ワーグナー/リスト編曲:巡礼の歌 ~『タンホイザー』
ワーグナー:第1幕への前奏曲 ~『ローエングリン』
ワーグナー/リスト編曲:第3幕への前奏曲 祝典と結婚式の歌 ~『ローエングリン』
ワーグナー:第1幕への前奏曲 ~『ローエングリン』
ワーグナー/リスト編曲:第3幕への前奏曲 祝典と結婚式の歌 ~『ローエングリン』
:愛の死 ~『トリスタンとイゾルデ』
ブラームス:3つの間奏曲集 Op.117
シューマン:幻想曲 ハ長調 Op.17
ブラームス:3つの間奏曲集 Op.117
シューマン:幻想曲 ハ長調 Op.17
<アンコール>
ブラームス:間奏曲 Op.118
シューマン:アラベスク
(ワーグナーについて)
「目立ったオリジナルピアノ作品のないこの作曲家の古くからの友人であり、お互いの芸術を深く理解し合い、運命のいたずらからのちに義親子関係にまでなったフランツ・リストの仲介により、ワーグナーの作品のエッセンスがピアノという楽器を通して味わえることは、全く僥倖と言ってよい。リストは自身、言わずと知れた「大ピアニスト」であると同時に、並外れた作曲の才も併せ持っていて、それらの能力を総合して生み出したピアノ用編曲作品の素晴らしさは、改めて取り上げる必要がないほど広く知られた事実である。」(公演パンフレットより)
興味深いのは、前半のワーグナー作品の選曲である。
「タンホイザー」のピアノ編曲版と言えば、「序曲」を演奏するケースが多いのだが、東さんはそうしなかった。
「巡礼の歌」だけ抽出して、「ヴェヌスベルクの音楽」はカットしたのである。
その理由は、おそらくは、ヴェヌスベルクのところに、「タンホイザー」の”毒”の部分が集中しているからだろう(命と壺(1))。
「ローエングリン」については、チャイコフスキーも絶賛したと伝えられる「第1幕への前奏曲」と、悲劇に暗転する前の「第3幕への前奏曲祝典と結婚式の歌」が採り上げられている。
いずれも清澄・勇壮・厳粛な雰囲気をたたえた曲で、これだけ聴くと、舞台上で歌手たちが”猛獣のように吠えまくる”シーン(実際はこういう時間の方が長い)を想像するのは難しい。
極めつけは、「トリスタンとイゾルデ」から「愛の死」である。
リストは、「トリスタンとイゾルデ」ではこの曲しか編曲していないそうだが、「第1幕への前奏曲」については、他の作曲家がいくつかピアノ編曲版を作曲している。
ここでは、聴いてみると分かるが(例えば、シプリアン・カツァリス / ワグネリアーナ:これはハンス・フォン・ビューローの編曲)、媚薬を飲んで愛し合うトリスタンとイゾルデの情景が、音楽によって描写されている。
つまり、「トリスタンとイゾルデ」における”毒”の部分が含まれている。
どうやら、東さんは、編曲と選曲という二重の手続きによって、ワーグナー作品の解毒処理を行ったようである。
このおかげで、「ワーグナー・アレルギー」を持っている人も、安心して聴くことが出来たことだろう