*⑦からの続き
(「ハラショウ ボータ」(好く働いた)との(褒美のつもりか)
飯)盒の蓋に一杯。 美味い。
作業引率のロスケの将校、仁丹の広告の様な髭はやした奴、 歌唄え と。
三国干渉に、悲憤慷慨(ひふんこうがい)。
幼年学校の生徒作詞 「血汐と替えし遼東に・・・ロスケを切りて生贄(いけにえ)・・・」
唄ってやると ロスケ(彼らはロスキー) 分かるらしくニコニコしてる。
悪口言われているのに、と話しあったが?
彼らが吾々を殺す と言ったって分からんのだから天下泰平。
明日も水汲みやって、ロスケのチャー飯・・・そうは問屋が卸さない。
翌日はモシカに来て最初の犠牲者(初年兵 山形出身)が出る。
五、六人で墓穴掘りに行く。が、何せ凍土。 鶴嘴はなくバール、スコップ(携帯用)。
帰りに 枯れ木を積んで火をつける。翌日、溶けた土だす。
何せ穴掘り人足、片足穴に突っ込んで居る奴等。 幾日かかったか。
そのうちに職業調べ。 それぞれに書いて出す。
特務機関、警察、坊主(坊主只儲け 人民の敵である と)等々は誤魔化せ、と。
愈々本格的になる。
梅林での大隊編成が可怪しい(怪しい)と思ったらその通り。
工作隊 伐採。輜重隊 搬出。船舶工兵 製材所 (三交替)。 吾々は搬出。
盗まれてきた馬も可愛そう(可哀そう)。六〇六(馬の№)号と意気投合して
ノルマの達成出来ない事。
午前一回、午後一回。 馬も二回目になると絶対動かない。
ある日曜日、馬の手入れに行く。 柴木を束ねて馬の身体をこする。
同病相哀れむ でやっていると、
ロスケ 「お前は丁寧に馬体の手入れをしている。明日から厩舎に来い」 と。
小隊では ニハラショウボータ (働き足りない。小隊のノルマが上がらない)ので、
一も二もなく承知。 何処でどうなるかわからない。
夜間作業と言っても、朝夕、馬全頭の体温計り。
体温計五、六本持ち厩舎当番に手伝わせる。此れは真面目にやった。
此処にドイツ兵が一人いた。可愛想な位オタオタして、
ロスケを見ると 「スターリン、スターリン」と怖がって居る。
吾々から見れば不思議だが、実際に戦闘を交えた連中、わかる様な気もする。
その彼も 間もなく姿見えなくなる。
小生もラーゲルに居た時は 毎晩十二、三回小用に起きてたが、
それにも開放され、やっと幾分体調が整ってきた頃、同年兵二~三人入院する。
何かと思ったら、盗んできた馬鈴薯の過食に依る下痢。
体力が極度に落ち込んでる時の下痢、命取りだ。 其の後どうなったか不明。
俺の場合は あまりの空腹に耐えかねて馬鈴薯盗み。
マンマと忍び込み、ポケット満杯になった途端、スカートの兵にホールドアップ。
只一つ持って来た馬鈴薯の 美味であった事。
彼女は、救世主?
職業別申請の後、亦々床ヤ「理髪業)いないか。
*編者注
・三国干渉: 明治28年(1895)下関条約(日清戦争の講和条約)で、
遼東半島、台湾等を日本に割譲することなどを定めた。
しかし、締結により遼東半島の割取を要求したことに対し
ロシア、ドイツ、フランスの三国が東洋艦隊の武力を背景に、
清国への還付を勧告した干渉事件。
・悲憤慷慨: ひふんこうがい。自分の運命やおかれた状態に対して、
憤慨し嘆き悲しむこと。
・遼東: りょうとう。中国遼寧省東部、遼河以東の地域をいう。遼東半島。
明治38年(1905)、日露戦争の結果、遼東半島の南端部は日本の租借地となり
関東州と呼ばれていた。
・鶴嘴: つるはし。硬い土などを掘り起こす時に用いる鉄製の道具。
先端がツルの嘴(くちばし)に似ているところから。 十字鍬とも。
・バール: 鉄梃(かなてこ)。梃として利用する鉄製の棒状の道具。
・スコップ(携帯用): 軍隊用語で円匙(えんぴ)と呼んだ陸軍歩兵の必需品。
塹壕を掘るときなどや、接近戦では武器としても用いた。
・愈々本格的に: 捕虜生活が本格的に・・・。
・意気投合して~: 担当している馬と気が合って(お互いに無理をしたくない)
仕事がはかどらない=ノルマが達成出来ない。
・スターリン: 旧ソ連で、1929年スターリン政権を確立。
1953年に死去するまでの24年間、政権の座にあり、粛清等 独裁政治を行った。
・ラーゲル: ラーゲリ。本来収容所やキャンプを意味するロシア語だが、
日本などではソ連における強制収容所を指して使われることが多い。
・馬鈴薯: ばれいしょ。ジャガイモのこと。
・スカートの兵: ロシアの女性兵士。
・彼女は救世主?: たった一個だが、ジャガイモを お目こぼし。
*⑨へ続く。
★この稿の関連記事。 「入ソ当時の思い出」 栃木県 菅 房雄
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