チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

チコの小説連載中!完結作は「でじたる書房」より電子出版!本館「ポエムの庭」へはリンクでどうぞ!

時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その9

2014-11-30 19:26:30 | 時は管理教育「この時代を」
 ビュイーン!水田の中を走っていく新幹線。窓側にマコト、通路側にお母さん。
「すみません、バニラのアイスクリーム二つ・・・はい、マコト!」
「ありがとう。」
二泊三日の帰省が終わった。
「よかったわね。おじいちゃんとおばあちゃんに会えて。」
荷物棚には、大きな紙袋が二つ。いっぱい買ってもらっちゃった。
「なんか、悪いことしたみたい。」
「何言ってるのよ、マコト。おじいちゃんもおばあちゃんも、マコトのほしいものを買ってやれるってのが、うれしかったのよ。素直に喜びなさいよ。」
微笑むマコト。そうか、純粋に喜んでいいんだ、こういうことは。私、時々どんな顔していいかわからないことがあるんだ。たとえ、嬉しいことでも、それを心の底から喜んでいいのか。別に、騙されてるとか、相手を疑ってるとかじゃない。特に今日みたいな場合は、おじいちゃんおばあちゃんへの遠慮って気持ちもあって。
 流れていく車窓。
「あら?硬いわね!」
「お母さん、新幹線のアイスクリームは硬く作ってあるんだよ。もうちょっと待ってから食べたら?」
「そうなの!ありがとう。マコト、詳しいわね!お母さん、負けちゃうわ。」
またほめられた、物知りだって。確かに私、ものを覚えるのは得意かもしれない。本を読んでいても、そのまま頭に入るっていうか。ま、それで得していることもあるけどね。
 うちのマンションについた時には、あたりはすっかり暗くなっていた。部屋に入ったら電気を付けて、さ、荷物を片付けよう。その横でお母さんはまず電話。
「あ、お母さん?・・・うん、無事に戻りました。三日間ありがとうね、お父さんにもよろしく。体に気を付けて。」
お母さん、電話を終えて、
「マコト、おじいちゃんおばあちゃんが元気でって。」
「ありがとう。わかった。」
あ、そうだ。
「私も、今のうちに電話しとく!」
キョウコちゃんとユウちゃんにお土産渡さなくちゃ。なるべく、お盆までがいいんじゃない?お里帰りされるかもしれないし・・・ウフフ。帰ったらすぐ、お友達に電話なのね。本当に良かったわ。
 






時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その8

2014-11-29 19:45:33 | 時は管理教育「この時代を」
 庭から蝉の声が注ぎ込む古い家。畳の上でゴロゴロしているユウ。こうしていると、エアコンなんかつけなくても涼しい。お父さんは仕事、お母さんも夕方まで留守。
「・・・・。」
ちらっと壁のカレンダーを見ると、今日はまだ七月。八月は明日から。あーあ。寝返りを打って横向けに。
 今頃の時間、本当なら部活なんだ。でも、私は辞めた。辞めてやった。怪我しても練習を休むな、足に合う靴じゃなくて、靴に足を合わせろ。はん!絶対に間違ってるよ、そんなの!
『ほら、吸えよ。』
『ここなら、ばれないって。先生来ないし。』
部室で見た出来事。私だって、危うくタバコ吸わされるところだった。大会が近くなってきたころなんか。
『そのぐらいで根を上げるな!』
『足がつぶれても走れ!』
殴られるとか、もう当たり前だった・・・大人は部活動は健全だと思ってるみたいだけど、全然!
 バタン!再び仰向けに、力強く寝返った時、ふと思い出した。オガタさん。あの人、どうしてるのかな?お父さんがオリンピック候補だったっていうだけあって、中学になって初めて出た大会なのに、大会新記録出したらしい。高校も陸上で推薦確実って言われてる。でも、知ってるんだ、私。オガタさんが部室で先輩からタバコ吸わされていたこと。
『辞めて!』
『ギャハハハハ!』
うう・・・これは一番思い出したくない。ちょうど私が怪我で病院に行くことになった頃、オガタさん、部室で先輩数人に抑えつけられて、タバコの火を押し付けられたんだ。あんなの先輩の嫉妬やっかみだ!オガタさん、その後も陸上部にはずっと行ってるみたいだけど・・・

制服のほうが、着る服に困らないし、おうちの経済格差も隠せるでしょ?私服にしたら服ばっかり買うでしょ?髪形も、オシャレばっかり気になって勉強が手につかなくなるでしょ?部活に打ち込ませるのは、非行に走らないように。中学生の間は、他に何も考えられなくなるぐらい、スポーツに打ち込ませるべきなの!

