作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第四十五節 [職業と忠誠]

2022年04月18日 | 哲学一般

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第四十五節 [職業と忠誠]

§45

Treue und Gehorsam in seinem Beruf, so wie Gehorsam gegen das Schicksal  und Selbstvergessenheit  in seinem Handeln, haben zum Grunde das Aufgeben der Eitelkeit, des Eigendünkels und der Eigensucht gegen das, was an und für sich und notwendig ist.

 

第四十五節[職業と忠誠]

人間の職業における忠誠と服従 は、運命に対して従順であること や、行為において自己を忘却する ように、本来的なかつ必然的な物事に対して、虚栄心やうぬぼれやわがままを捨て去ることを根拠にしている。

 

Erläuterung.

説明。

Der Beruf ist etwas Allgemeines und Notwendiges und macht irgend eine Seite des menschlichen Zusammen­lebens aus. Er ist also ein Teil des ganzen Menschenwerkes. Wenn der Mensch einen Beruf hat, tritt er zu dem Anteil und Mitwirken an dem Allgemeinen ein. Er wird dadurch ein Objektives. Der Beruf ist zwar eine einzelne beschränkte Sphäre, macht jedoch ein notwendiges Glied des Ganzen aus und ist auch in sich selbst wieder ein Ganzes. Wenn der Mensch etwas werden soll, so muss er sich zu beschränken wissen,(※1) d. h. seinen Beruf ganz zu seiner Sache machen. Dann ist er keine Schranke für ihn. Er ist alsdann einig mit sich selbst, mit seiner Äußerlichkeit, seiner Sphäre.

職業は普遍的にしてかつ必然的なものであって、とにかく人間の共同生活の一面を構成している。したがって、職業は 人間の事業全体の一部 である。人間は職業をもつことによって、普遍的なものに関与し協力することになる。人間はそれによって客観的なものとなる。職業はたしかに一個の限られた分野ではあるが、それでも全体の一つの必然的な環を構成するものであり、かつそれ自身においてもまた一つの全体である。人間が 何か一廉のものになるためには自己を制限することを知らなければならない。(※1)すなわち、自分の職業を完全に自分の仕事としなければならない。その時には職業は彼にとって何ら拘束ではなくなる。その時、人間は自分自身と、自分の外面性と、自身の職分と一体となっている。

Er ist ein Allgemeines, Ganzes. — Wenn der Mensch sich etwas Eitles d. h. Unwesentliches, Nichtiges zum Zweck macht, so liegt hierbei nicht das Interesse an einer, sondern an seiner Sache zu Grunde. Das Eitle ist nichts an und für sich Bestehendes, sondern wird nur durch das Subjekt erhal­ten. Der Mensch sieht darin nur sich selbst; z. B. es kann auch eine moralische Eitelkeit  geben, wenn der Mensch überhaupt bei seinem Handeln sich seiner Vortrefflichkeit bewusst ist und das Interesse mehr an sich als an der Sache hat. — Der Mensch, der geringe Geschäfte treu erfüllt, zeigt sich fähig zu größeren, weil er Gehorsam gezeigt hat, ein Aufgeben seiner Wünsche, Neigungen und Einbildungen.

職業は一個の普遍的なものであり、全体である。──人間が虚しいことを、すなわち非本質的な、取るに足らないことを目的にする時には、 一個の事柄そのものに対してではなくて、自分自身に対する関心がその根底にある。(※2)虚しいことは本来的に存在するものではなく、ただ主観を通してのみ保持されているにすぎない。人間は虚しさの中に自己自身を見るのみである。たとえば、一般に人間が自分の行動そのものにおいてその卓越性を認識し、事柄そのものよりも自己自身に関心をもっているような場合には、それはまた一つの道徳的な虚栄心 でありうる。取るに足らない仕事でも忠実に遂行する人間は、より大きな仕事も果たす能力のあることを示している。というのも、彼は従順である ことによって、自分の欲望、意向や自尊心を投げ捨てうることを示しているからである。

 

(※1)
小論理学の第80節において悟性の意義と限界について考察したときにも、ヘーゲルは次のように語っている。

「 行為するには、あくまで性格が必要であるが、性格を持つ人とは、一定の目的を念頭に持って、それをあくまで追求する悟性的な人である。何か偉大なことをしようとする者は、ゲーテが言っているように、自己を限定することを知らなければならない。 これに反して、何でもなしたがる者は、実は何も欲しないのであり、また何もなしとげない。世界には、スペインの詩や科学や政治や音楽や、興味をひくものが澤山ある。これらはすべて興味あるものであって、それらに興味を持つからといって、誰もそれをとがめ立てすることはできない。しかし限られた境遇にある一個人としてひとかどのことをなしとげるためには、人は特定のことを固く守って、その力を多くの方面に分散させてはならない。同様にどんな職業においても、それを悟性をもって行うことが必要である。」(岩波文庫版上巻s.242)

