シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ゆれる

2014-02-26 | シネマ や行

母親の法事にやってきた弟・猛オダギリジョー。愛想良く法事に来たみんなを接待する兄・稔香川照之。父・勇伊武雅刀の話からすると猛は東京に出てカメラマンになったが、好き勝手に生きてきて母親の葬式にすら出なかったらしい。兄は実家のガソリンスタンドを継いでまだ結婚していないが、従業員の智恵子真木よう子に少し気があり周囲も2人はゆくゆくは結婚すると考えているらしい。

オープニングから少しずつこの兄弟のそれぞれの性格や過去、関係性が観客にスムーズに示されていく。兄の稔なんてあまりにも腰が低いので、最初はこの家のお婿さん?と思ったくらいだったが、それも兄の性格や生活を非常によく表していると思う。そして、この智恵子という女性と猛が過去に付き合っていたんだなってこともだんだん分かってくる。

法事の翌日、兄弟と智恵子は渓谷に出かける。猛は前日の夜、智恵子のマンションに上り込んでセックスしたが、朝を待たずに実家に帰っていた。兄には智恵子と久しぶりに飲んでいたことにして。昨夜のこともあり、渓谷ではなんとなく気まずい猛だったが、智恵子はなんとなく猛との復縁を望んでいるふうだった。そんな智恵子から逃げるように吊り橋を渡り一人で渓谷の奥へと写真を撮りに行く猛。智恵子は猛を追って吊り橋を渡ろうとするが、高所恐怖症の稔は危ないからやめようよと言う。稔を振り切って吊り橋に向かった智恵子。その後を稔も追った。「危ないから引き返そうよ」と智恵子にしがみつく稔。「触らないでよ!」とキツイ言葉で振りほどかれ驚いた稔。その瞬間バランスを崩して智恵子は吊り橋からはるか下の川へ転落して死んでしまう。

いったんは事故として処理されたが、稔が「自分がやった」と警察に行ったため捕まってしまう。稔を助けるため東京で弁護士をしている伯父・修蟹江敬三に助けを求める猛。猛は稔を無罪にするため奔走し、稔もそんな猛の気持ちに応え「自分がやった」というのは直接智恵子を押したという意味ではなく、自分のせいで智恵子は死んだという意味だという証言に変えるのだが、、、

レビューなどを見ると世間的にはこの実家を継いだ“良い人”の兄に感情移入して見ていた人が多いようなんですが、ワタクシはこの稔という人が気持ち悪くて仕方なかった。(多分)不本意ながら実家を継いで、弟の元恋人をひそかに想い、父親の面倒を見て、背中を丸めて生きている兄。周囲のために色々我慢して生きているこういう人って世間ではえらいねなんて言われがちだけど、ワタクシはあまり好きではない。なんか自分さえ我慢すれば、みたいなのってなんかイライラしてしまうんですよねー。香川照之がうまいからってのもあるんだけど、吊り橋で智恵子にしがみついてる姿なんてマジで気持ち悪いし、そりゃ恋人でもない人にあんなしがみつき方されれば誰だって怖い顔して振りほどくでしょうよって思った。

一方、自分の好きなように生きてきた弟は、勝手な人間に見えるだろうけど、自分の人生で好きなことをやって生きることの何が悪いかワタクシには分からない。まぁ、女グセは悪そうだったし、どんな事情があったか知らないけど普通に母親の葬儀に出ないとか考えられないけどな。よっぽど悪い親でもない限り。そこんとこの設定はちょっと無理があると思った。

この兄弟の関係性が2転3転して、裁判の行方もそれと並行して2転3転することになるんだけど、結局真実がどこにあるのかはワタクシは分からなかった。猛は本当は吊り橋での出来事は見てなかったのに、稔に挑発されたことで稔が突き落としたのを見たことにしたの?智恵子が自分のものにならないからって「お前の荷物を消してやったのさ」みたいなこと言ってたのは稔のウソだったのかどうかもワタクシには分からなかった。稔という人間ってなんかどっかでそういう黒い感情をずっと心の奥に持っていそうだもの。

猛が吊り橋のところで稔の腕についたみみず腫れをとっさに隠すシーンがありますよね。あれってワタクシは古い傷に見えてしまって、稔に自傷癖があったのかと思ってしまったんですけど、あれはあの時についた傷でやっぱり最後の映像は本物だということなのかなぁ。

猛が智恵子とセックスして戻ってきた夜、「智恵子ちゃん、飲みだすとしつこいだろう」って稔はカマをかけた。猛は「あ、あぁ」と適当に話を合わせたが実は智恵子はお酒は一滴も飲めないことを稔は知っていた。だから、前夜猛と智恵子が何をしていたか渓谷の時点で稔は知っていたはずで。結局いつもいつも猛ばかりが欲しい物を欲しいままに手に入れることへの猛烈な嫉妬が稔にはあって、それが智恵子を突き落すという行動になったとしても不思議はない。

兄弟の会話がリアルでうまいなと思いました。役者も脚本も。兄を褒めようとして「俺なんか逃げてばっかだよ」と言う弟に「退屈な人生からだろ?」と言った兄。うまい!と思わず膝を打つようなセリフだったな。確かにその通り。退屈な人生から逃げられなかった兄は刑務所で何を思っただろう。実はそこが一番の逃げ場所になったのか。

セリフがリアルと言えば、この兄弟が両親のことを「お母さん、お父さん」弟が兄のことを「兄さん」と呼んでいるのもリアルだなぁと感じました。よくドラマや映画で「おふくろ」「おやじ」「あにき」とかって言ってますけど、第三者に言うことはあっても面と向かって「おふくろ」なんて呼んでる人リアルであの年代で見たことないし。そういうところに西川美和監督のリアルさを感じました。

最後に刑期を終えて出てきた稔が地元を離れるバスに乗ろうとしているところに猛が行くが、稔があのバスに乗ったのか猛の元へ行ったのかは描かれていなかった。ご自由に解釈くださいということなのだろうけど、ワタクシは稔にとってはもう地元からも猛からも離れた方が稔の人生にとっては良いんじゃないかと思った。



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