 あれ・・・私、ちょっと寝てたみたい。もうこんな時間だ。洗濯もの入れるように言われてるし、起きようか。体を起こして台所へ。ったく!大人なんか、もっともらしいこと言ってるだけ。要するに、抑えっつけて上っ面の安心感を得てるだけなんだよ!そうだ、抑えっ付けをやるから、私も身長が伸びないんじゃない?冷蔵庫から牛乳を出して、グラスに注いでごくんと飲み込んだ。

 

時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その7

2014-11-27 16:56:02 | 時は管理教育「この時代を」
 マコトの自宅。お父さんが単身赴任先に帰って、またお母さんと二人の生活。まだ、お盆には早すぎるんだけど、お父さんが単身赴任してからの我が家の習慣で、それまでに、私とお母さんだけで、お母さんのほうのおじいちゃんおばあちゃんの家に行くんだ。
「えーと、日程はこれで決まりね。塾はお母さんが電話するわ。マコト、部活休まないとね。ごめんね。」
「ううん、いいよ。」
っていうか、部活を休めるっていうのが、むしろ、ホッとするかもしれない。
 次の日の朝。また吹奏楽部のために学校へ。汗を吸わない制服で、バイオリンを下げて歩きながら・・・部活休むって話、誰に言おう?部室兼活動場所である、音楽室。
「全員、グラウンド三週走れ!」
文化系と言えど、体育系とあまり変わらないのよね。サッカー部と陸上部の周りをぐるぐると、制服のままで。でも、この練習だけは参加させてもらえているから・・・
 肝心のパート練習、全体練習。ここからは完全に無視されてる。
「あ、そこ、もう一回。アハハハハ。」
この状況で、部活休みますって話、誰にしたらいいの?だいたい、部活は休んじゃいけないんだよ。誰に言ったら・・・仕方ない。部活が終わった後、一人、職員室へ向かった。やっぱり、顧問の先生に直接言おう。
「あの、吹奏楽部一年のアヤセです。」
顧問は不在だったけど、受け付けてくれた先生は、嫌そうな顔をしながらも、
「わかりました。おうちの用事なら仕方ないね、伝えておきます!」
どうしよう・・・かなり怒ってる。顧問の先生、本当に受け入れてくれるかな?
 で、帰省の日。朝早くからお母さんと新幹線に乗って。家の前にはもう、おじいちゃんとおばあちゃんが!
「こんにちは!」
「お父さん、お母さん、ただいま!」
私の横で、子供みたいにはしゃいでるお母さん。
「うん、お帰りお帰り。まあまあ、マコトちゃん、ちょっと見ない間に大きくなって。」
「そうね。中学になって、体も変わったかしら?」
「ん?わざわざ制服で来てくれたのか?」
おじいちゃんおばあちゃんには、入学式に来てもらってなかったから。
「ううん。この子が頭、固いだけなのよ。電信柱の三本以上先に行くときは制服でって校則にあるからって。」
「まあいいじゃないの?きちんと規則を守れるって大事なことよ、ね、マコトちゃん。」
お母さん、ため息をつきながら、
「本当、ここまで硬いとかえって心配だわ。生きていくには、柔軟性も必要なのよ。」 

