Now+here Man's Blog

Surf, Run and Trails / Endurance For Fun

2018 伊豆トレイルジャーニー

2018-12-11 00:23:42 | ランニング

伊豆トレイルジャーニー

12/8(土)
本番前日、伊豆の松崎町に入る。
松崎新港から修善寺までの71.7キロの旅、スタート地点。
携行品のチェックを済ませ受付でゼンッケンをもらう。
携行品チェックというのは、シームレスのレインパーカー、エマージェンシーシート、コンパス、コースマップ、
ライト、バックフラッッシュ、携帯トイレなどなど携行が義務付けられているもののチェックだ。

続いてブリーフィングに参加。
コース説明、予想天気などの説明。
鏑木さんが冒頭にこう言った。
「健康が一番」
当たり前のことのようなこの言葉が後々身に沁みた。わけは後ほど。

会場で、スキースクール時代の後輩と30年ぶりに再開する。
FBでお互いトレランをしていることもあって繋がり、
そしてこのITJを共に走ろうということでエントリーしたのだ。
感動の再会を果たし、他のエントリー仲間とメシを食い、宿に移動した。

この日、伊豆に移動しながら仲間にこう言われた。
「顔つきが変だ」
なんか熱っぽいというか、多分むくんでるのか、シャキッとしていないのは自覚していた。
2週間前に風邪を引いていて、完治していない。
それでもその日まで2回は走った。
10キロを4分45くらいで楽に走れたので、全く問題ないと思っていた。
でもまたぶり返したのかもしれない。
鼻水止まらずなんだよ。。。

雲見温泉の上質な民宿に泊まった。
熱い風呂に入り、寝たのは10時半だったかな。
西風が強く、窓がガタガタ鳴りなかなか寝れなかった。

12/9(日)
3時半起床。
オニギリ3個を食べスタート会場に移動。
これぞITJという盛り上がり。
スタートは山ではない。港だ。海抜0m。
スタートゲート脇のフラッグがバタバタを音をたてる。
西風マックス12m。
ほとんど御前崎の海でのウインドサーフィン大会コンディションみたいだ。
港の岸壁に並が当たり、波しぶきが1500人の選手にかかる。

上はウインドブレーカー、下は短パン。
シューズはOnの新しいクラウドベンチャー。

仲間たちとかたく握手し、フィニッシュでまた会おうと誓う。
電子音カウントダウン。スタートホーンが真っ暗な港に響き渡る。
午前6時、71.7キロ、累積標高4400mの旅が始まる。怒涛のスタートラッシュ。

Bon Voyage!!いってらっしゃい、良い旅を!

スタートから登りの3キロロード。
オレは朝にはめっぽう弱い。すぐに息が上がる。
すぐ暑くなりウインドブレーカーを脱いでザックにしまう。
このとき、目標タイムを記したカードと、吊り防止のサプリを落とす。
かがんだ時、ザックのポケットから落ちたんだ。北丹で両足吊ったときの恐怖が蘇る。

気がついたときに無かった。こういうのは眼の前が真っ暗になるくらい心が折れそうになる。

3キロからトレイルに入る。いきなり渋滞。10分はロスしている。
どんどん寒くなる。でも走れば寒さは解消される。ところがなかなか走り出さない。

詰まる、走る、詰まる、走るが頻繁に起こった。
やっと渋滞から開放。どんどん走れるトレイル。
走れるというか走らされるようなトレイル。
下りの林道に出た。
後輩に追いついた。
しばらくしてミドリちゃんにも追いついた。
そんな飛ばすつもりはなかったけど、とにかくシューズが良かった。
飛ばしてくれと言わんばかりバネと衝撃吸収が抜群だった。
ほとんど抜かれていない。ものすごい人数を抜いた。

そしてA1エイドの小金橋24キロ。
落とした目標カードだけど、A1のタイムだけは覚えていた。
9時目標。到着は9時19分。
とてもとても挽回できるとは思わなかった。

熱がある。そう感じた。急速に体力が無くなってる。
まずは補給せねば。特急でバナナ、オレンジを口にする。

再スタートするも頭がボーッとするよ。
とりあえず登る。登ってるけど、これで終わったと思った。
こういうときは目を閉じてみる。
明らかにまっすぐ走れない。熱がある証拠だ。
初めてDNFの3文字が頭に浮かぶ。

