環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

原発は持続可能な社会の電源としてふさわしいか  ②原子力委員会の「原発」の特性と位置づけ

2012-06-05 18:33:02 | 原発/エネルギー/資源
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原発は持続可能な社会にふさわしいか  ②原子力委員会の「原発」の特性と位置づけ (2007年4月11日)
 
 それでは、日本の原子力委員会は「日本の原発」をどのように位置づけているのでしょうか。次の図は7年前の状況ですが、委員の方々は代わっても現在も「原発の位置づけ」は基本的には変わらないでしょう。(図2)


 原発推進派の議論も、反対派の議論も、そして、そのどちらにも属さない一般の人々の議論も、その出発点はここに集約されているのではないでしょうか。皆さんの議論の出発点はどこでしょうか。

 私は4月10日のブログ「まずは、皆さんへの質問」で、「21世紀の電源としての原発の論点」で私が考える8つの論点を示しました。私の「8つ論点」の設定が1995年で、日本の原子力委員会の「原発の特性と位置づけ」が5年後の2000年であることに注目してください。

 私自身の判断では、これまでの日本の原発論争の60%が(1)の安全性に関するもので、30%が(2)の核廃棄物の処理・処分に関するもの、残りの20%が(3)、(4)、(5)に関するものだと思います。

 原発論争の90%を占める「安全性」や「核廃棄物の処理・処分」の重要性については、原発推進派も反対派も、立場は違っても、全く同じ認識だと思います。ただ、認識が同じでも、立場によって、現在の対応が十分かどうかの評価が異なるのだと思います。

 そうであれば、日本の原発論争の90%を占める「安全性」と「核廃棄物の処理・処分」の問題がクリアされれば、日本の原発は拡大の方向でよいのか、というのが昨日の設問の主旨です。



原発は「持続可能な社会」の電源としてふさわしいか   ①まずは、皆さんへの質問

2012-06-04 20:18:32 | 原発/エネルギー/資源
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 何はともあれ、今日の朝日新聞の朝刊に掲載された「反原発論者は暗い現実を見て」と題する次の投書をご覧ください。


 この投書は「経済が衰退しても安全性さえ確保できればいいという考えは『幻想』にすぎないということを、反原発を支持する人々は銘記すべきだと思う。」と結ばれています。原発維持論者や“反原発という立場”をとらないが、「原発は不安だが,必要である(原発は必要悪)」と考えている多くの一般国民の考えが見事なまでに凝縮されていると思います。

 今回の投書を読んだときに、私がすぐ思い出したのが、私が6年前の 2006年に上梓した 『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』(朝日新聞社)でした。ここで取り上げた「持続可能な社会」、「持続可能な開発」、「持続可能な経済」などのテーマは2週間後にブラジルのリオデジャネイロで開催される「国連のリオ+20会議」の主要テーマとなっています。

次の図はこの本の「第5章 経済成長はいつまで持続可能なのか」の扉で、私は投書の方とは異なる視点から、結論として「自然科学者の明るくない未来予測に、耳を傾ける必要があるのではないか」と書きました。

 この投書の方がおっしゃるように、私も、一般の多くの反原発論者や一般の方々の「原発反対の論点」の多くは、原発の「安全性」に集約されていると思います。この点は東日本大震災という厳しい経験から考えても当然のことだと思います。

 昨年3月11日の過酷事故以来、マスメディアに加えて、ネット上でも将来の日本のエネルギー体系に原発が必要かどうか、原発の賛否を問う発言は最高潮に達しているかのようですが、それでも、日本の「原発議論の内容や論点そのもの」は昨年3月11日の過酷事故以前とあまり変わらないというのが私の印象です。

 そこで、今最も関心の高い原発論議に新しい視点を提供する目的で、「原発は持続可能な社会の電源としてふさわしいか」というテーマで、5年前にこのブログで掲げた「原発問題を考えるシリーズ全10回」(2007年4月10日から4月19日まで)を装いも新たに再掲することにしました。5年前の議論とは言え、現在の原発議論にも十分耐え得るものと思いますし、「原発の安全は確保されているのか」、「電力はほんとうに足りないのか」、「原発コストは他の電源と比較して安いのか」などの具体的な論点に振り回されない原発の本質を議論する新たな論点を提供できると考えるからです。

 さらに言えば、ここに再掲する5年前のブログ記事は、冒頭で紹介した投書に対する私の間接的な答えでもあります。投書者と私の考え方の決定的な相違は2030年およびそれ以降の社会に対するビジョンの相違です。投書者は「経済の現状維持および拡大」を前提に将来社会を考えているのに対し、私は「経済の現状維持および拡大」は持続不可能なので、「持続可能な社会のビジョン」を掲げ、それににふさわしいエネルギー体系を構築しなければならないと考えているからです。

 端的に言えば、投書者が「20世紀の原発論」を展開しているのに対し、私は「21世紀の原発論」をしていると言ってもよいでしょう。「日本の暗い現実」という点では投書者と私の基本認識は一致していますがその現実を解決し未来を明るい希望の持てる社会にするために投書者は原発復帰に期待するのに対し私は投書者とは反対の立場をとっていることになります。つまり、 私の環境論(今日の決断が明日の環境を決める)に従えば 、この岐路で、どちらの道を選択するかによって、未来の社会が原則的に決まってしまうと言うことです。



原発は持続可能な社会にふさわしいか  ①まずは、皆さんへの質問 (2007-04-10)
 
 古くて(とは言っても、1960年代頃からですが)、新しい原発議論が、再び高まってきました。3月30日に、全国の12の電力会社が発電所の不祥事に関する調査報告書を経済産業省原子力安全・保安院に提出し、不適切な事例を報告したことが、議論をいっそう高めているようです。ネット上では原子炉技術の専門家、評論家をはじめ、さまざまな方がそれぞれの立場からさまざまに発言しています。

 そこで、私も混乱している原発議論に参加します。原発に対する私の過去の発言などを織り交ぜながら、「私の環境論」に基づいて現在の私の原発に対する考えをお伝えして、皆さんと一緒にこの大切な問題を考えていきたいと思っています。しばらくおつきあいください。私の考えに対するコメントは大歓迎です。  

 今回は初回ですから、次のような問いかけから始めましょう。

あり得ないことではありますが、「仮に原発の安全性が100%保障され、核廃棄物も100%安全に処分できる夢の原発」が開発されたとしたら、日本のエネルギー体系は現在よりもさらに原発に依存する方向でよいのでしょうか、それともそれでもだめだというのでしょうか?」

 この疑問は原発賛成派の方、反対派の方、どっちとも決めかねる方、そんな分けかたに関係なく、原発議論を始める前に私が、是非とも皆さんに伺ってみたいと思っていたものです。

 この設問に答えるために、「これまで原発について議論されてきたこと」と、「原発が21世紀の電源としてふさわしいかを判断するために議論しておかねばならないこと」を、私の視点から挙げておきましょう。(図1)


 ここに掲げた論点は、原発の問題点として、電力会社の不祥事の問題は一切取り上げていません。私がここで議論したいことは原発の本質を議論するために、「原発が正常に稼働しており、原発に対する「安全性向上に向けたさまざまな技術開発」や「放射性廃棄物の処理・処分の技術開発」が常に着実に行われており、電力会社も真剣に対応している。情報公開は完全に確保され、電力会社の不祥事は一切ない。」という前提での議論です。 

 今回報告された原発の不祥事は、検査漏れ、データの改ざん、検査中の原子炉の事故、報告の義務違反などですが、これらに関してはネット上にたくさんの議論がありますので、あえてここでは触れないことにします。




5月5日、日本の原発がすべて稼働停止した日 42年前にタイムスリップしてみると・・・・・

2012-05-07 17:53:20 | 原発/エネルギー/資源
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  5月5日の朝日新聞朝刊が一面で、「全原発 きょう停止」のタイトルのもとに「国内で唯一運転している原子力発電所、北海道電力泊原発3号機(北海道泊村、出力91.2万キロワット)が5日深夜、発電を停止して定期検査に入る。これで国内の原発50基がすべて止まる。全原発が止まるのは1970年以来、42年ぶり。政府は電力危機を回避するため、関西電力大飯原発3、4号機の早期再稼働をめざしているが、めどは立っていない」と報じ、3面で「再稼働急ぎ、全原発停止 場当たり策に批判」「事故未解決解明のまま」「40年 高めた依存深めた不安」と題した解説記事を、28面で「達成感なき原発ゼロ」の見出しで、脱原発を訴えてきた市民活動の動きを報じています。

 4月の私のブログでは、私のこれまでの原発に対する基本的な考え方や社会との接点を知っていただくために、まず2000年(12年前)にタイムスリップ(新長計)しました。続いて、1996年(16年前)にタイムスリップ(賢人たちが語るエネルギービジョン エネルギーから21世紀を解く  原子力は21世紀の電源として望ましいのか?  1996年の第11回原子力円卓会議  原子力は21世紀の電源として望ましいのか? 1996年の円卓会議の結末は? )し、今日はさらに26年タイムスリップして、1970年(42年前)です。

 次の図をご覧ください。1970年と言えば、大阪万博が開催された年です。


 「人類の進歩と調和」(Progress and Harmony for Mankind)という共通のテーマの下に開催された大阪万博の会期は、1970年3月15日(日)から9月13日〈日〉までの183日でした。この間の入場者数は6421万8770人だったそうです。

