西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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2018年01月11日 | 手帳・覚え書き
サンド31才、母親に宛てた手紙より

「猫はチーズを取り上げられてしまうのが怖くて、ニャーニャー鳴く。しかし、くわえているチーズを少し頂戴と言うと、噛みついてくるの。
これって妻の財産を握っている夫が、妻に対しておこなっていることと同じじゃないかしら。夫は、自分の利に叶うかどうか次第で、優しくなったり乱暴を働いたりするのだから。」

28才でベストセラー作家となったサンドは、この頃は男性作家の仲間入りをした唯一の女性作家となっており、したがって収入もあり、その上、貴族の祖母から受け継いだ相当な財産と邸宅を所有していた。他方、夫のデュデュヴァン男爵は、サンドの実家より爵位もいくらか下であったし、結婚後はノアンのサンドの館に住んだのだから、いはば、サンドの実家に婿入りしたようなものであった。ところが、妻は未成年者とみなすナポレオン民法は、妻の財産もまた夫の管理下に置くものでなければならないとしていた。サンドは、たとえ自分の財産であっても夫の許可なしで、一切、自由に使うことはできなかったのである。上記のサンドの手紙は、こうした女性を取り巻く特殊な社会環境と文脈のもとで書かれていることを理解しなくてはならないだろう。

 確かに、結婚前と長男が誕生したのちしばらくの間は、サンドには半ば夫に恋している節も垣間みられた。しかし、当時は、男爵の位をもつ男としては平均的な生き方だったとはいえ、早朝から狩猟に専念することと女中の尻を追い廻すこと、それに酒と多少の政治の話題以外にさしたる興味がなく、サンドとの文学や芸術に関する話題は煙たがり、妻がピアノをひくと大いびきをかいて眠りこんでしまうような凡庸な夫だった。さらに邸内の人事や管理に関しては完全に主導権を掌握してしまい、サンドが幼い頃から親しんでいた使用人や馬を年老いているという理由で排除し追い払ってしまう、庭園は自分の好みに改造してしまうといった有様では何をか言わんやである。さらには、妻についてありとあらゆる罵詈雑言を並べたメモ用紙を机の抽斗の奥に潜ませていたのだから、それを発見したサンドが一直線に離婚を考えたのは当然のなりゆきだったといえよう。
 しかしながら、現代とは異なり離婚が禁止されていた時代にあって、サンドは面倒な手続きと弁護士を必要とする別居訴訟を地元の裁判所に願い出るしか他に方策はなかったのである。

ーーー

7 décembre 1835 A Mme Maurice Dupin  

Dudevant est un fou, et ment à sa conscience quand il dit qu'on lui a tendu un guet à pens.  
Quand le chat a peur qu'on lui ôte le formage, il miaule. Mais quand il tient le fromage et qu'on lui demande un peu, il mord. C'est la conduite d'un mari qui tient la fortune de sa femme, et qui se fait gentil ou brutal selon ses intérêts particuliers.Si vous me compreniez ma position, vous ne lui diriez pas de se conduire autrement qu'il ne fait.
Votre affection pour moi, votre bienveillance pour lui, doivent vous conseiller la prudence, le moins de paroles possible sur ce sujet.
....

Adieu bonne petite mère

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