ID物語

書きなぐりSF小説

第10話。モノリスとピナクス。1. プロローグ

2009-05-13 | Weblog
 (12月。亜有はまだ調べ物中。いつものように、話しかける。)

奈良。熱心だな。今は何を調べているのだ。

清水。調査用潜水艇。

奈良。有人のはあったか。

清水。ええ、ありますよ。超深海用のやけくそのもありますが、特注で、注文されたら設計するつもりみたい。すぐに用意できるのは、200mまでの大陸棚用。

伊勢。清水さんの方が詳しいみたい。

奈良。水産用か。一応は獣医の範囲だ。

伊勢。イルカの病気は治せるの?。

奈良。哺乳類だろう?。多分、見れば分かる。珍しい病気は調べないと分からない。

清水。イルカ型の自動人形はあるんですか?。

奈良。イルカ、クジラ類はない。作製は再開したから、そのうち、作られるだろう。何となく役立ちそうな気がするから。

清水。タロたちはどのくらい潜れるの?。

奈良。さあ。かなり潜れるとしか記憶していない。調べようか。

清水。どれどれ…。普通のままで600m。簡単な改造で6000m。それ以上は経験なし。

奈良。その書き方は、1万メートルでも潜れるということだ。

伊勢。対潜水艦用の仕様。

奈良。そんなところだろう。潜水艦事故に対応するため。

伊勢。無駄。

奈良。無人探査機の方がよっぽど役立ちそうだ。例によって、趣味の仕様。

清水。でも、うらやましい。そんなに潜れるなんて。アンたちは潜ったことあるのかな。

奈良。本人に聞いてみよう。(通信機で、)タロ、アン、来てくれるか。

タロ。何かご用件でも。

奈良。質問がある。深海に潜ったことはあるか。

タロ。私ですか?、自動人形一般ですか?。

奈良。タロはどうだ?。

タロ。水深400mほどまでは訓練で潜らされました。

奈良。アンは?。

アン。同じ程度。ご興味あります?。

清水。あるから聞いたの。光はないでしょ。

アン。軍用光センサーは役立たず。LS砲は使える。超音波も使える。

清水。そうか。アクティブソナー付きだった。

タロ。わざわざ水中で利用できるようにできています。内蔵のは至近距離用で50m程度まで。

アン。LS砲を応用すれば、遠距離でも検出可能。普通は1kmほど。でも、500kmとかでも分かる。

清水。立体的に分かるの?。

アン。至近距離は立体的。遠距離は時間がかかる。

清水。どれくらい?。

アン。距離と解像度による。普通の空気中と同じ程度なら一時間ほど。でも、領域を限ったり、解像度を落として当たりをつけるだけなら、あっと言う間。

清水。5秒とか。

アン。その通り、音速。パッシブソナーもあるから、普通は大丈夫。

清水。かなり調整されたんだ。

伊勢。そのようね。亜音速で近づいてくる物体にアクティブソナーはいまいちだから、音を聞き分けるように調整されたはず。

タロ。登録されている音は識別可能。その他も評価はできる。

伊勢。音のデータベースは、軍用のと同様。

清水。やれやれ。作ってからあれやこれやと役立つ先を探した感じ。

奈良。自動人形の考え方が人間や動物に姿を似せることだから、しかたがない側面はある。

清水。いかにも機械みたいなのよりも、マネキン人形の方が救援らしさはあるか。そうだ、酸素は必要なんでしょう?。

奈良。虎之介が関心持ってたな。原子力電池に交換したら問題なし。深海は水温0℃くらいだから、排熱には都合がよい。しかし、普段は排熱によって、かえって行動が制限される。

伊勢。400mまで潜ったというのは、酸素ボンベか何か使った?。

タロ。素潜りさせられた。出力を調整して、潜航中は活動度を落とす。でも、海底での作業は10分ほどしかできない。浮上中は通信しかできない。

奈良。酸素の供給装置はあると聞いている。

伊勢。用意しておいたら?。備えあれば憂いなしでしょう?。

奈良。そうだった。さっそく注文しておこう。

 (受注生産だが、設計書はあるので、納期は1週間だった。酸素ボンベではなく、水を電気分解する装置。電源はLS砲と同じく、コンデンサ。蓄電して使用する。自動人形の燃料タンクと同等の電源寿命。つまり、活動しても24時間は余裕で持つ。
 わざわざ電気を酸素の発生に使うなど無駄だと思ったから、探したら、真空用の電力アンテナを利用するのもあった。皮膚内外の磁気回路で電力を送る。
 深海には原子力電池を使う必要がある。)

奈良。どちらがよいかな。

伊勢。どちらも、というわけには行かないの?。

奈良。可能だが、優先順を付けないと。

伊勢。酸素発生器の方はマスクになる。

奈良。マスクでもいいし、口か鼻から細いチューブを入れてもいい。

伊勢。磁気回路の方はそんなしかけはいらない。だったら、磁気回路。

奈良。本体に内部アンテナも必要。ほんのわずか重量が増える。150gほど。

伊勢。海底でなくても役立ちそうよ。供給部の形はどんなのよ。

奈良。外部アンテナは背中に付ける薄いパッドみたいな形。アンテナの位置を変えれば、腰やふとももでも取りつけられそうだ。

伊勢。救護服の中に取りつける。

奈良。そういうことになる。機密性には問題ない。コンデンサを入れる箱は小さなリュック程度。

伊勢。何でそれを最初から内蔵しないんだろう。

奈良。重くなるからかな。燃料電池とエタノールの方が比重が軽い。充電方法も問題。燃料電池なら、その辺りにある有機物を変換器経由で燃料にできる。

伊勢。原子力電池も重い。

奈良。大変重い。沈んでしまうから、浮きが必要。もともと、自動人形は重かった。

伊勢。ふむ。たしかに、設計思想をコントロールしないと、ばらばらになりそう。

奈良。A31はそのコントロール下にある普通の機体。でも、いろんな試みもあるはずだ。改造されまくっている機体もあるだろう。

清水。やだ。何か妖怪映画みたい。明日の姿が分からないんでしょう?。

奈良。自動人形の扱い手はマニア揃いだから、当然、そうなっているはず。なるほど、研究者間にも全貌が明らかにされない理由の一つはこれか。単に不可能なんだ。

伊勢。何でもありの部分が今も縦横無尽に変化している。

 (で、その悪趣味の極みの自動人形が、例によって教育のために日本ID社に送られてくることになったのだ。)


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