時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その6

2014-11-26 19:09:34 | 時は管理教育「この時代を」
 何だよ!同じ説教ばかり、何回も何回も!先生も親も、何もわかってない!・・・部屋にこもるユウ。日ごろの姿恰好、そして、今日の反応。居間で主人と話し合う。
「あの子、極端な反応するのよ!びっくりしたわ!」
「まあまあ、お前。あいつもな、思春期なんだ。」
「だけど!あそこまで酷い反応するものなの?親としてショックよ!」
病院に連れていく?
「そんなの、どこに相談に行くところあるの?」
「風邪でも引いた時に、お世話になってるあそこの小児科で聞いたらどうだ?」
それが一番かしら・・・でも、風邪もめったにひかないユウ。相談に行けるのはいつになるかしら・・・
 小児医療センター。今日は、キョウコの受診日。車を走らせながら、
「夏休みって、いいよね。病院にもいきやすいし。」
「そうね。今日は検査だけど、結果がいいといいわね。」
「うん!」
ブロロロロ・・・
 診察室。いつものお医者さんと。
「はい、こんにちは。ツチヤキョウコさん。夏休みになったけど、どうかな?」
「はい。学校の授業がないので、体は楽です。」
「部活は?」
これを聞かれると少し辛くなる。
「茶道部なので、夏休み中は週に一回の午前中だけで・・・」
お医者さん、カルテに書きつけながら、
「キョウコちゃん、大きくなったね。」
横からお母さんが、
「ええ。夏休みに入る前から身長が伸び始めたみたいです。なかなか大きくならなくて心配してたんですけどね。心臓のせいかな?とか思って。

アハハハハ。
 検査は診察室じゃなくて、別の部屋で受ける。看護婦さんに連れられて・・・
「じゃあ、そこのベッドに横になってくれるかな?」
心電図の装置が、まだ凹凸のない体に貼り付けられていく。吸盤みたいなあれ、結構跡が残るんだよね。
「はい。始めます。」
結果、良好でありますように。
 

時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その5

2014-11-24 19:47:08 | 時は管理教育「この時代を」
 お母さん、聞いてよ!マコトちゃんが、マコトちゃんが!・・・ユウは、マコトちゃんのことばっかり言ってるけど。親としてはユウのことのほうがずっと心配よ。マコトちゃんは学校にちゃんと適応している。部活もきちんと取り組んで、制服もきちんと着て。それなのに、ユウは。
 夏休みの個人面談が始まった。教室で担任と保護者が一対一で面談する。向かい合わせに置かれている、生徒用の机で、
「クロダ先生、ユウのこと、本当にご迷惑おかけしました。」
深々と頭を下げる。
「いえ。学校としても厳しく対応させていただいてきました。通知簿でお伝えしました通り、制服でなかった日と陸上部をやめられた頃は別室で自習させまして、その日は欠席として扱っています。しかし、一学期が終わりまして、ユウさんの対応は、かなり難しいのではないかと。」
「本当に申し訳ございません。・・・あの、学校での対応ということでしょうか?」
「そうです。申し上げにくいですが、ちょっと、個別指導のようなものが必要ではないかと思うんです。」

性同一性障害

もう何回か、学校の先生から指摘された。だけど、親としてはショックよ。
「保健室の先生に、お願いしています。夏休みですし、個別指導受けさせてみられませんか?」
 ユウにこのことを話すと、物凄く嫌がった。でも、親としても、治せるものなら治してやらないと。
「ユウ、そんなままじゃ、将来困るわよ!・・・そうだ、お母さんと一緒に行こうか。」
主人と二人で説得して、やっとユウも応じた。学校に行くんだから、本来なら制服を着なくちゃいけないんだけど、やっぱりジャージを着るみたい。皆と違いすぎる娘と歩く親の心配なんて、この子は何もわかってないでしょう。
「失礼します。」
保健室に到着すると、
「あ、はーい、こんにちは。クロダ先生から聞いています。私、保健室のオオタです。」
 親子で並んでかけさせてもらって、オオタ先生が個別レクチャーしてくださる。
「いいかな?タカクラさん。人間は、ある程度の年齢になると、体が変わってくるの。普通、女の子のほうが早く始まって、十歳位から。」
へぇ!親のほうが勉強になってしまうわ。その横で、硬い顔しているユウ。
「ユウ、そんな顔しないの!」
「・・・・。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。一対一って緊張するわよね、タカクラさん。では、本題に戻りますね。」
レクチャーの最後、
「今は受け入れられないかもしれないけど、それは、ほら!こんなにかわいい赤ちゃん・・・」
の、写真を見せられたとたん、
「やめて!」
「ちょっと、どこ行くの、ユウ!」
ユウは保健室を飛び出してしまい、私が追いかけていく羽目になった。 

