かわいいコケ ブログ I'm loving moss!

コケの魅力を広く知ってもらいたくて、情報発信中。
コケ、旅、山が好き。コケとコケにまつわる人やモノの記録です。

身近なコケを再観察 ~春を駆け抜けるヒョウタンゴケ~

2020-04-24 11:53:17 | 近所のコケ

緊急事態宣言が出てからというもの仕事がおそろしく進まない。

でも家で子供と過ごす時間が長くなったぶん、
子供と一緒にそれまでしたかったことが色々とできるようにもなった。

たとえば散歩時に植物観察ができたり、一緒に料理をしてみたり(いまは鰹節からの出汁取りにはまっている)、
会話も増えたことで子供らの新たな一面に気づいたりと発見もあって楽しい。
もちろん小さなアクシデントやトラブルも急増中で、毎日それに費やすエネルギー量たるや・・・。

また、3回の食事をすべて家族分用意することも、なかなかのプレッシャーだ。
身体の免疫力を上げるため、メニューを考えるのにそこそこ力を入れているからというのもある。
しかしそれが毎日、しかもいつまで続くかわからないとなると精神的に辛い。
そこで先週は冷凍ピザとインスタントラーメンも食卓に何回かご登場いただき、
「3食安定継続のための手抜き」をさせてもらった(自分で言うのもなんだが、これ重要!)。

そんなこんなで、買い物と散歩以外はほとんど家にいるはずなのに、仕事はいっこうに進まず、
にもかかわらず、確実に疲れだけは蓄積していく身体が本当に恨めしい。
じつはこのブログをアップするのだって細切れ作業で10日ほどかかっているのだ(トホホ・・・)。


さて、外出自粛で遠出できないぶん、1日1回の近所のコケ&草花観察が目下、最大のレクリエーションとなっている。
色とりどりの植物たちが日ごとに新たな表情を見せてくれるのは本当に楽しいし、頼もしい。
たぶん、これほど身近な植物をじっくり眺め、癒されたのも人生で初めてのことだと思う。

そんななかから、今回は買い物への道すがらに見つけたヒョウタンゴケの一群落を
ここ1か月ほど定点観察してみたので、記録として残しておこう。



▲コインパーキングと歩道の間にコケたちが群落をつくっているのですが、どこかわかるでしょうか?




▲いました、胞子体を伸ばしているのがヒョウタンゴケです


ヒョウタンゴケは庭や公園、植木鉢の土上などでよく見られる、とても人に身近なコケの一種だ。
だからといって「なんだぁフツーのコケか」という油断は禁物。
彼らの生き方は他のアーバンモス(都市部でよくみられるコケ)たちとはちょっと違う。

というのもコケといえば長い年月をかけてじわじわと群落を
広げていくイメージがあるが、ヒョウタンゴケはそういう生き方をしない。
ズバリ、彼らの生き方は「太く短く」がモットー。他のコケに比べて一生がとても短い。

具体的に言うと、彼らは裸地を見つけると、いち早くその土地に侵入し、
自分より大きなからだの種子植物が葉茎を伸ばして裸地を覆ってしまう前に、
群落を広げて、あっというまに胞子散布まで行ってしまう。

また、ずっと同じ場所に定着しないのも特徴だという。
まるで草木たちに捕まるまいとして生きているようにも見えることから、
〝逃亡者〟的な生き方のコケとも言われるほどだ。

たしかに実際にこのコケと遭遇した際、

「あれ、去年はここで見かけなかったのに、いつのまに?」

ということが多い。また2年連続同じ場所で見たという記憶もない。

あくまで時々ちょこちょことご近所をまわって、
〝コケパトロール〟をしている一個人の雑感なのではあるが。



▲2020年3月22日。若い黄緑色の胞子体が群落全体から伸びている。中には嘴のような帽をまだつけているものも。
 正直、植物体は地味なので、胞子体が出ないといつからヒョウタンゴケがそこにいたのか気づくのは難しい




▲2020年3月29日。ちょうど1週間後。蒴はまだ黄緑色なものの、
 多くの蒴柄(さくへい)がオレンジ色がかり、しなだれてきました




▲2020年4月3日。さらに5日後。蒴が今度は暖色系に色づいてきた




▲2020年4月16日。少し間が空いて11日後。この間、数日は雨が降ったものの、
 基本的には春らしいうららかな日が多かったこともあってか、もう全体的に茶褐色でカラッカラです




▲胞子体を手に取ってよく見ると、蒴の成熟具合に少しずつ差があり、意外とカラフルだった。
 オレンジ色の粉(胞子)もたくさん出てきました




▲そして俯瞰気味に角度を変えてもう一枚。群落の右側からツメクサがじわじわとにじり寄ってきてるのがわかります。
 でもヒョウタンゴケはすでに胞子散布をスタートさせているので、逃亡成功というところか




