赤ひげのこころ

お客様の遺伝子(潜在意識)と対話しながら施術法を決めていく、いわばオーダーメイドの無痛療法です。

「わが青春の賦」 菅 房雄のシベリア抑留記 ⑭

2018-06-21 11:47:16 | 戦後73年、今伝えなければ・・・

*⑬からの続き

(一晩中かかって貨)車一台分運んでしまう。
二、三日したら自動車で来て、其の乾草持って行ってしまった。
何処か他所に送られる乾草、盗んだものだ。
狐につままれた様な話、本当にあったこと(共産主義国なればこそ?)

御多分にもれず、当厩舎も疥癬が猛威を揮って(ふるって)居る。
瓦斯療法一回に二頭。 密閉した室に入れ頭だけ外に、硫黄を燃やす。
亜硫酸瓦斯。 馬を曳き出すときが大変だ。
ガスマスク使用の筈が、無いとの事で、まだガスの残っている室に入る。
涙が出る、鼻汁が出る、咳が出る。いやはや命がけだ。

ロスケの獣医、トボケて何故晴天の日に行うか と。
土の上に SO+HO=HSOになるからだ と。
ヤポンスキー知っているか ときた。
SO+HO=HSOだろう と言ったら 「プチモ(何故)」。 
SO+O=SO、 SO+HO=HSO  と教えてやる。
冗談じゃない、此処(こっち)の方が程度高いのだぞ。

捕虜関係の監視、軍関係。 囚人は警察関係。 
服は同じ、肩章の色が番うだけ。 最初は分からなかった。
囚人収容所は監視厳重で 犬も使って居る。
其の犬に与える肉とかで、「故障馬屠殺して肉納入せよ」と。
四肢を縛って頚の血管を切り 血を採る。
棒でかき回してセルローズ取ると 凝固しない。
水嚢一杯)飯盒に入れ塩少々。 炊くと凄く旨い(但し、出る物色が着く)。
肉も戴く。犬のピンはね、此れも予禄? その犬も喰った。

ある日、シェパード連れてくる。腹部に腫瘍。結束して切除。
人間なら、駄目と言えばやらないだろうが
囚人監視の犬でも 爪で、結束した絹糸取ってしまう。
出血多量で?(死亡)。 われわれの胃の腑 満たしてくれる。
夏冬通して二、三回有っただろうか、馬のペニス輪切りにして焼き、
シベリア竹輪だと、作業帰りの馭兵にやる。
大いに嬉込んで貰ったが(噛み切れずに)歯がたたなかった と。

製材所に、引き込み線入り、線路脇にパン工場出来る。間もなく火事、丸焼け。
当時の列車 薪燃料。 最初の頃、なんで線路沿いに薪積んで有るのかと思った。
煙突の上に金網張ってあったが、火の粉が原因で前記の火事。
まったくお粗末な話。

モザハール、近頃馬鹿にメカシ込むと思ったら 
囚人監視の警察のマダムと出来てしまう。 五、六才の男の子も好く来た。
彼等、乳牛飼っているので、ザグーシどの、馬糧の燕麦運ぶ。
其の中に(うちに)彼の住まいに マダム連れてくる。
夜間ともなれば厩舎当番の兵、一人不寝番。 馬鹿みたい。

ある夜、例の警官来る。 拳銃つきつけマダムどこだ。
此の時一人の日本兵、少しも騒がず 却ってニヤニヤ(木村某義勇隊出身)
彼の警官、毒気を抜かれ、何事もなく帰った様子。
チョット離れて見て居た此処の方がハラハラドキドキだ。

  *編者注

・疥癬: かいせん。疥癬虫(ヒゼンダニ)の寄生によって起こる皮膚病。

・瓦斯療法: ガスりょうほう。二酸化硫黄の気体(ガス)による殺菌消毒。

・水嚢: すいのう。日本軍が用いていた折り畳み式の布製のバッグ。

・馭兵: ぎょへい。軍馬を扱う兵隊。

・モザハール: ザグーシ(厩舎責任者)の名。

・義勇隊: 政府が徴募し組織するのではなく、自発的に先頭に参加する軍隊。
 交戦資格を要する。

・交戦資格: 国際法上適法に外敵との戦闘行為を行える資格。
 正規軍の他に民兵隊、義勇隊にも認められるが、指揮者に統率されていること、
共通の標識を付けていること(たとえば制服着用)などの要件が有る。

