アトリエ 籠れ美

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平成27(2015)年5月4日より

「サン・ラザール駅裏」 ブレッソン

2017-04-05 05:43:00 | 画材、技法、芸術論、美術書全般、美術番組
 写真家アンリ・カルティエ・ブレッソンの代表作、それが「サン・ラザール駅裏」です。

 ブレッソンには傑作が多数あるので、この作品を彼の最高傑作と言い切るにはちょっと抵抗もありますが、私はこの写真に惚れ込んでおり、私にとっては最高傑作です。

 彼の写真は何というか世界の秘密を垣間見せてくれるという感じなのです。まるで西洋絵画の古典のように厳密な構図の彼の写真は、現実世界をただ写真に収めただけなのです。つまりこの世には、彼の写真に見るように、いや彼の写真が証明するように、非常に構築的、幾何学的な瞬間が無数にあり、それはカトリックや仏教の教えの通り、森羅万象は全て密接に関連しあっており、ひとつの大伽藍を構成していることを示していると言っていいかと思います。

 文学的に言うならば、この世界の狂気の瞬間を、ブレッソンは写真に収め、我々の前にまざまざと見せつけてくれるのです。私はただただ彼の写真を偏愛しているだけに過ぎませんが、感受性の強い人が彼の写真を見て、そこにこの世の空恐ろしさ、狂気を見て取っても不思議はないでしょう。見てはいけない瞬間を見てしまった恐怖とでも言った方がいいかもしれません。

 何も賢者は隠遁しているとは限りません。よく小説や映画などのフィクションでは賢者は人里離れたところで独りで暮らしていますが、アンリ・カルティエ・ブレッソンは大都会に住み、写真を使ってこの世の真実、秘密、謎を追究したのです。

 何の変哲もない日常にこの世の秘密が隠されている。そんなことを想起させてくれるのがブレッソンの写真なのです。

 蛇足)私は別にカトリックでもなければ、熱心な仏教徒でもありませんのであしからず。

 付)写真を載せられなくてすみません。「えーっ、ここまで書いておいて、ブレッソンの写真集を持ってないの?」という声が聞こえてきそうですが、そうなんですよ、持ってないんですよ。欲しいんですけど、安価で良いのがなくて。
 昔ブレッソンの展覧会が東京六本木の国立新美術館で開催されたときには行ったんですが、そのときの図録があまりよくなくて買わなかった。ほとんど図録目当てで行った展覧会だけに残念だったんですが、買っとけばよかったですかね。

 注)ネットで検索すればすぐに出てきますので、興味のある方は見てみてね。