シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

それでもボクはやってない

2014-01-10 | シネマ さ行

2007年の作品です。見なくては思いつつここまで来ていましたが、ケーブルテレビで放映されたので見ました。

フリーターの金子鉄平加瀬亮は仕事の面接のために乗った満員電車の中で女子中学生柳生みゆに痴漢と間違えられる。自分はやっていないのだから、話せば分かってくれるだろうと駅員室に行くが、駅員室までついて来て、「彼はドアに上着のすそが挟まってごそごそしていただけで痴漢ではありません」と駅員に行ってくれているOL唯野未歩子を駅員がちゃんと話を聞かずに帰してしまったところから、なにやら怪しい空気になってくる。

山田刑事大森南朋は頭ごなしに有罪と決めつけ、鉄平の話をろくに聞きもしないで勝手な調書にサインを求めてくる。最初に接見した当番弁護士田中哲司は、たとえやっていなくても日本では起訴されれば99.9%有罪になる。ここで無罪を主張し続けるよりも早く有罪を認めて示談してお金を払って出れば、誰にもこのことは知られず問題なく社会復帰できると示談を薦めるが、鉄平は何もやっていないのに、有罪だと認めるのは絶対にイヤだとはねつけた。

検察官北見敏之の取り調べも結局は最初から鉄平を有罪と決めつけ、彼の主張など聞いてくれない。

母親もたいまさこと友達の達雄山本耕史が探してきてくれた弁護士・須藤瀬戸朝香も初めは、痴漢憎しの気持ちから鉄平のことを信じてはくれないが、所長弁護士の荒川役所広司に諭され、鉄平の話をきちんと聞いてくれるようになる。

始めのほうは裁判長がこれまで無罪判決を出すことを恐れない大森正名僕蔵だったため、鉄平の主張が認められる希望があったが、途中で裁判長が室山小日向文世に変わってからは鉄平は有罪判決一直線といった雰囲気だった。

周防正行監督は、この作品で日本の司法制度について一般の人に知ってもらいたいという気持ちがとても強かったのだろう。制度の説明的なセリフがとても多い。弁護士のような法律の専門家が、鉄平たち素人に説明するというシーンだからそこに不自然さは感じなかった。この作品を見て新たに知った事実に驚く人はとても多いだろう。

冤罪事件に興味があるので、これまで有名な冤罪事件の映画やドキュメンタリーなどを見てきて、この作品はかなり現実に沿っているんだろうなぁと想像できる。山田刑事の取り調べや調書のでっちあげとかって典型的って感じだし、裁判長が結局のところ検察とのパワーバランスを考えて無罪判決できないところとかもう脱力ものだけど、それが日本の現状ってことだよね・・・目隠しして天秤持ってるなんて大嘘だね。

恐れずに無罪判決を出す大森裁判長が「もし本当は有罪だったら?と思いませんか?」と研修生に聞かれて、「検察が被告人の有罪を証明できない限り被告人は無罪なんだよ。本当は有罪かどうかなんて心配する必要ないんだ」と答えるシーンがあります。それこそがあるべき姿だと思うのですが、大森裁判長は地方へ飛ばされてしまう。

この映画で初めて知ったことと言えば、弁護士側が検察がどんな証拠物件を持っているか開示されていないということと、留置場での扱いがとてもヒドイということです。前者はどこの国でもそうなのかなぁ。双方証拠を開示して裁判するんじゃないんですね。留置場については鉄平が無罪ということを前提に見ていて鉄平に感情移入しているからかもしれないけど、とても腹が立ちました。留置場にいる人たちは全員まだ刑が確定していない人たちなのに、まるで罪人のように扱われていました。無罪が決定すれば拘留期間に応じてお金がもらえるそうですが。

上映時間が143分と結構長いのだけど、全然苦痛に感じませんでした。普通の法廷ものにあるような弁護士と検事の丁々発止のやり取りもないし、熱血弁護士による長ゼリフもないし、一発逆転のDNA鑑定証拠なんかも一切出てこないのですが、ワタクシは冤罪事件に興味があるせいかどのシーンもとても興味深かったです。冤罪事件関係の物語を見ているといつも思うのですが、これこそ「明日は我が身」なんですよね。でもこんな明らかな人災はもっと最小限に抑えられるべきなんだけど、取り調べの可視化さえうまく進まない国ではね。。。可視化されてもそれが特定秘密に指定されたら、結局公開されないしね。

紆余曲折の末、鉄平は有罪判決をくらってしまうのですが、この時の彼のセリフがとても印象的でした。「それでもボクはやってない。それを知っているのはボクだけだ。裁判官にはボクは裁けない。でもボクにはこの裁判官を裁くことができる。彼は間違いを犯した」まったくその通りだ。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