チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その37

2011-02-27 12:59:16 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
瞼越しにも、何となく薄明るい。
頭の中がだんだん、明瞭になってきた。
そろそろ起床時間かな?

目を開けて、ケータイで
時間を確認すると、五時十五分。
まだ、そんな時間なのか。

だけど、もうひと眠りという気にはなれず。
ユイはそのまま寝返り、
仰向けになった。

点滴をみると、薬液の水位が、夕べよりも
上がっている。
夜中に取り換えられたんだな。

基本的に朝は苦手なタイプで、
小学校の時から、遅刻の常習犯。
それなのに、時々、
今日みたいに、物凄く早く目覚める日があるんだ。

「あの子、大丈夫なんですか?」
「何が?」
「精神面が。夕べも、酷くうなされていましたよ。」
「うん。ちょっと不安定かな?」
「いいんですか?放っておいて。ご両親も心配されていますし。」
「うん、不登校の事だろ?もう、一年近くなるとか。」
「お言葉ですが、一度、専門家に回すべきでは?」
「・・・・・。」

シャ!カーテンが開いた。
看護師さんに、お医者さんも!

「ユイちゃん、もう起きてたの?」
い、いけなかったかな?
少し顔色が変わったのを読みとられたのか、

「ううん、いいのよ。」
と、看護師さん。そして二人で、
「おはよう。」
優しい口調の挨拶を投げかけられた。

看護師さんはともかく、
こんな時間にお医者さんが来るなんて。
どう言う事なのかな?

それも、白衣を着ているだけの、
ほぼ手ぶらの状態で。

いずれにせよ、あまり良い事ではないのは
はっきりしている。

早く目が覚めたのか?眠れなかったのか?
月並みな質問を並べながら、
瞼をめくったり、
聴診器をあててみたり、一応、
診察のような事をして、

「大丈夫そうだね。何かあったら
ナースコールを押して。」
とだけ言い残して、去っていった。

・・・一体、何だったのかな?

日が昇り、どんどん明るくなる室内。
そう、明けない夜はない。
夜明けは必ず来る。
私の人生だって。

だけど、私の望む夜明けは、
どんなものなのかな?

学校へ行けるようになること、
安心して家庭で過ごせること、
勉強に励めること・・・・

まだ良くわからないけど、
その日を目指して、懸命に生きて行かなくちゃ。

どうやらそのまま、また眠ったらしい。
気がつけば、七時半。
ガラガラガラ!
朝食のカートがやってきた。













「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その36

2011-02-25 22:56:59 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
すべての物事には必ず、
終わりの時が来る。
これも昔から聞く言葉だけど。

続けたい稽古事は辞めさせられ、
行きたくない進学塾は辞めさせてもらえず。

小学校時代の無二の親友とは別れさせられ、
性格破たん者の、中学校の子たちとは
くっつけようとされる。

大切なぬいぐるみとは
別れさせようとされるのに、
苦痛な事ばかりの部活動は
辞めさせてもらえず。

あーあ、何か、納得いかないなぁ。
大きく息を吐き、寝返りを打つ。

で、
望んで望んで、入学したあの中学校。
私は、行きたいと思っているのか、
辞めたいと思っているのか。
どちらの方が重いんだろう?

『消灯の時間です。』
アナウンスと共に、常夜灯へ。

コツコツコツコツ・・・
足音を聞きながら、ユイは
静かに目を閉じた。

おい!何回やったら覚えられるんだ!
もうちょっときめ細かく解説してやらなくていいの?
いや、これ以上のやり方はないだろう?

どうせエスケープしてるんだろう!
この不良!

・・・やめて・・・やめてよ!!

泣き叫ぶ少女に、
大きな拳が振り下ろされる。

ギャァァァァァァ!
ビックリして飛び起きるユイ。
・・・夢だ。また、嫌な夢だ。

そう、去年の中間試験以降、
お父さんやお母さんの手ほどきで、
勉強してきた私だけど、

期末試験が近づくに連れて、
私に対する言動はエスカレートしていき・・・

殴らないで・・・酷いこと言わないで!