●70年万博タイムスリップ | 独立行政法人 日本万国博覧会記念機構


 「科学技術の発展がバラ色の未来を約束する」と一般に考えられていた70年代の初めに、「人類の進歩と調和」という共通のテーマの下で提示されたスウェーデン、日本および米国の世界観は大きく異なっていました。スウェーデンは「環境問題」を、日本は「原子力」を、米国は「月の石」でした。

 42年後の今、改めてこれらの3カ国の当時の世界観を検証してみますと、スウェーデンが取り上げた「環境問題」はまさに21世紀最大の問題となっており、日本館の展示は日本産業の巨大さと成長ぶり、それをささえる日本のエネルギーの紹介でした。日本が大阪万博を通して誇示したバラ色の「原子力」は、その後、米国スリーマイル島原発事故(1979年3月28日 レベル5)、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年4月26日 レベル7)、そして昨年の東京電力福島第一原発事故(2011年3月11日 レベル7)の大事故を経て今やその技術の是非が国内で、そして国際社会で議論されています。

ネット上で見つけた興味深い関連記事
●原子力委員会 長計についてご意見を聴く会(第9回)議事録 ご意見を伺った方 小林 傳司 南山大学教授 

 この議事録は32ページにおよぶ長文ですが、その12ページに次のような興味深い記述がありました。
xxxxx
 ・・・・・それから、大学紛争、公害問題、皆さんご存じのとおり、それからアポロ11号、これは1969年の7月です。大阪万国博覧会、人類の進歩と調和、月の石が展示されました。未来学ブームです。唯一未来を謳歌しない展示をしていたパビリオンがありました。それはスカンジナビア館でありまして、そこでは公害問題の展示一色でした。ちょうどこの時期に入れかわるわけですね。意識が少しずつ変わり始める時期です。日本でも万博会場の外側では公害問題が議論されていました。そして、オイルショックが1973年です。そして、アメリカがテクノロジー アセスメントの部局をつくるのが1972年です。・・・

・・・・・大阪万博のときの電力は当時稼働を始めた若狭湾の原子力発電所によって全面的に供給され、それは未来の火として売物でありました今4割近くの電力を原子力発電所で賄いながら、万博のときに、2005年、愛知万博ですが、売物に絶対なりません。これをどう考えるかということになるわけです。・・・・・
xxxxx


●PDF] 淀野 隆 「私の万博体験」 ~モノとヒトの出会いのドラマ~この報告書も33ページにおよぶ長文ですが、7~8ページにかけて次のような興味深い記述があります。
xxxxx
・・・・・スカンジナビア館はこのスライドプロジェクター技術をフルに活用し、公害問題に真正面から取り組んだパビリオンだった。来場者は入り口で「紙のスクリーン」を渡される。その手に持ったスクリーンで、天井から投射される映像を受けて進む。中央から右がマイナスの世界、左がプラスの世界だった。公害に対する警告や生活のあり方が映像や文字で投射された。これも大阪万博のお客には「奇異」であり、「面白くない」ものだった。 殆どの来館者が素通りした仲の良いスカンジナビア館の広報官からある日相談を受けた。

「みんな素通りしてしまう。どうすれば良いだろう?」「そうだね出口の扉を閉めて中で滞在させるようにしたら……」とアイデアを出した。数日後に電話があり「駄目だ!今度はみんな出口の前に集まり出口が開くのを待っている…」これには私も絶句してしまった。
xxxxx


 では、米国が大阪万博で展示した「月の石」はその後どうなっているのでしょうか。次のような少々興味深い報道がありました。

 42年前の1970年の大阪万博の日本館やアメリカ館には長蛇の列ができたのですが、42年後の現在を、当時的確に予見したスカンジナビア館を訪れた入場者は多くありませんでした。この事実は3つの先進工業国の特徴を見事に表していると思います。スウェーデンの特徴は、他の2つの国と違って、中・長期的にも科学的視点に基づく社会的な合理性が高い国と言えると思います。

このブログ内の関連記事
1970年の大阪万博のスカンジナビア館(2007-03-18)

常に時代の最先端を歩むスウェーデン:上海万博の 「スウェーデン館」、大阪万博 「スカンジナビア館」(2010-09-25)






原子力は21世紀の電源として望ましいのか? 1996年の円卓会議の結末は?

2012-04-20 09:56:32 | 原発/エネルギー/資源
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 16年前の1996年9月18日に行われた「第11回原子力政策円卓会議」は、このシリーズの最終回でした。果たして、この円卓会議の結末はどうだったのでしょうか。この会議を終わるに当たってこのシリーズのモデレータを努められた茅陽一さんが、この会議の最後に、特に発言を求めて、このシリーズの反省と今後の展望についてお話になっておられます。

 議事録の全文が公開されていますので、ご興味のある方は直接議事録にアクセスすればよいのですが、茅さんのご発言はかなり、私の発言を意識されておられるようですので、その部分を引用します。

 公開されている議事録をご覧になればおわかりのように、議事録の記述は発言内容がそのまま収録されており、延々と長文が続きます。そこで、読みやすいように、私が公開されている記事録の原文に段落を入れる、改行する、重要な部分を強調するために文字に色をつけるなど、最小限の編集を行いましたことを付記します。

xxxxx

【小沢】そろそろ終わる時間ですので、最後に言いたいことは、ずっとこういう議論を繰 
り返していても、技術論をやっている範囲ではそんなに問題はないわけです。こ
れ、全然変わらないわけです。一番の議論は、何といっても、将来をどう見るか
という基本的な視点があるかないか。
つまり、おそらく原子力を推進する方々は、
このままいけるんだよと、経済拡大が。そういう前提にもし私も立つのだったら、
私も、原子力と化石燃料しかないと思うわけであります。

しかし、もしそうであれば、やはり原子力を推進する方は--ここにエネ研がや
ったものがあります。これを見ると、プルトニウムを使うにしても、どういう前
提をしているかよくわかりませんけれども、もう明らかにエネルギーは不足する
という下のものがあります。石炭を使えば、うまくどうにか必要な分だけおさま
るよと。ところが地球温暖化というような話を考えて、二酸化炭素を増やさない
ように、石炭の量を一定にしちゃうと。100年間一定にすると、もう追いつか
ないよというこういう話なわけであります。

そういうことを考えますと、少なくとも2050年の絵をかいてみようというこ
と、それから、原子力を進めようという方たちは、それでも結構だけども、そ
の場合には、プルトニウム社会の経済がどうなるかという絵をやっぱりかいてい
ただきたい。それを比較すると我々はどういうのが望ましいかということがわか
ると思うのであります。

私自身の原子力に対する考え方は、たとえ原発が100%安全であっても、そし
て原発の廃棄物が100%処理できる、つまり日本の原子力の議論の、私はその
2つで90%ぐらいは占めると思いますけれども、それが仮に完成されたとして
も原子力は無理なんじゃないかなと、個人的にはそう思うわけであります。


【鳥井】 先ほど小沢さんからご指摘があったように、そろそろ時間になっております。ま
だご議論が続くか、続けたいようなご議論が、結構中身の濃いご議論があったと
いうふう考えておりますが、討論のほうはこの辺で終了させていただきたいと思
います。

前回も申し上げましたとおり、本日まで11回にわたる円卓会議でさまざまな議
論をしてまいりました。モデレーターとしましては、本日を一区切りとして、こ
れまでの議論を整理して、円卓会議というか、円卓会議のモデレーターとしてと
いうか、その辺はまだはっきりはしていないわけですが、原子力委員会に対して
提言を行うことを考えております。その議論の整理の中で、円卓会議という名前
を使うかどうかはわかりませんが、今後ともこういう形での、議論の場といいま
すか、国政に対する市民の意見を述べる場という、そういったもののあり方につ
いても検討をしていきたいと考えております。

閉会に当たりまして、モデレーターの茅さんのほうから一言、発言をしたいとい
うふうに伺っておりますので、
では、お願いをいたします。

【茅】 私もモデレーターをやりまして、実はこういう4時間の会議というのはあまりない
んですが、4時間何も口をきかないで座っていたというのは多分ここ10年で初め
てじゃないかと思うんですけれども、その意味で大変欲求不満がたまりましたが、
最後ちょっとだけ言わせていただきます。

といっても、別に中身について言うというよりは、今、鳥井さんのおっしゃいまし
た点でございまして、11回いたしましたが、この先どうするかということにつき
ましては、今盛んに検討いたしております。

いろいろ実は問題がございまして、ここにおいでになった方何人かは、私が発言し
たときにお聞きになったかと思いますが、現在のこの円卓会議のやり方、それにつ
いてはやはり問題がかなりあるように思っております。円卓会議そのものは、今鳥
井さんがおっしゃいましたように、いろいろな方々の声を聞く。そしてそれを原子
力行政に反映する場としてはやはり非常に重要である。こういうことは私も思いま
すし、またそういう意見が大多数であると思っているのですけれども、ただ、現実
にこの形のものをただ続けていくということは物理的にも非常に難しい。例えば事
務局がつぶれてしまうということがございますし、そのほかいろんな問題点がござ
います。