*⑮へ続く。

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「わが青春の譜」 菅 房雄のシベリア抑留記 ⑬

2018-06-21 11:33:11 | 戦後73年、今伝えなければ・・・

*⑫からの続き。

(それが終わると、清) 掃、ボロ出し。百二十頭も居るので橇で何台も有る。

床にオガ屑敷いてあるので、馬糞コロコロと転がると、
春先 青草ものなら鶯餅そっくり。 夏になったらそれ以上だ。
作業から帰ったら馬に燕麦、塩を袋で与え、まとめて山に追い上げ放牧。
一晩中 枯れ木を燃やし 夜看馬二人。
遠く近く狼(オオカミ)の声。北極星、頭の真上。
綿入れを着てその上にシューパを着て尚寒い。

暮れたと思う間もなく白々と明けて来る。北極の白夜と言うがそれに近い。
明け始めると直ぐ馬に跨り追い始める。
其れが亦なかなかの事。 作業整列に間に合わなくなる。

二度目の春が来た。
先任者、身体検査で弱兵(オカ)診断。消化器が悪かった様だ。
俺が専任になり病馬の治療等々。 体温計り。
八〇三当時、ロスケの獣医から聞いたが、何んせロシア語。
でも、熱型を見ると伝貧(馬伝染性貧血症)、それに違いない と。
八〇一程に真面目にやらなくても結構。捕虜も馴れて来ると要領よくなる。
嘗て満州でも鼻疽馬の清浄区と汚染区に分け、
陽性疑似馬、消耗の激しい伐採地に送ったものだ。

成る程とうなづけるロスケの獣医(も)居るが、
程度の低い奴等、誤魔化すのに苦労は無い。
八〇三当時、他所から来た獣医(技術指導であろう)馬虻駆除。
最初の一頭は水を投与しただけなので大過なし。
彼氏、さも得意げに二頭目、カテーテル挿入。二硫化炭素投与した途端に死亡。誤飲。
なんと未熟な連中。(カテーテルを)肺臓に入れられたのではたまったものでなし。
可笑しいので笑ったら怒る事。 №八〇四 牝、好い馬だったのに。

ロスケも各自、乳牛、豚、山羊等飼育してる。その連中が頼みに来る。
ロスキー ドクトル駄目、ヤポンスキー ドクトルと(ロシアの獣医に)背向ける。
将校服着ているが獣医部下士官 それも駆け出しの。 その程度?

ある日、乳牛を診てくれと。
カンフル注射しようとしたらそれは止めて欲しい。 何故と聞いたら、
若しもの時に肉に匂いが付く。 ミヂカメントソリ(人カル)で好い と。
日本人とは牛に対する観念が違う。 食料として占める位置が高い。
考えさせられる。

余談にそれたが其の冬、乾草一本もなくなる。
床板を齧る(かじる)やら、餌箱やら側壁やら箒(柴木で作る)無くなってしまう。
厩舎当番 嬉込んだ(喜んだ)。排泄少なくなり水も飲まない。勿論馬たち作業なし。
何んせ空腹の馬。 四、六時中目が離せない。

二、三日したら夜中、モザハール(ザグーンの名) 「オイ乾草を持ちに行く」 と。
夜看馬(当番)から、鞍工、われらも早速橇をつけ、
駅 (此の頃汽車が通っていた。貨車五十トン) に行き、乾草積け。
一晩中かかって貨車一台分運んでしまう。

*編者注

・ボロ出し: 馬糞の掃除(ボロは馬糞のこと)。

・夜看馬: 夜間放牧中の馬の監視。

オガ屑: ノコギリで木材を挽いた時などに生ずる目の細かい木屑。

・シューパ: 毛皮の外套。

・作業整列: 朝、作業に入る前に屋外で行われた点呼。

・弱兵(オカ): 病弱者で労働もままならない者への通称。(作業免除OKからか?)