嫌だ、思い出したくない事で、
頭がいっぱいになってきた。

友達もなく、成績も悪い。
部活動にも熱心ではない。
こんな中学生は、
人間扱いすらされなくなるのだ。

見開いたままの目は、焦点が定まらず、
冷や汗で体温が低下するのを感じながら、
暗い空間に、そのまま座り尽くしている。

その様子を見に来る人間は、
どうやらいないようだ。

悪夢で酷いうなされかたをしたり、
急に枕を投げたり、
そんな事があったから、
「またか。」
って言う感じなんだろうな。

でも、変に構われるぐらいなら、
一人にしておいてもらえる方がずっといい。

ユイはしばらく、
そのまま過ごし、落ち着いたところで
再びベッドに身を横たえた。















「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その35

2011-02-23 21:40:03 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
放送終了、ケータイを閉じる。
あーあ、嫌な事を思い出したせいで、
今日のお話は殆ど頭に入らなかった。

まだ、七時半か・・・
あ、そうだ。そろそろ、
お医者さんが来るんじゃないかな?

予想的中!
「こんばんは。」
男性の声でカーテンが開いた。

診察の内容は、いつもと変わりなく。
食事は美味しいか?
他に具合が悪い所はないか?
病院の生活に困っていないか?

ユイの反応にその回答を読みとり、
安心した様子のお医者さん。

「じゃあ、当面、毎日採血するから。
データが良くなるまでね。
もう少し回復したら、次の治療にも移ろうか。」

おやすみ・・・
引きあげて行くお医者さんと看護師さん。
カーテンが閉まり、再び一人になった。

随分あっさりした診察だったけど、
次の治療って?
私は今、どのぐらい悪いの?
どう言う状況なのか?

ちょっぴり心配だけど、詮索しても意味がないか・・・
もうしばらく、照明も落ちない。
ユイはそのまま仰向けになった。

『勉強の事は、全て学校でしますから、
塾に行っていただかなくて結構です。』
そんな触れ込みに惚れて、選んだのだけど、

私学のそういうやり方って、
想像以上に大変なものだったなぁ。

授業をきちんと聞いて、
与えられた課題をこなしていれば、
それなりの評価をしてもらえるという事だけど、

クラスメイトの妨害とか、精神的な疲労で、
私みたいに、
それが不可能になった人間は・・・

一年生一学期の中間試験。
あの時点の点数では、
高校に残れない可能性もあったし。

期末試験で挽回しようと、
本屋さんに行ったんだ。
だけど・・・

これはどう?・・・ううん。
じゃあ、こっちは?・・・駄目、合わない。

市販の参考書や問題集なんて、
公立学校準拠のものばかり。

塾も当たってみたけれど・・・
うちの学校のカリキュラムに
適合するものは、何処にもなかった。

家庭には居場所がなく、
友達は出来ず、
先生達からも睨まれ、
部活動にもなじめず。

そのくせ、何処へも飛び出せず、
現状に溺れて行くしかなかったのだ。






















「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その34

2011-02-21 22:55:13 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
いただきます。
・・・うん。この煮込みハンバーグ、
ソースが甘くって、美味しい。

病院の食事って、意外と美味しいなぁ。
こうして、毎食きちんと持ってきてもらえるし。

・・・おい!どう言う事だ!
ここまで頭が悪いとはな!
お前なんか、小学校も卒業できんわ!・・・

進学塾へ行かされていた頃、
毎回テストがあって、その結果によっては
ご飯が当らないなんて事もあった。

病気はしんどいけれど、
そんな頃を思うと、今の状況は天国だな。

ごちそうさま!
ナースコールを押して、
トレーを下げに来てもらう。

病気だから仕方ないんだけど、
こんな生活を続けてたら、
だんだん自分が駄目になっていくんじゃないだろうか?
ちょっと焦るなぁ。

せめて、外の情報だけでも
入手しようか。
看護師さんが去った後、
ユイは枕元のケータイを取った。

この間、お母さんが
面会に来た時に、テレビカードを買っておいてくれたから、
ここのテレビで見たら良いんだけど、
どうしても使い慣れているほうに手が行くのが、
人間の習性というもの。

えーと、もうすぐ七時か。
ユイは大急ぎでケータイを開いた。
今日は、お気に入りのアニメ番組がある!

