赤ひげのこころ

お客様の遺伝子(潜在意識)と対話しながら施術法を決めていく、いわばオーダーメイドの無痛療法です。

「わが青春の譜」 菅 房雄のシベリア抑留記 ⑦

2018-05-29 17:45:36 | 戦後73年、今伝えなければ・・・

⑥からの続き。

(当番兵マ) ルマル肥って居る。軍隊地獄の縮図か。
丁度この頃だ。何か外が騒々しい。
黒シャツの兵 (挺身切り込み隊。各部隊より選り抜いて編成)が
黒パン輸送のトラックから四(4kg)パン
(ロシヤパン 大きめの枕位ある)、ラグビーよろしく兵から兵の手。
捕らえ様もない ホンの僅かの時間に目的を果たし、消えてしまった。
好くカンボーイに発砲されなかった と。

或る夜の点呼の時、屋外マイナス四十度位はある。
右へならえで右を見たら、防寒外套の上に何か居る。
瞳を凝らせば「虱」。 魂消たものだ。
翌朝 隣に寝てる丁上等兵、呼べど答えず眠ってる。
好く見れば 永遠の眠りに着いた(就いた)ものだ、彼の虱の持ち主。
虱も身体に喰いついてれば まだ大丈夫 と 変な安心の仕方をする。

その虱も日中 屋外作業のときは実に静かな存在だが、
夜ともなり暖房が効いてくると、仲仲(なかなか)に大変な代物。
不寝番に立った時が彼等との斗い(たたかい)だ。
赤く焼けたペチカの上で、襦袢 袴下を急ほい(いきおい)よく振ると
さながら胡麻を炒る如し。
時の経つのが早い事、交替の時間。

戦友の亡き骸 埋葬しようにも凍土は穴掘るのを許さない。
空家には冷凍鮪宜しく 兵士の屍 累々と山になって居る。
哀れ 諸行無常。

モシカ(地名。蚋(ぶよ亦はぶと)の如き虫。もっと小さい。群生地なのでこの地名)

十二月に入ってからか? 移動。
俗称 盗人米貨(燃費が高くつくので)。 
ソ連使用のトラックは殆ど此れだ。
乗車、その日の中に着く。
幾度となく見てきた本格的収容所 八〇一分所(四地区八〇一)。
千人単位が六百人に減る。 死亡、入院。
「土方殺すにゃ刃物はいらぬ」 唄があったが
「兵隊殺すにゃ原爆も大砲の玉もいらない」
飯を喰わせなけりゃ、栄養失調でドンドン死んでいく。

ここに来ても 亦 而り(然りの意) ノルマによる給食。
携行してきた岩塩(乾パンの袋にいれ各自持って居たが、
間もなく逃亡につながるとの理由で没収される)。
飯盒にお湯沸し岩塩汁、只の水より腹の足しになる。

青白い浮腫の来た身体。 に出来物が一杯、
化膿して袴下に癒着。
動く度にピリピリと痛い。 医務室に行けば 軍医曰く
「何も薬なし。 ロスケに見つからんうちに早く行け」

入所当時は雑用。 病院(此れから使用)清掃、薪割り、水汲み。
ロスケの炊事場、何をやっているのかと覗いたら
油の中にコンビーフ、グリーンピース、其処に茹でた米、ブッ込む、出来上がり。
「ハラショウ ラボータ」 (好く働いた) との(褒美のつもりか)、
飯盒の蓋に一杯。  美味い。

  *編者注

・挺身切り込み隊: 戦局の悪化に伴い、各師団命令等によって編成された特別部隊。 
 爆薬を背負い敵陣に突入、敵人員の殺傷や兵器の破壊を行うことによって、
敵の攻撃能力を低下させることを任務とした、文字通りの決死隊。

・ペチカ: ロシア式暖炉。煉瓦でつくられた暖房兼炊事用の炉。

・襦袢 : じゅばん。和服の下に着る下着のことだが、
 此処では軍衣の下に着用する兵用下着のこと。

・袴下: こした。軍袴(兵用ズボン)の下に着用するズボン下のこと。 

・モシカ: ハバロフスク地方アムール州、イズベスト地区内の地名。 

・米貨: アメリカ製の貨物(輸送)トラック。ソ連への供与は41万台に及ぶ。
 第二次大戦中アメリカは、レンドリース(武器貸与)法によって
ソ連や、英、中、仏その他の連合国に対し、大量の軍需物資を供与した。

・八〇一分所: モシかにあった第八〇一収容所のこと。 ロシア革命当時、
 捕らえた白系ロシア人たちを収容し、シベリア鉄道本線のイズベストコーワヤから
コモリスクに通じる森林鉄道を完成させたといわれる。
 

・肢: し、または、え。体のえだの意から、手足のこと。

*8へ続く。

★この稿の関連記事。 「入ソ当時の思い出」 栃木県  菅 房雄
       ⇊       ⇊       ⇊
http://www.heiwakinen.jp/shiryokan/heiwa/02yokuryu/S_02_131_1.pdf

 


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