チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その16

2014-06-30 12:12:58 | ADHDとともに「君の星座」
 今日はこころのクリニック。平日の午前中って、とても空いている。今もこの待合にいるのは私ともう一人だけだけど、コーヒーをいただきながら・・・
「ツキシロさん。」
「あ、はい。」
呼ばれて診察室へ。私、基本的に医者不信だから。まだ発達障害とわからなかった頃にも、精神科でお世話になったことがある。けど、酷い人だったから。このドクターは信頼できる人で本当によかった。
「こんにちは。どうですか?」
「はい。この間の面接会は、ちょっとミスマッチでして辞退しました。」
信頼して、色々相談している。残念そうな顔のドクター。
「そうでしたか・・・。」
「正直私、どこへ自分を持っていっていいのか、よくわかってないんです。どうしたらいいかって考えてたら、またイライラしてきて。」
「早く働きに行くことだ!」
そう言うけどさ!
 仕事なんて、右から左にあるものではない。その辺をわかって欲しいよ、親にもドクターにも!・・・そんなことで最近ちょっと腹を立てながらジョブサポートセンターへ。
「こんにちは。どうですか?」
ある程度、保健師マツウラさんから伝わってると思うけど。
「あれからはもう、さっぱりです。この間の面接会の反省も踏まえて、求人も見てますけどね。イメージできないんですよ。自分にどんな仕事がいいのかって。」
 もちろん、ここでは何も責められることはない。ここは怒られたり責められたりするところではない。じっくり話を聞いてくれるタイプのムライさん。前任のニシカワさんが私のために厳選して選んでくださった方。
「あまりこれだけって仕事は、しんどいと思うんですね。でも、いつまでも迷ってばっかりだと・・・これからどうなるんだろうな?って思いますよ。フルタイムの仕事を探すって気持ちは変わりませんけど。」
出来たら障害枠のほうがいいけど、もし、一般枠でもいい仕事があれば行く。
「いずれにしても、仕事を続けていけるか、定着できるか、なんです。」
ようやく口を開くムライさん。
「障害者手帳を取られましたし、これからはサポートが入りますから、今までみたいな心配は全然しなくていいですよ。ツキシロさんは一生懸命働こうとされています。お話しているとすごくわかるんですよ。就職活動も前進されていますから。これからもっと求人が増える時期に入りますし、大丈夫ですよ。」
「じゃあ、また見てたら、見つかるかもしれないですね!」
もっと、私にふさわしい仕事が。


ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その15

2014-06-28 19:43:41 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、二十一歳。大学四回生。
 殆どの子はもう、卒業論文と就職活動だけだけど、教職課程をとった私はもう少し登録している講義があり。
「えー、前期試験ですが・・・」
何とか、授業には出てる。レポートも提出している。それも、何とか。この頃変なんだ、私。講義が終わって荷物を持って、学生食堂へ。
「すみません、から揚げラーメン一つ。」
お金は気にしないで、出来る限り好きなものを注文するようにしている。食べてる気がしないんだ。時間が来たから食事を取ってる感じで。空いてる席を見つけて、いただきます。・・・。この頃、味も感じない。テーブルに備え付けられている胡椒をかなり利かせても。
 また、毎週恒例のゼミの時間。相変わらず一番に行き、ポットの水を替えている。
「ツキシロさん、最近どうだね?」
「あ、はい。」
この先生。幸いなことに就職のことは全然聞いてこない。皆がリクルート姿の中で、ただ一人、普段着ばかりの私。本当はかなり焦っている。だけど、体も頭も言うことを聞かなくて。
「どうだ、大学院を考えないか?必要なら家庭教師も紹介するぞ。」
いつも、モラトリアムを勝手に伸ばすな、四年で卒業しろ、就職も決めろって言い続けている、そんな先生がこんなことを言うのは、それなりに見込みがあると思われてるからだと思う。だけど、
「申し訳ありませんが、私は、進学は考えていません。」
いつもそう返答してるんだ。
 大学院に進学、現時点ではそれも選択かもしれないけど、いずれ就職しなくちゃいけない日は来る。確かに今年は不景気。でも、二年後に景気がよくなる保証もないじゃない?それなら・・・
 家に帰っても、何とか生きている感じ。
「ハルカ、就職はどうなの?決まりそうなの?」
「わかってる!」
そう答えるのが精一杯。レポートも、大学も、食事も、着替えも、睡眠も・・・何もかもが辛い。私、どうなったの?どうしたらいいの?

