(1936/チャールズ・チャップリン監督・製作・脚本・音楽/チャールズ・チャップリン、ポーレット・ゴダード、チェスター・コンクリン、ヘンリー・バーグマン/87分)
1970年代の初めの頃にサイレント映画のリバイバル・ブームがあり、その時に最初に観たのが確かこの「モダン・タイムス」だった。初めてみたチャップリン作品で、それまでのサイレントに対する個人的な観念が一掃された映画でもある。
白塗りの顔は、かえって目の動きが強調されて思いの外表情が豊かで分かり易く、同時期に観たバスター・キートンも無表情が売りのはずなのに目だけは妙に気になって見入ったもんです。それと、カメラも前後左右に動くし、ショットの構成も自然で、60年代にTVで観ていたサイレント・ムービーとは比較にならない程映画的表現が出来ていたのにも驚いた。
さらには、この「モダン・タイムス」は機械化が進む近代文明に対する皮肉が入っている訳だけど、前半のオートメーション化された工場での数々のシーンが、その後の機械化と人間との問題を先取りしていてチャップリンの先見性に大変驚いた作品でもある。
ベルトコンベアーに巻き込まれて、ゼンマイ仕掛けの時計のような機械の中に入っていくシーンは、70年代のお茶の間の人気番組ドリフターズの「全員集合」のコントを遥かに越えていたし、社長室に設置された大きなモニターが工場にもあって、それで従業員達を監視しているというシーンは、36年という作られた時期を考えるとチャップリンにはとてつもない想像力と創造力があったとしか考えられない。まさに天才というべきでしょう。
モニターはトイレにもあって、ひと休みしていたチャップリンは社長に一喝される。モニターから直接見えるというのはちょっとオカシイですがネ。
それと、自動食事マシーンみたいな機械も笑わせる。食物を運ぶパーツが故障しても口を拭うパーツだけは正常に動くという設定も面白く、トウモロコシのパーツが暴走するところは今回見ても抱腹絶倒ものでありました。チャップリンの演技力にも驚きましたな。
ただ、F・キャプラが「或る夜の出来事」を作ったのが1934年だから時代は完全にトーキーに入っていたはずで、そのことを考えると、36年のこの作品で殆どサイレントのスタイルを通したチャップリンには、あの燕尾服と山高帽にステッキというスタイルがトーキーに合わないという考えがあったんでしょうな。これが山高帽、ドタ靴、ステッキというスタイルの最後となった作品らしく、以後「チャップリンの独裁者(1940)」「チャップリンの殺人狂時代(1947)」「ライムライト(1952)」とちょび髭だけが残った作品が続いて行きます。
この時チャップリン、47歳。デパートの夜警の仕事に就いた時に見せたローラースケートの上手さ、レストランで歌い踊るときの身のこなしのしなやかさ。たいしたもんです。
せっかくですからストーリーを簡単に紹介しておきましょう。
工場でボルトを締める係をしていたチャーリー(チャップリンの映画では特に役名はないのでチャーリーとしておきます)は、流れ作業のスピードについていけずに頭がイカレ工場もくびになる。退院して街をうろついていたところ、ストライキのデモ隊のリーダーに間違われ豚箱に入れられる。
刑務所では脱獄しようとした囚人をやっつけたために釈放されるが、警察署長の紹介で新しい職を見つけるもドジを践んで再び無職に。
大恐慌のあおりで、街には腹を減らした子供らが大勢いる。兄弟のためにパンを盗もうとした娘の身代わりになろうとするチャーリーだったが、やがて二人は護送車を抜け出して二人で川縁のほったて小屋で暮らすようになる。二人で頑張れば何とかなる。
道路でダンスのパフォーマンスをしていた娘は、レストランにダンサーとして雇われることになり、彼女はチャーリーにもウェイターの仕事を紹介するのだが・・・。
トーキーとしてのチャレンジも所々みせています。
刑務所に慰問に来た牧師夫婦。気取った奥さんが署長室で待っていると、そこに釈放の手続きにやってきたチャーリーが。二人で同じ長椅子に座り、奥さんがコーヒーを飲もうとするとお腹の虫がグーッと鳴る。ここは、“音”使ってました。
もう一つ忘れてならないのは、チャップリンの歌声が聞けるシーン。
レストランでウェイターと同時に歌手の仕事も頼まれ、大勢のお客さんの前で唄うことになるんだが、肝心の歌詞が覚えられないために彼女のアイデアでカフスにメモる。これなら大丈夫と張り切って出て行くが、張り切りすぎて前奏の踊りでカフスを飛ばしてしまい、ついにはでたらめな歌詞で唄い、内容はパントマイムで表現することになる。
初めて公開されたチャップリンの声が歌声で、しかしでたらめな言葉だったというオチでした。
このシーンで流れる曲はしばらく前に車のTVCMに使われていましたが、さて何人の人が「モダン・タイムス」だと気付いたでしょうかねぇ。
なくしたカフスを探す踊りも笑えました。上手いし、ホントに面白い!
