安倍晋三の対中仲裁裁定順守要求は中国の対ASEAN影響力に上回る日本の影響力なくして口先だけとなる

2016-09-16 11:08:16 | 政治

 安倍晋三は2016年9月4日、羽田空港を発った。9月4日、5日と中国浙江省杭州で開催のG20サミットに出席するためである。それが終えると、9月6日からラオスで開かれるASEAN=東南アジア諸国連合関連の首脳会議に出席するためにその地からそのままラオスに向かう予定となっている。

 安倍晋三は例の如く羽田空港を出発前に記者団に発言している。
 
 安倍晋三「地域の諸課題、諸問題について議論したい。その中において、法の支配、そして航行の自由を尊重することは極めて重要で、それは地域の平和と繁栄のために重要だ。

 首脳間の率直な議論を進めていくうえにおいて、日本としては東シナ海、南シナ海における日本の立場を明確に述べていきたい」

 「NHK NEWS WEB」記事がこの発言を紹介した上で、〈海洋進出を強める中国を念頭に、日本の立場を明確に主張していく考えを示し〉た発言だと解説している。

 9月5日夜、中国杭州でのG20サミット首脳会議終了後に安倍晋三は中国の国家主席習近平との首脳会談に臨んだ。

 会談での発言は終了後本人か同席した政府関係者の説明に頼ることになる。

 安倍晋三は、〈会談後の記者会見で、中国公船が沖縄県の尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返している問題や、中国が軍事拠点化を進める南シナ海の問題について「日本の立場を率直、明確に伝えた」と〉、9月5日付の「NHK NEWS WEB」が伝えていた。

 同席した日本政府関係者の説明は、〈首相は会談で尖閣問題について「中国公船、軍による特異な活動は極めて遺憾だ」と主張。緊張を高める行動をなくして状況を改善するよう求めたうえで、「東シナ海の安定なくして日中関係の安定はない」と訴えた。習氏は、東シナ海の平和と安定を維持する考えを示したと〉会談内容を報じている。

 要するに尖閣諸島周辺の日本領海や南シナ海での中国艦船の一方的な現状変更の試みに対して日本の立場を率直、明確に伝えたことになる。

 そしてその夜、ラオスへと向かった。

 安倍晋三は9月7日日本時間午後2時半前からラオスのビエンチャンで開催の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に臨み、〈中国艦船による東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更の試みが続いていることにと懸念を表明し〉、さらに、〈南シナ海での中国の主張を認めなかった国際的な仲裁裁判の結果を尊重し、国際法の下で平和的な解決を目指す重要性を指摘して理解を求めた〉と、9月7日付「NHK NEWS WEB」が報じた。

 フィリピンが2013年1月に中国を相手に中国の南シナ海に於ける領有権主張や人工島の建設などが国際法に違反するとしてオランダ・ハーグの仲裁裁判所に訴えた2016年7月12日の判決は中国の主張に法的根拠がなく、フィリピンの主張通りに国際法に違反するとした判断を示した。

 対して中国はこの判決に従わないことを主張、南シナ海に於ける活動を継続した。

 安倍晋三「(仲裁裁判の判決は)「国連海洋法条約上、当事国を法的に拘束する。中国、フィリピンの両当事国が、この判断に従うことにより、紛争の平和的解決につながっていくことを期待する。

 (中国が当事国ではない日本が南シナ海の問題に関わるべきではないと主張していることに対して)南シナ海の領有権自体は当事国間の問題であるが、南シナ海は日本にとって死活的に重要なシーレーンであり、地域全体の平和と安定にとっても重要な問題だ。中国とASEANの対話を歓迎するが、対話は国際法に基づき、現場における非軍事化、自制が維持されることを前提に行われるべきだ」――

 要するに安倍晋三は習近平国家主席に対しても、ASEAN首脳会議中国側出席者李克強首相に対しても言うべきことははっきりと主張したことになる。

 何しろ中国と肩を並べた大国としてアジアに君臨している日本の首相である。その発言力は相当のものがあったはずだ。

 その甲斐あってのことか、ASEAN首脳会議終了後に採択した議長声明は南シナ海の中国の恣意的な活動に引き続き深刻な懸念を表明したものの、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年7月に中国の南シナ海に於ける領有権主張や人工島の建設などを国際法違反とした裁定には触れなかったという。

 ASEANの結束を優先するために全会一致を原則としていて、カンボジアとラオスの反対によって裁定に触れることができなかったとしている。

 2016年7月15、16両日、モンゴルの首都ウランバートルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の際、16日にカンボジアのフン・セン首相と首脳会談を行った。

 フン・セン首相「日本がカンボジアに初めて国連平和維持活動(PKO)を派遣してくれたことは忘れない。安倍首相の平和のための政策について全面的に支持したい。国連のもとで平和維持のために日本にはより多くの役割を果たしてほしい。

 安倍首相の平和のための政策について全面的に支持したい。国連のもとで平和維持のために日本にはより多くの役割を果たしてほしい」」(産経ニュース

 要するにフン・センは安倍晋三の表向きは平和構築に向けた姿勢に大きな期待を示した。

 外務省の「カンボジア情勢と日・カンボジア関係」のページを見てみる。文飾を当方。 

 〈経済・経済協力

 (1)貿易:日本からカンボジアへの輸入は2.5億ドル(2014年:車両、機械類、肉)。カンボジアから日本への輸出は7.7億ドル(2014年:衣類及び付属品、靴等、電気機 器及び付属品等)。

 (2)投資:対カンボジア直接投資額に占める日本からの投資額の割合は1%以下と低調であったが、中国・ベトナムなどの投資環境の変化により、2010年から製造業の進出が開始された。これまでの商社、建設会社などODA関連企業に加え、電子機器、自動車部品、縫製などの輸出加工企業の進出、また政治・治安の安定を好感し、小売業大手、ホテル、植林、鉱物資源探査などの企業が進出を決定。メガバンクも駐在員事務所を設立した。カンボジア日本人商工会加盟の日系企業は16年3月時点で217会員(正172・準会員45)。

 (3)経済協力:1992年以降、日本はトップドナー(支援総額の16%)。戦後復興・人材育成・制度整備の支援からスタートし、現在はインフラ、農業、教育、保健、ガバナンス分野を中心に支援している。〉――

 「トップドナー」とはネットで調べると、「最大の援助国」となっていた。

 「安倍首相の平和のための政策について全面的に支持したい」と言い、日本が対カンボジアで「トップドナー」(最大の援助国)の地位を占めながら、中国とはラオスとベトナムを挟んで地続きでないにも関わらず、カンボジアに対する日本の影響力が中国の影響力よりも劣る。

 その結果の前回ASEAN首脳会議に続いての今回ASEAN首脳会議での対中国外交を前にした日本の外交の敗北であろう。

 この形勢は中国の対ASEAN影響力に上回る日本の影響力の目に見える強化なくして改善されることはないだろう。

 影響力のないままに何を言っても、積極的平和主義外交と言おうと、価値観外交と言おうと、口先だけとなる。

 中国側がG20サミット開催前の8月21日を最後に中国公船による尖閣諸島周辺の日本の領海侵入を控えてきたが、9月5日の中国杭州でのG20サミット終了後から6日後の国有化して4年目の9月11日、早速4隻の中国公船が領海侵入を果たしていることもG20サミットの際の習近平との首脳会談で安倍晋三が尖閣諸島周辺の中国公船・軍艦船の活動に遺憾だと抗議の意志を示したことが何の役にも立っていなかったことの証明としかならない。

 日本の外交上の対外影響力が劣るからに他ならない。


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