・鼻疽馬: 鼻疽(びそ)菌に感染した馬。
 
馬虻: うまあぶ。別名ウマバエ。単に馬にまとわりつく虻を指す場合もあるが、
 此処ではウマバエ(ヒトヒフバエ)のことか。
ヒトや動物に寄生し皮膚に溜り、ハエ幼虫症を引き起こす。

・カンフル: 樟脳の事。クスノキから得られ、科学合成もされ、中枢神経興奮、局所刺激作用な
 どがあり、嘗ては蘇生藥として知られていた。

・ミヂカメントソリ(人カル): 家畜用の医薬品と思われるが詳細不明。人カルとあるので、
 人工カルシウム(乳酸カルシウム=牛の尿石症の治療や予防薬として使われる)の事か。

・鞍工: あんこう。鞍(くら)や鐙(あぶみ)など馬具を修繕する技術兵。

*⑭へ続く。

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「わが青春の譜」 菅 房雄のシベリア抑留記 ⑫

2018-06-18 11:57:41 | 戦後73年、今伝えなければ・・・

⑪からの続き

(その犯人、召集前) 知っていた奴(M)。
噫無情(ああ無情)。
 彼女 知ったら何んという?
彼が此の大隊に居たとは意外であった。

何時頃替わったか忘れたが、ザグーシ、 彼のアバタから
ソ連将校に(交代に)なる。
(騎兵といったから戦車隊)
ノモンハンを好く知って居る。降伏を勧めると蛸壺の兵、手榴弾で自爆した」 と。
ロスケ共 「サムライ ハラキリ」(悪口だと思っている)と好く言っているが、
彼の将校、彼らに説明して曰ク
「サムライ」とは「ナイト」であり、「サムライ ハラキリ」 即、騎士道の意で有ると。
更に彼は一言も吾々に悪口雑言を吐いた事が無い。紳士的である。

ある日、飯盒提げてきて、
「裏山には沢山の苺が有る。 諸君達、此れに一杯摘んで貰いたい。
そして諸君、腹いっぱいに食べて来なさい」 と
私にも経験がある。捕虜とは腹の空くものだ(と)。

ソレッと言うので山に登って見たら、有るは有るは。
木苺、黄色、赤色、喰った喰った。
VitaminnC充分に補給できた故、 幾分身体が軽くなった様な気がする。
栄養失調特有の症状で有る毛穴の真黒が、段々薄らいで来た。

八月半ば、霜。 終わりか、初か?
暗橋
の下、氷溶けず。短い夏も終わり近く、寒くなってくる。

例の如く、ある日突然移動命令。早々に本隊出発
入れ替わりにソ連囚人来る。驚いた事に、吾々厩舎勤務の兵は残留と。
「何故」、「何故」。

彼曰ク。(ソ連の囚人は)程度悪く、馬でも何でも喰ってしまう と。
当分の間、オ前達が彼らの世話をするのだ と。
主客転倒。吾々には到底考えられない事だ。
危惧ではなかった。其の夜、収容所内に有る糧秣庫破られる。
直ぐ次の日、われわれの手で、収容所外に倉庫建てる。

収容所内の水汲み、めし運搬、受領、総て日本人捕虜。
何が何だか、頭可笑しくなる。
作本兵長(工兵下士候) 水汲んで行ったら身体検査。
煙草取り上げられて、頭に来たので、パン盗んで来た と。
此れが共産主義国?

八〇六(ウシモン、峠の意)

本隊に追随したら大分変わって居る。全員は厩舎に入れない。
オレも先任者が入るので厩舎当番容易ではない。
作業から帰った馬、給水、給餌。 夜の給水終わると、直ぐ翌朝用水汲み。
橇に大きな桶をつけ、河から汲んでくる。
マイナス四十度~五十度だろうが (普通、屋外作業、
マイナス四十度に下がると待機。 
このような日がノルマ達成が出来る)
それが終わると清掃、ボロだし。百二十頭も居るので橇で何台も有る。

  *編者注

・ザグーシ: 厩舎責任者のこと。

・ノモンハン: 満州国とモンゴル人民共和国の国境に位置する。
 1939年、満州国の実効支配者である日本軍と、モンゴル、ソ連軍との間に
国境紛争が起き、日本が大敗した(ノモンハン事件)。

・暗橋: 暗渠(あんきょ)の意か?暗渠は地中に埋設された水路の事。

・下士候: かしこう=下士官候補生。幹部候補生には、甲種(将校)と
 乙種(下士官)とがあった。下士候は乙幹とも称された。

・ノルマ達成: マイナス四十度になると一般作業は中止。したがってノルマ達成できない。
 しかし生き物相手の厩舎係りは休めないので、自分たちの方がノルマ達成出来る。

