チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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時は管理教育「この時代を」第10章 ちぎれた鎖 その32

2015-06-28 20:30:19 | 時は管理教育「この時代を」
 とうとう、九月一日。タカクラユウの家。
「ユウ!いい加減に起きなさい!昨日まではちゃんと起きてたのに!今日から学校よ!」
タオルケットを頭からかぶったままのユウ、
「わかってるよ!」
「あ、わかった。今日から私服登校じゃなくなったからでしょ?」
がばっと飛び起きて、
「違うよ!」
 夕べ、学校の連絡網で、新学期からまた制服でって。私も、ジャージっと。いつものことだけど、パジャマを脱ぐと、去年先生に殴られて入院した時の傷跡が。オガタさんが亡くなったあの事件から、うちの中学の今までの出来事がいろいろ取り上げられたけど、私のこれについては一切触れられず。そのほうが傷つかないと言えばそうだけど・・・
「ユウ!早く朝ごはん食べなさい!」
「あ、はい!」
慌てて降りていく。どうだろうな?校則は変わったかな?私、夏休みの間にあれだけ署名活動したんだよ!PTAのおじちゃんやおばちゃんも助けてくれて。それで何も変わってなかったら、怒るどころじゃないからね!
 道行く皆は制服。
「はい、おはよう。」
正門の先生たち、仁王立ちだけど服装頭髪検査はやめたのか。教室代わりの音楽室に入る。キョウコちゃん、おはよう!おはよう。始まったね。
「皆さん、おはよう!」
チャイムと同時に入ってきたのはやっぱり、教頭先生。
「おはよう。今日から新学期です。皆、まだ落ち着かないとは思いますが、まずは始業式に行きましょう。」
 整列してグラウンドへ移動する。もはや、行進ではない。炎天下で皆、汗を拭う手を休め。
『まずは、黙祷。』
皆、手を組んで頭を下げて。その後、校長先生のお話。
『今日から、二学期が始まります。一学期には、尊い一人の命がこの学校で失われました。これからは残された皆さん、先生たちも・・・・』
もう、何を言ってもらっても、白々しく感じる。 


時は管理教育「この時代を」第10章 ちぎれた鎖 その31

2015-06-23 09:49:08 | 時は管理教育「この時代を」
 お盆も開けて。
「何時までもこのままというわけにもいきませんので、部活動の再開に踏み切ろうと思います。」
大会などへの参加は辞退というかたちで、今日からグラウンドに体育系クラブの生徒、教室に吹奏楽部の生徒が練習にやってきた。
「まだしばらく私服でってさ。」
「うん。だけど、大会は辞退なんだろ?」
全ては事件のせいで。
「ここまで巻き込まれるなんて正直迷惑だよな!」
「お前な!人が一人死んでるのに、よくそんなこと言えるな!死んだのはお前だったかもしれないんだぞ!」
「わ、わかってるよ!・・・本当のこと言うとな?」
部活動の強制加入だって、本当はやめてほしい。変えてほしい。第一中学の何もかもを。
 管理教育。全てはこれが間違いだった。学校はどうあるべきなのか。動き出す親たち。
「部活も、参加するのと辞めるのは自由にさせるべきよ。あれだけ時間を取られるとね。もっと、参加を柔軟にできないのかしら?皆がスポーツ推薦で行けるわけじゃないのに。」
「丸刈り強制もおかしいわよね。」
「それは思うわ。髪の毛も、安全とか意味があってあるものなのに。」
とにかく、親である私たちの世代の時は、もっと柔軟だった。
「校則で生徒が死ぬってことはなかったわよね。先生が持ち物やパンツの色まで調べるなんてなかった。」
せめて、その時代のようには戻せないのか。
 PTAの会長一行が、学校を訪ねてきた。
「先生方、この夏休みに、二年生の生徒が集めた署名です。」
大きな紙袋にいくつも。
「タカクラユウですか?」
「たぶん、その子です。一人の女子生徒が始めた署名活動です。第一中学をよくするために。」
もうすぐ新学期が始まる。
「先生、生徒が死んだんですよ。何としても校則は変えていただきます!」
 

時は管理教育「この時代を」第10章 ちぎれた鎖 その30

2015-06-17 10:13:11 | 時は管理教育「この時代を」
 誰のせいでなくても、どんな理由があっても、人が死ぬなんてことがあってはいけない。ツチヤキョウコの家。仕事の手が空いた時に、しばしの休憩に引き揚げてきた父親。
「お疲れさん・・・あれ?キョウコは?」
洗濯物を畳んでいる母親。
「ユウちゃんと一緒にマコトちゃんの家に行くって。さっき、送っていきましたよ。」
コウスケは部活で夏休み中もほとんどいない。ピ!テレビを付けると、また第一中学の事件をやっている。
「俺は毎日、商売で行っていたのに。全然わからなかったな。」
 男の子が丸刈り強制になったり、部活動の強制については知っていた。だけど、もっとほかに起きていたこと。
「まさか、あんな服装検査されてるなんて思わなかったわ。」
テレビでは散々叩かれている。
『厳しすぎる校則!』
『まるで刑務所ですね!』
パンツの色まで調べられているとか、本当に知らなかったなぁ。
「子どもがおかしくなっても仕方ないような状態よね。」
「・・・そうだな。」
 署名お願いします!第一中学を良くするために!ユウが始めた署名活動は、どんどん輪が広がり。署名の用紙も日に日に、かさを増していく。地方裁判所では、加害教諭の審理が行われており。検察側の尋問。
「第一中学では、宿題を忘れたら竹刀でお尻を叩くという指導が行われていたそうですが。これは、先生同士の間で指導として取り決められたものだったのでしょうか。」
「・・・。いつの間にかそうなっていたと思います。」
「いつの間にかというのは?はっきりこういう指導をする、という取り決めがあってというのではなかったのですか?」
「自然の流れだったと思います。」


