海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

沖縄における日米両軍の強化を狙う者たち

2010-11-03 20:34:04 | 米軍・自衛隊・基地問題
 10月29日に「オスプレイ沖縄配備と県知事選挙」という文章を載せた。その中で、春原剛著『同盟変貌 日米一体化の光と影』から2005年10月当時の大野功統防衛庁長官とリチャード・ローレス米国防副次官のやりとりを引用し、オスプレイ配備のために辺野古新基地の滑走路が1800メートルに延長されたことを紹介した。その当時の民主党代表は現在外務大臣の前原誠司氏であった。その前原代表が当時どのような発言をしていたか。元防衛事務次官の守屋武昌氏が著書『「普天間」交渉秘録』(新潮社)で興味深い事実を明らかにしている。

〈十月十三日、私はローレス副次官と話し合いを持つことが決まっていた。これは当初予定になかった会談だったが、私から申し入れた。約束の時間は午前十時三十分だった。場所は六本木の全日空ホテル(現・ANAインターコンチネンタルホテル東京)、三十七階の「アリエスルーム」を防衛庁で予約していた。
 この日、すでに私は朝八時に同ホテルにいた。前夜、民主党の前原代表から電話があり、彼もローレス副次官と会う約束をしているのだが、その前に私と会いたいという。朝食をとりながらの会談となった。前原代表によれば、「キャンプ・シュワブ宿営地案であれば、民主党は受け入れる。地元も同じだろう」とのことだった。後に政権与党となり、沖縄担当大臣でありながら普天間基地移設問題については明言を避け続けることになる前原代表だが、当時はこのような認識であった〉(64~65ページ)。

 5年前の話だが、普天間基地の辺野古「移設」に対する前原氏の考えは一貫して変わっていまい。昨年の衆議院選挙前、沖縄県民に対して「県外移設」を進めるかのような言動を見せたのは、選挙に勝つための二枚舌でしかなかった。それは鳩山首相が公約をひっくり返し辺野古回帰を進めるのに合わせて、島袋吉和前市長をはじめとした名護の「移設」推進派と東京で密談を交わしていたことからも明らかだ。
 前原氏は、国土交通・沖縄北方担当大臣当時、尖閣諸島近海での中国漁船衝突事件で強硬姿勢を示し、中国を刺激することで「尖閣問題」を大きな政治的焦点に浮上させた。そして、外務大臣になってからも、意図的に中国を刺激し続け、問題が沈静化するのを妨げている。前原氏のこのような中国に対する強硬姿勢には、普天間基地の「移設」問題や沖縄における防衛利権も大きな理由としてあるだろう。
 11月28日の県知事選挙まで尖閣諸島の緊張状態を持続させた方が、仲井真氏には追い風となる。普天間基地「移設」問題の焦点ぼかしを行う一方で、尖閣諸島問題に注目を集めることにより、日米安保体制や先島への自衛隊配備について伊波氏と仲井真氏の違いを鮮明にできる。それですぐに仲井真氏が優位に立つというわけではないが、もし尖閣諸島問題が急浮上せず、普天間基地「移設」問題だけが県知事選挙の焦点となっていたら、伊波氏へ流れていたかもしれない保守層の票を引き戻す効果はあった。領土問題をめぐってナショナリズムが刺激されることで保守層が引き締められ、中国の強硬姿勢に不安や反発を感じる浮動票の動向にも影響を与える可能性がある。
 また、尖閣諸島の緊張状態を持続させることで、在沖米軍の存在価値を再認識させようという目論見と同時に、先島をはじめとした沖縄への自衛隊増強を進める動きも加速されようとしている。すでに2004年12月に発表された「2005年度以降に係る防衛計画の大綱」で、中国については次のように記されていた。

〈この地域の安全保障に大きな影響力を有する中国は、核・ミサイル戦力や海・空軍力の近代化を推進するとともに、海洋における活動範囲の拡大などを図っており、このような動向には今後も注目していく必要がある〉
 