A1にはまだ戻れる。
だってまだフィニッシュまでは50キロ近くもあるのだ。
次のA2までは20キロ弱。
戻るか進むか、、、なんとかA2まで、そこまでは行こう。
走れるところは走ったけど、登りは確実に歩いた。
急勾配があり足が上がらない。道志や北丹よりツライ。
後続の選手がオレの後ろに溜まった。
立ち止まって道をゆずる。屈辱を感じる。
10人、20人を先にやる。

斜面をトラバースする。平衡感覚がおかしい。
バランス崩して崖から落ちたらシャレにならない。
綱渡りのように歩く。身体が山側に傾いている滑稽な姿だったろう。

それでも少しづつ、100mずつ進む。50mづつ進む。
1歩進めば1歩次のエイドに近づく。
フィニッシュのことはもはや考えもつかない。
A2が全て。A2に着いたら考える。DNFを考える。

そしてA2、仁科峠エイド、44キロ。
到着者と出発者がクロスする道がある。
そこでミドリちゃんとすれ違う。彼女は休憩が終わり再出発したのだ。
そこへオレが到着したということ。
ここではウドンを頂き、小休憩してきっと彼女とは15分の差になるだろう。
ここできっちり15分休憩した。
とはいっても急いでウドン3杯かけこみ、コーラを飲み、
水を補給して、落ち着くこと無い15分。

ここでは不思議とDNFは考えなかった。

気持ちの何処かにまだ彼女と勝負は終わってねえ!みたいなのがあったかもね。子供かよ。

エイド側道の応援で気持ちが高ぶったのもあるよ。

ところが再スタートするも、気持ちの高ぶりはすぐに消沈した。応援の声は背中にすぐ消えた。
結局はどんな強い気持ちも体調が左右する。自分の気持ちは陽炎みたいに不安定だった。
病は気から、ではない。そんなことはあり得ない。
強靭な精神は強靭な肉体に宿る。
痛感した。鏑木さんのブリーフィングでの言葉が身に沁みた。

旅を楽しむことも、笑顔で走れることも、耐久することも、健康あってのことだ。
とても悔しかったけど、ここでレースを止めた。気持ちの上で、ぷつんと糸を切った。
でもDNFではない。レースを止めただけで完走に切り替えたのだ。

簡単なことだ。糸が切れたんではない。切ったんだ。
走れないのではない。走らないと決めたんだ。

ここで気持ちを入れ替えるためにザックからBluetoothのイヤホンを出して耳にセットした。
ジャンプを聞いて、UTMBのテーマソングも流れてきた。
でも、いつもと違う。全く心が踊らなかった。音がうるさい。
すぐに取外したよ。

もくもくと歩く。ただただ歩く。
ツライのは気のせいだ、と言い聞かせても、もう一人の自分が、いやいやこのツラさは本物だよと言う。

仁科峠は伊豆箱根特有の熊笹一面の壮大な風景の中を走る。
左には燻し銀に輝く駿河湾。傾いた陽が海面を照らす。

段差の大きな階段の下りが続く。絶好調だとしてもキツイ階段だ。
ましてやいつもより神経を集中させるので脳が疲弊しているのがわかる。
いつかは着く、いつかは着く、とマントラを唱えて進む。

もし小さな子供が遠くからオレを見たらこう思うだろう。
あのおじさん、ヘトヘトな感じがするよって。
そうだ。誰が見てもヘトヘト感いっぱい。
頭をもたれ、肩を落とし、腰が砕け、膝が笑い、階段をよろめきながら降りてくるオジサン。

最後のエイド、A3土肥駐車場に着く。55キロ。
このエイド到着間際に相方から着電があった。
A2でリタイヤするという。膝が壊れ前へ進めないと言う。
いい選択だ。おつかれ様と言った。
DNFとはいっても今までで最長トレイルを記録。
次へ繋がるDNFだ。
それから先はオレが受け継ぐ。ゆっくり安め。
でも本当に休みたいのはオレなんだよ。。


オレはそう言いながら、50キロ過ぎてから全く進んでいないことに気がつく。
1キロが長く永遠のようだった。本当に進まないんだ。
52キロの次に51キロが現れ、しばらく行くとまた51キロの標識が現れる。
キツネに騙されているか、夢を見ているのか。。
やっと着いたA3土肥駐車場は気温2度。

夢ではなかった。明るい雰囲気と美味しい食べ物が待っていた。
ここで猪汁を頂いた。世の中にこんなに美味しいものってあったのか!
しっかり2杯、ネギをたくさん入れて頂いた。そしてウインドブレーカーと長パンツを装着。

(レース中に撮った画像はこれだけ)


