海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

島袋名護市長の声明のまやかし

2009-11-12 16:03:15 | 米軍・自衛隊・基地問題
 11月12日付琉球新報朝刊の一面トップは〈普天移設 自民県連「県外」要求へ 党本部に方針提示 「辺野古」から転換〉という見出しが並ぶ記事が掲載されている。自民党沖縄県連の翁長政俊幹事長が11日に党本部で石破茂政調会長と会談し、13日の日米首脳会談で普天間基地について明確な政府方針が示されない場合には、県外移設要求も検討すると述べたという。
 その横には〈国「県外」なら名護市も容認 市長、きょう表明〉という見出しの記事が並んでいる。お昼の県内テレビのニュースや県内紙の電子版なども併せて見ると、島袋吉和名護市長が今日の午前11時に記者会見を開き、名護市は普天間基地移設について「県の受け入れ要請に対して苦渋の選択をしたもので、誘致ではない」としたうえで、「政府から危険性がより早期に解決できる代替案が速やかに提示されるのであれば、これを歓迎する」と述べたという。
 ニュースに接して市長の声明文が載っているかと思い、名護市役所のホームページを開いたが見あたらなかった。それで市役所まで行って声明文のコピーをもらってきた。関心のある人も多いと思うので、参考までに以下に全文を紹介したい。

                                             平成21年11月12日(木)
               普天間飛行場の移設に係る名護市の基本的考え方

 平成7年9月の米兵による少女暴行事件に端を発し、これに抗議する8万5千人規模の県民大会が開催されました。
 日米両政府は、沖縄における米軍基地の過重負担を軽減するための取り組みを始め、平成8年4月の橋本総理大臣とモンデール駐日大使との会談において、宜野湾市街地の中心部に位置し、大変危険な状態にある普天間飛行場の全面返還が合意されたものであります。
 米軍基地が、わが国の安全保障、あるいはアジア及び世界の平和維持のため不可欠であるのであれば、基地の負担は日本国民が等しく受けるべきものであります。
 しかしながらそのような国民的合意の形成が無く、また国内分散移転の可能性も無い中で、平成11年12月名護市は、沖縄県知事からの移設受け入れ要請に対し、苦渋の選択をしたものであり、これを誘致したものではありません。
 平成16年8月、普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学構内に普天間基地所属のCH-53D型米海兵隊ヘリコプターが墜落、炎上する事故が発生し、危惧されていたことが現実のものとなり、その危険性は、「極めて深刻で一刻の猶予も出来ない現状にある」と改めて認識されました。
 このような状況から普天間飛行場の移設について、早期の実現を図ることが重要であるとの考えから、防衛庁長官と基本合意書を締結するなど、真摯に対応してきたところであります。
 しかしながら昨今の新政権(政府)の状況は、苦渋の選択をしてきた地元住民の意向を無に帰すかのごとく、普天間飛行場移設問題そのものに対して、具体的方針が何ら示されないことは、誠に遺憾であると考えております。
 私は、政府から、普天間飛行場の危険性がより早期に解決できる代替案が、速やかに提示されるのであれば、これを歓迎するものであり、普天間飛行場代替施設を誘致したものではないことを改めて表明するものであります。

 平成21年11月12日
                                              名護市長 島袋 吉和

 一読すれば明らかなように、島袋市長が表明した「普天間飛行場の移設に係る基本的考え方」の内容は、「県外移設」容認の意思を明らかにしたものでもなければ、辺野古沿岸部に建設が進められようとしている現行案を否定するものでもない。琉球新報電子版には〈政府が県外移設を打ち出せば容認する考えを表明した〉とあるが、声明文を読む限りそう断定することはできない。声明文中にある〈普天間飛行場の危険性がより早期に解決できる代替案〉という表現は多義的であり、〈県外移設〉を拒否する理由にもなり得る。「県外移設」では「危険性がより早期に解決でき」ないと判断した、と言えばそれまでだ。実際、「県外移設」で現行案を白紙に戻すと解決が遅れる、という意見はすでにある。
 島袋市長が声明文で強調しているのは、名護市が平成11年12月に普天間基地の移設受け入れをしたのは〈沖縄県知事からの移設受け入れ要請に対し、苦渋の選択をしたものであり〉名護市が自ら〈誘致したものではない〉ということだ。姑息にも10年前の故岸本市長時代の受け入れを持ち出し、V字型滑走路と港湾施設を併せ持つ巨大な新基地建設を受け入れた自らの〈選択〉は、〈防衛庁長官と基本合意書を締結するなど〉と曖昧にした上で、あたかも自分は積極的に〈誘致〉していないかのように弁明している。
 しかし、それはまったくのまやかしにすぎない。2014年に辺野古に新基地を完成するというスケジュールに合わせて、キャンプ・シュワブ基地と一体化した久辺三区の廃水処理施設建設の調査費を市議会で強引に可決させたのは誰だったのか。また、一般社団法人キャンプ・シュワブ・サポート事業協会(CSS)の設立に向けて、中心となって動いたのは誰だったのか。数千億円という新基地利権の分け前にあずかろうと、これまで辺野古新基地建設に向けて積極的に動いてきた島袋市長の行為を、市民が忘れるとでも思っているのだろうか。
 島袋市長がこの時期に緊急に声明を行うのは、言うまでもなく来年1月に迫った名護市長選挙を意識してのことだ。現在、市長選挙には現職の島袋市長と稲嶺進氏、比嘉靖氏の三名が立候補を予定している。8月の衆議院選挙の結果や「国外・県外移設」支持が7割近いマスコミの世論調査の結果、11・8県民大会の様子、訪米して「県内移設容認」発言をした仲井真知事への批判の強さなどから、島袋市長は焦りと危機感を募らせているのだろう。自らが辺野古新基地建設・県内「移設」を推進してきたことをごまかし、あたかも「県外移設」を考えているかのようにカモフラージュしたいようだ。
 だが、化けの皮はすぐに剥がれる。これから多くの市民や団体が市長のまやかしを追及するだろう。〈普天間飛行場代替施設を誘致したものではないことを改めて表明するものであります〉というのなら、島袋市長は辺野古新基地建設合意を白紙撤回すべきだ。辺野古への新基地建設および米軍基地の県内移設に反対するのか否か。そのことを曖昧にしたまま、目先の選挙対策のために「県外移設」容認に転換したかのような欺瞞的ポーズを、島袋市長や自民党県連がとることを許してはならない。

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2 コメント

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Unknown (名護市民)
2009-11-12 19:14:39
まったく市民を欺いていますよね。本当に「県外移設」を言うのなら、市長自ら行動で示してほしいものです。嘉手納町民大会や金武町で行われたシンポジウムに倣って自治体の長として市民の先頭に立って、取り組みを進めるべきです。「意見表明」については臨時議会でも開いて議員の皆さんにもしっかりと追求してもらいたいです。
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嘉手納町民大会 (キー坊)
2009-11-13 08:28:25
嘉手納町は、既に250億円の補助金と引き替えに沖縄防衛局という米軍基地押し付け機関を誘致しています。町長としては、たっぷり貰ったからもういいよ、という意思表示です。
ここの町長は、県民大会には出席しなかったです。
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