テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

深夜の告白

2007-02-05 | サスペンス・ミステリー
(1944/ビリー・ワイルダー監督・共同脚本/フレッド・マクマレイ、バーバラ・スタンウィック、エドワード・G・ロビンソン、ポーター・ホール、ジーン・ヘザー、トム・パワーズ/106分)


 不思議なことに、ビリー・ワイルダー映画は観ている時は面白いんだが、時間が経つとストーリーを忘れてしまうモノが多い。「第十七捕虜収容所(1953)」、「七年目の浮気(1955)」、「情婦(1957)」、「翼よ!あれが巴里の灯だ(1957)」等もそうで、面白かったことは覚えていてもストーリーを話せと言われるとスムーズに出てこない。この「深夜の告白」は初めて観る作品ですが、これは強烈な印象が残る映画でした。今年になって買った1コインDVDで、きっかけは双葉さんの500選に入っていたから。本ブログ2本目のワイルダー作品であります。

*

 保険会社のセールスマンが自動車保険の更新の手続きに行った会社重役の後妻に惹かれ、保険金を狙ったご亭主の殺害計画に加担してしまうというお話。旦那に知られずに保険に入りたいという奥さんの話に保険金殺人の疑いをもったセールスマンが、一旦は断ったものの、彼女の身の上話にほだされ、ジワジワと抜き差しならない状況に陥っていく様がリアルに描かれる、実に面白い作品でした。
 病院で亡くなった先妻の看護婦をしていたフィリス(スタンウィック)。石油会社重役ディートリクソンの後妻に入ったものの、使えるお金はほとんど無く、夫の遺産も全て一人娘のローラ(ヘザー)に渡るようになっている。『夫は採油現場に行くこともあり、いざという時に自分には何の保障もない。』 それが彼女の言い分だったのだが・・・。

 映画は保険セールスマンのネフ(マクマレイ)が深夜の会社事務所で、レコーダーに向かって保険金殺人について自分が犯人であるという告白を始めるところがスタート。そういえば「翼よ!・・」も「サンセット大通り(1950)」も回想形式で語られる作品でした。どうもその辺にワイルダーの妙味が発揮されるようですな。

 ネフの告白は、同僚で支払い案件の調査が専門のキーズ(ロビンソン)に対するもので、売上ナンバーワンのネフとキーズは長年の信頼関係がある。だからキーズのディートリクソンの案件についての調査具合は逐一ネフに分かる。此処にヒッチコックのサスペンスにも見られるような追われる側の緊迫していく心理が描かれ、事故現場の目撃者、ローラの彼氏なども絡み合って2転3転する状況がハラハラさせる面白さでした。

 原作が「郵便配達は二度ベルを鳴らす」等で有名なジェームズ・M・ケインの「DOUBLE INDEMNITY(倍額保険)」。列車事故の場合は払われる死亡保険金が通常の倍になるので、犯人達も列車事故を装うとする。映画の原題もそのままです。
 で、それをワイルダーと、映画でもお馴染みの名探偵フィリップ・マーローの生みの親レイモンド・チャンドラーが共同で脚色したとのこと。フィリスとネフが初めて会うところの二人の会話のウィットの効き具合など、それらしい雰囲気でしたな。

*

 1944年のアカデミー賞では、作品賞、、主演女優賞(スタンウィック)、監督賞、脚色賞、白黒撮影賞(ジョン・サイツ)、映画音楽賞(ミクロス・ローザ)等でノミネートされたようですが、無冠に終わったとのことです。

 映画データを見ていましたら、スタンウィックは、「哀愁(1940)」等の髭の二枚目ロバート・テイラーとご夫婦(39~51年)だったと知りました。


▼(ネタバレ注意)
 さて、数々のサスペンス場面でも印象に残ったものを三つご紹介。

 列車からの転落事故に見せかけて、先に殺しておいた旦那の死体を線路脇に遺棄した後、現場を立ち去ろうとしたフィリスとネフを乗せた車のエンジンがかからない場面。まさか車を置いて帰ることも出来ず、さあどうする?

 事件の後しばらくしてフィリスがネフのアパートを訪ねようと電話をかけた後、フィリスを待っているネフの部屋にキーズがやって来る場面。ネフの部屋でフィリスとキーズが顔を合わせれば、一発でキーズに事のからくりがばれてしまう。ドア一枚隔てて、キーズとフィリスが同一画面に存在するショットは強烈でした。

 そして、ディートリクソンに化けて列車から落ちる前のネフと話をした男が、キーズに呼ばれて事務所にやって来る場面。同席したネフを見ていて突然見覚えがあることに気付く所はドキッとしましたな。

 それにしても、ローラの彼氏にネフと彼女が出来ていると嘘を吹き込んで、二人を殺させようとまで考えるなんて、いやはや、げに恐ろしきは悪女也・・・ブルブル。
▲(解除)

・お薦め度【★★★★★=文句無し! 大いに見るべし!】 テアトル十瑠

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« セレブリティ | トップ | 「ジョンとメリー」再見 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TB有難うございました (オカピー)
2007-02-05 17:02:22
アメリカのフィルムノワールがハードボイルドの方向へ進む契機になった作品でしょうね。
現在フィルムノワールと言えば、戦前の傑作群「暗黒街の顔役」「犯罪王リコ」などではなく、本作や「マルタの鷹」などのハードボイルド群が中心的に語られているようです。
勧善懲悪的でなく古臭くなりにくい本質を持っているからだと思いますが、臨場感にも優れているように思います。
知らず映画の中に身を置いているような錯覚に陥りませんでしたか? 大スクリーンで観たら余計に。

80年代初めの「白いドレスの女」を御覧になりましたか? J・ケインにオマージュを捧げたような作品でした。
返信する
「白いドレスの女」 (十瑠)
2007-02-05 22:00:12
タイトルは勿論知っていますし、多分レンタルで観たと思いますが、中身の記憶は(何処へ飛んで行ったのか)皆無です。

本作はハードボイルドでもギャングなんかが出てこないのが、生々しさに貢献してるんじゃないですかね。

戦前のギャングものではM・カーティスの「汚れた顔の天使」のような、心の琴線にふれるような作品が好きでしたね。
返信する
ごぶさたしております。 (みー)
2007-02-06 22:33:38
お元気でしたか~?
かなりお久しぶりです。

すごく興味を惹かれる作品が目に留まりました。
レンタルで見ないので、ワンコインなら探しに行ってみようかな~。

サスペンス好きとしては、はずしちゃいけない気がする映画ですねぇ。
返信する
みーさん♪ ご無沙汰で~す (十瑠)
2007-02-06 22:52:40
ほとんど毎日お伺いはしてるんですが。
なんどかスキンが変わったのも存じてますよ~。

はい、これは超お薦めです! 絶対損はさせません!
ただね、私が買ったDVDは録音に1ヶ所明らかな不備があったんですよ。ま、映画の価値が大きく損なわれるような瑕疵でもなかったんで“そのまんま東”です。(笑)

ところで、今年は「我が家の楽園」も買ったんですyo!
今年前半には観て、記事アップしたいですね
返信する

コメントを投稿

サスペンス・ミステリー」カテゴリの最新記事