時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その4

2014-11-23 21:02:24 | 時は管理教育「この時代を」
 お目当てのCDが買えた。おばちゃんの買い物にも同行させてもらって、車でキョウコちゃんの家へ一緒に帰る。
「ありがとう!じゃ、またね。・・・おばちゃん、ありがとうございました。」
「いえいえ。ユウちゃんも、また来てね。気を付けて!」
失礼します!・・・走り出すユウ。蒸し暑い道、汗が噴き出す。CDも聴きたいけど、五時から、塾に行かなくちゃいけないんだ。
 塾だって、五時スタートって楽だよね。学校がある間は、もっと遅い時間から始まるから。学校に合わせてなんだろうけど、学校というより部活に合わせてるんだよね。ま、部活を辞めてやった私には関係ないけど。塾の教室、いろんな中学から集まってるんだけど、ここも、夏休みとなるとかなり雰囲気違うな。見るからに部活帰りって感じの制服姿もいるけど、のんびりしてるっていうか。
「お前!ちょっと待て!」
「アハハハハ!」
男の子たち・・・あの二人も急に声が変わってきた。身長も、いつの間にか追いつかれて。そんな様子を目の前で見てると、ますます違和感を感じる。自分の体に。私服だから精神的には救われるけど、それでも、自分自身の体は何も変わらないわけで。
「ユウちゃん!」
「あ、マコトちゃん!」
なんか、久しぶりに会った気がする。マコトちゃんが制服で来るのはいつものことだけど、
「学校から直接?」
「ううん。ちゃんと家に帰ってから来たわよ。」
 授業、始まり・・・中学から、マコトちゃんに教えてもらってきたんだけど、ここに来てよかった。勉強はわかりやすいし、学校の定期テストは満点になったし。なんかもう、勉強は塾でやってる感じ。学校は校則守らせてるだけ。本末転倒だよね!学校は勉強するところなのに。別に、制服なんかなくても勉強できるじゃない。部活動だって、あればっかりやってても成績なんか伸びないし、その道で生きられる人なんかわずかなのに。
 塾、修了。夏場だけももう、外は暗い。マコトちゃんと二人で自転車を押して歩く道。
「学校ないと、やっぱり楽だよね。」
「うん。」
「お父さん、帰ってきてるの?」
「うん。」
何だろう?反応が変だよ、マコトちゃん。
「マコトちゃん、何か、嫌なことあるの?」
「え!何もないよ!」
「学校とかさ!マコトちゃん、気づいてる?最近自分がおかしいって!何でも言ってみなって!友達でしょ?私たち。」
「・・・・。」

  

時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その3

2014-11-22 20:00:50 | 時は管理教育「この時代を」
 朝早くから、こんな鉄筋建てのマンションの中にまでセミの大合唱が聞こえる。昨日の夜から、単身赴任のお父さんが帰ってきた。
「あ、おはよう、お父さん。」
「おはよう・・・あれ?マコト。夏休みなのに学校行くのか?」
お母さん、満面の笑顔で、
「部活よ。授業がないから朝からあるの。あ、行ってらっしゃい。」
出かける娘を見送る夫婦。
「フフフ。一学期の成績もよかったし。部活もまじめにやってるし。」
「そうだな。でも、マコト、どうしたんだ?なんか、顔色良くないぞ。」
そうかしら?
 学校がある時より、遅い時間だから。出かけるのは楽だけど、そのかわり、暑い!制服のシャツがもう、汗でびっしょり。
「おい!服装検査受けてから入れよ!」
夏休みでも、先生たちは同じように正門で服装検査するのか。男子は丸刈りにしているか、女子も規定に合った髪形か。制服を規定通りに来ているか。
「よし!」
私はいつも通り、一発パス。当然よね。校則なんか守らないほうが悪い。守らなくちゃ・・・校内に入ると、さらに重くなる足取り。吹奏楽部。行かなくちゃいけないでしょ?部活はきちんとする。でも・・・私、もうそこにいないみたいにされている。秋のコンクールの楽譜すらもらっていない・・・
 昼下がり、キョウコの家に来たユウ。お店のほうから、
「こんにちは!」
「あ、ユウちゃん、こんにちは!」
キョウコちゃんが出迎えてくれた。その後ろからおばちゃんが、
「はーい、こんにちは。ユウちゃん、いつもありがとうね。では、行きましょうか。」
ちょっと離れたところにある、CD屋さんにCDを買いに行くだけなんだけど、キョウコちゃんは自転車で長距離移動はできないから。車に乗せてもらって、
「ごめんね、お母さん。」
「おばちゃん、お手数かけます。」
「ううん。こちらこそ、ユウちゃん、いつもキョウコのこと、ありがとうね。」
「いいえ。」
 ブロロロロ・・・運転しながら、バックミラーで後部座席の二人の様子を見る。ほんのわずかな間に、また大人っぽくなったかな?ユウちゃん、お母さん、あんなこと言われてたけど、いいお嬢さんよ。いいじゃない、ちょっとぐらい、男の子みたいでも。それがまた、魅力的だと思うわ。ユウちゃん。