(※2)
ヘーゲル『哲学入門』第二章第三十八節では次のように述べられている。

「結果を打算に入れる悟性は、少ない満足よりも多い満足をより好む。それに対して理性は 質的な 区別を行う。すなわち、その内容に関して区別をつける。
理性は満足についても価値のないものよりも価値のある満足の対象の方を優先する。だから理性は対象の本性をそれぞれ比較することについて 自らこだわる。この点で、理性はもはや主観的なもの、つまり快適な感覚(満足)ではなくて、客観的なものについて考える。理性はだから人間の(満足の)対象として何を自分自身のために欲求すべきかを教える。」

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第三十八節 [理性と衝動について] - 夕暮れのフクロウ https://is.gd/oQd7ON

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第四十五節 [職業と忠誠] - 夕暮れのフクロウ https://is.gd/oF71x4

 

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ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第四十四節[職業と運命]

2022年04月13日 | 哲学一般

 

§44

Was den bestimmten Beruf (※1)betrifft, der als ein  Schicksal  er­scheint, so ist überhaupt die Form einer äußerlichen Notwendigkeit (※2)daran aufzuheben. Es ist mit Freiheit zu ergreifen und mit solcher auszuhalten und auszuführen.

第四十四節[職業と運命]

職業(Beruf)は、あたかも一つの 宿命 のように見えるが、定められた職業については一般にそれにかかわる一つの外的な必然性の形式は取り去らなければならない。職業は自由に選び、その職業を保持して果たさなければならない。

Erläuterung.

説明。

Der Mensch, in Rücksicht auf die äußerlichen Um­stände des Schicksals und Alles, was er überhaupt unmittelbar ist, muss sich so verhalten, dass er dasselbe zu dem  seinigen  macht, dass er ihm die Form eines äußerlichen Daseins benimmt. Es kommt nicht darauf an, in welchem äußerlichen Zustande der Mensch sich durch das Schicksal befindet, wenn er das, was er ist, recht ist, d. h. wenn er alle Seiten seines Berufs ausfüllt.

人間は、宿命という外的な状況と、人間が一般に直接かかわるすべてのものに関しては、それらを自分自身のものに なるように行動し、外的にそこにある存在の形式を取り除くように振る舞わなければならない。もし人間が正しくあるならば、すなわち、自分の職業を全面的に果たし遂げるならば、運命によって彼がどのような外的な状況に置かれているのかはさして問題ではない。

Der Beruf zu einem Stande ist eine vielseitige Substanz. Er ist gleichsam ein Stoff oder Material, das er nach allen Richtungen hin durcharbeiten muss, damit dasselbe nichts Fremdes, Sprödes und Widerstrebendes in sich hat. Insofern ich es vollkommen zu dem Meinigen für mich gemacht habe, bin ich frei darin. Der Mensch ist vorzüglich dadurch unzufrieden, wenn er seinen Be­ruf nicht ausfüllt.  Er gibt sich ein Verhältnis, das er nicht wahrhaft als das seinige hat. Zugleich gehört er diesem Stande an. Er kann sich nicht von ihm losmachen. Er lebt und handelt also in einem widerwärtigen Verhältnis mit sich selbst.(※3)

一つの立場に置かれた職業というのは多面的な実体である。それはいわば素材もしくは材料のようなものであり、全面において職業を果たし遂げることによって、それによって職業に何ら不慣れな点や粗雑さ、もしくは未熟な点のないようにしなければならない。私がそうして職業を自分のために完全に私自身のものとしている限り、そこでは私は自由である。人間は自分の職業を十分に果たさなければ、何より満たされない。
人間は本当に自分自身のものではないような関係の中に自身がおかれることがある。それは彼がその身分に属することと同じである。彼はその身分から自分を解放することはできない。したがって、彼は自分自身にとっては不本意な関係の中に生きかつ行為することになる。


(※1)
Beruf.  
rufen  呼び出す。 be rufen ある者に呼び出されること。ある仕事に呼び出されること。
職業。「召命」が原意に近い。

(※2)
die Form einer äußerlichen Notwendigkeit
外的な必然性の形式=不自由のこと
 Beruf   が職業にかかわる「外的な必然性の形式」にとどまる限り、それは宿命であり、不自由である。人間にとって「宿命」とは本質的に不平等なものであり、それはとくに職業においてそうである。抽象的な平等論者は、その本質的な不平等を解消しようとして、具体性を破壊し生命そのものを殺してしまう。

(※3)
このことから、die Form einer innerlichen Notwendigkeit
「内的な必然性の形式」に従うことが「自由」である。

「必然性 Notwendigkeit」に「外的」と「内的」の二種のあることを明らかにして、内的な必然性に従うことをもってヘーゲルは「真の自由」であるとした。
「内的必然性」と「外的必然性」の相互の転化が当然に予想されている。また「偶然と必然」の他に「自由と必然」が対概念となる根拠もここにある。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第四十四節[職業と運命]

 

 

 

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