その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

須田努, 清水克行『現在を生きる日本史』(岩波現代文庫、2022)

2023-01-12 07:30:36 | 

年末年始の読書第3弾(最後)。図書館の新刊本コーナーで見つけた本でしたが、読み始めたら私の嗜好にジャストミートだったので本屋さんでも購入しました。

通史的な叙述とは異なり、縄文から現代までの各時代毎にテーマ(論点)設定がされ、テーマを通じて各時代の一面を理解するというアプローチ。大学の教養課程の日本史が書籍化されたようです。各章のテーマの掘り下げが適切な量と質で、アカデミックでない私のような単なる歴史好きにぴったりでした。

章立ては下記の目次をご覧いただければと思いますが、テーマがどれも興味を惹かれます。特に個人的に刺さったテーマは、大和撫子とは正反対の「平安時代の女性像」(第2講)、昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも描かれたリアル「鎌倉時代の武士像」(第3講)、「士農工商」間の身分間アップ&ダウン(第7講)、「経済格差と私慾の広がり」で幕府の支配が揺らいでいったプロセス(第9講)、沖縄史を通じて平和の内実を考える切り口(第13講)など。全ての講義を通じてではないですが、現代との連続性を感じるテーマが多く、タイトルともマッチします。

掘り下げのネタとなる史料や史跡も、私個人の好みや馴染みあるところも多く、身近に感じられました。戦国時代の領主と民衆の関係性は、訪れたことものある八王子城とその支配領域が取り上げられました(第5講)。また、土地勘がある山梨県での事件であった甲州騒動や居住歴もある東京多摩地域を中心に新選組幹部達が生まれ育った背景などは風土感覚もあるのでリアリティ持って読み進められました(第9講)。更に、落語界におけるレジェンド、三遊亭円朝が文明開化の教化策に乗って芸風が変わっていった指摘(第11講)など、今に繋がる落語史となって興味深いです。歴史教科書では感じることが難しい「へえ~」という驚きがありました。

年末年始に本書を読めたのは、嬉しい時間でした。歴史小説だけではない歴史に触れたいが、専門書はちょっという人にお勧めしたいです。文庫本であるにも関わらず約1800円という強気の価格設定なので、まずは図書館で借りるのが良いかと思います。

《目次》

第 0 講 縄文時代は「日本史」なのか―人類史のなかの環状列石
 1 縄文“JAPAN”?
 2 縄文はユートピアか?
 3 太陽の祭祀場―大湯環状列石
 4 環状列石とストーンサークルのアナロジー
 5 人類史の普遍と「日本史」

第 1 講 律令国家の理想と現実―巨大計画道路の謎
 1 発掘された古代道路
 2 計画道路の理想と現実
 3 地域社会と道路
 4 対外緊張と計画道路
 5 早熟な専制国家

第 2 講 平安朝の女性たち―うわなり打ちの誕生と婚姻制度
 1 控えめでお淑やかな日本女性?
 2 イニシエーションとしてのうわなり打ち
 3 古代・中世のうわなり打ち
 4 古代社会の婚姻制度
 5 正妻制の確立

第 3 講 武士の登場―武力の実態とその制御
 1 サムライはヒーローか?
 2 絵巻物にみる武士の実像
 3 敵討ちの論理と真理
 4 鎌倉幕府の成立

第 4 講 室町文化―「闘茶」体験記
 1 「闘茶」の時代
 2 現代に伝わる「闘茶」
 3 民俗行事から探る中世

第 5 講 戦国大名と百姓―戦乱のなかの民衆生活
 1 戦国の城の実像
 2 戦国大名の「国家」
 3 「禁制」と地域社会

第 6 講 江戸時代の村―鉄火裁判と神々の黄昏
 1 村と町の成熟
 2 古記録と伝承のなかの鉄火裁判
 3 自力の村
 4 中世から近世へ

第 7 講 士農工商?
 1 天正から寛永期
 2 寛文から享保期
 3 文化期以降

第 8 講 鎖国の内実―江戸時代の人びとの自他認識
 1 江戸時代の特異性
 2 日本型華夷意識の形成
 3 一八世紀の対外関係
 4 治者・知識人の朝鮮観
 5 民衆の朝鮮・朝鮮人観
 6 治者・知識人の中国観
 7 民衆の中国観
 8 武威の国という自負

第 9 講 暴力化する社会―経済格差と私慾の広がり
 1 天保の飢饉
 2 甲州騒動
 3 自衛する村
 4 農兵銃隊の結成
 5 豪農の剣術習得
 6 地域指導者の動向
 7 慶応二年世直し騒動

第 10 講 ペリー来航のショック―日本とは何かという問いかけ

 1 ロシアの接近と対外関係の見直し
 2 イギリスの接近と危機意識の形成
 3 ペリー来航による「武威」の揺らぎ
 4 会沢正志斎―「国体」と富国強兵
 5 横井小楠―「道」から富国強兵へ
 6 吉田松陰―「君臣上下一体」と「国体」

第 11 講 文明開化のなかの大衆芸能―松方デフレと三遊亭円朝
 1 国民国家の形成
 2 文明開化
 3 治安の回復と民衆の日常への介在
 4 三遊亭円朝の変化

第 12 講 植民地朝鮮・台湾から見た日本―アジアのなかで生きる現代
 1 朝鮮― 「ことごとく殺戮」せよと、「韓国併合」
 2 台湾―他民族の文化を破壊する暴力

第 13 講 「基地の島」の現実を知り、平和の内実を考える
 1 沖縄の歴史を知る
 2 「植民なき植民地」での文化破壊
 3 「方言論争」―沖縄の人びとの主体性
 4 沖縄戦―強制的動員と「集団自決」
 5 「基地の島」での現実
 6 コザのロック・ミュージシャン

第 14 講 現在を生きる日本史
 1 「危機の時代」の日本史
 2 歴史とは何か

 参考文献

 あとがき

 岩波現代文庫版あとがき

 関連年表


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