどに
出来ることも増えると
そう信じていた

大人とは完璧で
神様みたいなものだと
そう思っていた

だけど私、ここにいる
何も変われないまま
何も出来ないまま

 おじいちゃんが横から。
「ハルカちゃん、ずっと勉強してるな。たいしたもんだ。」
「え?あ、これ?ありがとう。」
そう、もし、少しでも私に出来ることがあるのなら、やっぱり教師になりたい。でも、普通学級を担当できないなんて先生はどうなんだろうか? 
「ん?何か鳴ってない?」
え?おじいちゃんの言葉を聞いて、耳を澄ます。私のケータイだ!



 

ADHDとともに「君の星座」第6章 方舟が行く前に その5

2013-08-22 11:29:48 | ADHDとともに「君の星座」
 すみません、ハルカがとんでもないことを・・・いいえ。誰も怪我しませんでしたし、ガラスぐらいすぐに直りますよ。ところでお母さん、ハルカさんですが・・・
 また学校の先生から苦情が来た!それから益々焦り始めたわ。何としてもハルカは私学に入れないと駄目だって!中学に入ったら高校受験。この子は内申書で絶対不利になる。
「ほら!後一ページがんばりなさい!」
「ギャァァァァー!」
五年生にもなって泣き喚くなんて!どこまで幼いのかしら? 
「ハルカ!今がんばらんと、将来ろくなことにならんぞ!」
主人も援護射撃してくれる。なんだかんだ言いながらも、ハルカは案外すごかったわ。たった三ヵ月で塾の勉強に追いついた。この子なら絶対行ける、大学にも。
 塾なんかさ。
「ツキシロさんって男の子みたい!」
なんて意地悪な子ばっかりいて。私、口が立たないから言い返すこともできない。こんなところ嫌だ。辞めたい、辞めたい、辞めたい・・・
 学校のほうは、教室の授業はずーっと窓の外を見ていたり。つまらないから落書きとかしたり。そして、春休みごろから右手が酷くひび割れて水ぶくれが出来てるのが気になる。打って変わって図工とか体育とか、体を動かせる授業は本当に救いだった。で、今年から初めて、
「では、家庭科の授業を始めます。」
これもある意味、新鮮だった。
 クシュン!ちょっと風邪をひいてかかりつけの小児科のお医者さんへ。
「あの、先生。ハルカの右手ですけど、酷く荒れてまして。」
傷一つない左手と見比べてお医者さんは、
「うーん、右だけですね。鉛筆じゃないですか?時々鉛筆で皮膚炎起こす人いるんですよ。」
この件について、お母さんは学校にシャーペンの使用を認めてくれるよう手紙を書いてくれたんだけど、
『クラスのルールですからシャーペンの許可は出来ません。接触皮膚炎はハルカさん個人の問題です。基本的に彼女はわがままですから、ルールを守ることを優先していただきます。』
ノムラ先生からの返答で、お母さんもお父さんも引き下がってしまい、私は手が潰れても辛抱させられざるを得なくされた。 私、わがままだって言われるけど、むしろ物凄く辛抱している。これ以上出来ないぐらい辛抱している。健康を損なわせてでも守らされるルールって変すぎる!
 嫌なことばかりかと思っていたけど、学校のほうで少し変化があった。一学期始まってから二週間も経たないときに、
「ツキシロさん、友達になろう!」
声を掛けてくれた。シオリちゃんって言うんだ。私にやっと、友達が出来た!