死にたい、死にたい、死にたい、死にたい

頭の中で同じ言葉が、脈打っている。
 

ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その14

2014-06-27 19:37:52 | ADHDとともに「君の星座」
 障害があるから障害者手帳を取得するのであって、障害者手帳があるから障害があるのではない。何故か、この発想の逆転には簡単に陥ってしまうんだよね。恥ずかしながら、この私もそうだった。障害受容は出来ていたつもりなのに。まだまだ足りなかったのかな?
 全て全てに障害を明かしていくことはしないけど、就職に関しては明かしていく。
「ハルカ、それで不当な目に遭うことは本当にないの?何とか、クローズでは行けないの?努力して何とかならないの?」
「何言ってるの!絶対に無理。考えてよ、今日までずっとクローズ状態だったけど、駄目だったじゃない!努力の問題じゃないってもうわかったでしょ?だから、お母さんも納得してくれたんでしょ?」
「・・・・。」
こちらも、説き伏せる力を身につけたのだろうか?このごろは少し反論するともう、何も言ってこない。
 私が立ち向かっている相手、それは、就職ではなくてむしろ、家族のような気がしてきた。家族・・・一番味方になってくれるはずの存在なのに。聞いたことがある。障害者を一番迫害しているのは、家族。私もそうなって身にしみた。障害を持つ人は家族の中身のない差別偏見によって閉じ込められていくのだと。おじいちゃんが来た。
「ハルカちゃん、お菓子ある?」
「あるよ。」 
おじいちゃんの相手をしながら、小さい時のこと、学校時代のこと・・・色々な風景が脳裏をめぐりだした。家の中でも、ナオキとの扱いの違いに腹を立てていたっけ?
『ナオキはいい子よね。』
『ナオキと三人で暮らすから、お前は出て行け!』
『ナオキの高校は最高の高校よね!』
ずっと、ナオキは男の子だから大事にされてるって思ってたけど、この頃そうじゃなかったんだってわかった。私は発達障害、それゆえに独特の付き合いにくさがあって・・・対して、ナオキは定型発達。親としても付き合いやすかったんだ。
 付き合いにくさゆえに迫害を受けていく。それは、相手が家族でも同じということか。本当、この障害の定義が小さい時にあったら?・・・ナオキにはまだ、私の障害を伝えていない。いつか、伝えなくちゃいけない日が来るけど、その時、あの子はどんな顔するだろうか?
 

ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その13

2014-06-26 19:31:02 | ADHDとともに「君の星座」
 差別偏見、差別偏見!家の中ではこればっかりだ!一歩進んだと思ったら、また!障害者手帳が来て、私、何か変わったことあった?
「ありませんよねー。」
アハハハハ。ジョブサポートセンターの保健師マツウラさんと大笑いしながら。
「すごく助かっていますよ。バスが無料って、それだけでもすごい経済的支援ですよね。これから働いたら、困った時に相談に乗ってもらえたり出来るわけすし。」
そうだよ。
「ほら、学校でも、小学校の小さい時から障害者を差別してはいけませんよ、とか習うじゃないですか。」
「そうよね。ツキシロさんぐらいの世代だと、人権教育も充実しているわよね。」
「そうでした、そうでした。障害者問題は毎年入ってましたよ。覚えています。」
 究極は、差別とは何か、偏見とは何かって深い話になってしまうのかもしれないけど、
「単純な感情論をぶつけられてるだけって気がするんですよね。はぁ・・・」
ついついため息。
「親御さんも受け入れなくちゃって気持ちと、いや、やっぱり受け入れられないって気持ちで揺れておられるのよ。」
「たぶん、そうなんですよね。あの、障害受容のプロセスを行ったり来たり!で、老人ホーム発言!」
アハハハハ。もう、かなり笑い話になってきたけど、まだ心の底からは許せないよ。
 で、大学時代の思い出話。
「ま、一番平和だったといえばそうかもですね。少なくとも、音楽は辞められましたし。で、それがしたかったかどうかはわからないけど、テニスを習いに行って。」
「アルバイトも、たくさん行ってたのよね?」
「たくさんっていうか、不景気でしたから、アルバイトがなかっただけですよ。あっても短期のばっかり。だけどその分、色んな世界を知ったかな?とは思っています。」
「一人でやることは、得意なのよね。」
「そうですね。逆に、集団は全然駄目です。」
「ううん。一人で出来るって大事なことよ。この頃、お昼ご飯も一人で食べられない人いるじゃない?」
「いますね!そういう人。トイレも友達と一緒って言う。」
一人で何でも出来る、決められる。それは、私の強みだと思う。だけど私、どれだけのことを自分で決められてきただろうか?発達障害の診断を受けることだって、障害者手帳を取ることだって。結局は親の顔色を見ながらだったじゃない。私、何も一人で決められてない。何も一人で出来てない。

ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その12

2014-06-25 19:40:12 | ADHDとともに「君の星座」
 ジョブサポートセンターのムライさんに、保健師マツウラさん。発達障害者支援センターのイワキさん。ハローワーク障害者窓口のツジムラさん。そして、こころのクリニックのドクター。たくさんの人の支援を得て、私はここまで来れた。そして、障害者手帳。これで就職後、ハローワークから直接的な支援を得られる。いずれにしても、私が働くための体制は整ったんだ。もちろん、
『早く決心してください!』
ツジムラさんに押されなかったら、とてもじゃないと決断できなかったけど。親を説得なんてとても。
 障害者手帳。これが届いてから、乗り物はこれで乗っている。私は今、仕事もないんだし、そうしたらいいと思うんだけど、やっぱり親が。
「ハルカ、仮に、障害者枠で働くとなると、やっぱり、ハルカに障害があることは職場の人全員に知られることになるの?」
「それは、職場によるんじゃない?」
今はそうしか答えようがない。だって、まだそれで働いたことはないんだもん。
 私は、私に障害があることを伝え、理解と支援を受けて働くのが最良の方法だ。いや、そうしないとこれからもっと戦況が悪くなる。だって、今まで障害のせいで職場でパワハラに遭った挙句、追い出されてきたんだから。それなのに、
「たとえ仕事でも、障害については、なるべく明かさないでちょうだい!お母さんたちがひた隠しににするから!」
要するに、親戚に知られたくないだけなの?あーあ。うちの親も。働いてほしいのかひきこもってほしいのか。もう、現実はわかってるはずなのに。
 グチっても仕方ない。次は、就職すること。障害を明かして就職できれば、また親は変わるはず。パソコンを開けて、ハローワークのサイトを検索する。
『ツキシロさんは、あれこれやる仕事よりは、これだけするって仕事のほうがいいわね。』
その助言を守りながら、一般枠、障害枠、両方見ていくんだけど。なかなかこれっていうの、ないな。そう思うと、この間の障害者面接会のは、いい求人がいっぱいきてたかもしれない。
「・・・・。」
何故辞退したとか、そういう後悔はない。面接してくれた、会社の人もミスマッチだと思ってた感じだったもの。
 私・・・何を決めかねてるんだろう?パソコンの画面の前で、私は頭を抱えた。 

ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その11

2014-06-24 19:37:58 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、二十一歳、大学四回生。
 三回生も全科目合格で通って、春休み。ナオキは高校を卒業して早速、予備校に通いだした。三年間、あれだけ厳しい高校に通って難関の大学を受験したけど、不合格。浪人することになった。推薦で進学した私には、浪人生活って想像できないけど・・・辛いだろうな、とは思う。だけど同時に、私はほっとしていた。
『ナオキの高校、ナオキの高校!』
それをネタに、お母さんとナオキからいじめられることはなくなったから。
 四月、いよいよ私も四回生、大学生活最後の一年の始まり。大学のほうは、卒業論文と教職課程の単位がちょっと残ってるだけだけど・・・
「こんにちは。」
相変わらず、一番に来ているゼミ。
「ツキシロさん、教育実習はいつ?」
「九月です。」
「そうか・・・うちのゼミは教職を取ったの、君だけだな。年々取らなくなってるな・・・」
私が大学に入学した頃から、教員免許を取らないことが流行っている。就職に結びつかないからって。
 私は異質な存在かな?・・・続々と、ゼミの仲間がやってくる。皆、リクルートスーツ姿。中で、私一人普段着。
「皆、就職活動も始まったね。この学部は卒業論文もあるし、大変な一年になる。だけど、逃げてはいけない。就職活動も、卒業論文も。この頃、就職浪人なんてことやってる学生も増えてるが、勝手にモラトリアムを伸ばしてはいかん。」
・・・。仕事、就職。どうしたらいいんだろう?私、どうしたらいいんだろう?
 私だって働かないわけには行かない。だから、春から、就職説明会にもいくつか行っている。就職課にも足を運び・・・だけど。
『ハルカ、就職どうするの?』
いくつか履歴書も送ったし、この間は面接も一つだけ行った。結果は不採用。
 高校を出る頃からかな?不景気って言い出したの。実際、三十社、四十社受けてやっと一つ内定っていうのが今の時代らしい。向かいの席で、男の子たちが就職活動の話で盛り上がっている。私にも話を振られて。
「そりゃ、ツキシロさん、面接に呼ばれないよ。クラブしてないとまず面接には声がかからない。」
・・・・!やっぱり、大学こそサークルに入っておくべきだったんだ!
 これからどうしよう?でも、私、もう疲れ果てたよ。もう嫌だ。生きてたくない・・・
「ハルカ、最近、夜は寝られてるか?」
「寝られてる。」
お父さんの投げかけにも生返事。私にはもう、自分の極端な寝つきの悪さに自覚すらなかったのだ。
 
 

 
 

ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その10

2014-06-23 19:57:04 | ADHDとともに「君の星座」
 ブロロロロ・・・一人で車を運転して、デパートに向かっている。お母さんが用事で繁華街に出かけていて。迎えに行くんだ。
『用事が終わったら、デパートで食品と、ちょっと、私の服を見て帰りたいの。』
ってことで、お母さんが出かける前に、約束の時間は決めていったけど。ブロロロロ。
 信号待ち。フフフ、ハハハハ!もう、笑えてくる、老人ホームなんてね!どこから出た発想か知らないけど。あ、青に変わった。ブロロロロ・・・そんな方法があるなら、半年も悩ませることなかったじゃない?いけない、いけない。運転中は集中しないと。事故になる。
 デパートの駐車場に停めたら連絡するって約束だから、電話するんだけど、
「・・・・。」
仕方ない、いつものことか。メール入れておこう。お母さん、私からケータイに連絡入れてもまず取ることはないんだ。お母さんからはすぐ返事しないと怒るくせに。その辺も腹立つけどね!バタン!車にロックを掛けて、デパート館内に進む。どっち道、用事が終わったら連絡来るだろう。それまで私も楽しんでいよう。今、何といって必要なものもないけど。
 家族だから、お互いによくしようと願い、動くのは普通のこと。だけど、そこへ向かうための方法がかみ合わない。うちもずっとそうだったよな。あ、そうだ。駐車場のチケットをしまうべく、バッグのポケットを開けるとフェルトの障害者手帳ケースが目に入った。
『親御さんだって、ずいぶん進歩されたじゃない?』
確かにそのとおりだよ。去年の十一月、私が必死に説得したとはいえ、納得に至ってくれたのには、もう、うちの両親はかなり私の障害を認めていたからだと思う。
 そうなるためには、私が、親が変わってくれるまで待つしかなかったのかもしれない。その分、私はずいぶん時間を失わなければならなかったけど・・・

ハルカは、正しいことをしていると思う。

プルルルル!ケータイのバイブレーダーが震えている。お母さんだ。
『遅くなってごめんね。用事、終わりました。三階の喫茶室でお茶しましょう。』
そこまで、急いで駆けつける。
「お母さん!」
「あ、ハルカ。ごめんね、遅くなって。ここでいい?何か食べる?」
「私は、お茶でいいよ。」
「いいの?あ、大きなケーキセットよ。お母さんと分けて食べない?」
こうしてお茶を飲むひと時。そうだよ、大丈夫。親だって変わっていく。速度は違うかもしれないけど、必ずかみ合う日は来る。私はそう、信じている。





