海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「佐藤優のウチナー評論を読む」 2

2010-06-27 15:56:20 | 米軍・自衛隊・基地問題
 さらに佐藤氏は沖縄の〈革新〉による〈保守〉への厳しい姿勢が、〈結果としてそれが東京の政治エリートに事実上の白紙委任状を与え、「平成の琉球処分」の環境整備をしてしまう〉とまで書いている。辺野古への「県内移設」を強行しようとしている東京の〈政治エリート〉の問題は棚に上げて、まるで問題は沖縄の〈革新〉側にあるかのような書きぶりだ。佐藤氏の評論を読むと、仲井真知事を批判するのも利敵行為であるかのようだが、県知事の発言や判断は県民生活に大きな影響与えるのだから、問題があると感じたら批判するのは当たり前のことではないか。
 佐藤氏は〈あなたたちの仲井真弘多知事対する評価は厳しすぎる〉としてその例を挙げ、4・25県民大会における仲井真知事の「差別に誓い印象すら持つ」という発言に〈革新〉側から批判があったかのように書いている。いったい〈革新〉の誰がそのような批判をやっているのだろうか。私は目にしたことがないので教えてほしいものだ。仮にそのような批判があったとしてもごく一部だろう。現在、沖縄の〈革新〉に限らず、仲井真知事に向けられている批判の主なものは、知事が政府に対して「県内移設」反対の姿勢を明確にしないことにある。 
 「県内移設」は難しいと思いますよ、県民意思からすると不可能に近い、仲井真知事の発言はこのように情勢分析を語ることに終始し、私は「県内移設」に反対します、という自らの主体的な意思表明は避け続けている。その態度は、海にも陸にも新しい基地は造らせない、とする稲嶺進名護市長の態度とは際だって対照的だ。このような仲井真知事の曖昧な態度が、世論が変われば沖縄の知事はいずれ「県内移設」を受け入れる、という印象を政府や全国の人々に与えている。
 実際、仲井真知事がこのように態度を曖昧にし続けるのは、自公政権下で進められてきた辺野古「移設」=新基地建設に基本的に賛成し、沖合移動という修正を求めてきたことから、今でも明確に転換したわけではないことを示していよう。民主党連立政権が辺野古「回帰」を遂げた今日、県民世論が変化すれば受け入れてもいい、というのが仲井真知事の本音ではないのか。当面は態度を曖昧にしたまま県民世論の沈静化を待ち、11月の県知事選挙での再選を目ざすつもりだろう。そして、再選を成し遂げた場合には、8月末に示される位置や工法を受けて政府と「修正」論議を行い、県民世論の動向を見て受け入れを決める、という腹づもりではないのか。
 このようなことを考えれば、「県内移設」反対を明確に意思表示するよう仲井真知事に求め、曖昧な態度を批判するのは〈革新〉側からすれば当然のことだ。その程度のことが分からない佐藤氏ではあるまい。むしろ分かっているからこそ、仲井真知事の主たる問題ではなく、4・25県民大会における〈差別〉をめぐる発言への〈革新〉の批判なるものを前面に出し、〈仲井真知事を非難して、そこから何か沖縄にとって利益が見出されるのだろうか〉と強調し、仲井真知事に対する批判全般を封じ込めようとしているように私には見える。
 佐藤氏は〈非難〉や〈利益〉という用語を使っているが、仲井真知事に対して行うべきは〈非難〉ではなく批判であるし、それが必要なのは〈沖縄にとっての利益〉という損得勘定ではなく、普天間基地の「県内移設」を阻止するために、知事の明確な態度表明が具体的かつ現実的に必要であるからだ。〈「沖縄の敵以外は、すべてわれわれの味方である」という原則で沖縄県内の沖縄人が団結してほしい〉と佐藤氏は書いているが、こんな政治技術主義丸出しの〈団結〉のために仲井真知事への批判を止めたら、「県内移設」を強行したい政府は大喜びするだろう。それこそ辺野古「移設」=新基地建設を強行するための〈環境整備〉を図るものだ。

 11月に行われる県知事選挙に向けて、宜野湾市の伊波洋一市長が立候補の意思があることを表明している。政府からすれば最も知事になってほしくない人物が伊波氏であり、できれば辺野古「移設」修正案を唱えてきた〈保守〉の仲井真知事の再選を希望しているだろう。これから7月11日の参議院選挙や9月の名護市議会選挙、11月の県知事選挙と沖縄では普天間基地問題の動向を左右する重要な選挙が連続する。そういう状況を前にして沖縄の〈革新〉に〈あなたたちの仲井真弘多知事に対する評価は、厳しすぎる〉と説教をたれ、〈革新〉よる知事批判を封じ込めようとする佐藤氏の評論は、菅政権や外務・防衛官僚を喜ばせるものでしかない。
 それはまた、普天間基地「県内移設」反対の運動を〈保守〉主導の下で行わせ、その枠内にとどめようとするものでもある。国家の統合強化を最重視する佐藤氏からすれば、沖縄の運動がこれ以上高揚し、日米安保条約の否定や沖縄独立を待望する声が多くなって、日本という国家の安定が揺らぐことを防止したいのであろう。

 佐藤氏は「平成の琉球処分」という言葉をくり返し使っているが、それに対しても注意が必要だ。これまで「第二の琉球処分」、「第三の琉球処分」という言い方はあったが、「昭和の琉球処分」「平成の琉球処分」という言い方をする者は沖縄にはいなかった。意図的に「平成」という元号と「琉球処分」をつなぎ合わせ、天皇を中心とした時間軸の中に沖縄の歴史的・現在的事件を組み込んでいこうという作為が感じられてならない。ちなみに佐藤氏は2009年2月7日付琉球新報掲載の「ウチナー評論」56回では以下のように書いている。

 〈琉球処分などというのは、きわめて不愉快な用語だ。琉球王国は、東京から処分されるような悪事など何もしていない〉

 そういう認識を持っている用語をわざわざ「平成の琉球処分」などと繰り返し使うこと自体おかしな話だ。
 佐藤氏は〈沖縄人としての本物の矜持を持とうではないか〉だの、〈保守陣営も革新陣営も、もっと深く沖縄を愛そうではないか〉などと書いているが、よくもこういう言葉を、沖縄で生まれ育ち、何十年も沖縄で生きてきた琉球新報の大多数の読者に向かって書けるものだ。沖縄人としての矜持の持ち方や沖縄の愛し方は、人それぞれ多様であっていい。佐藤氏が偉そうに沖縄に住む沖縄人に教えさとす類の問題ではない。夜郎自大も大概にしてもらいたいものだ。


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1 コメント

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あんやさ!伊波知事誕生支持! (なさき)
2010-06-27 18:39:15
うんじゅが かちょーるぐとぅ、やいびーさ!
佐藤やー、うちなーんちゅぬ撹乱そーいびん!
ぐすーよ、だまさってぃ、ないびらん!

伊波知事誕生応援そーいびん!
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