▲2020年4月23日。定点観察を始めて約1か月後。ますますツメクサの茎枝が伸び、花のつぼみまでつけております
 



▲一部をつまみとってみると、まだ胞子が出てきました(赤色の丸囲み部分)


ツメクサの花が咲いて、種までできたら、もはやヒョウタンゴケの群落は彼らの良い苗床となりそうだ。
しかし、彼らは胞子をすでに飛ばしているので次世代へ命のバトンを繋いだこともたしか。

道端のヒョウタンゴケは見事に春を駆け抜けていった。

今後、植物体のほうはどうなっていくのだろう。
ツメクサ等、他の植物に覆われきって、朽ちていくのだろうか。
朽ちやすいということは、それだけ植物体の耐久性にはエネルギーを費やさず、
そのぶんをスピーディーに胞子体を形成し、胞子散布することに注力しているということなのかしら?!

いわゆる〝見頃〟が終わってしまった群落だが、植物体のその後を見届けるべく引き続き定点観察を続けていきたい。


最後に余談。
ご存じの方も多いと思うが、ヒョウタンゴケにはもう一つ注目すべき特徴があるのをご存じだろうか。
それは、体内に金や鉛を蓄積する性質があるということだ。
汚染水に含まれる重金属の回収や環境浄化に応用できる可能性を秘めていることから、
〝コケ界の錬金術師〟の異名があるとかないとか。

※参考:「鉛吸着材に使えるコケの新たな生物機能を発見」(2018年1月17日 理化学研究所)



【最近読んだ本、いま読んでいる本】

在宅時間が長くなったぶん、読書時間が増えているという方も多いのではないかと思います。
〝遅読遅筆〟でおなじみ(?)の私ですが、昔から読書は好きです。
読んだ本の備忘録も兼ねておすすめの本をご紹介します。


『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』(鈴木純/雷鳥社)





この本は、一般的に「雑草」と呼ばれる小さな草花や「街の脇役」と
思われている街路樹や生垣の樹などにぐっと近寄り、その生態に迫ります。

「見えている・知っている」と思い込んでいた自分の視界は、じつは「見えていなかったもの」だらけ。
彼らの細部の美しさ、不思議さに迫ると、道端の草木ならではの生き方戦略が見えてきて感動してしまいます。

漫画のコマ割りのような大胆なレイアウトと、
著者の鈴木さんのガイドをそばで聞いているかのような優しい文体で、
既存の植物図鑑にはない独特の世界観があるのも本書の特徴。

読み進めていくうちに読者はいつのまにかバーチャル観察会の参加者の一人になっているはず。
そして、読み終わった後は自分のご近所まわりを植物探検をせずにはいられなくなります。

私が読み終わったのはもう2か月くらい前なのですが、
植物がもっとも勢いのあるこの季節に読むべき本だと最近また手に取っています。



▲表紙の写真は、旺盛な繁殖力で園芸家たちから迷惑がられているツル性植物のヤブカラシ


私は以前、セスジスズメ(蛾の一種)の幼虫(イモムシ)に興味があった際、
ヤブカラシの葉を常食すると知ってこの植物の名前を覚えていたのですが、
こんなにかわいい花をつけるとは知らず、一気に好きになってしまいました。




『食材も手間も 最小限レシピで今日も晩ごはん乗りきった。』(「がんばらない」ごはん研究会/家の光協会)





台所でガッツポーズを決めている主婦・主夫の声がそのまま漏れ出てしまったかのようなタイトルなのですが、
この言葉をまるっと信じてもけっして損はない、ものすごく実用性の高いレシピ本です。

長いこと台所仕事をしていてもいまだに「レシピ通りの材料・手順を踏まないとちゃんと作れないのでは?」という
呪縛にかかってしまっている人って意外と多いのではないでしょうか?(かくいう私もそうです)

この本はきっと、そんな固定概念からあなたを解放してくれるはず。掲載のレシピはどれも簡便で、
「え、ここまで工程をはしょってもいいの?!」
「食材1種と調味料だけで、本当に家族も納得のアレンジ料理なんてできる?!」
と半信半疑で作ってみれば、あっという間に美味しいごはんができてしまうのです。

色々と用事が重なっていつもより遅い時間に台所に立つ夕方、
余裕をもって料理と向き合えるというのは本当にありがたい。

また〝自炊疲れ〟している人も多いこのご時世にはうってつけの本だと思います。



▲わが家で大好評の餃子。テーブルに置いた瞬間から毎回争奪戦になっています