 そして、日本の「防衛力の在り方」については、〈新たな脅威や多様な事態への実効的な対応〉として、以下の5点が主なものとなるとしていた。
(ア)弾道ミサイル攻撃への対応
(イ)ゲリラや特殊部隊による攻撃等への対応
(ウ)島嶼部に対する侵略への対応
(エ)周辺海空域の警戒監視及び領海侵犯対処や武装工作船等への対応
(オ)大規模特殊災害等への対応

 中でも(ウ)については以下のように記されている。

〈島嶼部に対する侵略に対しては、部隊を機動的に輸送・展開し、迅速に対応するものとし、実効的な対処能力を備えた体制を保持する〉

 このような「大綱」のもとで自衛隊配置の「西方重視」や「島嶼防衛」強化が進められ、沖縄の第一混成団も旅団に格上げされた。しかし、政府・防衛省からすれば、この5年間でもっと沖縄の自衛隊強化を進めたかったというのが本音だろう。年内に改定される新「防衛計画大綱」では、尖閣諸島の緊張状態を最大限に利用して、中国への警戒と対抗、そして島嶼防衛の最前線としての沖縄の自衛隊強化を打ち出してくるはずだ。すでに県内紙では、陸上自衛隊一個中隊規模(200人)の与那国島配備の動きが報じられている。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-169472-storytopic-1.html

 また、9月20日付琉球新報は、防衛省内に2020年までに沖縄の陸自を2万人に増強する構想があることを報じている。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-167798-storytopic-3.html

 今回の沖縄県知事選挙は、前原外務大臣のような「新国防族」にとって、普天間基地の「移設」問題と同時に沖縄の自衛隊強化も大きな課題であるだろう。元もと、自公政権時代から「抑止力の維持」をうたい、在沖米軍の「整理・縮小」と在沖自衛隊の増強は不離一体のものだった。民主党政権になってもそれは何も変わっていない。
 これから沖縄の自衛隊を2倍、3倍と拡大できれば、政府・防衛省や自衛隊、軍事関連企業、地元で工事を受注する企業、それと癒着する政治家には大きな利益となる。持ち前のタカ派体質と相まって前原外務大臣は、普天間基地の辺野古「移設」と先島への自衛隊配備を是が非でも進めるという思惑から、尖閣諸島問題に火をつけたのではなかったか。
 しかし、政治的思慮を欠いた愚かな火遊びの危うさは言うまでもない。前原外務大臣の強硬姿勢によって、火は尖閣諸島から北方領土にまで広がり、中国とロシアに挟撃されて菅政権は右往左往する羽目になっている。しかし、そうやって菅政権が外交能力の欠如をさらし、中ロに対抗するために対米依存を深めれば深めるほど、そのとばっちりはまた、もろに沖縄に降りかかってくるのだ。
 前原外務大臣をはじめとして、尖閣諸島をめぐって意図的に緊張状態を作り出し、沖縄における日米両軍の強化を図ろうとする者たちの策動を許してはならない。普天間基地の辺野古「移設」反対と同時に、先島への陸自配備をはじめとした沖縄の自衛隊強化に反対する声を、沖縄から大きくあげていく必要がある。



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1 コメント

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脱国家について (檜原転石)
2010-11-08 10:32:18
政治屋にだまされない方法はいくつもありますが、太田昌国の以下の主張も領土問題で「国民」が思考停止になることを防ぎ政治屋に踊らされないための英知だと思われます。この種の主張が「尖閣諸島」問題で沖縄から発信されているかどうか私はよく分かりませんが、現状はどうなのでしょうか?

▼いわゆる「尖閣諸島」問題について
http://www.jca.apc.org/gendai/20-21/2010/10_25senkaku.html

・・・
日本もソ連も、近代国家の枠組の論理で相互の対立的な主張を繰り返していたのだが、私の考えでは、領土問題はそのような国権の主張では解決できない種類のものであった。

近代国家の形成以前から、「無主地」であるそこを生活の現場としていた先住民族の共同管理地域として、領土紛争なき自由地とするしかない。日本からはアイヌが、ソ連からはサハリン、シベリアの北方諸民族が集って、土地と周辺海域の利用方法を考えればよい、と私は主張した。

・・・
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