ミサイル発射・航空機爆撃での攻撃開始が優先的戦術の現代戦争では米海兵隊沖縄駐留の絶対的理由は存在せず

2018-01-04 11:05:15 | 政治

 昨年暮れにネット上で次の記事に出会った。「在沖縄米海兵隊は抑止力か否か」産経新聞IRONNA/2015年)  

 記事は慶応大准教授神保謙氏の対沖縄米海兵隊駐留必要論を、元官房副長官補柳沢協二氏の駐留不必要論を紹介している。発言の全文は記事にアクセスして貰うとして、沖縄に米海兵隊は必要かどうかに触れている点のみを取り上げてみる。

 神保謙「抑止効果は非常に大きい。4月末に改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)でも、平時からグレーゾーン、小規模有事、大規模有事という流れに切れ目なく対応することが謳われている。事態ごとに必要な能力は異なり、その継ぎ目を埋めるためには陸海空の統合運用が重要になる。事態が急速に展開する可能性や非対称な攻撃が予想される中、継ぎ目を埋める能力をもともと備えているのが海兵隊だ。

 日本周辺では、東シナ海のグレーゾーン事態や朝鮮半島の不安定化の可能性があり、沖縄の位置を考えれば、戦域内に短時間内で展開できる海兵隊がいることの意義は大きい」――

 例えば中国を相手とした武力紛争に至らない軍事的対立状態を意味する「グレーゾーン」、小規模と大規模な軍事的非常事態発生を指す「小規模有事、大規模有事」を考えてみる。

 いずれかの事態発生に対して米国は日米安全保障条約に基づいて直ちに海兵隊を派遣するだろうか。日本は自衛隊を派遣するだろうか。先ずは外交の出番であろう。直接的な外交交渉、あるいは国連を舞台とした外交交渉で中国の意図を確認するはずである。

 分かりやすい例として中国が自国領土とする意図のもと、中国軍が尖閣に上陸、占領し、実効支配したとする。日米が共同して尖閣諸島を即座に取り戻すべく沖縄の米海兵隊と自衛隊部隊を直ちに尖閣諸島に向かわせて中国軍と戦闘を交えた場合、中国側が軍事的に一旦実効支配した尖閣諸島をどの程度まで兵力を送って守ろうと覚悟しているのか、それを見通さないままの派兵ということになって、中国側の兵力の追加派遣次第で小規模有事が大規模有事化する危険性を抱えることにもなるし、大規模化した有事が最悪全面戦争化しない保証はない。

 あるいは中国側は尖閣占領後、占領を実効支配の段階に持っていくために尖閣諸島に向かう日米艦船にミサイルの照準を合わせている可能性は否定できない。

 当然、中国側の覚悟を見極めるために外交というプロセスが必要となるばかりか、外交という手間の背後で中国側の覚悟に対応した日米側の軍事的準備が必要となる。

 いわば直ちに米海兵隊や自衛隊を「短時間内で展開」すればいいという問題ではないことになって、そうであるなら、米海兵隊が沖縄に駐留しなければならない正当な理由を失う。

 日米韓側がその動きを察知できていない状況下で北朝鮮が韓国支配を狙って韓国に突然侵略を開始した場合を例に取ってみる。1950年6月の朝鮮戦争当時、38度線を超えて韓国領内に侵入した朝鮮人民軍の陸軍部署と後に参戦した中国人民解放軍の陸軍部署が主体となって勢力範囲拡大の戦いを展開したのと違って、北朝鮮は最初に韓国領内に向けたミサイル発射に始まって、そしてよりピンポイントを狙うことができる戦闘機や爆撃機を使った空爆から侵略を開始するはずである。

 そのようなミサイル発射を主体とした空からの攻撃で韓国の陸海軍基地と在韓米軍基地の攻撃機能及び守備機能を壊滅させようとする。あるいは在日米軍の韓国派兵を前以って阻止する目的でミサイルや戦闘機の攻撃目標を在日米軍基地、さらには自衛隊の動きを止めるために自衛隊基地にまで含めるかもしれない。

 それに対して韓国軍も在韓米軍、さらに在日米軍も、加えて自衛隊も追随して発射された北朝鮮ミサイルに対して迎撃措置に出ると同時に北朝鮮人民軍のミサイル基地やコンピューターで割り出した移動式ミサイル発射地点に向けてミサイルの発射と攻撃機で応戦し、敵ミサイル発射機能や敵基地自体の機能麻痺に乗り出すはずである。

 横須賀の米海軍基地を母港とする第7艦隊の空母群は基地に停泊していたなら、朝鮮海域の対北朝鮮ミサイル射程内に向けて出港、日本海海域で北朝鮮の動向を警戒してパトロール中なら、艦装備ミサイルの射程内にまで移動、射程内に航行していたなら、北朝鮮ミサイルの標的となる危険性は避けられないが、直ちにという形でそれぞれがミサイルで応戦、空母艦載機はミサイル射程内に入る前から離艦、ミサイル攻撃と共に北朝鮮の全ての攻撃能力に対する壊滅に乗り出すはずである。