 
 
 
 
 

ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その9

2014-06-22 20:35:24 | ADHDとともに「君の星座」
 お母さんは謝ってくれたけど、まだ頭から離れないあの発言。こころのクリニックにて。
「あのね、先生。この間、母が言い出したんです。別に無理して障害者手帳なんか取らさなくても、一緒に老人ホームに入れる方法があるって。」
形相を変えるドクター、
「そんなこと、制度的に出来ません!」
「そうですよね!」
幸い、私も学校講師とボランティア活動のおかげで知識を持っていたから。
 そして、ジョブサポートセンター。ここでもお母さんの老人ホーム発言について。
「えー!」
さすがにびっくりという感じのムライさん。
「どこからそんな発想が出てくるんでしょうね?」
本当、私のほうが知りたい。それはさておき、
「あの、この間の面接会のことですけど。」
「はい。そのことですね・・・どうでしたか?」
「面接で話を聞いて、全くの入力作業一色だってわかりまして。その場で辞退したんです。」
 私の判断に、ムライさんはイエスもノーも言わない。それがキャリアカウンセリングというもの。肝心なのは、どうしてその仕事は無理と判断するに至ったのかということ。
「仕事の内容が、向いてないって思われたんですか?」
「はい。やっぱり、入力作業ばっかりじゃ。そればっかり、定年までずっとやるとなったら、私、嫌にならないかな?って。」
結局行き着くところはそこか。
 講師の時に障害に気づいて、診断を受けられないまま親の勧めで医療事務へ。そして、立て続けに解雇になって。
「あれから一年以上経ちましたけど、やっぱり、立ち直れないですよ。」
「お辛い出来事でしたものね。」
「はい。」
だから、障害者手帳を取った。就職後のサポートを受けて、職場に定着していけるための手立てとして。なのに、私は何をしているのか。何を考えているのか。
 それでも。
「面接そのものの感触は、どうでしたか?」
「行ってよかったと思います。障害枠の面接って、職場の様子をかなり教えてもらえるんですね。それもわかりましたから。面接の人も、すごく感じよかったですし。これからのために、いい勉強になりました。」
そうだよ、まだ、これからがある。
 



ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その8

2014-06-21 19:28:39 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、二十歳。大学三回生。
 今日はテニスの日。
「行ってらっしゃい。」
大きなバッグを背負って自転車で走り出すハルカを見送った。・・・これでよかったのよ。
 最近になって知ったわ。世間でも話題になってテレビでもよく話題になってる。
『絶対音感』
ハルカはその持ち主なのよ。ずば抜けた音感というだけなら才能ですむけど、そのせいで音楽を苦痛に感じてしまう。ハルカが小さい時から音楽を嫌がった理由がやっとわかったわ。何も知らずにしたとはいえ、ハルカを苦しめていただけだったのよ。もう、趣味に関しては口出ししない。思いっきり、好きなことを楽しみなさい、ハルカ。
 私が大学生やってる横で、ナオキは高校三年生。大学受験に向けてしゃかりきで。超スパルタの高校だから、宿題の量だけでもすごいらしい。私ならこんなの、絶対に無理。そんなナオキはいつも残念そうに言う。
「俺、中学も高校も部活やりたかったのに・・・」
三年下の弟と比べても私、かなりずれてる。私、部活やりたいなんて思ったことない。むしろ嫌だった、あんなの。嫌な思いする以前から。私、一人でいたい。
 そんな私だけど、今年は!この夏休みにゼミで旅行することになった。家族旅行は毎年してるけど、こういう旅行は修学旅行以降始めて。人付き合いは苦手だけど、こういう人付き合いの機会は大事にしている私。
「こんにちは!」
三回生、四回生、そして、先生と一緒に。長距離バスに乗って海辺へ・・・
 もともと女の子が少ない学科だから、同室もこのナカガワさんだけ。同じ三回生だから、毎週ゼミで会ってるけど、話したことは全くない。
「高校は、どこだったの?」
「私は公立だったの。」
で、現役合格。
「すごいね!」
そんな話から、今度は、一方的に質問されることになり。
「ツキシロさんってさ、講義のとき、いつも一番前に陣取ってるでしょ。」
「ああ、私、軽く近視なんだ。眼鏡かけるほどじゃないんだけど。それと、先生の話を聞き逃して、後で聞きに行くのって面倒でしょ?」
すごく納得した顔で、
「あー、なるほど。そうなんだ。だんだん謎が解けてきた。」
 色々質問をぶつけられ・・・私、そんなに不思議な人間だと思われてたんだ。ま、初めてのことじゃないけどさ。
「ツキシロさん、いつも何もしゃべらないし。いつも一人でしょ?」
「うん、人付き合いが苦手なんだ。っていうか、他の人にどう思われているか、それが怖い!」
この言葉が口から飛び出した時、私はわれながら驚かざるを得なかった。