後半のストーリーは、前半の流れから行くと尻つぼみになったような気がしますが、彼女と二人で向こうへ去っていくシーンはチャップリンのトレードマークのラストシーンとして忘れられない映像です。
紹介しきれない細かなコントのようなシーンがあるので、それは観てのお楽しみということにしときましょ。
尚、彼女役の可愛いポーレット・ゴダードは何人目かのチャップリンの奥さんで、チャップリンと結婚する前は「西部戦線異常なし」の原作者レマルクの奥さんだったようです。「チャップリンの独裁者」にも出ているようで、これも近々再見出来そうですな。
そういえば、最近ワイドショーを賑わした萩本欽ちゃんはチャップリンに心酔している人でしたが、歩き方も真似ているのがよ~く分かりましたね。
※ 関連ブログ記事
・映画評「モダン・タイムス」 ~ プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
1970年代の初めの頃にサイレント映画のリバイバル・ブームがあり、その時に最初に観たのが確かこの「モダン・タイムス」だった。初めてみたチャップリン作品で、それまでのサイレントに対する個人的な観念が一掃された映画でもある。
白塗りの顔は、かえって目の動きが強調されて思いの外表情が豊かで分かり易く、同時期に観たバスター・キートンも無表情が売りのはずなのに目だけは妙に気になって見入ったもんです。それと、カメラも前後左右に動くし、ショットの構成も自然で、60年代にTVで観ていたサイレント・ムービーとは比較にならない程映画的表現が出来ていたのにも驚いた。
さらには、この「モダン・タイムス」は機械化が進む近代文明に対する皮肉が入っている訳だけど、前半のオートメーション化された工場での数々のシーンが、その後の機械化と人間との問題を先取りしていてチャップリンの先見性に大変驚いた作品でもある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/f6/aaa6b96798fb2950bc8fc08191a5d734.jpg)
モニターはトイレにもあって、ひと休みしていたチャップリンは社長に一喝される。モニターから直接見えるというのはちょっとオカシイですがネ。
それと、自動食事マシーンみたいな機械も笑わせる。食物を運ぶパーツが故障しても口を拭うパーツだけは正常に動くという設定も面白く、トウモロコシのパーツが暴走するところは今回見ても抱腹絶倒ものでありました。チャップリンの演技力にも驚きましたな。
ただ、F・キャプラが「或る夜の出来事」を作ったのが1934年だから時代は完全にトーキーに入っていたはずで、そのことを考えると、36年のこの作品で殆どサイレントのスタイルを通したチャップリンには、あの燕尾服と山高帽にステッキというスタイルがトーキーに合わないという考えがあったんでしょうな。これが山高帽、ドタ靴、ステッキというスタイルの最後となった作品らしく、以後「チャップリンの独裁者(1940)」「チャップリンの殺人狂時代(1947)」「ライムライト(1952)」とちょび髭だけが残った作品が続いて行きます。
この時チャップリン、47歳。デパートの夜警の仕事に就いた時に見せたローラースケートの上手さ、レストランで歌い踊るときの身のこなしのしなやかさ。たいしたもんです。
せっかくですからストーリーを簡単に紹介しておきましょう。
工場でボルトを締める係をしていたチャーリー(チャップリンの映画では特に役名はないのでチャーリーとしておきます)は、流れ作業のスピードについていけずに頭がイカレ工場もくびになる。退院して街をうろついていたところ、ストライキのデモ隊のリーダーに間違われ豚箱に入れられる。
刑務所では脱獄しようとした囚人をやっつけたために釈放されるが、警察署長の紹介で新しい職を見つけるもドジを践んで再び無職に。
大恐慌のあおりで、街には腹を減らした子供らが大勢いる。兄弟のためにパンを盗もうとした娘の身代わりになろうとするチャーリーだったが、やがて二人は護送車を抜け出して二人で川縁のほったて小屋で暮らすようになる。二人で頑張れば何とかなる。
道路でダンスのパフォーマンスをしていた娘は、レストランにダンサーとして雇われることになり、彼女はチャーリーにもウェイターの仕事を紹介するのだが・・・。
トーキーとしてのチャレンジも所々みせています。
刑務所に慰問に来た牧師夫婦。気取った奥さんが署長室で待っていると、そこに釈放の手続きにやってきたチャーリーが。二人で同じ長椅子に座り、奥さんがコーヒーを飲もうとするとお腹の虫がグーッと鳴る。ここは、“音”使ってました。
もう一つ忘れてならないのは、チャップリンの歌声が聞けるシーン。
レストランでウェイターと同時に歌手の仕事も頼まれ、大勢のお客さんの前で唄うことになるんだが、肝心の歌詞が覚えられないために彼女のアイデアでカフスにメモる。これなら大丈夫と張り切って出て行くが、張り切りすぎて前奏の踊りでカフスを飛ばしてしまい、ついにはでたらめな歌詞で唄い、内容はパントマイムで表現することになる。
初めて公開されたチャップリンの声が歌声で、しかしでたらめな言葉だったというオチでした。
このシーンで流れる曲はしばらく前に車のTVCMに使われていましたが、さて何人の人が「モダン・タイムス」だと気付いたでしょうかねぇ。
なくしたカフスを探す踊りも笑えました。上手いし、ホントに面白い!
