テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

テレフォン

2011-10-11 | サスペンス・ミステリー
(1977/ドン・シーゲル監督/チャールズ・ブロンソン、リー・レミック、ドナルド・プレザンス、タイン・デイリー、パトリック・マギー、シェリー・ノース、ジャクリーン・スコット/117分)


 2003年の9月にブロンソンが亡くなって、当時書いた追悼記事の中に見逃しているのが残念な作品を幾つかあげたけれど、「テレフォン」もその中の一つだ。

<「ダーティー・ハリー(1971)」のドン・シーゲル監督作品で、音楽も"ハリー"と同じラロ・シフリン。ピーター・ハイアムズとスターリング・シリファントの共同脚本のサスペンスもので、米ソ冷戦下のアメリカでのソ連人スパイのテロ物と聞けばこれはもう、見たくて見たくてたまらなくなった。共演は、抑えた演技の光るリー・レミック。>

 レンタルにも見かけないので半分観るのをあきらめていたら、この度のTSUTAYAの発掘良品シリーズ第13弾に登場したので、早速借りてきた。

*

 「ダイ・ハード2」の原作者でもあるウォルター・ウェイジャーの小説が元ネタで、米ソの冷戦が雪解けを見せつつあったある時期というのが背景になっている。
 ソ連では対米強硬派の政府高官や元軍人などが次々と謎の死を遂げていて、一方アメリカ国内では謎の男が自動車修理工場の店主やヘリコプター操縦士でもある航空会社の社長に催眠術のような電話をかけて、彼らを米軍基地を目標とした自爆テロに追いやっていた。
 ドナルド・プレザンス扮する謎の男は対米強硬派のKGBのスパイ、ニコライ・ダルチムスキーで、つまりは雪解けに邪魔な要人がソ連国内で暗殺されているのに憤慨した彼が、米ソ紛争を再燃させようとしているのだ。催眠術にかかったようになって自爆テロを行っているのは冷戦の間にアメリカ人になりすまして侵入しているソ連のスパイ達で、侵入前に爆弾テロの催眠プログラムをインプットされている。極秘事項だったこの時限爆弾を抱えたに等しいスパイ達の事を知ったダルチムスキーが、更に発火装置である呪文まで調べ上げ実行に移した次第。
 あわてたKGB側は、ダルチムスキーを暗殺するべく有能なスパイを米国内に送り込む。それがブロンソン扮するグレゴーリ・ボルゾフ大佐だ。
 視覚的完全記憶の持ち主である大佐は、爆弾を抱えた50人以上のスパイについての調書を記憶し単身乗り込む。アメリカでは女性のサポートがあるが、この女性がリー・レミック扮するバーバラ。アメリカ人に完全に成りすました彼女もソ連のスパイだが、実は彼女には大佐には言えないもう一つの任務があった。それは、大佐がダルチムスキー暗殺を成し遂げた暁には、彼を殺害するという指令だったのだが・・・。

 ミステリアスなスタートから徐々に背景が分かっていく序盤は勿論面白いんだが、中盤の催眠術のロックが解除されて自爆テロに入る過程の丹念な描写とか予想以上の大きな爆発など如何にもドン・シーゲルさんらしさ満載で最高。スパイ同士の追いかけっこ、またグレゴリー大佐とバーバラの心理的駆け引きの行方なども見所十分で、満足でした。

 ピーター・ハイアムズは監督やら撮影もこなす才人。
 スターリング・シリファントは「夜の大捜査線 (1967)」でオスカー受賞、「まごころを君に (1968)」やワイラーの遺作「L・B・ジョーンズの解放 (1969)」などのシリアスものから、「ポセイドン・アドベンチャー (1972)」、「タワーリング・インフェルノ (1974)」などのパニックものまでこなす名脚本家。後者2作と比べると小品のイメージが残りますが、その分独特の味わいがある作品です。

 出演者で目に付いたのは、KGBの親玉を演じたパトリック・マギー。キューブリックの「時計じかけのオレンジ」で主人公のアレックス等に暴力を振るわれる男の役だったですな。
 あと、CIAの有能な女性ドロシー役が前年の「ダーティハリー3」でキャラハンの同僚の新米女性刑事に扮したタイン・デイリー。室内のシーンにしか出てこないけど、印象に残る儲け役でした。

 ところで、ロシア語は不案内ですが、原題の【TELEFON】というのは「telephon」のロシア語表記なんでしょうな?

