恩師の御著書「真理を求める愚か者の独り言」より
第一章 或る愚か者の生涯
◆催眠術をかけて遊ぶ◆
母が用事をしている間は、
ときどきここに置き去りにされて泣いてしまうこともありました。
兄弟はみんなこの箱の中で大きくなったのでした。
これが最初の記憶です。
その次の記憶の糸をたぐると、こんな光景が脳裏浮かびます。
二つ年下の弟が母の背中におんぶされ、
私は母の温かな大きな手に引かれています。
父が畑仕事から帰る夕刻になると、
私の家から五~六00メートルほど離れた
山のお宮さんの下の竹藪がおおいかぶさって
昼なお暗い道を歩いて父を迎えに行くのです。
もうあたりは薄闇が降りている時分です。
その怖い道を、「お父ちゃん、帰っといで。
山のケンケンなっこるで」と何度も繰り返し
歌を口ずさみながら、母は私たちを連れて父を迎えに行くのです。
ケンケンとは狐のことです。
「お父さん早く帰ってきてください。
もう山の狐が鳴きますよ」という意味です。
よちよち歩きの頃です。