そこで、この点を少し、やはり我々としてはいろいろ検討いたしまして、こういう
ふうに新しく組織直しをしたらどうかという提案を出したいということで、その辺
を今、盛んに議論をモデレーターの間でしております。

私、特に申し上げたかった一つのポイントは、今までいろんな方からご意見を伺っ
たんですが、中にはある程度詰まった議論もあるんですが、残念ながら議論か最後
まで詰め切れなかった。論点が結局十分見えなかったというものが幾つかあります。

今日も最後にたまたま小沢さんがおっしゃったことはかなりそれに近いのですけれ
ども、
つまり将来をどう見るか。その中に原子力をどういうふうな姿としてとらえ
るのかということなんですが
、今日も実はそのために前半があったはずなんですけ
れども、途中で方向が変わっちゃいましてその議論は途中になってしまった。前に
もこれ2回ほどやったことがあるんですが、結局そのときも同じになってしまった
んですね。

こういうふうに途中で終わってしまうというのはまことに残念なんで、やはりその
先をやって、今のような問題についてはきちんとした議論をしたい。プルトニウム
の社会というのをどういうふうに考えるのかという小沢さんのご指摘がありまし
たが、
同じように、今度逆に原子力が全くない社会のときには、じゃあどう考える
のか
ということもやらなきゃいけない。そういった議論が始まって、ぶつかり合っ
て、初めて論点が明確になると思うんですが、ぜひ次回以降の新しい、名前はわか
りませんけれども、円卓会議の続きでは、そういうことができるように何とかした
いとは考えております。


そんなことで、我々モデレーターはこのままやることには多分、少なくとも全員は
そうならないと全く思っておりますけれども、いずれにいたしましても、今まで皆
様方、ここには何人か何遍もおいでいただいた方もありますが、大変ご苦労をおか
けいたしました。我々としては、できるだけ皆様方の声を分析いたしまして、少し
でも前向きの提言を今回はしたいと思っております。

ただ、当然のことですけれども、この中には原子力そのものに対して反対の方も賛
成の方もおられますし、その意見を変えるということをこのままでおやりになる方
は、まずおられない。その中で何らかの意味で前向きの提言をするというのは、正
直言って非常に難しいんです。

その意味では、我々としても大変苦労はしているんですけれども、それこそ文殊の
知恵で、これはいい意味にとっていただきたいんですが何とか我々としては努力を
したいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。どうもありがとうござい
ました。


閉 会

【鳥井】 それでは、閉会に当たりまして、委員長代理の伊原さんのほうから一言ごあいさ
つをお願いします。

【伊原】 本日は長時間にわたりまして貴重なご意見、ご議論をいただきましてほんとにあ
りがとうございました。これまでに議論が十分尽くされなかった点を今日はテー
マにさせていただいたわけでございますけれども、たくさんの示唆に富んだご意
見をいただきまして、かなり深い議論にまでいけたと思っているわけでございま
す。

ただいま、モデレーターの鳥井さんと茅さんからご紹介がありましたとおり、こ
の円卓会議も本日で、まず一区切りになると。これまでの議論をモデレーターの
方々が整理してくださるということになっております。また、その中には、会議
を今後どういう形に持っていくかと、そういうことについてのご検討もいただく
わけでございます。

我々原子力委員会といたしましては、これまでご参加いただいた数多くの招へい
者の皆様方に改めて感謝を申し上げますとともに、モデレーターの皆様方にも大
変お世話になったわけでございますが、この議論をさらに整理をしていただきま
して、その会議の議論の反映された、そのご提言の内容を、これからの原子力政
策に的確に反映してまいると、こういうことを約束いたしたいと思います。

本日はまことにありがとうございました。

【鳥井】 それでは、11回並びにこの形の円卓会議をこれで終了させていただきます。
どうも皆さん、ありがとうございました。


--了--

xxxxx


このブログ内の関連記事
『成長の限界』の著者、メドウズ名誉教授に09年の日本国際賞を授与(2009-01-16)

あれから40年 2010年は混乱か?-その4   デニス・メドウズさん vs 茅陽一さん(2009-05-01) 

原子力は21世紀の電源として望ましいのか?  1996年の第11回原子力円卓会議

2012-04-18 11:42:03 | 原発/エネルギー/資源
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 昨日のブログでは「1996年の春」にタイムスリップし、社団法人日本ガス協会が発行する『Gas Epoch』誌の1996年春季号(第13号)の特集記事
「賢人が語るエネルギービジョン エネルギーから21世紀を解く」を紹介しました。

 今日はその年の秋に開催された「第11回原子力円卓会議」(1996年9月18日)に討論者として招聘された私が、この円卓会議のために会議事務局に提出した11ページの資料の一部を紹介します。

 まず、この円卓会議の全体像を掴んでいただくために、議事概要をご覧ください。

 私が事務局に提出した11ページの資料の構成は次のようです。

     原子力は21世紀の電源として望ましいのか?

1.原発の論点
2.「2050年」の世界
生物としての制約

技術面からの制約

我々の経験則からの制約

3.持続可能な社会
4.「持続可能な社会」が備えるべき最も基本的な必要条件
5.「持続可能な社会」の実現をめざす行動計画
6.「21世紀の社会」を支えるエネルギー体系
7.私の提案と結論

参考資料
表1 環境問題とは何か?   表2 先進工業国の天然資源の輸入依存率(%)   表3 主要金属資源の可採埋蔵量(1990)   表4 原発と持続可能な社会

図1 環境問題の三要素   図2 環境への人為的負荷   図3 生産と廃棄物の関係   図4 持続可能な社会:エネルギー体系の転換   図5 エネルギー政策の比較   図6 持続可能な社会の方向性    図7複雑な問題への対処の仕方の相違  図8ビジョンを具現化する手段

日本経済新聞 1996年3月18日  2010年、水不足深刻に 国連報告 改善なければ紛争も
朝日新聞   1996年8月7日 廃棄物量横ばい 産廃は2年余で満杯に 93年度

この11ページの資料から、p1~2およびp7~8を抜粋します。





 なお、この円卓会議に「招へい者が提出した資料」および「円卓会議の議事録の全文」をネット上で読むことができます。

原子力政策円卓会議(第11回)招へい者の方から提出のあった資料等

原子力政策円卓会議(第11回)議事録



 今日ここに紹介した内容は16年前の「原子力政策円卓会議」で、私が提起した「原子力は21世紀の電源として望ましいか」という議論の一端です。昨年3月11日に発生した東京電力福島第一原発の過酷事故後1年経過した現在でも、原子力エネルギーに対する私の考え方は、細かいことは別にして基本的には変わりません。

 原発が経済的な電源かどうか、安全性が確保されているかどうか、夏場の電力が足りるかどうかなどという周辺的な情報の比較を行うことによって「原子力エネルギーの優位性」を見つけようとするのではなく、もっと「原子力エネルギーに対する本質的な議論」を進める必要があります。現在進行中の「新原子力政策大綱」策定会議の主題として、私が16年前の原子力政策円卓会議で提起した「原子力は21世紀の電源として望ましいか」という命題を、最新のデータを用いて選ばれた分野の異なる専門家の間で真剣な議論を発展させ、市民にわかりやすい結論を導き出して欲しいと願っています。

このブログ内の関連記事
原発を考える ⑤ エネルギーの議論は「入口の議論」だけでなく「出口の議論」も同時に行う(2007-04-14)

 21世紀の原発の議論は、20世紀の原発議論と違って、原発の分野だけでいくら議論しても解決策はみつからないでしょう。要は、原発問題は他のエネルギー源と共にエネルギー全体の中で、資源問題や環境問題、経済のあり方、社会のあり方など、「21世紀の安心と安全な国づくり」 の問題として、国際的には「持続可能な社会」 の構築という21世紀前半の国のビジョンとのかかわりで議論すべきだと思います。




賢人たちが語るエネルギービジョン  エネルギーから21世紀を解く

2012-04-17 11:31:40 | 原発/エネルギー/資源
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 昨日のブログでは、2000年までタイムスリップしました。今日はさらに4年タイムスリップし、1996年の春にさかのぼってみます。

 社団法人日本ガス協会が発行する『Gas Epoch』というカラフルな雑誌があります。創刊4年目の1996年春季号(第13号)で、「賢人が語るエネルギービジョン エネルギーから21世紀を解く」という特集が組まれました。この特集の意図するところが「編集室」と題するコラムに記されていますので、次の図をご覧ください。この図の左に目を移しますと,編集顧問として,茅陽一さん大宅映子さんのお二人の名前があるのに興味を引かれます。

 次の図はこの雑誌の目次です。


この図を拡大するには、ここをクリック




上の図を拡大するには,ここをクリック


 この雑誌に“賢人”と称されて登場するのは9人です。おもしろいのは、この9人の“賢人”の中になぜか私が含まれていることです。昨日のブログ記事と同様に、私がこの特集記事に登場した経緯は定かではないのですが、今から15年前に「エネルギー問題」に対して私がどんな考えを持っていたかを思い出すよい機会ですので、他の8人の賢者の経歴とそれぞれのお考えと共に、当時の私の考えをお知らせして、皆さんのお役に立てばと考えています。


賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く①
エネルギー政策の基本は常に供給確保にある
●石油代替エネルギーの開発が課題となる
●成熟社会に相応しいエネルギーミックスを
●急がず慌てず地道に取り組もう
生田豊朗(いくたとよあき) 1925年神奈川県生まれ。
東京大学経済学部卒業。
通商産業省、科学技術庁などを経て、現在(財)日本エネルギー経済研究所理事長。
世界エネルギー会議(WEC)会長の他、総合エネルギー調査会など各種政府委員会や審議会の委員を歴任。
『エネルギーの窓から』「エネルギーの指定席」など著書多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く②
持続可能な国際エネルギー/ベストミックスを志向して
●目先の変化が永続するという神話の打破を
●地球環境問題と持続可能な発展
●持続可能な発展のためのエネルギー
深海博明(ふかみひろあき) 1935年東京生まれ。
慶應義塾大学経済学部卒業。同博士課程修了
慶応大学経済学部教授。
国際経済学、資源・エネルギー・環境経済学を専攻し、原子力委員会、石炭鉱業審議会、サマータイム制度懇談会などの各種委員会を努めて活躍中。
『資源・エネルギーこれからこうなる』『現代世界の構造』など著書多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く③
暮らしの根っこを見つめ直して、意識改革を
●人間は地球にやさしい存在ではない
●地球の許容量とどう折り合うのか
●日本は地球の恩恵を最大に受けている
●モノやカネでない楽しさの追求
大宅映子(おおやえいこ) 1941年東京都生まれ。
国際基督教大学社会科学科卒業。
税制調査会委員、衆議院議員選挙区画定審議会委員、行政改革委員会委員などを務め、東京証券取引所の理事も務める。
テレビ番組『あまから問答』などでも活躍。
『どう輝いて生きるか』『だから女は面白い』『私の雑草教育』など著書多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く④
トランス・アジア天然ガスパイプライン建設に向けて
●コージェネレーションの一層の普及が肝心
●天然ガスパイプラインは必要な社会資本だ
●中国や韓国などに遅れをとらぬように
平田 賢(ひらたまさる) 1931年東京都生まれ。
東京大学工学部卒業。
芝浦工業大学システム工学部教授。東京大学名誉教授。
日本機械学会会長。日本コージェネレーション研究会会長。広域天然ガスパイプライン研究会座長など多数の要職を歴任。
専門は熱、熱力学、熱流体工学、エネルギーシステム論。著書、論文多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑤
持続的発展に貢献する原子力開発利用の課題
●非炭素燃料への転換が必要
●炭酸ガスを放出しないエネルギー技術
●増殖炉の開発は必要 実用技術の確立を
近藤駿介(こんどうしゅんすけ) 1942年札幌生まれ。
東京大学工学部原子力工学科卒業。工学博士。
東京大学工学部教授。
原子力委員会専門委員、日本原子力学会理事など多数の役職を持ち、原子炉システム工学、原子炉安全工学などの分野で活躍中。
『エネルギィア』『私はなぜ原子力を選択するのか』など著書多数

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑥
二十一世紀の車社会を展望する
●二十一世紀も増加する運輸エネルギー
●低公害車の開発と普及が急務となる
●電気自動車はバッテリーの進歩が鍵
●天然ガス自動車はトラックやバスに向く
茅 陽一(かやよういち) 1934年東京都生まれ。
東京大学工学部電気工学科卒業。
慶應義塾大学教授、東京大学名誉教授。
ローマクラブ会員などの国際的活動、産業構造審議会環境部会長などの政府関係活動などを精力的に努める。
電気学会平成七年度功績賞などの受賞も多数。
エネルギー・環境を対象とするシステム工学が専門で、著書も多い。


賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑦
二十一世紀の環境とエネルギー問題を考える
●人類の歴史の中で自然の尊さは変わらない
●今日の決断と将来の問題
●持続可能な社会は落ち着いた社会だ
●持続可能な社会を支える新エネルギー体系を
小沢徳太郎(おざわとくたろう) 
環境・エネルギー教育創造・普及研究所代表。
1973年スウェーデン大使館に入館し、科学技術部で環境保護オブザーバー(環境・エネルギー担当)として活躍した。
現在、環境問題ジェネラリストとして講演や執筆活動で忙しい毎日を過ごす。
『いま、環境・エネルギー問題を考える』などの著書もある。




この図を拡大するには,ここをクリック

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑧
対談・木元教子vs柏木孝夫
エネルギー・環境問題は地球規模で考えよう
●エネルギー使用は増加。省エネルギーが不可欠です
●ごみ発電などの未利用エネルギーの活用
●二十一世紀に期待するエネルギー新技術
●エネルギー教育が大切。もっと議論が必要です。
●エネルギーの利用効率を上げることも大切
宇宙太陽発電など期待する技術は盛り沢山 二十一世紀は全員参加型エネルギー社会です
柏木孝夫(かしわぎ たかお) 1946年東京都生まれ。
東京工業大学卒業。
通産省、環境庁など各種エネルギー関係委員会で活躍中。
国連IPPC日本代表。
日本機械学会評議員など学会関連の仕事も多い。

エネルギー教育が大切ですね。賢いエネルギーの使い方を実践しましょう
木元教子(きもと のりこ)  北海道苫小牧生まれ。評論家。
立教大学卒業後、東京放送(TBS)入社。退社後、教育、女性、エネルギー、政治、など広い分野で評論、放送、講演活動を行っている。各審議会委員なども歴任。
『子離れ親離れのすすめ』『わたしの人生、今が一番』など著書多数。


 私を除く8人の方々が政府の様々な審議会委員を歴任し、それなりに政府の政策への影響力を持っているのに対し、残念ながら私はそうではありませんでした。インターネットの普及拡大につれて、この16年間にエネルギーや環境問題に対する情報量は飛躍的に増大しましたが、議論の内容にはあまり進展がないように思います。今回の私のメッセージはただ一つ、
「21世紀は持続可能な社会を構築するために、それに相応しいエネルギー体系をつくる」 
ということです。





新長計

2012-04-16 18:05:32 | 原発/エネルギー/資源
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 表題に掲げた“新長計”と言う言葉をご存じですか。日本の原子力問題の議論を長らくフォローして来た方にはお馴染みでしょうが、昨年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故後に「原発(原子力発電)」に興味をお持ちになった方々には馴染みの薄い言葉だと思います。

 新長計とは「新原子力開発利用長期計画」の略称で、その「第1回の原子力開発利用長期計画」が1956年に策定されました。5年後の61年に「第1回の長期計画」が改訂され、以後およそ5年ごとに改訂されてきました。

 2000年11月24日に原子力委員会で8回目の改正が決定された後、閣議で決定されました。2005年10月からは「原子力開発利用長期計画」は「原子力大綱」と名称を改め、現在に至っています。

 2010年12月より、原子力委員会に設置された「新大綱策定会議」において、2011年12月決定の予定で「新原子力政策大綱」の策定に関する議論が進められていましたが、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一発電所の事故を受け、その議論が中断していました。原子力委員会は2011年9月27日に検討の議論を再開し、今後1年を目途に新しい原子力政策大綱をとりまとめるとしています

 そこで、今日は2000年9月9日にタイムスリップします。この日は2000年11月24日の原子力委員会で「原子力開発利用会議の8回目の改正」が決定する前に「新長計を問う」(市民と長計策定会議メンバーとの討論会)と題して、NPO法人原子力資料情報室が主催する催しが中央大学駿河台記念館で開催されたからです。

 なにぶんにも12年前のことですので、どういう経緯で私がこの討論会の討論者を引き受けたのか定かではないのですが、たまたま古い資料を整理しておりましたら当時の配付資料(22ページ)が出てきましたので、ご紹介します。討論会自体は大変盛況だったと記憶しています。次の図をご覧ください。



 現時点で振り返るとこの12年間のある時期に、この討論会の討論者の森嶌さんは中央環境審議会会長であられ、近藤さんは原子力委員会委員長(現在も)、そして、鈴木さんは原子力安全委員会委員長の要職についておられました。


 次の図は会場で配布された22ページの資料集に収められた私のプレゼンテーションの要旨(7ページおよび8ページ)で、12年前のものではありますが、この12年間の日本の原子力関連の議論の推移に加えて、昨年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故以降の混乱した議論の方向性を見た時に、今後の議論の道筋を定める考え方として十分役に立つものだと思っています。



上の図の最後に記した「1996年頃まで頻繁に使われていた『核燃料リサイクル』という言葉はどこへ行ったのか?(小沢vs鈴木 1996年9月18日)の第11回原子力円卓会議」はここをクリックしてください。


