菅官房長官の「安倍内閣は河野談話見直しも検討もせず」は広義の解釈に従うと事実に反する

2013-05-08 08:47:07 | 政治

 歴代の駐日アメリカ大使らが安倍政権の外交政策をテーマにしたシンポジウムを5月3日、ワシントンで開催し、安倍政権の閣僚等の靖国神社参拝や従軍慰安婦問題などについて議論を交わしたという。

 《歴代駐日米大使 歴史認識で議論》NHK NEWS WEB/2013年5月4日 11時17分)

 シーファー前駐日米大使(安倍政権の閣僚が靖国神社に参拝したことに中国や韓国が反発していることについて)旧日本軍によって被害を受けた人々は違った見方をしているが、国のために命をささげた人々に哀悼の意を表そうという気持ちは理解できる。

 (従軍慰安婦問題について)正当化できる理由はない。(政府の謝罪と反省を示した平成5年の河野官房長官談話を見直すべきだという意見が日本国内の一部から上がっていることについて)見直せば、アメリカやアジアでの日本の国益を大きく損なう」(NHK NEWS WEB)――

 靖国参拝に一定の理解を示しているが、安倍晋三は4月23日の参院予算委で次のように答弁している。

 安倍晋三「侵略という定義は国際的にも定まっていない。国と国との関係で、どちらから見るかということに於いて(評価が)違う」(MSN産経) 

 いわば間接的に日本の戦争が侵略戦争であったことを否定しているが、この安倍晋三の侵略戦争否定発言を待つまでもなく、靖国参拝者たちが「国のために尊い命を落とした尊いご英霊に対して、尊崇の念を表することは当たり前のことだ」と言って戦没者の戦争行為を善行・美挙(褒めるべき美しい行為)として把えていることは、そのような戦争行為に対応させた国家の戦争は当然善と位置づけていることになって、既に参拝行為を通して侵略戦争否定を行なっている。

 もし日本の戦争を侵略戦争だと歴史認識していたなら、兵士は例え自らは意図した行為でもなく、与り知らない行為であったとしても、結果的に国家の侵略戦争に加担させられた者として国家の犠牲となった犠牲者の扱いを受けることになり、あるいは戦争被害を受けた国々から見た場合は加担者としての扱いを受けるだろうから、「国のために尊い命を落とした尊いご英霊」などと日本の戦争と兵士の戦争行為を「尊い」というレベルで対比させて、双方を立派扱いすることはできないはずだ。

 シーファー前駐日米大使の日本の政治家たちの河野談話見直し意思に対する拒絶感は強いようだ。

 記事はアメリカの有力紙(ワシントン・ポスト)が安倍晋三が歴史を直視していないと批判する社説を載せたことについても触れている。

 このようなアメリカの動きに菅官房長官が発言している。《菅官房長官 河野談話見直し検討せず》NHK NEWS WEB/2013年5月7日 12時57分)

 5月7日(2013年)の閣議後の記者会見。

 菅官房長官「河野談話は、その見直しを含めて検討という内容を述べたことはない。安倍政権は、この問題を、政治、外交問題にさせるべきではないというのが基本的な考え方だ」――

 確かに第2次安倍内閣では河野談話の見直しを検討していない。だが、2007年3月8日辻元清美提出の河野談話に関わる質問主意書に対して2007年3月16日提出の安倍内閣答弁書は、「官房長官談話(河野談話)は、閣議決定はされていないが、歴代の内閣が継承しているものである」としつつも、河野談話発表までに「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」として、河野談話が認めた従軍慰安婦の官憲による強制連行という事実を否定している。

 しかも河野談話が閣議決定された文書ではなく、河野談話の内容を否定した安倍内閣答弁書は閣議決定された文書という位置づけで河野文書に対して優位性を置いている。

 と言うことは安倍内閣として河野談話を見直したということであり、前原誠司民主党議員が2013年2月7日の衆院予算委員会で安倍晋三の結果的に見直したことになる発言を紹介し、安倍晋三自身、その発言を認めている。

 前原誠司民主党議員「去年の5月12日、産経新聞の『単刀直言』というインタビュー。かつて自民党は歴代政府の政府答弁や法解釈などをずっと引きずってきたが、政権復帰したらそんなしがらみを捨てて再スタートできる。もう村山談話や河野談話に縛られることもない。これは大きいですよ。これは総理がおっしゃっているんです。去年の5月ですよ。

 これは一議員であったということを酌量したとしても、次以降は自民党の総裁選挙のときにおっしゃっている。申し上げましょうか。

 去年の9月12日、自民党総裁選挙立候補表明。強制性があったという誤解を解くべく、新たな談話を出す必要があると御自身がおっしゃっている。菅さんがおっしゃっているんじゃない、御自身が総裁選挙でおっしゃっている。総裁になれば政権交代で総理になる、そういう心構えで総裁選挙に出た総理がおっしゃっている、御自身が。