*

ツタヤの発掘良品にドン・シーゲルの「テレフォン」が出てきたので、早速レンタルして観た。面白かった。期待通り。リー・レミックさんが出てて、ちょいとお肌に年季が入ってるようなので調べたら40代前半でした。ついでにブロンソンは50代半ば。渋い!ラロ・シフリンはらしさが無かったなぁ。。
 [10月 07日](→Twitter on 十瑠 より





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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1 コメント

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「テレフォン」について (風早真希)
2023-06-29 18:25:43
久し振りにコメント致します。

この映画「テレフォン」。監督がドン・シーゲル、脚本がピーター・ハイアムズとスターリング・シリファント、そして主演がチャールズ・ブロンソンと、これだけの面子が揃ったら、そりゃあ、面白くないわけがありません。
とにかく、抜群に面白いサスペンス・ミステリー映画ですね。

ソ連のKGBの職員ダルチムスキー(ドナルド・プレザンス)が、「テレフォン名簿」というトップ・シークレットを盗み出し、アメリカに逃亡を図ります。
名簿には、54人のアメリカ人の氏名と電話番号が記されています。

かつての米ソの東西冷戦の時代に、ソ連政府によって拉致され、洗脳された後、母国アメリカに送り返された54人の市民たち。

「森は美しく、また暗く深い----」で始まる、ロバート・フロストの詩を聞くと、潜在意識下に仕掛けられたスイッチがオンになり、彼らは指定された米軍基地を破壊する"人間兵器"に変貌するのです。

そして、KGBの予想通り、全米各地で謎の爆発事件が連続して発生しますが、それらは、ダルチムスキーが電話を使って"人間兵器"を一人づつ動かし始めたのです。

米ソの東西冷戦の時代は既に終わっており、このままでは事情を知らないアメリカ政府が、モスクワへの核攻撃で報復を開始する可能性もあり得るのです。

この事態を重く見たKGBの首脳の命令で、ボルゾフ少佐(チャールズ・ブロンソン)がアメリカに極秘裏に潜入し、在米の女スパイ、バーバラ(リー・レミック)と合流し、ダルチムスキーを追う事になるのです。

しかし、このバーバラは、CIAとも通じる二重スパイで、ボルゾフ暗殺指令を受けていたのです----。

この映画でチャールズ・ブロンソンが演じる、アメリカの地理にやたらと精通しているソ連軍人という妙な役柄が抜群に面白く、「レッド・ブル」のアーノルド・シュワルツェネッガーや、「レッド・スコルピオン」のドルフ・ラングレンを軽くしのぐミスマッチさがご愛敬で、嬉しくなってしまいます。

おまけに驚異的な記憶力の持ち主という知的な役柄。
こんなブロンソンは、他ではなかなか見れません。

しかし、相棒のリー・レミックには指一本触れようともせず、やはりここでも、ブロンソンは実の奥さんのジル・アイアランド第一主義かと思わせてくれて、長年のブロンソン・ファンとしては、ニヤリとしてしまいます。

対するドナルド・プレザンスは、セリフがほとんどない役で、フロストの詩を電話口で囁くくらいなのですが、ベスト・パフォーマンスを見せてくれるのです。

遠隔地から電話をかければいいのに、わざわざ標的の家まで赴き、玄関前の公衆電話から指示を送るという間抜けさ。
しかも、サボタージュが成功するかどうかを自分の目で確かめ、自己満足に浸りたいがため、車で延々と"人間兵器"を追いかけ、ソワソワと、そして嬉々として、いつまでも事のなりゆきを見守っているという、この小心者ぶりが実にイカシているのです。

全面核戦争にも繋がる大胆な犯行に及んだのにもかかわらず、動機について、「彼は好戦的で、執着心が強い異常者だから---」としか、言われないあたりも、実にかわいそうな人なのです。

そんな小悪党なので、ブロンソンとの丁々発止の対決とはいかず、クライマックスは驚くほど、あっけないのです。
また、ブロンソンとレミックの絡みもひねりが不足しているという難点はあるのですが、しかし、そこはドン・シーゲル監督、そんな短所を補って余り有る、プログラムB級映画特有の、ふてぶてしさと痛快さをたっぷりと堪能出来る映画に仕上げていて、さすがですね。
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