 ご参考までに、この22ページの配付資料の内容を記しておきます。原子力委員会の活動はすべて“原子力推進”が前提になっているわけですから、とりわけ、p3~p6に掲載されている長期計画策定会議・分科会メンバーのリストをご覧になると、どのような方々がこれまで “原子力エネルギー推進のために関わってきたか” がおわかりいただけるでしょう。

p1 今月の話題 長期計画見直しが始まる  

p2 資料 原子力長期計画変遷

p3 長期計画策定会議・分科会メンバー
    長期計画策定会議構成員
    長期計画策定会議第一分科会構成委員(国民・社会と原子力)

p4 長期計画策定会議第二分科会構成委員(エネルギーとしての原子力利用)
    長期計画策定会議第三分科会構成委員(高速増殖炉関連技術の将来展開)

p5 長期計画策定会議第四分科会構成員(未来を拓く先端的研究開発)
    長期計画策定会議第五分科会構成員(国民生活に貢献する放射線利用)

p6 長期計画策定会議第六分科会構成員(新しい視点に立った国際的展開)                                                      六分科会の検討事項

 p7~p8 新長計を問う(市民と長計策定会議メンバーとの討論会) 環境問題スペシャリスト 小沢徳太郎

p9 毎日新聞 2000年5月31日 社説 「環境の世紀」 

p10 主要国の65歳以上人口の割合の推移、総人口の推移と予測、日本社会の今、“輸入概念”による環境対

p11 本質的な議論をしよう、日本の環境行政:最大の矛盾、持続可能な社会の概念、福祉社会を超えた「持続可能な社会」  

p12 なぜ、「持続可能な開発/社会」の構築なのか?、2050年までの主な制約要因、2050年の世界のマクロ指標、
     持続可能な社会:理念から行動へ

p13 持続可能な経済社会を構築する産業活動の方向性、持続可能な生産の条件、持続可能な経済/経済の持続的発展  

p14 21世紀の電源としての原発の論点、原発と持続可能な社会、「原発」に対するブルントラント報告の見解、地球温暖化
     対策:その大前提

p15 「合意形成」めぐり議論(原子力eye 1999年7月号から) 原子力推進国の方針へ(電気新聞1999年5月20日)
          
     以下省略
 p16 原子力長期計画の主な変更内容 他 
 p17 核燃料の流れ 
 p18 深刻なプルトニウム余剰 プルトニウム政策の転換が急務だ 
 p19 プルトニウム管理状況(kg、毎年末現在) 
 p20 日本のプルトニウム(実績と計画) 
 p21 崩壊 核燃料サイクルの輪 動かぬ「もんじゅ」に500億円 累積欠損1兆6000億円(朝日新聞 1999年12年16日) 
 p22 六カ所核燃料サイクル施設の概要(1999年12月末現在) 





「定期点検中の原発の再稼働」を巡るおびただしい提言合戦の中から一つだけ

2012-04-09 18:08:40 | 原発/エネルギー/資源
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 今日の朝日新聞の朝刊の一面トップは「大飯 来週にも安全宣言 政権 再稼働基準を決定」で、リードの部分は「野田政権は6日、定期検査で停止中の原発を再稼働させる条件となる安全対策の暫定基準を決めた。来週中にも関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町、計236万キロワット)の安全を宣言。電力の需給見通しなどを踏まえて再稼働の妥当性も判断した上で、枝野幸男経済産業省が地元を訪れて同意を求める。」となっています。
 

 グーグルに「原発再稼働を求める提言」と入れて検索をかけると、約633,000件がヒット、「原発再稼働中止を求める提言」と入れると、約525,000件がヒットします。あまりのヒット数の多さに深入りを避け、次の小さな記事だけを一つ考えてみましょう。

 この記事に出てくる「エネルギー・原子力政策懇談会」という団体に興味が湧きましたので、ネット上で検索してみました。

エネルギー・原子力政策懇談会

提言:福島からの再出発と日本の将来を支えるエネルギー政策のあり方

 この14項目を盛り込んだ提言の「前文に」中に、次のような記述があります。

xxxxx
エネルギー・原子力政策懇談会有志一同・発起人代表
同会会長 有馬 朗人

 「エネルギー・原子力政策懇談会」は、昨年3 月11 日の東日本大震災以降、我が国のエネルギー政策とりわけ原子力政策の混迷の中であるべき政策の方向を求めて、民間の学者や産業界の心ある人々が参集し検討を重ねてきたものである。(いわば民間エネルギー臨調)この間、福島第一原子力発電所事故の検証、放射線汚染の実状と対策、エネルギー安全保障、地球温暖化問題への影響、原子力安全規制のグローバルスタンダード化等をそれぞれの専門家を交え議論を重ねてきた。

・・・・・・・・・(略)

 資源の乏しい我が国にとって、国民生活の安定と安全の確保、産業の競争力維持のためにはエネルギーの安定供給は極めて重要な課題である。また、地球温暖化対策や環境問題についても、これまで世界をリードしてきた我が国としては背を向けることはできない。一時の感情論に流されることなく、科学的知見に基づき、あらゆる側面から冷静な議論が必要である

・・・・・・・・・(略)

 このような状況の中で、我が国のエネルギー政策について、われわれはあえて政府に速やかなる政策検討、決定を促しこの政策空白を回避するとともに、真に必要な政策論議を求めたい。このため、特に緊急を要する諸点につき、懇談会有志が意見をまとめ下記提言するものである。
xxxxx

 上の赤字の部分をご覧ください。日本を代表するような学者や経営者などの識者が集まっている会がそれぞれの専門家を招いて議論を重ねて来た結果が、「また、地球温暖化対策や環境問題についても、これまで世界をリードしてきた我が国としては背を向けることはできない。」とありますというのでは、あまりに事実の理解がお粗末です。日本はほんとうに、地球温暖化対策や環境問題でこれまで世界をリードしてきたのでしょうか。このような認識では、後に続く14項目の提言の意味合いが薄れるのではないでしょうか。

このブログ内の関連記事
原発を考える ⑤ エネルギーの議論は「入口の議論」だけでなく「出口の議論」も同時に行う(2007-04-14)

●大和総研 経営戦略研究レポート CSR(企業の社会的責任)とSRI(社会的責任投資)  日本は環境先進国なのか? 2008年3月10日
要約 世界銀行が2007年10月に公表した温暖化対策を評価した報告書において、日本は70カ国中62位、先進国では最下位という衝撃的な結果が示された。洞爺湖サミットで環境立国日本を標榜し、世界のリーダーシップをとるのであれば、日本は環境先進国、という思い込みを捨てて積極的かつ大胆な温暖化対策を早急に進める必要がある。

毎日新聞に掲載された「地球を考える会のフォーラム」(広告)に対する私のコメント(2009-11-06)

日経の「社長100人&500社アンケート」に示された日本企業のトップの環境認識(2010-10ー17)





改めて驚かされる「原発立地環境」の相違、欧米と日本 そして スウェーデン

2012-04-08 18:50:12 | 原発/エネルギー/資源
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 グーグルに「原発と地震」と入れて検索しますと、およそ49,000,000件がヒットします。今後もこの件数は日に日に増加することでしょう。ここまで情報の数が増えてくると、何が重要で、何が末梢的な周辺情報なのかを見極めるだけでくたびれてしまい、なかなか求める情報にたどり着くことが難しくなってきます。

 日本の状況をなるべくありのままに理解するためにこのブログでは、日本の状況をスウェーデンの事例と比較としながら考えています。長年、日本とスウェーデンを同時進行でウオッチしてきた結果、私がおそらく間違いないだろうという結論に達したことはスウェーデンは「予防志向の国」(政策の国)であり、日本は「治療志向の国」(対策の国)だということです。

 このことは両国を比較したときにほとんどすべての分野で観察されることです。昨年3月11日の東京電力福島第1原発事故以来この1年間、マスメディアやネットを賑わしている原発関連のニュースや議論も例外ではありません。このブログでも折に触れ、私の環境論の下で、両国の原発に対する私の考え方を記してきました。3月27日のブログ「25年前に原発格納容器のベント用にフィルターを設置した国と、“安全神話”でいまだ設置ゼロの国」もその具体例の一つです。

 今日は「原発問題の安全性」を考える上での大前提となる「原発の立地環境」の大きな相違を確認しておきましょう。次の図をご覧ください。

  この図は1903年から2001年までのおよそ100年間にマグニチュード7以上の大地震が起きた場所(赤い部分)に2001年現在の原発(原子力発電所)の位置(黒丸)をプロットした非常にわかりやすい図で朝日新聞に掲載されたものです。この図を提供された茂木清夫さんは地震予知連絡会会長を務めたかたでした。

 私はスウェーデンの原発の位置とカリフォルニア州の原発の位置を示すために、この図に「青のサークル」(スウェーデンの原発の位置)と「赤のサークル」(カリフォルニア州の原発の位置)加えました。欧米の原発のほとんどが大地震の発生地帯から離れて立地しているのに対し、日本の原発はまさに大地震発生地帯に立地しています。もちろん、スウェーデンの原発も過去100年の大地震発生地帯から相当離れていることがわかります。

 次の図は米国50州(面積:約9372万km2 人口:3億1500人)の位置関係を示す図です。

 一番左の中央部にカリフォルニア州があります。カリフォルニア州の面積は約42万km2で日本の面積(約37万km2)の約1.1倍です。地震発生地帯にあるカリフォルニア州には原発が2カ所(サンオレフレ原発とディアブロキャニオン原発)あります。それぞれの原発には2基ずつ原子炉があり、計4基が稼働しています。ですから、日本の原発立地はカリフォルニア州に54基の原子炉が立地しているようなイメージです。スウェーデンの面積は約45万km2ですから、日本の面積の1.2倍、そこに、2005年5月31日以降、3カ所の原発で計10基の原子炉が立地しています。ですから、簡単に言えばカリフォルニア州の面積に10基の原子炉が立地しているというイメージですね。