 
 

時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その2

2014-11-21 19:44:21 | 時は管理教育「この時代を」
 夏休み第一日目。庭で洗濯物を干しているユウの母親。垣根から第一中学の子が家の前を通るのが見える。皆、部活に行くのよね。あら、あの子、見たことある。背が伸びたのかしら?雰囲気変わってるけど。あらあら、男の子たち、ずいぶん声が変わってきてる。
「あなた、ユウのことだけど・・・」
私たちの娘、ユウ。
「だけど、お前。どこで相談するんだよ?」
「まあ、それもそうだけど。」
 肝心のユウは、奥の部屋で黙々と勉強している。短い髪に、スポーティなTシャツ、半ズボン。本当に見た目は男の子だわ。だけど、体型は確実に丸くなってきている。
「ユウ。お茶でもどう?」
「あ、ありがとう。」
何?わざとらしいぐらい低い声出して!でも、こういうことは親でも、ずばずば言ったら傷つけてしまうだろうし。
「勉強?学校の宿題?」
無難な話題に逃げる。
「うん。・・・ねえ、お母さん。学校に行かなくていいっていいよね。勉強に集中出来るしさ。」
「そうね。ねえ、ユウ?陸上部はもう、本当に行かないの?夏休みなんだから、行ってみたらどう?」
 その一言から大喧嘩になってしまった。こんな話を、ちょっと金封を買わせてもらったついでに、店先でキョウコちゃんのお母さんとしている。
「まー!それは大変でしたわね!」
「そうなんです。本当に困り果てていますよ。ユウには。」
キョウコちゃんのお母さん、首を横に振って。
「そんなことないわよ、奥さん。むしろ、ユウちゃんの言ってることのほうが正しいんじゃない?うちのキョウコも同じこと、よく言ってるわ。学校は、命より校則を大事だって思ってるって!」
 うちの子のほうが正しい・・・意外な言葉だった。私たち、親としては学校の言うことのほうが絶対だと思うから。
「でも、ユウちゃんはすごいわよ。皆、制服も部活もしたくないかもしれないのに、先生を怖がって、あそこまでできないわよ。うちのキョウコもそうだもの。」
「そうですか?ありがとうございます。」
本当は、お礼を言うのはおかしいと思う。でも、それが社交辞令ってものだし。ありがとう・・・いけない、長居しちゃったわ。でも、意外だった。今の中学生って部活も制服も嫌な子がいるのね。考えられないわ。時代が変わったのかしら?だけど、うちのユウ。あの子はそれとは違う!やっぱり直さないと!


