ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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教育の広場、第 104号、戸塚洋二さんの話とゴーンさんの話

2005年12月05日 | 教育関係
教育の広場、第 104号、戸塚洋二さんの話とゴーンさんの話

(2002年)12月04日付けの朝日新聞に今回文化功労賞を受けた宇
宙線天文学者の戸塚洋二さんの話と多額の負債に苦しむ日産自動車
をV字回復させたゴーン社長の話が載っていました。鮮やかな対照
で面白かったです。

戸塚さんには出身地の静岡県富士市が名誉市民の称号を送ること
になりそうだそうです。母校の富士高校の創立80周年記念で講演を
したそうです。その時の話はもちろん沢山の内容があったのでしょ
うが、新聞には次のように載っていました。

「大学ではほとんど授業には出なかった。卒業が1年遅れ、3年
の大学院も5年かかった。落第生でも科学の研究はできる。研究に
は1にも2にも体力」と後輩をはげました。

不登校でも悪くないとかいった励ましの言葉と同じもので、目く
じらを立てるのも大人気ないですが、少し異議申し立てをしておき
たいと思います。

まず「大学ではほとんど授業に出なかった」は誇大広告でしょ
う。それでは1年遅れたとしても卒業できるはずはないからです。
「かなりさぼった」くらいが真相でしょう。それより、なぜ出なか
ったのか、その代わりに何をしていたのか、それが重要だと思いま
す。

第2に、「卒業が1年遅れ」たのは学部の話でしょうが、「3年
の大学院」とは博士課程のことでしょう。修士は規定通り2年で出
たのでしょうか。ともかくこれも遅れた理由を言うべきだったと思
います。

一番問題なのは「研究には1にも2にも体力」という締めくくり
です。これは間違っていると思います。戸塚さんがボスの小柴さん
たちと一緒にやっているニュートリノ天文学とやらは体力さえあれ
ば後は何もなくても浜松ホトニクス(私の勤務する大学の工学部の
卒業生の作った会社です)の優秀な技術者が立派な設備や計測機器
を作ってくれますから、「研究」が出来るのかもしれませんが、一
般的にはそのような事は言えないと思います。

研究にとって一番大切なのは問題意識だと思います。問題意識が
その人を動かしているのであり、どこまで動かしていくかを決める
のだからです。

ノーベル物理学賞を受けた小柴さんは田中耕一さんに比べてはし
ゃぎすぎという感じを受けますが、戸塚さんも親分と似ている感じ
がします。こういうのを見ていると「たかがノーベル賞や文化功労
賞くらいでいい気になるな」と言いたくなります。研究者はもう少
し謙虚でありたいものです。

さて、日産のゴーン社長は3日、日本記者クラブで講演したそう
です。新聞に載っている事は次の2点です。

第1点。政府や銀行に対する意見は言わない。テレビで見るサッ
カーは簡単に出来そうだが、実際にフィールドに立つと難しいのと
同じだからだ。

実に立派な見識だと感心しました。小柴さんや戸塚さんのように
何でも分かっているかのように思い込んで、研究したこともない事
柄についても偉そうな教訓を垂れる大学教授とは大違いです。

第2点。日産復活のカギは「将来の方向を示すビジョンを単純明
快にしたこと」とし、「複雑な物事を前にしたとき、日本人は自分
で理解しないと行動しない」と日本人の特徴を見抜き、「ビジョン
を明快に説明し、みんなに参加してもらうことが大事」と自分のや
り方を説明しています。

これまた実に見上げた見識だと思いませんか。私もリーダー的な
事をする立場に立った時成果を挙げられなかった人間ですが、とて
も反省させられました。

この2つだけから、日本の大学社会と教授は実社会から学ぶべき
だとか、競争社会に生きている人とそうでない人との違いという結
論を出すとしたら、先走りすぎでしょうか。

(2002年122月09日発行)