そう、何時も一緒にいるぬいぐるみ、
この子が登場する番組だよ。
よかった!間に合った!
オープニングテーマを見ながら、
ユイはホッとしていた。

中学受験の時も、去年の中間試験後、
両親の手によって生活の全てを
支配されてからも、

この番組だけはケータイで録画して
欠かすことなく
ずっと見ていたんだ。

小さな画面だけど、
真剣に見入っていると、
そこに広がる世界の中に、
自分が吸い込まれていく。

そんなところに、
『漫画ばっかり見ないで、勉強しなさい!』
去年の担任の声?
嫌だ、思い出したくないのに!

美術部に放り込まれた、去年の六月。
でも、期末試験が七月初めに行われるのに合わせて、
二週間ほど行っただけで、試験準備のための
部活動休止期間に入った。

ちょうど、その時期に吐かれた言葉。

友達が出来ず、英語の宿題もずっと未提出、
そして、散々だった中間試験の結果。

つまり、架空の世界なんかにうつつを抜かしているから、
お前は駄目なのだ、と、あの担任は言いたかったわけだ。

どうして・・・
私、そんなに、架空の世界にどっぷりだった?
アニメだって、ここ三年ぐらい、
週一回三十分の、この番組しか見ていないし。

これなら、普通に楽しみ事のレベルじゃない?

一方では、架空の世界とお別れしろといいながら、
もう一方では、
それを接点として人間関係を築けと、
興味もない美術部に押し込んだ。

一体、どっちなんだよ!

大人って勝手だ。
勝手すぎる!

















「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その33

2011-02-20 22:05:35 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
いい加減にしてくれ!

「痛!」
カーテンの向こうから、
女の人の声が!

無意識に投げた枕が、
カーテンに当たった時、その向こう側に
看護師さんがいたらしい。

しまった!どうしよう・・・

入ってきた看護師さんに対し、
手を合わせ、何度も深く頭を下げるユイ。

「いいわよ、そんな事。
ユイちゃん、どうしたの?何か腹が立ったの?」

点滴を交換し、バイタルチェックしながら、
何でも聞きます、みたいな態度を示してくるけれど、
ユイは、あえて目をそらしていた。

あんたなんかに、私の気持ちの何がわかるの!

子供なんだから、
大人の言う事を聞かなければいけないのは
よくわかっているけど、

小学生の時はまだ、
自分の言い分を聞いてもらえたのに、中学生になったら、
一切聞き入れてもらえず、何でも大人の言いなりに
なる事を求められているような気がする。

『良い学校に入ってくれて、良かったわ。』
『部活動にも参加してくれたし。』
『これで安心ですね。』

つまり、何かに所属させ、
何か行動させれば、良い方向へ転がっていくと、
そう思い込んでるんだな。

だけど、それは時として、
真にはなりえないという事を、
この一年半の間に嫌というほど知った。

むしろ、嵐が吹き荒れる時は、
無理に抵抗せず、大人しく、
じっとしているべきなのだ。

それに、
何もしない事にも、価値はあると
私は思う。

学校へ行けなくなってから半年ぐらい、
勉強もせず、遊びもせず、近所にすら出かける事もなく、
私には本当に、やるべき事がなくなっていた。
生活のリズムも乱れ、
いつ起きているのか、寝ているのか、食べているのか・・・