 このような原発立地環境の事実関係を知った上で、スウェーデンと日本の間には「予防志向の国」「治療志向の国」の考え方の相違があることを考えますと、安全神話の下で進められてきた日本の原発の置かれた状況がスウェーデンとの比較だけではなく、国際的に見てもいかに厳しいものかがおわかりいただけるでしょう。

このブログの関連記事
日高義樹のワシントン・リポート2010-02-14: 次世代エネルギーの主役は太陽? 原子力?(2010-02-17) 



25年前に原発格納容器のベント用にフィルターを設置した国と、“安全神話”でいまだ設置ゼロの国

2012-03-27 21:33:48 | 原発/エネルギー/資源
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 このブログを開設したのが2007年1月1日でしたから、今年は5年目に入ったことになります。ブログを初めて5日目の2007年1月5日に「予防志向の国」(政策の国)と「治療志向の国」(対策の国)というタイトルの記事を書きました。予防志向の国とはスウェーデンのことで、治療志向の国とは日本のことです。今日は、改めてこのことを考えてみます。格好の判断材料があるからです。

 まずは、今日の東京新聞の1面掲載の記事「フィルターいまだゼロ」と題する記事をご覧ください。


 続いて、2面の解説記事「廃棄フィルター未設置 世界の『常識』備えなし」をご覧ください。この記事の中では、フランスやスイスの原発では当たり前の設備になっていると書かれています。

 原発の排気筒につけるフィルターについては、このブログでも以前取り上げましたが、スウェーデンの原発ではすべての原子炉にこの種のフィルター「フィルトラ・システム(FILTRA SYSTEM)」あるいは「類似のFILTRA-MVSSおよび他の事故緩和対策」が1988末までに完了しました。設置の動機は1979年の米国スリーマイルズ島原発事故の教訓からです。まず、「FILTRA SYSTEM」がデンマークのコペンハーゲンに近いバルセベック原発の2基の原子炉に設置され、1985年より稼働し始めました。1989年までに残りの10基の原子炉すべてに「FILTRA-MVSS」が設置され、同時に他の事故緩和対策がとられました。

このブログ内の関連記事
東日本大震災:東電会長 廃炉認める(朝日新聞 朝刊)、放射能封じ 長期戦(朝日新聞 夕刊)(2011-03-31)

もし、福島第一原発の原子炉格納容器にスウェーデンの「フィルトラ・システム」が設置されていたら(2011-07-20)

毎日新聞 福島1号機 東電ベント不調報告(2011-07-22)

ネット上の関連記事から
諸外国の苛酷事故対策設備の状況(平成2年6月8日 原子力安全委員会)

発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて>(平成4年5月28日 原子力安全委員会)



 NHK&出版のメディアミックス誌『月刊 ウィークス』の1989年10月号に「理想国家スウェーデン 迷走する脱原発路線」というタイトルの取材記事(p136~141)が掲載しています。この記事のp141でスウエーデンの「フィルトラ・システム」を報告すると共に、「日本の原発安全神話」を象徴する次のようなエピソードが紹介されています。

xxxxx
 この装置も実は、対岸のコペンハーゲンの反原発運動を意識してつられたものだが、すでに、国内のすべての原子力発電所に設置済みだ。これに対して、日本では、 “原発の大事故は起きないことになっている”ため、このようなフィルター装置は現在稼働中の37基には一つも設置されていない。
 そう言えば、スウェーデンの取材中こんなことがあった。ある原子力発電所の幹部から「日本でもしチェルノブイリ級の原発事故が起きたら、どんな対策をとるのか」と質問されたのに対し、取材に同行した電気事業連合会のスタッフは、「原子炉の型が違うので、日本ではチェルノブイリのような大事故は起きない。従ってそうした対策は考えていない。可能性があるとしたら、ヒューマン・エラーが考えられるので、運転員の教育を通じて事故防止に努めている」と答えた。
 このあまりにも日本的な模範解答は、西側に通じにくかったと見えて、質問者は、「機械に絶対安全はありえない。人間だってミスしないとはかぎらない。それが人間だ」とつぶやいて、口をつぐんでしまった。
xxxxx

 この事例からも示唆されますように、両国の間には「原子炉の安全性に関する基本認識」に対して20年以上の開きがあることがわかります。 昨年3月11日に起きた東京電力福島第1原発の大事故はこの認識の相違を見事なまでに明らかにしました。  

     
 余談ですが、バルセベック原発の2基は1999年11月30日、2005年5月31日にそれぞれ閉鎖され、現在スウェーデンで稼働中の原子炉は10基となっています。


★「予防志向の国」と「治療志向の国」

 日本は「何か目に見えるような問題が起こってから対応を考える、つまり、病気になってから治療する」というパターンを繰り返してきた国です。一方、スウェーデンは人間に被害が出てから行動を起こしたのでは大変コストが高くなる、特に、社会全体のコストが非常に高くなるという認識から、「予防できることは予防しよう」という考えで行動してきた国です。

 日本の水俣病の経験からもわかるように、水俣病という公害病は50年以上前に起り、1956年に公式に認められた病気です。しかし、患者の方々は高齢となり、今なお、この病気で苦しんおられる方がおりますし、裁判でもなかなか決着がつきません。この間に支払われたお金は大変な額にのぼるでしょうが、それでも、一度失われた健康は修復不可能です。
 
 これまでに公表された様々な資料をながめてみますと、明らかに「治療よりも予防のほうが安上がりである」と言えると思います。今、私たちが直面している環境問題やエネルギー問題は治療志向の国では対応できない問題ですので、日本を「治療志向の国」から「予防志向の国」へ転換していかなければなりません。


このブログ内の関連記事
「治療的視点」と「予防的視点」:摩擦の少ない適正技術を(2007-06-12)

「不安でいっぱいだが、危機感が薄い国」 と 「危機感は強いが、不安は少ない国」(2011-07-10)



★現実主義の国「スウェーデン」

 スウェーデンは非常に現実的な国です。原理・原則を大切にし、当たり前のことを当たり前のこととして実行してきた国です。日本のように言葉が飛び交い、行動が先送りされがちな国とは違って、国民の合意の下に公的な力によって行動に移してきた国です。

 私はスウェーデンを真似するべきだとは思いません。真似をしようとしても、できるものではありません。スウェーデンにはスウェーデンの歴史と文化、それに福祉国家を築き、それを支えている土壌があります。同じように、日本にも日本の歴史と文化、土壌があります。異なる道を歩んできた両国が今、共通の環境問題やエネルギー問題に直面しているのです。

 両国は共に20世紀に世界が注目する経済的な成功を治めた国ではありました。ここで、両国が経済的に成功した原動力を考えてみましょう。いろいろな理由が考えられますが、私は両国の発展の原動力は同じではなく、むしろ正反対だったと思っています。キーワードは「不安」です。スウェーデンは公的な力によって、つまり社会システムによって、国民を不安から解放するために安心・安全・安定などを求めて経済的発展を進め、生活大国をつくり上げたのに対し、わが国は不安をてこに効率化・利便さをもとめて経済大国と呼ばれるまでに経済的発展をとげたのです。激しい「競争」が不安を作り出す大きな原因であることは容易に理解できるでしょう。

 両国は、環境問題やエネルギーの分野では「世界をリードし続けてきた国」と「そうではなかった国」でした。ですから、スウェーデンが、今、考え、実行に移していることを検討することにより、私たちはもう少し環境問題やエネルギー問題の本質に近づくことができるのではないかと思います。

 そのような考えから、私はこのブログを書いています。私の提言は「自分の国のことは自分たちで真剣に考えよう」ということです。環境問題やエネルギー問題は世界共通の、しかも、これまでにどの国も解決したことがない人類史上最初で最後の大問題だと思うからです。

 スウェーデンは日本では福祉国家として知られていますが、意外に理解されていないのはこの国が「現実主義の国」、現実に立脚した国であるということです。日本では、スウェーデンを“理想主義の国”と考える人がかなりいるようですが、私はそうは思いません。“理想主義の国”だと思っていると時々“スウェーデンは理想郷ではない”というよう興味深い投書に遭遇し、スウェーデンの別な面を知って、戸惑ったり、ある種の安堵感をおぼえる方もいらっしゃるようです。

「Reality is the Social Democrat’s worst enemy.」(現実は社民党の最大の敵である)」という故パルメ首相の言葉があります。社民党は1932年の結党以来、社会の問題点、つまり現実を絶えず先取りしながら、現実を改良し、現在の福祉国家を築き上げたのです。福祉ほど私たちの日常生活に密着した現実的な課題はないでしょう。

 現在の福祉国家の枠組みを作ったのは社民党の長期単独政権でしたが、2006年からは穏健党を中心とする中道右派の4党連立政権となりました。2010年9月19日の総選挙の結果、中道右派政権が2014年まで政権を続投することになりました。今後の中道右派政権の「福祉政策」と福祉国家を支える「エネルギー政策」をウオッチしていく必要があります。


 日本と違って、スウェーデンのエネルギー政策をウオッチするには、次の視点が重要です。
   
    スウェーデンのエネルギー政策の将来を理解するカギは政策の中にあるのではなく、政治の中にある。
    我々にとって、民主主義はどんなエネルギー政策よりも重要である。(1989年4月 T.R.イャールホルム) 