 北朝鮮は米軍との軍事規模の大差を前以って考慮して最初から核ミサイルを発射する危険性は否定できない。

 いずれの場合であっても、海兵隊や陸軍部隊が出動するのはお互い共に敵の攻撃能力をミサイル発射や空爆である程度か大方麻痺させてからということになり、このような戦術が現代の戦争の方法となっている以上、米海兵隊を沖縄に駐留させなければならない絶対的理由はないことになる。九州か中国地方の米軍基地に駐留させていても、ミサイル攻撃・空爆に次ぐ二番手として十分に機能することになる。

 神保謙氏は米海兵隊の沖縄ではなく、グアム駐留はダメな理由を次のように述べている。

 神保謙「事態発生後に数日間かけて戦域に入ってくればいいという議論はリエントリー(再突入)のコストを考慮していない。力の真空を作らないためには域内に強靱なプレゼンスがあることが重要だ。海兵隊の実動部隊が沖縄にいることは、南西方面への米国の安全保障上のコミットメント(確約)を保証する極めて重要な要素になっている」

 この考え方は現代の戦争の戦術に疎い発想に基づいている。先に例として挙げた中国の尖閣占領といったケースを除いて、攻撃が許される状況下での一般的な有事発生直後の「力の真空を作らない」役割は間髪を入れないミサイル部隊及び空爆部隊の攻撃能力にかかっている。ミサイル・戦闘機・爆撃機の攻撃能力が有事の大勢を決着づける。決して海兵隊ではない。

 戦争状態に入る前に敵の軍事力を叩く敵基地先制攻撃にしても同じ手順を取るはずである。

 では、元官房副長官補柳沢協二氏の不必要論を見てみる。

 柳沢協二「抑止力とは『相手が攻撃してきたら耐え難い損害を与える能力と意志』のことだ。その意味で沖縄の海兵隊は抑止力として機能していない。離島防衛は制海権と制空権の奪取が先決で海兵隊がいきなり投入されるのはあり得ない。

 日米防衛協力のための指針でも、米軍の役割は自衛隊の能力が及ばないところを補完すると規定されている。それは敵基地への打撃力だが、海兵隊の役割ではない。沖縄は中国のミサイル射程内に軍事拠点が集中しており非常に脆弱だ。

 米国はいざというとき、戦力の分散を考えるだろう。そもそも、本格的な戦闘に拡大する前に早期収拾を図るだろう。海兵隊を投入すれば確実に戦線は拡大する。つまり、いずれの局面でも海兵隊の出番はない。いざというときに使わないものは抑止力ではない

 (沖縄に海兵隊は必要ないとする理由について)どこかにいなくてはいけないから入れ物は必要だろう。しかし、それがピンポイントで沖縄でなくてはならない軍事的合理性はない。有り体に言えば『他に持っていくところがない』ということだろう。

 そもそも、抑止力と軍隊の配置に必然的な関係はない。海兵隊は米国本土にいてもいい。いざというときに投入する能力と意志があり、それが相手に認識されることが抑止力の本質だ。『沖縄の海兵隊の抑止力』といったとたんに思考停止し、深く掘り下げて考えないのは一種の信仰だ。沖縄県民はそこに不信感を持っている」

 「離島防衛は制海権と制空権の奪取が先決で海兵隊がいきなり投入されるのはあり得ない」と主張しているが、離島防衛に限らず、殆どの有事に於いて「制海権と制空権の奪取」が有事の主導権を握るカギであって、緒戦に於いてその役を担うのは特にミサイル部隊や空軍、そして空母群を擁する海軍であって、海兵隊の出番はその後になる。

 例えば1991年の湾岸戦争でも2003年3月19日開始のイラク戦争でも米空母からの巡航ミサイル発射と空軍の空爆で攻撃が始まった。後者の場合は3月19日から3月22日までの4日間で米軍が湾岸地域と地中海などからイラクのバグダッド一帯に発射した巡航ミサイル「トマホーク」の数が350基に達して、45日間の湾岸戦争時の288基を上回るハイペースだとマスコミは伝えている。

 陸軍+海兵隊の米軍地上部隊がクウェート領内からイラク領内へ侵攻、戦闘を開始したのはミサイル攻撃開始翌日の3月20日だが、それ以前の何日間で急遽地上部隊を整えたわけではない。

 イラク戦争の準備は2001年11月から1年4カ月をかけて行い、その間に米軍地上部隊をクウェート領内やトルコ領内に送り込んでいたと言う。中東に派遣していた空母やミサイル駆逐艦等を除いた空母群やミサイル駆逐艦群は横須賀基地その他から1週間程度から10日程度の日数をかけてペルシャ湾や紅海に向けて航行し、臨戦態勢に入っている。

 柳沢協二氏の「ピンポイントで沖縄でなくてはならない軍事的合理性はない」、さらに「海兵隊は米国本土にいてもいい」との発言を待つまでもなく、ミサイル発射・航空機爆撃で攻撃開始が優先的戦術となっている現代戦争では、その性質上、米海兵隊を沖縄に駐留させておかなければならない絶対的理由はどこにも存在しない。

 当然、安倍政権は普天間基地県外移転の沖縄県民の希望を「抑止力の維持」を口実に無視する理由はないことになる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12月22日「NHKクロ現」出演壇... | トップ | 金正恩の「核のボタンは私の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治」カテゴリの最新記事