こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

婿舅の戦いの後に

2015年01月10日 00時08分56秒 | 文芸
婿舅の闘いのあとに

 わが家は嫁姑ではなく、婿舅の戦いである。年齢が十三違う一人娘を妻にしてしまったばかりに、過酷な体験をしている。
「うちの娘の将来を、あんたみたいな、馬の骨同様の人間にまかせるわけにはいかん。どないな玉の輿でもこれから乗れるっちゅうのに、えらい迷惑や」
 結婚を申し込みに行った私に浴びせられた舅の言葉。もちろん結婚は許さん、の一点張り。やっと妻の母親の必死の助力と、妻が妊娠したことで、渋々認めてもらった。
 それ以来、私と舅の反目はつのるばかりで、どうしようもなかった。電話に私が出ると、舅はガチャンと切ってしまう。たまに顔を合わせても、
「ちょっとでも不幸にしたら、すぐに返してもらうからな」
 とギロリと睨む。
 舅は若い頃は暴力団にいた経験を持つ一㍍八〇のゴッツい体つきで、ブルドッグのような顔。もう睨まれるだけで縮み上がってしまう。いまは漁師で、板子一枚下は地獄という荒っぽい仕事で、とても近寄りがたい。
 正月にこどもを連れて妻の里帰りについていくと、係を前に機嫌をよくしていても、私には、
「アホンダラ、酒も吞めんで、お前、男か!ええか、こんな奴、はよ捨てて帰ってこんかい」
 と妻にいう。
 胃の不調で酒を断っただけだから、いくら愛する妻の父親でもムッとくる。さらに舅はいう。
「喫茶店みたいな、女がするような仕事、ようやってられるな。いったい何ぼ儲けられるんやいな」
 やっぱりムッとくる。
 おまけに舅は狂がつくほどの阪神ファン。私がつい巨人のスマートさが好きといったら、
「お前、関西の男やろが。女子供みたいに巨人なんか応援するんじゃない。もう離婚じゃ!」
 何かというと女子供扱い!カーッとくるがガマンの子である。
 そんなある日、舅が喧嘩の仲裁に入って大怪我をし入院した。家族揃って飛んでいくと、「アホンダラ!心配いらんわい、こんなもん」
 荒い口調で応じてきた。
 腹が立って黙っていると、
「あんた、下手に喧嘩の仲裁せんときや。わしの二の舞になったらえらいこっちゃがな。そら大事な婿やのに」
 と意外な言葉。思わず舅の顔を見ると、照れたように頭をかいている。その姿に何となくわだかまりが氷解するような気がした。
(週刊読売1990年2月掲載)
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