改めて、「原子力エネルギーの利用」について  これからの議論の参考に

2012-01-13 07:01:06 | 原発/エネルギー/資源
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 日本でも今年の春から夏にかけて電気エネルギー、とりわけ「原子力エネルギーの将来」について熱い議論が社会のさまざまな分野で戦わされることになるでしょう。「原発やそれに伴う放射性物質の影響」に関する書籍や雑誌が賛成/反対の双方の立場からこれまでのお馴染みの著者や新たに議論に参加してきた馴染みの薄い著者によって市場に提供され、すでに出尽くした感があり、事態は混沌とした状況をつくり出しています。

マスメデイアの報道も「昨年3月11日の東京電力福島第1原発事故とそれにまつわる様々な対応についての報道」から、「日本のエネルギー体系をこれからどうするべきか」という方向性を議論する中で「原子力エネルギーをどう扱うか」という議論が高まってくるでしょう。

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スウェーデンの「脱原発政策の歩み」⑲ 学校での原子力教育はこれだと思った!(2007-11-17)



 そこで、そのような議論が高まって来るであろうこれからに備えて、参考資料として、2009年10月6日に書いたブログを再掲します。このブログは東日本大震災の1年半前に書いたものですが、大震災があろうがなかろうが、先進国であろうが新興国であろうが、代替エネルギーがあろうがあるまいが、そして、人口の大小や経済規模の大小にかかわらず、「予防的視点」で原子力エネルギーを考えればこのようになると考えています。私の原子力エネルギーに対する考えは今のところ不変です。


★2009年10月8日のブログから

古くて、新しい原発議論が「気候変動問題」への対応との関連で、再び高まってきました。ここで議論しておきたいことは、「原子力ルネッサンス」などという巧みなネーミングのもとに国際的にも国内的にも推進の動きが高まってきたように見える「原発のCO2削減効果に対する有効性」についてです。今日は皆さんと一緒に、もう一度、この大切な問題を考えてみたいと思います。私の考えに対するコメントは大歓迎です。


原発依存を強める「日本」、 原発依存を抑制する「スウェーデン」

去る9月16日に発足した鳩山新政権が国際的に公約した「温室効果ガスを2020年までに90年比で25%削減する」という目標の達成計画の中に前政権が掲げた新規原発9基が含まれているかどうか現時点では不明ですが、民主党のマニフェストには「安全を第一として、国民の理解と信頼を得ながら、原子力利用について着実に取り組む」と書いてあります。

この機会に日本とスウェーデンの原子力エネルギーの利用に対する考え方の相違を確認しておきましょう。日本とスウェーデンでは原発の利用に対する考え方が正反対です。原発依存を強める「日本」に対して、原発依存を抑制する「スウェーデン」ということになります。なお、言うまでもないことですが、日本の、そして、スウェーデンの「原子力技術のレベルの高さ」や「最新の原発事情」について私よりも正確にご存じなのは、ほかでもない日本の原子力分野の専門家のはずです。


「原発の利用状況」 と 「温室効果ガスの排出量」 の関係

脱原発の方向性を定めた1980年3月のスウェーデンの「国民投票の結果」とその結果に基づく同年6月の「国会決議」以降の両国の原発の利用状況をまとめてみますと、次のようになります。



1980年から2008年の28年間に、スウェーデンが2基の原発を廃棄したのに対し、日本は33基の原発を増やしました。この間、スウェーデンは京都議定書の基準年である1990年以降漸次、温室効果ガス(このうちおよそ80%がCO2)を削減し、2007年の排出量は9%減でした。一方、日本では、1990年以降、温室効果ガス(このうち90%以上がCO2)の排出は増加傾向にあり、2007年には過去最悪(9%増)となりました。日本では90年以降15基もの原発を運転開始したにもかかわらず、CO2の排出量が増加している事実に注目して下さい。

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1970年代からCO2の削減努力を続けてきたスウェーデン(2009-06-02) 


ここで注意すべきは、原発は正常に稼働している限りは実質的に温室効果ガス(具体的にはCO2)を排出しない発電装置と見なしてもよいと思いますが、原発はCO2削減装置ではないことです。しかも、原発利用のフロント・エンド(ウランの採掘から原発建設完成・運転開始まで)から、運転期間を経て、LCAという手法を用いて調べてみますと、原発はフロント・エンドとバック・エンドの作業工程で相当量のCO2を排出することがわかっています。ですから、たとえ正常に稼働している原発が運転時に事実上CO2を排出しないと見なしても、「原発がクリーンな発電装置である」というのは誤りだと思います。

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原発を考える⑪CO2削減効果はない「原発」(2007-04-22) 


ですから、原発を建設しただけでは温室効果ガスは増加することはあっても、減少することはないのです。日本政府が「2020年の中期目標である温室効果ガスの排出量を15%削減する」ために新規原発を9基建設するのであればその9基の原発がうみだす電力量と同じかそれ以上の電力を生み出す既存の運転中の石炭火力発電所を止めるという政策手段を取らなければ、いくら原発を9基建設しても、つまり、原発で石炭火力を代替しない限りはCO2の大気中への排出量を削減することはできないのです。9基の原発の建設は、「CO2の発生を伴わない電力を既存の電力網に供給する」というだけの話です。

こうすることによって、CO2の削減は可能になるでしょうが、同時に私たちは、現在十分に解決できていない原発特有のマイナス面(安全性、核廃棄物、核拡散、労働者被曝、廃炉、核燃サイクルなどの放射線がかかわる問題や温排水などの難問)とそれに対処するための「膨大なコスト」をさらに抱え込むことになります。例えば一例ですが、

●核燃サイクル 総費用18兆8000億円(毎日新聞 2004-01-16)

●核燃サイクル 割高試算 経済性揺らぐ信頼(朝日新聞 2004-07-03)


「経済成長」と「温室効果ガスの排出量」の関係

2008年2月21日、スウェーデンのラインフェルト首相はEU議会で演説し、「スウェーデンは1990年(京都議定書の基準年)に比較して、2006年には44%の経済成長(GDP)を達成し、この間の温室効果ガスの排出量を9%削減した」と語りました。次の図が示しますように、「経済成長」と「温室効果ガスの削減」を見事に成功させたのです。



スウェーデンでは97年頃から「経済成長」と「温室効果ガス」(そのおよそ80%がCO2)排出量の推移が分かれ始めています。このことは、「経済成長」と「温室効果ガス排出量」のデカップリング(相関性の分離)が達成されたことを意味します。ここで重要なことは、温室効果ガスの削減が「原発や森林吸収や排出量取引のような日本が期待している手段ではない国内の努力によって(日本では“真水で”と表現します)達成されたもの」であることです。スウェーデンは今後も、独自の「気候変動防止戦略」を進めると共に、EUの一員としてEUの次の目標である2020年に向けてさらなる温室効果ガスの削減に努めることになります。

一方、日本は1986年頃から、「経済成長(GDP)」と「CO2の排出量」とが、これまた見事なまでの相関関係を示しています。さらに困ったことに、日本では今なお、二酸化炭素税の導入がままならないばかりでなく、すでに述べたように、2007年度の温室効果ガスの排出量が過去最悪(およそ9%増)となったことです。

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原発を考える⑤ エネルギーの議論は「入り口の議論」だけでなく、「出口の議論」も同時に行う(2007-04-14)  

経済、エネルギー、環境の関係(2007-02-17) 
これまでの日本の状況は増大する電力需要に対応するために、火力も、原子力も、水力を含めた自然エネルギーもすべて増加させてきたことは、このブログの電事連の統計資料でも明らかです。

ここでは火力発電を原子力で置き換えていませんですから、原発を増やしてもCO2を削減できないことは自明の理だと思います。



スウェーデンの原発に対する最近の動き

現時点(2009年10月現在)で、スウェーデンには日本のように新規原発をつくり続けていこうとするようなエネルギー政策はなく、 「原発依存を抑制する方向性(脱原発の方向性)に変わりはない」と断言できます。ただ、今年2月にスウェーデンの脱原発政策にちょっとした動きがありました。

それは、既存の10基の原発の寿命(国民投票が行われた1980年のときに想定されていた原発の技術的寿命は25年でしたが、現在では60年程度と見積もられているようです)が近づいてきた場合に混乱がおこらないよう、「現在の原発サイト(フォーシュマルク、オスカーシャム、リングハルスの3個所)に限って、そして既存の10基に限って更新(立て替え)が可能になるように、更新の道を開いておく」という政治的な決定がなされたことです。

1996年に21世紀のビジョン「緑の福祉国家」を掲げた比較第一党の社民党は現在、野党の立場にありますが、2001年の党綱領で「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)には原発は不要であることを明記しています。







「原発で『第3の大事故』が起きれば、・・・・・」

2011-12-31 22:23:41 | 原発/エネルギー/資源
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タイトルの「原発で『第3の大事故』が起きれば・・・・・」は、「代替エネルギー移行の準備がどうあろうと、脱原発の声が大きくなるだろう。そのためにも、廃止の準備は必要だ」と続きます。21年前の1990年9月19日の社民党大会で当時の社民党党首であったカールソン・スウェーデン首相がこのように演説したと当時の竹内敬二特派員が9月29日の朝日新聞夕刊で報じています。


このことは私の最初の本『いま、環境エネルギー問題を考える-現実主義の国スウエーデンを通して』(1992年 ダイヤモンド社)でとりあげました。 その「第3の大事故」がここ日本で今年3月11日に起きてしまいました。間違いなく、来年は日本でも、スウエーデンから20年遅れて、「脱原発の議論」が活発化するでしょう。

