ID物語

書きなぐりSF小説

第34話。牧場にて。14. 五香と探索

2010-12-23 | Weblog
 (夕方。居室で土本がくつろいでいるとノックする音。)

土本。だあれ。

イチ。イチだよ。レイもいっしょ。入っていいかな。

土本。ちょっとだけ待って。

 (ドアの向こうを確認してから、開ける。イチとレイが入る。)

土本。何の用?。

イチ。いっしょに探索してくれないかな。

土本。これか。自動人形の探索行動。でも、親しみを覚えた人にしか誘いをかけない。私でいいの?。

レイ。お話しもしたいし。

土本。お話って、あんたたち、意味が分からないでしょうが。

イチ。うん。でも、雰囲気は分かるし、事実の説明ならできる。

土本。亜有さんに派遣されたの?。

イチ。どう説明しても、その結論になる。

土本。これからの長いお付き合い。挨拶みたいなものか。

レイ。それでいい。

土本。支度する。

 (土本は、外出着を着る。レイが通信機を手渡す。)

土本。これなに?。ケータイなら持っている。

レイ。ID社の専用回線に繋がる通信機。持っていてください。ケータイは地下では使えない。

土本。ここでは使える。

レイ。わざわざ使えるようにした。でもケータイの中継器から少し離れると使えない。

土本。そうなのか。気付かなかった。うん、持っておく。

 (居住区から整備場に向かう。ちょっとシュールな廊下を行く。薄明かりの状態。普段は暗いはずだから、自動で明かりが点灯するようだ。)

土本。ここは地下。地震とか大丈夫かな。

イチ。ここは海岸に近くて、周りは水分を含んだ土。浮かんでいるようなもの。

土本。水槽の中にいる感じ。

イチ。適度に柔軟性があって、しかも比重をあわせてある。そのとおり。

土本。うまく作ってある。おもちゃじゃないんだ。

イチ。そうしないと、次々に壊れて、収拾がつかなくなる。

 (地下整備場に付いた。ここも薄明かり。虎之介は警備室に居るはずだ。通信機を使ってみる。)

土本。虎之介、聞こえる?。

芦屋(通信機)。うわっ、なんだ。土本、何かあったのか。すぐ行く。

土本。来ないでいい。ちょっと通信したかっただけ。整備場に居るのよ。警備室の明かりが見える。

芦屋。何だ。そう言うことか。うん、ここから見えるぞ。そっちから見えるか。

 (虎之介は手を振っている。)

土本。あなたって、面白い人。うん、こっちからも見える。ありがと、付き合ってくれて。

芦屋。自動人形の探索だな。付き合ってくれてありがとう。

イチ。これから原子炉経由で地上に出る。

芦屋。そうか。気をつけてな。

土本。さよなら。

 (ヘリポートのエレベータはクレータに上がった状態。地下の該当部分には、柵が迫り上がっていて、入りにくくなっている。土本たちは、原子炉に向かう廊下に入る。原子炉近くから、エレベータで外に出る。対岸の明かりが見える。振り返ると、月が出ている。)

土本。月は同じだけど、対岸の明かりはまぶしい。

イチ。東京湾の夜景。はじめての経験?。

土本。いいえ。でも、しばらくここで暮らすのかと思って。

レイ。家族と別れて、寂しいの?。

土本。いいえ。ここで仕事しなきゃ。私のできる限りの。

イチ。張り切っているんだ。

土本。うふふ。それくらいは分かる。

イチ。分かるよ。

 (あたりは暗い。イチとレイはLS砲を取り出して行く道を照らす。)

土本。ロボットに案内されて、道無き道を進む。これからずっとこんなのかな。

イチ。いっしょにいたい。

レイ。私も。


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