人生旅的途上Sentimental@Journey

Gonna make a Sentimental Journey,
To renew old memories.

どうやら勘違いしていたようだ

2016-01-01 | essay

 2016年、ひつじ年である。羊とのかかわりは古く、人に飼いならされて8000年という。西ユーラシアとそこから広がっていった南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどに住む人びとにとって羊は身近な動物である。一方、明治以前の日本には羊という生き物は存在しなかった。

 しかし、江戸時代、道中合羽はウール仕立てであったという。あの木枯し紋次郎もウールの合羽をまとっていたのだ。あっしには関わりのないことでござんす、とはいえ、その原料の羊毛は輸入に頼っていたらしい。ちなみに合羽の語源はCAPA、これはポルトガル語である。日本に羊が入ってきたのは、明治期、ウールの軍服を国産でまかなう必要に迫られて以降である。ところがそれ以来今日に至るまで、日本の羊の数は全然増えていないという。そのため、羊毛製品には馴染んでいても、実生活の場で羊そのものを見ることは少ない。 

 さて、羊といえば、あの「ひつじが一匹、ひつじが二匹、…」がある。眠れないときには「ひつじを数えるとよい」といわれ、「単調なことに集中していると眠気をさそう」などという。このもっともらしい説明に一度は試してみたくなるというものだ。

 しかし、である。羊を数えてかえって目が冴えてしまったことはないだろうか。 

 羊は、英語でSHEEPという。この“Sheep”を際限もなく数えつづける。One Sheep… Two Sheep…Three Sheep…である。特にSHEEPの発音は眠りを意味するSLEEPと韻を踏んでいる。要は、シープ…、シープ…といっているといつしかスリープと聞こえてきて自己暗示のような効果があるのか。

 これを他のヨーロッパ語圏でみると、ドイツ語が羊はSchafで眠るがschlafenである。スペイン語ではこれがcorderoとdormirになる。フランス語でもmoutonとdormentである。いずれもかなりかけ離れている。そうか、羊は英語で数えなければ眠くならないのだ。眠れないときに羊を数えるというこの風習は、イギリスから伝わってきたということだ。どうやら勘違いしていたようだ。これは英語圏における睡眠法だったのだ。ふむふむ。 

 ちょっと郊外に行けば、そこら中にいる。生活に密着してはいるが、ある意味退屈な動物というイメージは、誰の脳裏にも自然に浮かんでくるのである。英語圏の人間が羊を数えて眠くなるのは、羊をイメージするのがバカバカしいほど造作もないことだからである。あのおとなしくて退屈で、ごちゃごちゃと群れをなしている動物だということは、誰でも知っている。大体において、ユーラシア大陸の人間は、羊を数えろといわれて、まともに数えることができるのだろうか。羊は、一頭一頭見わけがつかない。これがごちゃごちゃと群れている。だから、英語でも羊は単複同形、sheepは複数形もsheepである。最後に "s"をつけるのさえアホらしいのである。要するに、数えるのもアホらしい、あんまりアホらしいから眠くもなるのである。 

 ところが、日本人のメンタリティではこのプロセスが自然にたどれない。日本人は羊をよく知らないから、まずごちゃとかたまった群れではなく、単体でイメージする。いわゆるクローズアップである。馴染みのない動物をクローズアップするという作業は、それだけで結構想像力を刺激する。そこへもってきて、律儀に一頭ずつ数えるものだから、ますます目が冴える。 

「ひつじが一匹、ひつじが二匹、ひつじが三匹…」

 これではダメ、日本人は羊を数えては眠れない。

 


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