今年3月11日午後2時46分、東北の三陸沖でマグニチュード9.0の巨大地震が発生。その1時間後の津波で東京電力福島第一原発の非常用ディーゼル発電機が使用不能となり、1号機~3号機は炉心溶融(メルトダウン)するという深刻な事態となりました。

 この事故は、スウェーデンでも高い関心を持って報道されましたが、スウェーデンではドイツやスイス、イタリアとは違って、現在のエネルギー政策を大きく方向転換するような政治的な決定は行われていません。この事故のおよそ9 ヶ月前、2010 年6 月17 日の国会で、すでに原発に対する将来の方向性が政治的に明確化されていたからです。

 福島第一原発の事故によって明らかとなった日本固有の「電力政策の課題」(たとえば、電力の自由化や発送電分離)や「原子力行政の問題点」(たとえば、推進と規制の分離)などは、スウェーデンでは15 年以上前から対応策がとられています。

 環境省の原子力行政機関であるスウェーデン放射線安全機関(Swedish Radiation Safety Authority)は事故後の5 月12 日、スウェーデンの原発の安全性をいっそう高めるために、福島原発事故の経過を評価する組織を発足させました。バッテンファールなどの電力事業者もタスクフォースを組織しました。

 スウェーデンの原発の災害のシナリオには地震や津波はありません。しかし、原発は今後もスウェーデンの電源として存在するので、緊急時の原子炉冷却システムの維持は極めて重要です。今後、日本の安全基準は間違いなく強化されるでしょうから、スウェーデンは日本のこれからの技術的な対応を注意深く見守っています。


 ところで、話は変わりますが、「今年の漢字」は「絆」でした。日本漢字能力検定協会の「今年の漢字」は阪神大震災が起きた1995年の「震」に始まり、今年で17回目だそうです。私のブログは2007年1月1日に開設しました。これまでの4年間の「今年の漢字」は次のとおりです。

2007年 「偽」
2008年 「変」
2009年 「新」
2010年 「暑」

 今年12月12日に発表された2011年の「今年の漢字」は「絆」でした。


 このニュースを伝えた12月13日の朝日新聞は、「絆」の語源の元々の意味は 「マイナス・イメージが強かった」 という興味深い解説を載せています。


あと2時間ほどで今年は終わり、私が2000年に「2010年は混乱」と想定した2年目の新年を迎えることになります。特に、「原子力エネルギー」についての議論がどの程度活発化するかウオッチしていきましょう。良いお年を。



モンゴル大統領:核処分施設の交渉禁止

2011-09-21 22:25:00 | 原発/エネルギー/資源
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5月9日のブログで、毎日新聞のスクープ記事「モンゴルに核処分場計画」を紹介しましたが、9月16日の朝日新聞朝刊この記事に関連する次の記事が出ていました。


この記事は、モンゴル政府が5月9日の毎日新聞が報じた事実関係を否定したと報じていますが、この問題は日本の将来にとって非常に重要な問題ですので、今後のマスメディアの報道をフォローすることにしましょう。


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スウェーデンの「最新の原発政策」(2011-08-11)


ドイツのシーメンスが原発撤退、スウェーデンのABBは12年前に原発撤退

2011-09-20 21:11:01 | 原発/エネルギー/資源
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今朝の朝日新聞が、扱いは小さいけれども、次のような非常に興味深い記事を掲げています。



 私は今回のドイツのシーメンス社の行動は、12年前にスウェーデンのABB社がとった行動と軌を一にするものと理解しました。つまり、脱原発に向けて12年前にスウェーデンでおきたことが、今回ドイツでもおきたのです。次の図をご覧ください。


 グローバルな世界市場で、ドイツのシーメンス社やスウェーデンのABB社と競争している日本の原発関連企業(三菱、日立および東芝)は東日本大震災の後、将来に向けて今後どのような行動をとるのでしょうか。



長崎平和祈念式典:市長の「平和宣言」と総理大臣の「あいさつ」、スウェーデンの「最新の原発政策」

2011-08-11 22:19:12 | 原発/エネルギー/資源
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 8月9日は戦後66年の「長崎原爆の日」でした。平和公園で行われた平和祈念式典での田上富久・長崎市長の「平和宣言」と総理大臣の「あいさつ」から、「エネルギー政策の転換に関する部分」に注目し、将来の議論のための資料として保存しておきます。

長崎市長の平和宣言(全文)
たとえ長期間を要するとしても、より安全なエネルギーを基盤にする社会への転換を図るために、原子力にかわる再生可能エネルギーの開発を進めることが必要です。


総理大臣のあいさつ(全文)
そして、我が国のエネルギー政策についても、白紙からの見直しを進めています。私は、原子力については、これまでの安全確保の規制や体制の在り方について深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、「原発に依存しない社会」を目指していきます。
 

スウェーデンの「最新の原発政策」

 福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本が今後、どのようなエネルギー政策を展開していくか今のところまったく不明ですが、一方、スウェーデンでは、この事故とは関わりなく、事故以前に、将来のエネルギー政策の具体的な方向性が明らかになっています。

 この機会に改めて、スウェーデンの「最新の原発政策」をまとめておきましょう。

 2009年2月5日、ラインフェルト連立政権を支える与党中道右派の4党連合は「環境、競争力および長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策」と題する4党合意文書を発表しました。

 この合意文書の原発関連部分の要点は 「水力と原子力からなる現在の電力供給システム」に今後、第3の柱となるべき再生可能エネルギーを導入していく過程で、電力のほぼ半分近くを供給している既存の原発10基(このうち4基は70年代に運転開始、すでに40年近く稼働している)のいずれかの更新が将来必要になったときに備えて、更新の道を開く用意をすること」でした。

 合意文書には 「原子力利用期間を延長し、最大10基までという現在の限定枠の範囲で既存の原発サイトでのみ更新を許可する。これにより、現在稼働中の原子炉が技術的および経済的寿命に達したときに継続的に新設の炉で置き換えることができるようになる」と書かれています。
 
 スウェーデン国会は2010年6月17日、「2009年2月5日に与党中道右派4党の合意に基づく原発更新法案」賛成174票、反対172票のわずか2票差で可決しました。

 スウェーデンの最初の商業用原子炉は1972年運転開始のオスカーシャム1号機ですから、この原子炉が今後事故なく順調に稼働していけば、運転開始後50年(1980年の国民投票の時には、当時の原発の技術的な寿命は25年と見積もられていた。現在では原発の技術的寿命は60年程度とされている)、つまり更新時期を迎えるのは2020年頃なのです。

 ですから、今回の「部分的な原発政策の修正(変更)」という決定が直ちに原発の新設という行動に移されるわけではありませんし、日本の原子力推進派の人たちが期待するような「原子力ルネサンスだ!」、「地球温暖化対策のために原発を推進」などという考えで、スウェーデンは原発依存を今後さらに高めて行くわけでもなければ、ましてや、「原発を温暖化問題の解決策」として位置づけているわけでもないのです。

 2011年1月7日の朝日新聞の記事「米国 新資源で競争力下がる」の最後に、「ルネサンスとはいえ、米国ではもともと、実際に新設される原発は10基以下と見られており、当面は「延命」 でしのぐところが多そうだとあります。そうであれば、スウェーデンの今回の行動は、「原子力エネルギーに対する世界最先端の考えに基づく現実的な行動」と言えるかも知れません

 世界の原発の歴史を振り返れば、この分野でもスウェーデンの独自性は際立っています。西堂紀一郎/ジョン・グレイ著『原子力の奇跡』(日本工業新聞社 1993年2月発行)によれば「軽水炉技術を独自に開発したのはアメリカ、ソ連、スウェーデンの3カ国である。ドイツ、フランス、日本、そしてイギリス等の先進工業国が軽水炉の導入に当たり、アメリカから技術導入したのに対し、スウェーデンは果敢にも独自開発路線を選び、最初から自分の力で自由世界で唯一アメリカと競合する同じ技術を開発し、商業化に成功した。」と書かれています。つまり、スウェーデンは 「原発先進国」であり、「脱原発先進国」でもあるのです。

 スウェーデンが80年6月に「脱原発」の方針を打ち出してから30年が経過しました。スウェーデンの「エネルギー体系修正のための計画」を構成する「原発の段階的廃止をめざす電力の供給体系の修正計画」は当初の予定通り進んできたとは言い難いものでしたが、 「原発から排出される放射性廃棄物の処分計画」は着実に進んでおり、この分野でもスウェーデンは世界の最先端にあります。

 日本の原発推進派も、原発反対あるいは脱原発派もスウェーデンの「原発の廃止の動向」には興味を示します。この観点から見れば、この30年間で稼働していた12基の原子炉のうち2基を廃棄したに過ぎないのですから、「2010年までに12基の原子炉すべてを廃棄する」という1980年の当初の目標からすれば大幅な後退であることは間違いないでしょう。しかし、忘れてはならないことは、「脱原発」という政治決断により投じられた予算と企業の努力により「省エネルギー」や「熱利用の分野」では大きな成果がありました。特に「熱利用の技術開発の分野」ではスウェーデンはまさに世界の最先端にあります。


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