後半のストーリーは、前半の流れから行くと尻つぼみになったような気がしますが、彼女と二人で向こうへ去っていくシーンはチャップリンのトレードマークのラストシーンとして忘れられない映像です。
紹介しきれない細かなコントのようなシーンがあるので、それは観てのお楽しみということにしときましょ。
尚、彼女役の可愛いポーレット・ゴダードは何人目かのチャップリンの奥さんで、チャップリンと結婚する前は「西部戦線異常なし」の原作者レマルクの奥さんだったようです。「チャップリンの独裁者」にも出ているようで、これも近々再見出来そうですな。
そういえば、最近ワイドショーを賑わした萩本欽ちゃんはチャップリンに心酔している人でしたが、歩き方も真似ているのがよ~く分かりましたね。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 ![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
※ 関連ブログ記事
・映画評「モダン・タイムス」 ~ プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
今日「キッド」を書こうかな~~と思っていて、結局違う内容になっちゃいましたが、「キッド」の子供って男の子なんでしょうか、それとも女の子?
ジャッキー・クーガンという男の子が演じてますから、男の子でしょう。
前回のチャップリン特集の時はスルーしたんですが、今回は結構録画してます。
さて、ベスト映画は・・・?
今まで見たチャップリンの作品で一番好きです。もうずっと笑いっぱなし!
<ポーレット・ゴダード
「独裁者」にも出ているんですかー!チェックしなくちゃ。
チャップリンの映画は小さな動きまで思いが詰まっているので、数十年ぶりに観ても面白さがあせませんね。
今朝は「キッド」を観て、今夜は「街の灯」を観ました。いずれ記事にしたいと思いますが、あんまり続けて書くとマンネリ化しそうで、ゆっくりと中身を熟成させようかとも考えています。っていうか、書く時間がない!
録画しているので、楽しく見直しながらゆっくり書かせていただきま~す。
今までのチャップリン映画で登場するマドンナとはタイプかかなり違うなとは思っていたのですけど。
萩本欽一さんはチャップリンの心酔者ですね。
昔、欽ちゃんがスイスで余生を送っている憧れのチャップリンにどうしても会いたくて、自宅に行くドキュメンタリー的な番組を見ました。
自宅前で何とかお目にかかれないか?という欽ちゃんのシーンを思い出します。
映像は撮れなかったようですけど、私の記憶ではたしか欽ちゃんは自宅の中に特別に入れてもらい、会えたように思います。違ったかな?
チャップリンの豪邸の門の所だけで会えたような気もしますが、PANAさんの言われるように内部にも入れたのかなあとも思います。
随分昔の話で、お互い年が知れますなあ。
例のでたらめ語の歌はチャップリンらしい愛嬌がつまっていてよかったです。そういえばCMに使われてました!
希望に満ちたラストも観ていて幸せな気分になれるものでしたが、幼い妹たちが気にかかってしまいました。「オリバー・ツイスト」くらい?の時代で、酷い施設に入れられてないか不安になってしまって…。
もっと若い頃に観ていれば、素直に楽しめたかも!
幼い兄弟達のその後のことは忘れてますネ。随分前に見たきりなので。記事にも書いてないから、全然気になってなかったのかも。^^
チャップリンの風刺が明確になっていながら、それがオカシミを交えて語られる、そんな印象の映画でした。