服装は難しい。
寒くても厚着をすると汗をかき、それが冷えると薄着よりも危険になる。
とにかくここで冬支度をした。
ネックウオーマーで耳と鼻から下を覆う。
止まらない鼻水をグローブで拭くので、グローブはビショビショ。
鼻の下はヒリヒリして多分腫れている。

あと17キロ。永遠の17キロ。
全力で走れば80分くらい。
でも3時間はかかるだろう。
3時間も寒風の中進むのか、、、オレは何をやってるんだろう??
もうトレイルやめようかな。何なんだ、一体??
ツラさを超えると腹まで立ってくる。

達磨山レストハウスからヘッドランプ点灯させた。
空はまだ少し明るいが林の中はもう前が見えない。
このころから選手同士の励まし合いが多くなる。

みんなツライのだ。
ツライのはシェアするのだ。

途中で会話した人は同じ茅ヶ崎のランナーで家が近所だったり、
立ち止まっていたら異常なハイテンションで周りを盛り上げながら走る若いランナーがいたり、
やたら元気なボランティアスタッフがいたり、寒いけどホッカイロみたいな瞬間があったよ。

さて、ランプを点灯後、重大事故が起きた。
ランプが数秒後に消える。
またスイッチを入れるも5秒持たない。

朝、まだ暗いうちに使ったランプをしまうときに誤ってonさせちゃったのだ。
しかも予備のランプをザックに入れてこなかった。
完全に甘く見てた。山を、レースを。トレイルランナーの風上にも置けない。

オレはiPhoneですら持たない予定だったのだ。重いから。
持って走ったのは不幸中の幸いだった。
iPhoneのライトで足元を照らす。
石や段差や木の根を確認して進む。
山の中だ。月の光も星もない。曇っている。もはや完全な暗闇。
iPhoneライトじゃ限界がある。当たり前だ。前方1mをほんわり照らしているだけ。
後続選手のライトが迫ってくる。その光を追いかけながら進みたい。
でもあっという間に追い越され、すぐに遠く離される。
彼らの光をもらって走る力はもうない。

泥の水溜りにはまる。小さな岩をけとばす。
なんでラストにトレイルなんだよ!!思わず声に出す。

オレより更に遅いランナーが前にいた。
足を引きずって走っている。
足を引きずって走っているランナーに歩いているオレが追いつく。
「一緒に行きましょう。もう少しだ。」と話しかける。
「もう無理ですから先に行ってください。」と彼は返す。
彼はオレにライトがないことがわかったのか、オレの道標になろうと無理に走ってオレの前に出てくれた。
彼は自分のヘッドライトを外しオレに手渡そうとしたよ。
「これ使ってください。私はハンディライトあるから。」
礼を言って丁寧に断った。
「もう街頭が見えてきたしダイジョウブ。フィニッシュ目指しましょう!」

少し走り、多く歩き、多めに走り、少し歩いた。
民家が見えてきた。
民家から住人が、もう少し、頑張れ!と励ましてくれる。

修善寺の温泉街に入った。
とてもレトロな街。赤提灯が灯る居酒屋がある。射的場もある。
亀のような速度で走っていると、ドン!と背中を叩かれた。
「もう少しだよ、がんばれ!!!!!」
知らない女子選手が大きな声で励ましてくれた。
「ありがとう!」と言ったら彼女は振り返らず左手でガッツポーズをしてくれたよ。

オレは自分の不甲斐なさと、それとランナーの温かさと優しさがもうゴチャゴチャになって涙が止まらなくなった。

遠く選手をコールするフィニッシュの賑やかさが聞こえてきた。

階段を下る。
細い花道が始まる。
先にリスペクトタイムを出しフィニッシュしたミドリちゃんと相方がいたよ。
最後のストレートは相方と一緒に走った。
こないだの神流では逆のパターンだったな。
テープを両手でつかみ高く上げた。

フィニッシュ。

(動画撮ってな。最後だからここは撮らんと!)

 



11時間58分。
長い旅の終了。

反省すべき点数多し。
いいように考えよう。
得ることが多かった、得ることが大きかったレースだ。

あらためてハッキリしたこと。
トレイルランニングは素晴らしい。
友人だったり仲間だったり、山の自然や、自分と向き合ったり、
愕然としたり復活したり、諦めたり。
こんなに楽しいことはない。
楽しいに尽きる。
それに尽きる。

良い旅をしたと思う。

 

ITJ 2018(IZU Trail Journey)

グリーンフィールドさんの投稿動画です。素晴らしいので御覧ください。