だけど、あの時ほど、
心や魂が、フル回転していた事はないと思う。
人生で一番、充実した時間だったと、
私には思えるんだ。

ガラガラガラ!
また、食事のカートがやってきた。
夕食の時間だな。

ユイは体を起して、テーブルを手繰り寄せ、
ウェットティッシュで丁寧に手を拭いた。








「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その32

2011-02-19 22:35:19 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
ごちそうさま!
以前、コンビニで買って食べたのと同じような
気がするけど、
美味しかったな。

「あ、また完食ね。良かったわ。
なかなかの回復力よ。凄いじゃない!」
トレーを取りに来たついでに、
一言、言い残して出て行った看護師さん。

それにしても・・・

「いやー、ユイさんも部活動に入られて!」
「素晴らしいですね!」
「良かった良かった!」

美術部に押し込んだとたん、一変した大人達の態度。
その喜びようは異常だったな。
これで、全ての問題は解決した、みたいな・・・
私の気持ちも知らないで!

「部活動にでも参加しないと、
やる事がなくて、時間も体力も、もてあますでしょ?
するとね、若くて元気盛りなのに、
判断力がない中学生は悪事に走るに決まっているのよ。」

これが、大人達の言い分。
だから、部活動に入れ、打ち込め、と。

あーあ。納得いかないな。
大体、
部活動をしていれば健全で、
していなければ不健全なんて、
短絡的な振り分けは乱暴だよ。
何よりも、失礼だ。

体力を持て余すって、じゃあ、
体の弱い子はどうなるの?
学校行くだけで精いっぱいな子は、
駄目な子なの?

部活がなければ暇っていうのも疑問だ。
そんなものがなくても、時間をかけるべき事はいっぱいある。
稽古事とかに精を出す方法もあるし、
一人で本を読んでいてもいいと思うし、
私みたいに、通学に時間がかかる場合もあるし・・・

何よりも中学って、まず、勉強しなきゃいけないじゃない!

『中学生は部活動に参加しなければならない。
その道で一流になれる位、
朝から晩まで徹底的に打ち込まなければならない。』

それ程部活動が重要なら、
どうして授業なんかするの?
それなら、授業なんか辞めて、
朝から晩まで、部活動にしたらいいじゃない!

だんだん腹が立ってきて、
ユイはバタンと、ベッドに身を倒した。
どうして、どうして・・・
どうして、一人でいちゃいけないの?

人間は一人では生きていけない。
常に誰かと、関わっていなければならない。
何だかの集団に所属していなければいけない。

他人とのふれあいが大切だというのはわかる。
でも、とことん傷ついてまでする必要はある?
苦手な人、合わない人を見抜いて、
離れるのも、大事なんじゃないの?

集団への所属なんて、
とりあえず、学校に在籍している、
その事実だけで十分じゃない!










「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その31

2011-02-18 22:04:01 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
あーあ、またリセットだ。

取り換えられた、
満タンの点滴の下で横たわるユイ。

そのすぐそばで、
充電器に繋がれている、ケータイ電話。

今、何時かな?
ふと気になって、手を伸ばすと
十四時五十五分。
もうすぐ、おやつだ。

食事の許可が出て、だんだん
食べられるようになってくると、
毎回の食事が物凄く楽しみになってきた。

特に、おやつなんかは。

「ユイちゃん、おやつですよ。」
カーテンを開けて、運び込まれるトレー。
腹筋を使って体を起こし、
瞬間、笑顔になった。

その様子を見て、看護師さんも嬉しそう。
「顔色も良くなってきたし、良かったわ。」

そう、幸せと同じように、
楽しみも、ささやかなもの。
私だけのもの。
誰にも、脅かされないもの。

去年の六月、
私は、美術部に放り込まれる事になった。

『中学生は、部活動に参加しなければならない。』

私について根掘り葉掘り、詮索した揚句、
先生や親が、勝手に見繕ったんだ。
「アニメ好きなら、絵も好きだろう」って。

活動は週三日の放課後と、
ある意味、楽そうな気がしたから、
そんな理由で妥協したけれど・・・

美術部には
昔から、アニメ好きが結構いるって
先生達は言っていたけど、
それも大ウソだと、早い段階で判明した。

「ユイさん、そんなもの好きなの?」
「変わってるね!」
ゲラゲラゲラ!