*⑬へ続く。

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「わが青春の譜」 菅 房雄のシべリア抑留記 ⑪

2018-06-12 16:04:04 | 戦後73年、今伝えなければ・・・

⑩からの続き

科技連乙幹どの

ある日フラット軍曹殿来る。休日で有ったろうか。鞍傷の馬治療している時。
彼曰ク (理工系乙幹、もっとも煮ても焼いても喰えない奴。先輩の顔たてなくちゃと)。
オレは科技連で云々と・・・。
自分も科技連(科学技術者連盟)の会員でありました。
(左襟に満拓バッチ。右襟に科技連のバッチ着けていた俺だ)
途端に、まるっきり馬鹿にしていた顔変わり 対等の話。

フト佐々木少尉の顔思い出す。
弥栄診療所勤務中、軍用保護馬検査に来た若い中尉と老頭児小尉。
馬政局のスターリン髯のオッチャン(だが) 「天皇陛下の命令に依り」不動の姿勢
所長 急用有りと不在。若い俺独り。
疥癬馬の一頭も居れば、不忠の臣で有る と。
冗談じゃない。
検査終わり慰労会 スターリン髯、ドジョウ髯、此れが人生?

横浜で犬猫病院十年やったという召集兵、後日 省公署の技師殿。
「君、科技連
に入り給え
そして鶴立県の畜産股長、狂犬病かと思ったらヂステンパーの脳症状
と、随分世話になった。科学技術連の乙幹どの有難う。

シベリアの雨季、可愛想なのは兵士。
雨具もなし。冬の刺子の綿入れ。
雨に濡れ、ブルブル震え乍ら(ながら)帰って来る。情けない姿。
馬も然り雨に濡れ脛環擦傷、鞍傷。
ある日、蹉跌したと №一〇四〇(シベリア土産駒) 上顎擦傷、破傷風。
直ちに入院処置取る様にと、アバタ(ザグーシ。厩舎責任者)に進言。
直ぐ電話入れ、迎えの車来る。 
乗せて、間もなく死んだと。 彼のアバタ、ナチヤニック(収容所長)、
プララーブ(作業責任者)嬉込んだ(喜んだ)。
何となれば厩舎で死ねば、彼等罰金で給料より天引き。

ゾウナ、オカ(収容所弱兵)薪割りの際、モミの枯れ木倒す。
誤って厩舎方向に倒れ繋牧中の牡馬 (№一一三三。各厩舎に自然繁殖の為、種馬繋留)
脊椎直撃即死。 可愛想なのは彼等三人。
現場に居たので馬代金、月給より天引き。 こぼす事頻りなり。

肉、最高の美味。燕麦多食しているので、肉、霜降り馬でも(あるの)かと思う上肉。
ピンはね 「ウマカッタ」。 ソ連とは不思議な国。

捕虜には日量十八グラムの砂糖が有るとか。今迄無かったので と(まとめて)配給になる。
約、飯盒に一杯。 貰うと直ぐ腹の中。 二三日甘いが ゲップが出る。
大切に残してた者、盗まれてパア。 盗んだ奴、人の二人前、好く入ったものだ。
その犯人 召集前知っていた奴。

  *編者注

・科技連: 終戦間際、現在の日本科学技術連盟の前身、
 大日本技術会という組織があった。原文では科学技術者連盟となって居るので、
あるいは大日本技術会傘下の技術者の組織として、科技連という組織があったのかも?

・乙幹: 中等教育以上の学歴のある志願者の中から選抜で、比較的短期間で
 
兵科または各部の予備役下士官となるよう教育を受ける者。幹候とも。

理工系乙幹、もっとも~: (頭のいい)理工系の乙幹は、思うようには扱えない、
 手におえないが、 そこは先輩なので顔を立てて・・・話しを聞く。

・老頭児: ロートル。中国語で老人、年寄りのこと。

・馬政局: 軍馬の改良育種を目的とした行政機関の一つ。

・不動の姿勢: 当時の軍隊では、「天皇陛下」という言葉を口にするとき
 あるいは口にされた時には、直立不動(気を付け)の姿勢をとることが慣習化していた。

・此れが人生?: 検査が終われば慰労会を楽しむのであろう、スターリン髯たちよ、
 それがあなたたちの人生か?と。

・省公署: 省の公共団体の諸機関。

・畜産股長: 股長(こちょう)は中国の会社での役職。係長あるいはその下の
 主任と言った位置か。 生物股長と言えば生き物がかり、みたいな意味あい。

・ヂステンパー: ジステンパーウイルスによる犬などの伝染病。

・科技連の乙幹どの~: 今の立場があるのは、科技連に入れと進めてくれた
 省公署の技師や、 病気の見立てを教えてくれた畜産股長等の乙幹たちのお蔭、と感謝。

・刺子: 綿布を重ね合わせ、一面に細かく差し縫いしたもの。

・脛環: 脛周りのことか?

