シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

汚れたミルク~あるセールスマンの告発

2017-03-24 | シネマ や行

パキスタンで実際にあった事件を「ノーマンズランド」などのダニスタノヴィッチ監督が映画化した作品。

新婚のアヤンイムランハシュミは妻ザイナブギータンジャリの薦めで多国籍企業に面接に行き中途採用される。大卒が条件でアヤンは家庭の事情で大学を中退していたが、これまでのセールスの手腕を上司ビラルアディルフセインに買われて採用された。

アヤンの仕事は粉ミルクを医者に売って患者にたくさん処方してもらうこと。ボスはアヤンにたんまりと接待費を渡し、自社製品はいくらでも医者や看護師にバラまけたし、医者にはいくらでも好きなスポーツのチケットなどをバラまいて、元々のアヤンの手腕もありアヤンはすぐにトップセールスマンに躍り出る。

数年後、息子もでき、妻は2人目を妊娠中。新居も買って順風満帆。そんな時、転職して初めのころに懇意にしていた医師が修学先のカラチが帰ってきて、アヤンに衝撃的な事実を告げる。

カラチでもここでもアヤンの会社の粉ミルクを汚染された水で溶かして飲んでいる貧民街の子どもたちが次々に死んでいると言うのだ。貧困層は十分な粉ミルクが買えず、薄めて飲ませたりもしていると言う。企業側はそれを知った上でとにかく売って売って売りまくれというわけで、その陰で死んでいく赤ん坊のことなど気にかけてもいない。その事実を知ったアヤンはすぐに会社を辞め、告発することにした。この先、苦難が待ち受けているとは最初はまったく思いもせずに。

大企業と国はグルになっていて、アヤンの告発をひねりつぶそうとする。彼らにとってアヤンのような一市民をひねりつぶすことなどたやすいことだった。

映画の演出として、アヤンの物語を映画化しようとするイギリスの映画会社とアヤンの打ち合わせの中でアヤンの物語が語られる。映画化する側は法律的な問題がひとつでもあっては企業側に指摘され訴えられるということで慎重姿勢だ。アヤンは当然会社の名前も実名を出してもらえると思っていたが、制作会社としては仮名でいきたいと考えている。というくだりでたった一度だけアヤンが「ネスレ」と実名を出し、制作会社側が「いや、仮名でいこう」とその後は「ラスタ社」に変更され一度たりとも「ネスレ」の名前は出てこない。映画的にはこのくだりは秀逸なんですが、とにかく、「ネスレ」です。赤ん坊が死のうが知ったこっちゃないと粉ミルクを売りまくったのは「ネスレ」です。何度も書いておきます。「ネスレ」ってたいがいこういう環境系のドキュメンタリー映画には登場するんだよなー。

まぁ確かにネスレは売っただけで使い方が間違ってるほうが悪いんじゃんと言い逃れできる案件な気もするんですよね。でも、もちろん先進国とは国の事情が違うし、水自体が汚いところがあったりとか、育児に対する情報が得られにくい地域もあったりして、お医者さんが言うんだから間違いないだろうって素直に従ってしまう人も多いのかもしれませんね。そして、それを知りながら売りまくったネスレと企業と癒着して自分が接待してもらえるからっていうだけで赤ん坊の命を粗末にした医者たちが許されていいわけがありませんよね。

この事実を知って速攻で会社を辞めたアヤンもすごいと思ったけど、家族を脅されて子どものことを心配するアヤンに「自分の子どもの命も大切だけど、その他大勢の子どもたちの命も同じように大切だ」とアヤンに闘うように説得する奥さんがすごいと思いました。そう考えられるって素晴らしいことだと思います。

アヤンの物語は1997年の出来事ですが、作中に使われている赤ん坊の映像は2013年にパキスタンで撮影されたものだそうです。この問題はまだまだ現在進行形で続いているということでしょう。

国際映画祭以外で劇場公開されているのは世界中で日本だけだそうです。BITTERS ENDという配給会社が頑張ってくれています。



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