 そして、討論会、9月16日。河野洋平官房長官談話によって、強制的に軍が家に入り込み女性を人さらいのように連れていって慰安婦にしたという不名誉を日本は背負っている、安倍政権のときに強制性はなかったという閣議決定をしたが、多くの人たちは知らない、河野談話を修正したことをもう一度確定する必要がある、孫の代までこの不名誉を背負わせるわけにはいかない。総裁選挙の討論会でおっしゃっている。これは御自身の発言ですよね」

 安倍晋三「ただいま前原議員が紹介された発言は全て私の発言であります。そして、今の立場として、私は日本国の総理大臣であります。私の発言そのものが、事実とは別の観点から政治問題化、外交問題化をしていくということも当然配慮していくべきだろうと思います。それが国家を担う者の責任なんだろうと私は思います」――

 9月12日(2012年)の自民党総裁選挙立候補表明と9月16日の討論会の発言を合わせると、河野談話によって「強制的に軍が家に入り込み女性を人さらいのように連れていって慰安婦にしたという不名誉を日本は背負っている」ことになるから、「新たな談話を出す必要がある」とし、「安倍政権のときに強制性はなかったという閣議決定をしたが、多くの人たちは知らない、河野談話を修正したことをもう一度確定する必要がある」と言って、答弁書閣議決定によって「河野談話を修正した」、いわば見直したと断言、この見直しを「多くの人たちは知らない」から、「もう一度確定する必要がある」と発言したことになる。

 いわば新たな談話を発表していないが、2007年の答弁書の閣議決定によって河野談話は既に見直したとしているのである。

 但し国を代表する立場に就いた現在、見直すことに関わる発言は政治問題化・外交問題化するから配慮しなければならないと言っている。

 安倍晋三は第1次安倍内閣時代の2007年3月5日の参院予算委員会で従軍慰安婦問題について次のように発言している。

 安倍晋三「河野談話は基本的に継承している。狭義の意味で強制性を裏付ける証言はなかった。いわば官憲が家に押し入って連れて行くという強制性はなかったということだ。そもそもこの問題の発端は朝日新聞だったと思うが、吉田清治という人が慰安婦狩りをしたという証言をしたが、まったくのでっち上げだったことが後(のち)に分かった。慰安婦狩りのようなことがあったことを証明する証言はない。裏付けのある証言はないということだ。

 国会の場でそういう議論を延々とするのが生産的と思わないが当時の経済状況もあり、進んでそういう道に進もうと思った方はおそらくおられなかったと思う。間に入った業者が事実上強制したこともあった。そういう意味で広義の解釈で強制性があったとうことではないか」――

 私自身は状況証拠から狭義の意味に於いても広義の解釈に於いても従軍慰安婦の強制連行はあったとする考えに立っているが、要するに安倍晋三は厳密な解釈(=狭義の意味)に従えば河野談話が伝えている官憲による従軍慰安婦の強制連行はなかったが、売春業者にまで広げた「広義の解釈」に従うと、売春業者に限った強制連行もあったとしている。

 この狭義・広義という言葉を拝借すると、安倍晋三は内閣として公式に見直しや検討の方針を示して、方針に従って実際行動に移していなかったのだから、「狭義の意味」に従うと菅官房長官の言うように河野談話の見直しも検討もなかったが、第1次安倍内閣時代に質問主意書に対する答弁書の閣議決定という手を使って閣議決定していない河野談話よりも閣議決定という点で答弁書を優位に置く形の「広義の解釈」に於ける見直しを行っていたことになる。

 但しこの閣議決定した答弁書は以下の内閣が見直したり否定したりしていないのだから、現在も生きていることになる。

 この意味に於いては菅官房長官が言っている「河野談話は、その見直しを含めて検討という内容を述べたことはない」は事実に反することになる。

 現在も生きている以上、第1次安倍内閣が生かすことになったのだから、見直しや検討の事実の否定ではなく、どのような政治問題化・外交問題化が起きようとも、あるいはシーファー前駐日米大使が言うように、「アメリカやアジアでの日本の国益を大きく損なう」ことになったとしても、見直した事実の肯定から入って、かつて発言したように「新たな談話」を安倍内閣によって出すことが一連の発言に対する正直な姿ではないか。

 政治問題化・外交問題化を恐れて「新たな談話」に進まないというのでは自身の発言を軽くする卑怯な振舞いとなる。自らの発言を軽くすることに慣れているというのなら、何をか言わんやであるが。


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