・蹉跌した: 蹉跌とは、つまづく事。物事が失敗したり挫折すること。
  ここでは、馬が蹉跌して上顎に傷を負い、そこから菌が入って破傷風にかかった と。

・繋牧中: 放牧ではなく、牧場にロープで繋いでいた時。

・燕麦: えんばく。イネ科の一年生草で、小麦よりも葉が広く背も高い。
 穀物や牧草として家畜の重要飼料となるほか、実はオートミールとして食用にもされる。 

・予備役: 一般社会で生活しながら軍籍を持つもの。在郷軍人。

・下士官: 士官(将校)の下で兵(兵卒)の上の階級。

 *⑫へ続く。

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「わが青春の譜」 菅 房雄のシベリア抑留記 ⑩

2018-06-12 15:53:27 | 戦後73年、今伝えなければ・・・

*⑨からの続き

八〇三収容所

初めての道。 今までは集団行動だったのに今日は独り。
相手のロスケ、アバタで人相も悪い。 ままよ一対一。なる様にしかならん。
最低の捕虜、此の下はなんだ。 
鉄道の路盤だけがある。 先日テルマまで歩いた延長線か。
それに沿って道路。 大陸独特の黄砂。
よく見ると、道路、盛土の処は丸太が並べて有る。
もっともこれだけ密生した松の大木、道路作るのにも困るだろう。ロシヤらしい。

線路の下に収容所有り。 日本兵が居る。作業の内容、どうも線路の様だ。
そのうち彼のロスケ、マホルカ(タバコの一種)くれる。
笑った顔、そんなに悪でもない様だ。
八〇三に着く。 建物は無く 幕舎。 中は二段ベット。同じ部隊の連中だ。

夜の寒いのには驚いた。一晩中ペチカ燃やしているのに シンシンと冷えてくる。
ワラブトンだけ 毛布なし。 軍衣 横に被るだけ。横にするとやっと腰の下まで被る。
翌日から厩舎勤務。 病馬の治療。
元 同じ内務班の兵長、「お前うまくやったな」
冗談じゃない、 金がかかってるんだ。
親たちに感謝。 苦しい中 教育してくれたお蔭。
芸は身を助ける とは好く言ったものだ。

数日後 カピタン(大尉)が来る。
八〇一で面識の有る、この地区で只一人の党員とか。
八〇一当初 自宅に呼ばれ、テストだろう、家畜伝染病の本を見せられた。
先日提出した職業の事。真偽を確かめたのであろう。

ロスケには珍しく柔和で紳士的である。
収容所長、日本の大隊長(当時石山隊の中尉。石山大尉は何処に行ったか、
亦 兵の顔も、見知ったのがだいぶ少ない)。

小隊長であった西田曹長、彼のアバタ、日本兵通訳、ホンポンビー(経理)。
それ等を集め、彼曰ク 
彼は軍隊に在った時は一兵士で有ったが、此処はソ連。
大隊長、小隊長と云えどそれは旧軍隊の階級で在り、
現在は 便宜上大隊長、小隊長で在って 身分としては同じ捕虜である。
が、而し、彼はソ連の獣医として働く。其の点十分に留意する様に」。
更にホンポンビーに 彼の服装よろしくない、早速取り換える様に と。

俺にすれば晴天の霹靂? 助かった。
こう言われれば帝国軍人の捕虜で有ろうと、認めてくれる人の為、
これが自己保全の最良の道だろう。
日本人にはだいぶ痛めつけられた。「事有る毎に」。
この話、内務班にも通じたのか、
嬉嬉し込んで(嬉々として、喜んで)くれる人、嫉む人。
嫌だ 嫌だ人間世界。 捕虜になってまでも。

  *編者注

・収容所長: 捕虜収容所では、当初日本軍隊の階級がそのまま持ち込まれ、
 部隊の最上級者が所長を務めた。

・彼曰ク: ロシア人のカピタン曰く。

・彼は: 捕虜である筆者(菅 房雄)をさす。

・日本人にはだいぶ痛めつけられた: 陸軍に限らず
 旧軍隊では上級者(特に古参兵)による新兵へのいじめ、暴行が横行していた。

*⑪へ続く。

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