時は管理教育「この時代を」第6章 真夏の子どもたち その1

2014-11-20 19:59:57 | 時は管理教育「この時代を」
 中学校生活初めての夏休み。
「成績はともかくさ、このうっとうしい学校としばらくお別れってせいせいするよ!」
「ユウちゃん!」
制止するマコトとキョウコ。
 こんな日なのに部活がある。それがない人は帰れるけど。
「じゃ、私、吹奏楽部に行くから。」
「うん。またね。」
マコトと別れて、二人で廊下を歩くユウとキョウコ。マコトちゃん、顔色悪かったね。うん。どうしたのかな?ここ一か月ぐらい?そうだね。何か、嫌なことあるのかな・・・
 それぞれの家庭で、中学校初めての通知簿。キョウコの自宅。お父さんとお母さん、
「うん・・・よく頑張ったじゃないか。」
「そうよ。よく頑張ったわよ。欠席も多かったのに。」
「そうだけど。体育が一になるのは覚悟していたけど、他の科目も思ってる以上に取れなかったよ。」
しゅんとして、畳の隅っこで体育座りしているキョウコに、お父さんが、
「そりゃ、中学だろ?小学校より厳しくて当り前じゃないか?心配するなって。キョウコは、勉強はちゃんとできる。」
 ユウの自宅。まだ、お父さんは勤務中。通知簿を見ているお母さん。
「まあ、よく頑張ったんじゃない?・・・うーん。体育は怪我で休んだからかな?もうちょっと五が、もらえると思ってたけどね。」
「私もそう思ったよ!」
ふてくされているユウ。
「ちょっとユウ。こんなに学校休んでた?」
え?・・・あ、たぶん、校則違反って教室を追い出された時の分!
「あー!ひどすぎる!そんなことでさ!学校のやり方、全然わかんない!」
「何言ってるの!校則を守ることを含めて評価されるの!だいたい、陸上部も勝手にやめて!夏休み中ぐらい、行ったらどうなの?」
本当にユウは!どうしてここまで反抗的なのかしら?
 マコトの自宅。
「お父さん、今度の日曜日に帰ってくるって。よかったわね。ほとんどオール五!やっぱりマコトだわ。」
「ううん。」
「やっと夏休みね、一学期間お疲れ様。制服も洗濯に出さなくちゃね。よく休んだらいいわ。」
「あの、お母さん、毎日部活あるよ。授業がないから、朝からやるって。」
「わかったわ!もう一着の制服、出しておくわね。」


時は管理教育「この時代を」第5章 キョウコの思い その15

2014-11-18 19:54:34 | 時は管理教育「この時代を」
 三日間の日程の、一学期期末テストも終わった。
「やれやれって感じだね!」
終わった終わったって、大はしゃぎのユウちゃん。それを見ながら、マコトちゃんがぽそっと。
「この後すぐ、通知簿が待ってるのにね。もう夏休み気分なのかな?」
「いや、それはないんじゃない?」
さすがに、ユウちゃんもそこまでお子様じゃないと思う。
 とうとう終業式。にぎやかな教室も担任のクロダ先生が来ると凍り付く。
「座れ!終業式だからって浮かれてるな!さっさと廊下に並べ!」
少しでも列を乱すと殴られるから。
「グラウンドへ行進、前に、進め!」
笛で合図を出す先生の後ろを、軍隊のように歩かされていく。
 真夏の太陽ギラギラのグラウンド。長い長い校長先生の話。どうしよう、暑さで体が持たない!怒られるかもしれないけど、木陰のほうへ。歩いていくキョウコにマイクから、
『おい!なぜ列を離れる!戻れ!』
戻らない、っていうか、戻れない。命のほうが何倍も大事!校長先生、私のこと、何も聞いてないの?・・・担任も、何も言ってくれない!
 ようやく、教室へ帰れる。これも軍隊みたいな行進、私も遅れないように、走らずに追いかけていく。
「あーあ!汗びっしょり!こんな暑い日に何考えてるの!」
またユウちゃんの言いたい放題。
「タカクラ!まだ文句あるのか!・・・通知簿を渡します。」
受け取った通知簿を開いた、皆の反応は、小学校の時以上に大きい。だって、高校受験があるもん。
 私たち、仲良し三人組も。
「ちょっと、すご過ぎるよマコトちゃん!」
マコトちゃんは本当に良くできる。文武両道っていうぐらい。運動は、ユウちゃんのほうができるけど、
「なにこれ!体育が三って!」
納得できない感じのユウちゃんにマコトちゃんが、
「そりゃあんた、陸上部辞めたからよ。」
中学の成績は、相対評価なんだって。よく意味は分からないけど、例えば、五は学年で何人とか、人数が決まってるみたいで。私は・・・体育の評価は一。全部見学だから、おのずとそうなってしまうんだ。このまま三年生まで・・・私、高校受験かなり不利になりそうな気がして。