数年前、再起不能とまで言われた電機、自動車、鉄鋼、造船などの韓国企業が政府と一体となった企業の集約、ウオン安の推進で不死鳥の如く甦った。今やサムソン電子の経常利益は年間4,000~4,500億円に達し、巨大赤字に苦しむ日本の電機業界を席巻している。自動車、鉄鋼、造船業界でも同様の動きが際立っている。国主導の企業集約による国内競争の排除が競争力を高めたのは事実だが、なんと言っても20%強に及ぶウオン安が企業の国際競争力を高めたのは明白である。対照的に日本の代表的な輸出企業は各種規制の継続、20%強の円高など政府の無為無策に翻弄され、血のにじむような企業努力にも拘わらず韓国企業に圧倒され続けている。日銀の金融緩和策や小出しの規制撤廃などの円高対策が取られているが、抜本的な円高対策とはとても言い難い。
一方、日本は世界の先進国の中で最も豊富な個人金融資産を有し、その額は年々増え続け今年中には1,500兆円に達すると見られる。この世界に類を見ない個人金融資産を有効活用する方策を国主導で実施することこそ抜本的な円高対策となるのではないか。具体的には一定の範囲内(例えば1,000万円)であれば相続税を免除するとか、利息に対する源泉税の免除などが有効だろう。日銀の円売り介入に批判的な世界主要国の金融当局も個人の円売り、外国通貨買いに反論する筋合いではない。仮に10%が円売り、外貨買いに動けばその金額は150兆円に達し、ここ数か月で日銀が円売り介入をしたとみられる10~15兆円を遥かに凌ぐ金額となる。この「個人金融資産のマグマ」は数年で20~30%の円安をもたらすのではないか。
勿論、輸入物価の上昇に伴うインフレが懸念されるが、現在存在すると言われる需給ギャップ、25~30兆円を考えれば目先すぐに悪性インフレの可能性は皆無と言っていいのではないか。もしそう云う事態になれば得意の金融政策で歯止めをかければ十分だろう。この”マグマ”の活用に踏み切る勇気が政府、金融当局に今こそ求められている。