はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

ハチ公前

2009年09月11日 | はなし
 先々週、渋谷駅に立ち寄った時の写真。中央後ろ姿の女性の頭のあたりに「ハチ公」の銅像があります。小さく、目立たない。

 この日、三軒茶屋(東京世田谷区の地名です)に行く用事があって、それではとちょっと渋谷に立ち寄ることにした。岡本太郎『明日の神話』を観ようと思って。
 簡単に見つかるだろうとの予定が、そういうことにならず、この日はあきらめることに。 これで2回目だ。半年前にも見つからなかった。 根性がないのですぐあきらめる。(10分で見つかると思っていた。) ま、いつでも見ることができますからね。 また今度。


 あの「忠犬ハチ公」の話(リチャード・ギアも知っている♪)は、1925年の話であるという。
 それなら「玉電」(玉川電車鉄道)があったはずだ。「玉電」は昔の東京都電の一つで、「渋谷―二子玉川」間を走っていて1907年に開通した。
 この「玉電」に乗って、1910年8月8日豪雨の中、岡本一平(岡本太郎の父)は二子玉川まで行き、鉄橋を突っ走って川向こうに渡り、大貫カノ(岡本かの子=太郎の母)に結婚を申し込んだのである。 なぜに豪雨の日に? 要するに、嵐で気持ちを盛り上げて勢いをつけたのだろう。 それまで、いつ行こうかとウジウジしていたに違いない。
 余談になるが、夏目漱石『坊ちゃん』の主人公は、四国松山から東京に戻ったあと、「都電の技師」としてずっと働いたという設定になっている。彼の働いたのは「玉電」だろう、という説を読んだことがある。(漱石の長女筆子の娘の婿半藤一利の随筆ではなかったかと思う。)


 岡本太郎『明日の神話』は、巨大な絵である。(僕はまだ見ていないわけだが。)
 この絵は、メキシコのある新設予定のホテルのための注文によって描かれた壁画である。そのホテルのロビーを飾る予定だった。あの万博の『太陽の塔』と同じ時期に、岡本太郎は日本とメキシコを行ったり来たりしてこの絵を描いていたのだ。
 ところが、そのホテルは結局、立ち上がることがなかった。それでせっかく描いた太郎氏の壁画はそのまま行方不明になっていた。


 岡本太郎は1996年に没した。最後は、パーキンソン病だったという。
 岡本敏子さんは、岡本太郎の妻同然(あるいはそれ以上)の人だったが、太郎氏の『明日の神話』の発見・再生に執念をもって取り組んだのが、敏子さんだった。「どうしても見つけたい。」 敏子さんの望みが叶い、やがてそれは見つかった。彼女は、知らせを受けるとすぐにメキシコへ飛んだ。その壁画がシートの下で野ざらしになっていたのを確認した後、岡本敏子はすぐにその修復の決意をした。2003年のことである。
 それが昨年秋、渋谷に設置されることになった『明日の神話』である。 (渋谷駅のどこか地下にあるらしい…。)

 この絵は、核エネルギーがテーマなのだろうか。 手塚治虫の『鉄腕アトム』と重ねて鑑賞するのはどうだろうか。


 あるいは、太郎と敏子の恋愛物語として鑑賞することもできる。

 岡本敏子さんは、法律上は、岡本太郎の「養女」である。生涯独身を通した岡本太郎は、「俺はだれのものにもならない」とどうやら思っていたようである。「それなら養女にしてください」と敏子さんは言ったわけだ。

 岡本かの子の書いた小説の大ファンだった瀬戸内晴美(寂聴)は、『かの子繚乱』を書くにあたり、岡本太郎に会いに行った。初めて会う時、やってきた岡本太郎は、松葉杖を突いていた。スキーで骨折したのだという。太郎のスキーは激しい、炎のような滑り方だったという。出会った頃の太郎と敏子さんのスキーを楽しむ写真が残されている。
 瀬戸内晴美と岡本太郎はやがて親しくなり、瀬戸内は川端康成(岡本かの子の文学の師匠)と相談して、川崎の玉川新地にかの子の記念碑を、いやがる太郎を説得して建立した。そういう縁もあって、岡本太郎の住処に瀬戸内晴美は気軽におじゃまするようになったが、やがて太郎は瀬戸内を愛人として囲おうとしたようである。そのことは岡本敏子さんの本にも書いてある。瀬戸内は「私も一国一城の主ですので。」と断わったのだが。

 岡本敏子さんが、TVで岡本太郎のことを語るところを僕は見たことがある。あのうれしそうな顔はなんなのだろう、と思ったものだ。


 僕はこの日、そのまま田園都市線に乗り、三軒茶屋へ。
 この田園都市線というのが、「玉電」のなきあと、「渋谷―二子玉川」を走っている鉄道である。 この線上には、「サザエさんの街」(桜新町)もある。
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