前略 先般は内地送菓の件 厚く御礼申上ます
何しろ内地帰還後 初めての由にて
彼等 如何ばかり喜びたるかと想像いたし
貴女様の御厚意を征野より深く感謝致して居ります
如月(きさらぎ=陰暦二月)の梅の花咲く時とは云え残寒しのぎ難き折
貴女様にはお変わりなく 定めし御機嫌よくお過ごしの事と遠察致し
意を強うして居る次第です
お蔭様にて小兵も相変わらず元気にて服務致し居り
留守宅の者共 亦(また)元気にすごし居ります故
乍他事(他事ながら)御休心下さい
富子さんにも長らく御無沙汰致して居りますが
矢張お元気にて過ごし居らるる事と存じます
折を見て貴女様から 暮々もよろしく御傳方被下様(お伝え下さるよう)お願ひ致します
何しろ彼氏は満州の冬は初めての事 定めしびっくりされた事でしょう
でもまあ 御地南満は0下(零下)三十五度位が峠にて
それも年に一、二回位のもの
北満の五十餘度(余度)の寒さに比較致せば
幾分かは しのぎよい事と存じます
兄 正次郎は今でも時々お宅の店に参上致して居るでしょうか?
何しろ去年二月と十二月に来信が有りましたが
其の餘の様子はさっぱり分かりませんけど
便り無いのは無事と思ひ?(思え?)とかで
元気にやっておることだろうけど
同封に金四円也致しました 御多忙でしょうが折を見て
今月 来月と二度 何菓子でも結構です故
お送り被下様(くださるよう)お願ひ致します。
代金不足の時は 其の節御一報下さい 次便でお送りいたします
同じ場所に実兄も姉も居るのに
多忙な貴女様にお願ひするのは本意でないが
御存じの通り小生のあれ(兄嫁?) 以来今だ且って(いまだかつて)
一度も便り呉れぬような〇様(姉様?)だし
兄もさっぱり たよりに成らぬ様な有様だし
小生も時々 せめて中等学校位出て居れば
時には慰問の便りも貰はれる(貰われる)のに
なぞとヒガンでみたりしてお居ります
こんな時こそ何かと力に成って呉れるのが
人の世の人情と云ふものではないかと思って居ります
高等学府を出て居り しかも義理仲でありながら
つまらぬグチを書いてしまったが 免御(ごめんの逆読み)
前記の様な有様故 御迷惑でもどうぞよろしくお願ひ致します
新春とは云え まだまだ厳しい寒さも訪れる中
充分お身を大切にしてお過ごし為さる(なさる)よう
乍蔭(蔭ながら)お祈り致し居ります
では又 後便にて申し上ます 富子さんによろしくお伝ひ下さい
澄子 様
傳之助
3(月)1日
*竜江省チゝハル大七六七部隊
隈本隊
菅伝之助
新京興安大路三三一号
第一石橋ビル
平山 澄子 様
★内地へ帰還した妻子へ 菓子を送ってくれたことへのお礼。
金4円を同封したから 自分にもお菓子を買って送ってくれとの依頼。
甘いものに飢えていた当時の時代背景と、
(まだ徴兵されていなかった)兄夫婦へ愚痴など
父の人間臭さが垣間見える手紙です。