海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

日米地位協定の密約問題

2010-03-25 23:34:52 | 米軍・自衛隊・基地問題
 『サンデー毎日』2010年3月7・14・21日号の三回にわたって、ジャーナリスト吉田敏浩氏の〈日米地位協定という「密約」〉が連載された。同連載で吉田氏が指摘したのは次の二点である。

 ①民事裁判権管轄の密約

 ②米兵犯罪裁判権を実質的に放棄する密約
 
 ①について吉田氏は、〈在日米軍の事故や米兵犯罪の被害者が損害賠償を求める民事裁判で〉〈「機密に属する場合」「合衆国の利益を害すると認められる場合」、米軍は事実上、事件・事故の真相究明や米軍人の責任追及に必要な情報を裁判所に提供しない仕組みになっている〉(『サンデー毎日』2010年3月7日号・131ページ)と指摘する。部外秘となっている『日米行政協定に伴う民事及び刑事特別法関係資料』(最高裁判所事務総局編集・発行)には上記の情報提供に関する事柄が載っているが、外務省がホームページで公表している「日米合同委員会合意」の「民事裁判権に関する事項」(1952年7月)では〈すっぽり抜け落ちている〉(同132ページ)という。吉田氏は〈米軍に有利な部分を意図的に削ったうえで公表されたのではないだろうか〉(同132ページ)と指摘している。
 また、04年8月13日に米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落した際、〈米軍が一方的に現場を封鎖し、日本側関係者を排除して機体を回収〉した〈強引な行動の裏には、「米軍機事故現場における措置」の密約があると想定される〉(同133ページ)とも指摘している。

 ②について吉田氏は、日本にとって著しく重要と考えられる事件以外は、日本が第1次裁判権を放棄することが、〈1953年10月28日、日米合同委員会裁判権分科委員会刑事部会の日本側部会長の声明として非公開議事録に記された〉(『サンデー毎日』2010年3月14日号・50ページ)とする新原昭治氏(国際問題研究者)の指摘を紹介している。その上で吉田氏は「法務省検察統計」(08年)を分析し、全国の一般の刑法犯に比べて〈米兵犯罪の刑法犯の起訴率の方が極めて低い〉(同51ページ)ことを明らかにしている。
 また、米兵による事件や事故で、公務中か否かが曖昧な場合の身柄の引き渡しについて、日米地位協定の実施に伴う刑事特別法よりも非公開の〈日米合同委員会の「合意事項」が優先されている〉(同52ページ)とし、米軍に有利な状況を作り出す密約の存在を指摘している。
 これに関しては08年5月に法務省が国立国会図書館に対し、日米合同委員会「合意事項」の当該資料を非公開にするよう要請。一時閲覧禁止となった後、黒塗りになって部分閲覧となっている問題も指摘している。
 以上の吉田氏が指摘する日米地位協定の密約は、米軍基地が所在する沖縄県や神奈川県などにとっては市民の日常生活を脅かす深刻な問題だが、これら一部地域だけの問題でないことは言うまでもない。

 去る3月9日に日米の密約に関する外務省調査結果と有識者委員会の検証報告書が公表され、12日には財務省から沖縄返還に際しての財務上の日米密約に関する調査結果が公表された。その後、機密文書廃棄の責任追及や公文書の情報公開のあり方、今後の核持ち込みの可能性と非核三原則の問題などが論じられている。しかし、密約それ自体の追及に関しては、政府はこのまま幕引きを図りそうな動きが見える。
 だが、密約は今回取り上げられた4件だけとは限らない。日米間に他に密約はなかったのか、もっと検証する必要があるし、吉田氏が指摘している日米地位協定の密約に関しても、政府は引き続き事実を検証して関連する資料の公開を行うべきだ。
 加えて、民主党を中心とする連立政権下において、日米間で新たな密約が交わされないか、市民やメディアは監視しなければならない。表に出せば大規模な反対運動が起こることを予測し、それを回避するために市民を欺いて密約が交わされた過去の事例を踏まえれば、現在進められている普天間基地の「移設」作業で、「県内移設」に反対する沖縄県民を欺く新たな密約が交わされないとは限らないのだ。

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