私がマンガやアニメを接点として、
友達を作る事を期待していたんだろうけど、
それとは正反対の現実。

大体、絵なんか描けないし、
こんな部活、辞めたい。
そう思うようになるには、
入部後、一週間もかからなかった。

趣味とか、何か好きな事があったら、
何としてもそれを持って
人とのつながりを探さなければならないのだろうか?

今、フルーツゼリーの味と触感を楽しんでいるように、
そう、自分ひとりだけで、
楽しませてくれてたら良かったんじゃない!






「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その30

2011-02-17 23:05:35 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
試験の点数だけでなく、
学校での立場や、親子関係まで、
散々な結果となった、
人生初めての中間試験。

家での折檻、個人面談と過ぎて、
五月も最後の週だっただろうか?
私は連日、少し遅くまで学校に残らされていた。
帰宅すると、
「ユイ、どうだった?興味ありそうなのある?」
お母さんの問いかけ。

部活動の見学をさせられていたのだ。
勉強の補習ではなく、部活動の見学。

あの時、
先生と親の、両方から言われたんだ。
『部活動に入れ。』

あーあ、また嫌な事を思い出した・・・
無心で口に運んだおかずを、ユイは
不必要に強い力でもぐもぐと咀嚼していた。

そんな事だから、今日の昼食は早く終了。
トレーを引き取りに来た看護師さんも、
「あれ?早く食べたのね!」
と、驚いている。

食べた量を記録してもらって、
点滴を取り換えてもらって、
「じゃあ、また様子見に来るからね。」
看護師さんが出て行ったあと、

今までなら、すぐに横になっていたのだけど、
今日はそのまま、座って過ごす事にした。

早く元気にならなくちゃ。
その為には、
少しでも起きて過ごす時間を増やそう。

昼間を起きて過ごせるようになったら、
次はきっと歩けるようになる。
歩けるように・・・

去年の初夏、部活の下見のために
放課後の構内を歩かされていた私に、
同行してくれる人は誰もいなかった。

普段は何もかも、大人の監督、判断のもとで、
何て言っていたくせに!

この件に関してだけは先生も、親も、
「自分で探せ!」
の、一点張りだなんて。

そもそも、部活は早くても
夏休み明けか、それとも、
二年生からって予定していたから、
いきなり探せって言われても、イメージわかなくて。

そのうちに、
「本当に馬鹿な子ね!自分の好きな事も見つけられないの!」
徹底的に馬鹿にされるようになったわけだけど、

この辺まではまだ理解できるとして、
もっと不可解なのは、
「君、趣味はないのか?」
「絵が上手だから、美術部はどう?」
「バレーボールなんか、興味ない?」

周囲の大人が、寄ってたかって、
私の趣味特技、興味探しを始めた事。

そこまでして、部活をさせたかった理由って、
一体何だったのだろう?
勉強の事を差し置いてまで!
全く理解できない。

いずれにせよ、これが
次の地獄の始まりだった事だけは
確かだ。



















「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その29

2011-02-16 22:33:45 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
去年の初夏、本来なら、
生き生きと充実した生活が送れたのだろうけど、
中間試験の結果をもって、
監獄と化した自室。