 

時は管理教育「この時代を」第10章 ちぎれた鎖 その29

2015-06-10 19:54:40 | 時は管理教育「この時代を」
 お盆も近くなってきた。本日より、加害教諭の公判が始まる。
「傍聴券希望の方は、こちらにお並びください!」
朝早くから人だかりの、裁判所前。定刻通り、
「それでは、開廷します。」
法廷、奥のドアから刑務官二人に挟まれ、手錠をかけた姿で現れる教諭。
「解錠してください。只今より、第一中学校生徒撲殺事件の公判を始めます。」
生年月日、氏名、職業。黙秘権の告知。続いて、検察官。
「公訴事実です。平成二年七月一日午前九時三十分頃、被告人は・・・」
担任もしている第一中学の二年五組の教室で、授業開始時に、事前に提出するようしていた宿題を回収した際、被害女子生徒が提出していないのに気付き、教壇前に呼び出した。何故忘れたのか。繰り返し尋ねるも返事がなく、忘れ物の指導として、被害女子生徒に木刀を振り下ろした。木刀は被害女子生徒の頭部に当たり、被害女子児童は頭部裂傷、頭蓋骨骨折、脳挫傷で同日午後四時三十分頃、搬送先の市立こども病院で死亡した。
 ニュースでも盛んに取り上げているけど、これをどう受け止めるべきなのか。親も子も迷う。タカクラユウの家。
「こんにちは、邪魔するよ。」
「おばあちゃん!こんにちは!」
出迎えるユウ。お父さんの方のおばあちゃんが訪ねてきてくれた。
「あの、おばあちゃん、お願いがあるんだけど・・・」
私が作った嘆願書。いいよ。おじいさんの名前も書こうか?うん!多いほうがいいし!そこへやってきたユウの母親。
「こら!ユウ、おばあちゃんに何を書いてもらってるの!」
「嘆願書の署名だよ。学校の校則変えるの!」
「もう!そんなことまでお願いしちゃって!・・・お母さん、すみません。」
書き終えたボールペンを置き、お茶を飲むおばあちゃん。
「いいわよいいわよ。孫の学校のためだもの。このぐらい、協力するわよ。」
本当にすみません。
 わー。おばあちゃん、うちの学校の事件のこと、よく知ってるな。テレビで知ってるんだな。
「亡くなったお嬢さん、かわいそうにねぇ・・・ユウちゃんもびっくりしたでしょう。」
ユウの兄の仏壇に目をやりながら、
「生きたくても生きられない子どももいるのに。宿題を忘れただけで、殴って殺してしまうなんてね・・・」 


時は管理教育「この時代を」第10章 ちぎれた鎖 その28

2015-06-02 20:54:46 | 時は管理教育「この時代を」
 第一中学に戻らせたい・・・そう聞かれてドキッとして。アヤセマコトの家。
「お父さん、お帰りなさい!」
主人が単身赴任先から帰省した。マコト、以前よりきちんとお父さんと話をしている。これも成長なのかしら?五月に十四歳になって。女の子の反抗期はこの辺がピークっていうものね。
「どうだ?フリースクールは順調か?」
「うん。今は、夏休みだけど。」
 マコトは自室に戻って、ここからは夫婦だけ。主人が、
「思ったより元気だったな。安心したよ。」
第一中学の事件、主人も当然知っている。
「マコトのクラスなのよ、亡くなった子。ユウちゃんたちは目の前で見ていて。ショックだったと思うわ。」
「そうだな。そういう意味では、不登校でよかったかもだぞ。」
「あなた!」
「事件を目の当たりにしなくてよかったって言ってるんだ!マコトの性格考えろ!」
きっと、その景色が頭から離れなくなって。今頃、家でも平穏に暮らせなくなっていたかもしれない。
 だけど、いつまでもフリースクールに通わせる?
「出席点が認められるなら、僕はそれでもかまわないと思うよ。高校は内申書の関係ない所を受ければいいし。」
「本当にそれでいいかしら?あの子の将来を考えると・・・」
「第一中学の現状も考えろ。まだ落ち着いてないだろ?僕は、無理に戻さなくていいと思ってる。」
主人、本当に変わったわ。こんなに柔軟に考えられるなんて。コーヒーを一口飲んで、ため息をつきながら、
「僕らは、学校は厳しくあるべきだと思っていた。少々理不尽でもね。社会というのは窮屈なところだから。だけど、僕の会社もそうだけど、社会っていうのは融通で回ってるところが大きいんだよな・・・」
そう思うと、私たち親は、子どもに対して、学校にかなりの理不尽を強いるように求めていたのかもしれない。
 今回の事件、
「私たち保護者にも責任があるってことよね。子どもが学校でどんな目に遭ってるか、きちんと知ろうともしないで。」
涙をぬぐう母親。
「マコトだって、いい子だって安心しきってなかったら!」
「おい、よさないか。過去は直せないから。これからを考えないか?」