チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「バトル!」 第九章 バトル、開始!

2007-12-23 14:54:10 | チコは高校三年生「バトル!」
本格的に走り出すと、高校三年生の勉強は
なかなかハードなものだった。
家での勉強時間も、日に日に長くなっていく。

授業だって、聞き逃しや書き忘れがあってはいけないから、
全神経を張り詰めている。これだけでもいい加減疲れるのだが、
各々の所属するクラスで行われる必修科目の授業は
チコは例の最悪な子の背中を見ながら
授業を受けることになるわけで、
このことがチコの神経を余計に疲労させていた。

しかし、チコの心配とは裏腹に、あの子は今日まで
チコに一度として声をかけてくることはなかった。
まるで、チコには全く興味がないというように。
重要なプリントが配られる時も、
ただ、「はい。」とだけ言ってチコに渡してくれるのだ。

一年生の時は、このようなプリントをわざと渡さないということを
平気でしてきた、あの子なのに。
あれほどチコを馬鹿にして突っ掛ってきたあの子がどうして?
チコは拍子抜けした。
まあ、何もひどい目に遭っていないんだし、これだけで良しとしようか。
まだ、あの子を完全に信用したわけじゃないけど・・・。

そんなことはさておき、
これからいよいよ、お待ちかねの社会科系選択科目の時間。
今日は夫々の研究テーマを提出し、発表の日を決める大切な日。
チコは必要なものをもって、その教室へと急いだ。
教室に着くと、既に殆どの生徒が集まっていた。

実はこの中に、例のチコを殴ってくる子がいるのだが、
このことはあまり気にしていなかった。
こういった輩は、授業とか、オフィシャルなところで
殴りかかってくるということは、先ず、やってこないからである。

このような手間隙のかかる授業を選択するのは皆、
推薦狙いの生徒である。すなわち、今ここに集った子達は、
皆同じ道を目指すライバルなのだ。

希望の発表日を、取れるだろうか?テーマが重複する人はいるだろうか?
皆、同じ心配をしているだろう。

いよいよベルが鳴り、先生が入ってきた。
挨拶が済むと、先生は黒板にこれからの授業の日程を書き出していった。
先生の手を目で追いながら、自分の発表したい日を定めていく。

「はい、それでは希望の日に自分の名前とテーマを書いてください。」
この言葉を合図に、皆一斉に黒板に向かって走り出した。
我先にと、皆でチョークを奪い合っていく。皆に負けじと、チコも
力任せに割り込んだ。

その結果、黒板の日程表は、あっという間に埋め尽くされた。
チコは運良く希望の日をゲットすることに成功した。
でも、安心するのはまだ早い。テーマが重複する人はいないかな?
と思い、黒板を見ると、なんと、同じテーマの人が三人も存在したのだ。

どうしよう!四人も同じことをやるの?それではやりにくいよ。
チコだけでなく、他の三人も同じ事を考えたに違いない。
そんな所に、先生は
「あー、四人似たテーマの人がいるね。これではやり難いだろうし、
少し時間をとるから四人で話し合いをして下さい。」
と、話し合うチャンスを与えてくれたのだ。

良かった!チコ達テーマの似た四人は、
先生のこの言葉を受けて、早速話し合いを始めた。
その結果、テーマは同じだが、研究の方向性が全然違うことが判明し、
皆安心してそのまま自分のテーマに取り組んでいくことになった。

こうして全てが決着した後、皆で図書室へ移動し、
早速調べ物を始めることになった。
負けたくない。誰よりもいいものを作りたい。
推薦を賭けて、一点でも多く獲得するための、
熱い戦いが始まった。


「バトル!」 第八章 チコのタイムスケジュール

2007-12-15 20:39:53 | チコは高校三年生「バトル!」
頭の中で組み立てたチコの週間スケジュールは、
例年の事ながら勉強の予定で
びっしり埋め尽くされることになった。

勉強が好きでないチコは、毎年このスケジュールを考えるだけで
気がめいってしまうものなのだが、今年は少し違った。
高校三年生なので、進学がかかってきているし、
自覚を持ったということもあるが、
選択科目の多い今年はチコにとって得意な科目、好きな科目が多いのだ。

今までの成績が思わしくないチコにとって、
これはラッキーなことである。
そして、何よりチコにとってラッキーだったのは、
研究発表を課される科目を選択していたことだった。

社会科系の選択科目なのだが、テーマや内容は自由。
テーマを決めて、調べて、発表、ここまで全て一人でこなしていく。
第一回目の授業でこの概要を聞いたとき、
チコの心はやる気で燃え上がった。

チコはペーパーテストは苦手だが、レポートや研究発表というのは
非常に得意で、確実に高得点をマークすることが出来る。
これは今までの成績を挽回する願ってもないチャンスである。

実はそのテーマに関しては、チコは第一回目の講義のときに既に決めていた。
身近で、タイムリーで、今一番熱い話題。
いい点数を取るために、他の皆に負けないように、
誰も思いつかない、誰よりも凄い内容に仕上げてみせる。頑張るぞ!

