シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

善き人

2012-02-09 | シネマ や行

題材がナチスということと主演がヴィゴモーテンセンということで見に行きました。

大学教授のジョンハルダー(ヴィゴ)はある日ヒトラー官邸に呼び出され、不治の病の妻を夫が殺すという小説がヒトラーの評価を受け、それをテーマに論文を書いてほしいと依頼される。最初は入党を断るジョンだったが、出世と引き換えに入党することになる。家では認知症の入った母親ジェマジョーンズの面倒を見、母の介護から逃れるためかピアノに夢中の妻アナスタシアヒルの代わりに料理を作り、2人の子供に振り回されるジョン。親友はユダヤ人のモーリスジェイソンアイザックだったが、それも彼がナチに入党する妨げにはならなかった。

言い寄ってきた学生のアンジョディウィテカーと不倫関係に陥り、そのまま離婚、再婚という道をたどるジョン。ナチ入党の件といい、愛人との件といい、なにかと流されるだけのような主人公。心の葛藤はもちろん見られるが、それを行動に移す勇気がない。言わば一般民衆の見本みたいな主人公と言えるかもしれない。不治の病の者に「恩寵の死」を与えるという論文を書く一方で、認知症と結核の母親の自殺志願は許せない。そういう部分も一般的な行動様式を取る主人公と言えるだろう。

親友のユダヤ人のことも一度は助けようとするけれどうまくいかず、結局ギリギリまで放置してしまう。最後の最後にもう一度助けようとするがこれも失敗。自分の過ちに気付いた時にはもう時すでに遅し。最後に収容所の本当の姿を目にして愕然とするジョンだが、これこそが彼がしてきたことの結果のうちだった。

ナチスが政権を握ってからジョンは時々妄想を見始める。町の中の見知らぬ人が時々美しい歌を歌っている姿を見るようになる。これがだんだんとひどくなり、最後の収容所の場面での「現実か…」というセリフにつながっていくのだが、彼の見ている収容者たちが美しい音楽を奏でている姿は当然現実ではない。ジョンは感情をあまり表には出さなかったが、この様子で彼の精神が壊れていっているのが分かる。最後に「現実か…」とつぶやいたときでさえ、彼には収容所の現実が実は見えていなかった。すべてに目をつぶり流れに流されてきたジョンのたどり着いた場所があそこだった。

宣伝コピーでは「理想と現実の狭間で葛藤しながらも、信念を貫こうとした男の物語」となっているが、実際には「どこが???」という感じ。そもそもジョンに確固たる信念なんてあったの?ぐらいにしか感じない話だった。

彼の書いた論文がナチスが障害者なども収容所に送った根拠となっていたというシークエンスがもう少し有効に使われれば、話に膨らみも出て良かったと思うのだけど。ナチスがアーリア人を産めよ増やせよと努力していたこととかもちらちら出てくるのだけど、それも少し触れられるだけでもっとやりようがあったような…

作品の方向性は悪くないんだけど、色んな所でもうひと押し足りない印象で、ヴィゴの演技はいつも通り素晴らしかったけど、演出がそれについていっていないようで少し残念な作品でした。


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「映画」もいいけど「犬」も好き。という方はこちらもヨロシクです。我が家の犬日記「トラが3びき。+ぶち。」



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