そのリビングの壁には、いつの間にか
二枚の紙が貼られていた。

一枚は、
クシャクシャに丸められ、
再び広げられた、中間試験の答案。

もう一枚は、丁寧にパソコンで
印字された紙きれ。
読みたくはなかったし、
ずっと目をそむけてきたけれど、
ある日、とうとうそれが気になって
読んでしまったんだ。

頼りない・・・知能が低い・・・
私の悪口が並べられ、
そして、
最後には大きな字で、
『アホ!』

あんまりにも辛らつな内容に、
一瞬、目の前が真っ暗になったのを覚えている。

いつの間にか剥がされていたけど、あれを打ち込んだのは、
お父さんかお母さんに決まっている。

パジャマを洗濯済みのものに入れ替えたり、
ベッド回りの整理をしてくれている、
両親の様子をチラチラと見ながら、
ユイは複雑な気持ちだった。

お父さん、お母さん・・・
答案を紛失した事は、怒られても仕方ないけど、
そこまで私を地獄に突き落とすようにしたのはどうして?

一体、私の事をどう思っているの?
早く大人になってほしいのか、それとも、
ずっと子供でいてほしいのか。

中学だって、退学してほしいのか、
卒業してほしいのか?

もう、私が学校生活を満喫する、
という事は諦めてると思うけど・・・

ガタガタガタガタ!
食事のカートが来た!
「あ、お昼ごはんね。」

ユイの食事を運んできてくれた
看護師さんに、挨拶すると、
「ユイ、ちょっと早いけど、お医者さんの説明も聞いたし、
今日は帰るわ。
お父さんの出張があるし、その準備もあるのよ。」

帰りの支度をしながら、お父さんも
「悪いな、ユイ。」
何て言っている。

そんな言い訳、してくれなくてもいいんだけどね。
一人の方が気楽だし。
「じゃあ、また明日。」
退室する二人を見送って、ユイはホッとして、
ゆっくりと食事を始めた。

誰と居ても、傷つく関係になってしまったら、
もう、一人の方が安全で安心に思える。

だけど、まだ去年の夏の初めには、
周りの大人も、
私の居場所づくりを諦めていなかったらしい。













「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その28

2011-02-14 23:25:31 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
これで、入院五日目。
朝食後、ユイはストレッチャーに乗せられて、
廊下を異動していた。

胸のレントゲンを取るんだ。
肺炎の具合を見るらしい。

もちろん、ぬいぐるみ同伴。
揺れに若干の恐怖を感じながら、
仰向けの視界には、天井の模様や配線が流れる。
今、どの辺を走っているのかな?

「はい、着きましたよ!」
と、言う事らしい。
大きく開けられたドアから、
ストレッチャーごと入室する。

「このまま、真っ直ぐ上を向いて
寝てくれるかな?・・・あ、ぬいぐるみは
離してくれる?」

大事な相棒を、看護師さんに預けて、
パシャン!

午前十時三十分、病棟の相談室。
血液、血圧、もろもろの検査、
そして、今朝のレントゲン・・・

ユイの病状について、
主治医による、二回目の説明が行われていた。

「では、まだ時間がかかるということですか?」
「そう言わざるを得ませんね・・」

しかし何だ、精神的に不安定って?
不登校の事か?
それもあるでしょうね・・・

午前十一時、
「ユイ、どうかしら?」
カーテンを開けて、入ってきたお母さんの
後ろには、お父さんが!

ユイは一瞬ドキッとして、
とっさに壁側に寝返りを打った。
「もう!そう言う失礼な事しないの!
今日はね、土曜日なのよ。」

なるほど。それで来たのか。
でも、お母さんが来た時もそうだったけど、
それ以上に、嬉しい感じがない。

「さっき、お医者さんの説明を、
お母さんと一緒に聞いてきた。
心配したけど、まあ、元気そうで良かった・・」

覗き込みながら話すお父さんの、
声を聞き流しながら、視線をそらすべく、
落ち着きなく寝返りを繰り返すユイ。

帰ってくれとは言わないけど、
今更、娘を良く理解している父親、
みたいな言い方は辞めてくれ!
物凄く、嘘をつかれているような感じがするから!

ユイの脳裏には、また嫌な記憶がよみがえった。