ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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金谷武洋著「主語を抹殺した男」を読んで

2007年01月27日 | カ行
 金谷武洋著「主語を抹殺した男」(講談社)を読みました。副題として「評伝三上章」とありますから、これでテーマと内容が推察できるでしょう。

 どのような経緯で私がこれを知ったかは記しません。読後感想もあまり詳しく書きません。書きはじめると、準備が必要になり、勉強に差し障りが出るだろうからです。単なる箇条書きにとどめます。 

 評伝の対象たる三上章という人は日本語文法家です。「象は鼻が長い」の著者だと言えば、名前くらいは御存知の方も少なくないでしょう。

 私が興味を持ったのは、もちろん関口存男さんとの理論上の接点がありそうだと直観したからです。この点は今後調べてみます。多分、現在執筆中の「関口ドイツ文法」に書き加えることになるでしょう(従って、この本の完成が少し遅れるでしょう)。

 三上は1903年に生まれて、1971年に死去しています。関口さんは1894年に生まれて1958年に死去しています。ほぼ10年の間をおいて平行して生きています。

 従って、その文法理論なり言語観なりに一致があるならば、共にものすごい読書家ですし、互いに知っていてもよさそうなものですが、知らなかったようです。とても不思議です。

 もっとも三上の「象は鼻が長い」が出たのは1961年ですから、関口さんが知らなかったのは仕方なかったと言えるかもしれません。逆に、生前から関口文法は有名でしたから、三上がそれを知らなかった方が不思議の度合いが高いです。

 しかし、関口さんも三上文法を知ることとは不可能ではなかったわけです。かつて私は関口さんがヘーゲルの「大論理学」を読まなかった(らしい)ことを不思議だと思いましたが、その後、ソシュールを全然知らなかったらしいことを第2の不思議と思うようになりました。今回、三上文法を知らなかったらしいことが第3の不思議となりました。

小さな事ですが、この本を読んでいて、「外国暮らしが長くなるとやはり日本語に少し問題が出るようになるのではないか」と思いました。証拠を集めながら読んだわけではありませんし、それは意図していませんが、ともかく少しおかしいのではないかと思う言い回しがいくつかありました。

 インターネット新聞の JanJan にも、最近はあまり寄稿していないようですが、かつて盛んに寄稿していた女性がいて、この方は夏目漱石の孫とかだそうで、アメリカに留学して向こうの方と結婚した人ですが、この方の文章を読んでいてもそう思いました。

 いずれも外国で日本語を教えている方ですから、一層気になります。

 金谷さんはフランス文学の研究のためにカナダのケベック州に留学して、たまたま日本語教師を頼まれて、そこで出会った疑問に答えるべく調べていて三上文法に出会い、曲折をへて日本語文法家になったそうです。

 ともかく素晴らしい本だと思いました。日本語学者の誰かについての評伝としては、大槻文彦の評伝である高田宏著「言葉の海へ」と並ぶのではないでしょうか。

 高田宏も実は三上を調べていたけれど途中で止めたそうです。しかしその資料などを金谷さんはもらって受け継いだそうです。