ADHDとともに「君の星座」第14章 鋼鉄の意志を その7

2014-06-20 20:32:56 | ADHDとともに「君の星座」
 老人ホーム!何てこと言うんだ!翌朝、スーツに着替えて、
「あ、行ってくるのね。」
バシィ!
「怒ってんのわからんのか!」
お母さんに一撃加えて出かける。まったく!明日、面接に行く日だってわかってるのに!
 障害枠合同就職面接会。その会場は広い貸会場のホールで・・・
『受付はこちらですので、四列でお並びください。』
しかし、すごい人数だな。若い人が多い。あの人はガイドヘルパー同伴かな?杖や車椅子、酸素ボンベとか、そうだろうなって人も確かにいるけど、一見、障害ってわからない人が殆どだ。
「はい、こちらの求人にお申し込みですね。では、この札を持ってお待ちください。」
こうして面接を希望するブースごとに番号札が渡される。
 十一時より順番に面接を開始します。見学を希望される事業所の方は・・・今後の面接で手話通訳が必要な場合、ハローワークにお尋ねください・・・椅子に掛けながら、館内放送に耳を傾けている。たくさんのブース、動く人の影、流れる時間。おなか空いたな。ま、辛抱できるか。ケータイでゲームも、電池が無駄か。本でも持ってきたらよかったな。
『五番の方、どうぞ!』
あ、私だ。
 面接のブースに向かう。もう、手馴れたものだけど、障害者枠って始めてだから・・・
「始めまして。」
そこには、五十代ぐらいの男性と女性が。
「始めまして。どうぞおかけください。」
よろしくお願いします・・・履歴書と紹介状と、私の説明書を。
「まずですね、障害についてですけど。」
「発達です。」
「手帳は何級ですか?」
こんなところから、どんどん話が弾んでいき。
「わー。学校の先生もされてたんですね。それはすごいですね!転職が多いですが、これは?」
「はい。これは障害に気づかなかったためです。」
納得!って顔。
 どんどん、雑談みたいなことが和やかに続く。
「仕事は、入力作業が殆どになります。十人ぐらいの部屋でお仕事していただくんですけど。」
「ということは、資料作成とかは殆どないですか?」
「そうです。」
だと、ちょっとイメージと違うかもしれない。
「あなたほどの方だと、うちはちょっと物足りないかもしれませんね。」
それはどうかわからないけど、確かに、入力ばっかりになったら退屈になってくるかもしれない。
「・・・それでは、ちょっとイメージと違いますので、辞退させていただきます。」
「わかりました。またこれからもがんばってくださいね。今日はありがとうございました。」
ありがとうございました。
 帰り道。残念だったけど、あの仕事の内容なら後悔はない。でも、今日は勉強になったよ。障害枠の面接って、かなり具体的に職場の様子とかも教えてもらえるものなんだ。面接の人もとても優しい人だった。これからのためにも、来てよかったよ。
 家に帰っても、お母さんと口は利かない。でも、その夜。
「・・・あの、ハルカ。」
「?」
「夕べはごめんね。あんなこと言ってしまって。ハルカはこれから、自分の信念を持って生きていこうとしていたところだったのに。お母さん、あんなこと言っちゃ駄目よね。本当にごめんね。」