さあ、そう決めたのなら、計画通り、きちんと進めていかないと。
時間なんてものはすぐに足りなくなってしまう。
闘志に満ち溢れて、チコは早速、
自分の決めたスケジュールを実行に移すのだった。

新聞も読んだし、予習も予定通りできたし。
そんな今日ももう寝る時間。ベットに入る前に日記を書く。
今日もあの最悪な子とはノートラブル。
これからどうなるかはわからないけど・・・。

ぐっすり眠って、目が覚めると土曜日。
コウジは朝早くから進学塾へ行くが、そういう所へは通っていない
チコにとってはのんびり家にいられる二日間の始まり。
勉強の計画があるといっても、まだまだのんびり。
昼間はお父さんとミミちゃんや庭の手入れの手伝いをしたり、
お母さんと日用の買い物に同行する余裕があった。

日曜日にはお父さんの方のおばあちゃんが訪ねてきてくれて、
お茶とお菓子で談笑。
これから始まる厳しい戦いに向けて、チコは鋭気を養うのだった。

「バトル!」 第七章 作戦会議

2007-12-09 21:04:32 | チコは高校三年生「バトル!」
早いもので、授業が始まってから一週間が過ぎた。
あれだけ咲き誇っていた桜の花も、今は、
アスファルトを埋め尽くしている。

今日は金曜日。もう少し頑張れば、
土曜日、日曜日が来る。
しかし、眠たいなぁ。
チコは眠気をこらえながら、この日最後の授業を聞いていた。

居眠りは絶対にダメ。そんなことしたら、
確実に減点される。
寝てはダメ、寝てはダメ。
あと五分、4分・・・。

ジリリリリリ!
ついに授業が終った。
やったー!眠気に打ち勝ったぞ!
この瞬間、チコは心の中で静かにガッツポーズをした。
授業担当の先生の「これで終ります。」の合図があると、
皆いっせいに帰りの準備を始める。

間もなく担任の先生が教室に入ってきて、
様々な連絡が終ると、解散。
この合図と同時に、チコはリュックを背負って
すぐに自転車置き場へ向かった。

そう、チコはいつも、こんな感じで学校を出ている。
ノリちゃんには会わないのか、という人もいるかもしれないが、
チコは再び同じクラスになった、あの最悪な子だけでなく、
他の同級生たちとも概ね気が合わない。
一年生の時には、皆から徹底的にひどい目に合わされたものだから
出来る限り一緒にいることは避けたかったのだ。
それに、トラブルを起こさないようにするには、
距離をおくことが一番だし、ケータイのあるこの時代、
ノリちゃんとはメールで連絡をとることも出来る。

自転車に乗ると、家に向かって力強く走り始めた。
これで一通り授業があったけど、さすが高校三年生。やることが多いなぁ。
先生達の意気込みも全然違う。
私、ちゃんとやっていけるのかなぁ。

そんなことを考えているうちに、家に到着。
玄関を見ると、靴がある。ということは、コウジが先に帰ってきている!
「ただいま。」のあと、大急ぎで靴を脱ぎ、
荷物を置いて手を洗った。
早くしないと、コウジに全部おやつを食べられてしまう!

急いでテーブルにつくと、先におやつを始めていたコウジに取られまいと、
競い合うように食べ始めた。
そう、学校から帰ったら、おやつの時間。
お昼にどれだけ大きなお弁当を食べても、
一日の授業が終ると、お腹が減ってたまらない。
いつも2人の食べるおやつの量は半端じゃない。

おやつを食べながら、弾む会話。
兄弟二人の至福の時間だ。
しかし、楽しみながらも、チコの頭の中は
しっかりと働いているのだ。

さて、たくさんのの課題と勉強をどうやってこなしていこう?
チコの学校では推薦狙いの生徒には、
ペーパーテスト向けの勉強ばかりではなく、レポートや研究発表など、
手間隙のかかる課題をたくさん課されるのだ。
このような課題は一夜漬けで出来るものではなく、
きちんと計画を立ててこなしていかないと時間が足りなくなってしまう。

新聞は毎日読むとして、数学とか英語の予習は平日の夕食後に出来る。
土曜日は半日図書館かな?そうそう、本屋さんに行く日も決めておかないと・・。
チコは頭の中でタイムテーブルを広げ、じっくりとスケジュールを
練り上げていくのだった。








「バトル!」 第六章 自衛策

2007-12-01 19:57:51 | チコは高校三年生「バトル!」
ごく普通の一軒屋の一室で、
ピアノの伴奏に合わせて、チコは高らかに歌い上げていた。

「うん、よく声が出てるし。良くなったよ。」
先生のこの言葉に、チコは思わず頬を緩めた、
「じゃあ、今日はここまでにしようか。」
先生とチコは部屋にある、ソファに向かい合わせに座り
お茶を飲み始めた。

「そうかー。チコちゃんもいよいよ高校三年生なんだ。
で、受験はどうするの?」
「はい、推薦をもらおうと思っています。」
「推薦で行くの?大変だと思うけど頑張ってね。実は私はね・・・」
こんな感じで、明るく会話が弾んでいく。
レッスンの後の、お茶と会話の時間。チコは週に一度のこの時間が大好きだ。
明るくて優しい先生のお人柄に、
チコは辛い日々に傷つく心まで癒されていた。

チコが先生の所にやってきたのは、一年生の冬の事だった。
高校に入学してすぐに、学校の部活動に入部していたのだが、
先輩達があまりにも意地悪で。チコはすぐさまターゲットになり、
こっぴどい目に遭わされたのだ。そして、一年生の秋、
親や学校の先生の「辞めるな!」と言う言葉を振り切って、
チコは逃げ出すように部活動を退部したのだった。

辞めたくて辞めたのだから、チコはこれですっきりしたのだが、
あろうことか親と学校の先生はこのことについて
チコを厳しく非難したのだ。
学校では廊下なんかで先生と出会うたびに「何故、部活を辞めた?」と
責めたてられるのだった。

部活ぐらい辞めたって良いじゃないか!
何故辞めたことをこれほどまでに非難されないといけないのか。
だいたい、ひどい目にあうぐらいなら、辞めた方が良いじゃないか!
チコは大人たちの言動に、徹底的に傷ついた。

そんな中で知ったのが、この先生の歌の教室の存在だった。
部活はしないけど、その代わりに習い事をすることにすれば、
大人たちの非難は多少かわせるかもしれない。
これは救いの神だ!
そう考えたチコは、すがるような気持ちでこの教室に飛び込んだのだ。

楽しい時間は、あっという間に流れていく。
「失礼します。」
チコは一礼して、先生の家を出た。
『これから帰ります。』のメールを打つと、
自転車に乗って家路を急いだ。

家に帰ると、すぐに夕御飯。それが終ると
チコはミミちゃんの世話をするために庭へ出た。

表向きは平穏だが、それでもチコの心から離れないのは、
あの最悪な子の存在だった。
この一年、どうやって生きていこう?
星空の下、ミミちゃんの暖かい身体に触れながら
チコはそんなことを考えていた。

今朝お母さんに一喝されたことがあまりにもショックだったのだ。
結局、大人は守ってくれないのか、とも思ったが、
いつまでも甘えていてもいけないとも思った。
チコだってもう17歳。本当の子供ではないのだから、
自分の身は自分で守るということも出来るようにならないといけないのである。

でも、そのためにはどうしたらいいだろう?
ミミちゃんがドッグフードを食べているのを見守りながら
ない知恵を絞り続けていくと、ふとひらめいた。

そうだ、日記を書こう!
今日の出来事と一緒に、あの最悪な子にいわれたことや、やられたことを
書いていけばいい。
そうしておけば、何かあったときに証拠として出せるし、
自分の気持ちの整理にもなる。しかも、誰にも内緒で出来るし、
まさにいいこと尽くめじゃないか!

我ながら名案!と思ったチコは、早速実行することにした。
夜寝る前、チコは自分の机の引き出しを開けて、手ごろなサイズの
ノートを探し出した。今日からこれが、チコの日記だ。
そして、眠い目をこすりながら、チコはその第一ページを記したのだった。