テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

西部戦線異状なし

2005-12-29 | 戦争もの
(1930/ルイス・マイルストン監督/リュー・エアーズ、ウィリアム・ベイクウェル、ラッセル・グリーソン、ルイス・ウォルハイム、スリム・サマーヴィル、ジョン・レイ、ウォルター・ブラウン・ロジャース、レイモンド・グリフィス、ベリル・マーサー/130分)


 ずっと前からタイトルは知っていて、「オーシャンと11人の仲間(1960)」のルイス・マイルストン監督の作品としても気になっていた映画。75年前の作品だが、DVDが出ていたのでレンタルしてみた。最初の方は“雨が降っていて”デジタル・リマスターはされていなかったようだ。
 「allcinema ONLINE」のデータでは100分の上映時間となっていたが、観たのは2時間10分くらいあった。【原題:ALL QUIET ON THE WESTERN FRONT

 第一次世界大戦が舞台で、原作がエリッヒ・マリア・レマルク。そう、主人公はドイツの若者だ。学校の先生や周囲の大人にけしかけられて、お国のためにと軍に志願するも、戦争の悲惨さにうろたえ、傷つき、死んでいく若者たちが描かれている。
 前半の若者達が味わう軍の非人間的な扱いを受けるシーンでは、昔観たTVドラマ、五味川純平の「人間の条件」を思い出した。

 冒頭で生徒達に軍隊への志願をけしかける先生は、まさしくヒトラーを彷彿とさせる。ナチス党首のヒトラーが首相になったのは1933年で、この作品の後になるのだけど、すでにナチスは世界の脅威となっていたのでしょうか。

 学生達が志願して行った軍隊の訓練所には、彼等の町で郵便配達をしていた男が訓練の指揮官となっている。顔なじみの大人を見つけて親しそうに話しかけるが、かつての郵便配達員は「愛と青春の旅だち(1982)」の指揮官のように厳しい。が、中身はあの鬼軍曹とは大違いで、いわゆる戦争バカのような男。20歳前の若者にイジメのような訓練を押しつけ、楽しんでいる。
 後半、戦況がドイツ軍に危うくなってからは、このバカが前線にやって来るんだが、案の定戦闘が始まった途端に怖じ気づく。このキャラクターは面白いアクセントとなりました。

 前半の戦闘シーンは75年前とは思えないほどの迫力で、まるでドキュメンタリーのような描写。「プライベート・ライアン」にも負けていません。突撃してきた兵隊が爆撃を受け、一瞬にして鉄条網にぶら下がった両手以外はどこかに消えてしまうシーンには驚きました。

 原作はとても長い小説だそうで、3人の共作による脚本も後半はまとめ切らなかったのか、ちょっと散漫になったと感じました。「allcinema ONLINE」のデータにある100分の作品が存在するのなら、そちらの方が面白かったでしょう。

 あまりに古くて、出演者は全然知らない人ばかり。後半、スポットライトが当たる若者はヘアスタイルもカッコよく、現在でもいそうな青年でした。

▼(ネタバレ注意)
 彼が最後に戦死するシーンはとても有名ですな。塹壕から目の前にいる蝶々を見つけ、それに手を伸ばそうとして狙撃される。
▲(解除)

 アカデミー賞の作品賞監督賞をとり、脚本賞(マックスウェル・アンダーソン、デル・アンドリュース、ジョージ・アボット)と撮影賞(アーサー・エディソン)にもノミネートされたらしい。

 データを調べていて気付いたこと。
 レマルクの奥さんが、チャップリンの奥さんでもあったポーレット・ゴダード(「モダン・タイムス(1936)」)だったこと。
 そして、マイルストンがロシア出身だったこと。アカデミー賞というのは、映画人の“出身”には拘らないんですなぁ・・・。

・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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15 コメント

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淀川さんがお話ししてました (anupam)
2005-12-31 15:53:03
淀川さんがラジオの番組でこの映画の話をしたとき、目の前に光景が見えるようで(蝶のシーン)聞いているだけで涙が出ました。

実はまだ見ていないのです・・

あまりにもつらそうなんだもの・・クスン
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救いは・・・ (十瑠)
2005-12-31 20:30:55
若者達の友情もありますが、赴任した中隊の隊長が頼りになる男で、彼の存在が一番光っておりました。

一度、若者が故郷に帰るシーンがあるんですが、其処にも居場所が無くなっているというのは「7月4日に生まれて」みたいでした。
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生涯のベスト1です (オカピー)
2007-03-13 15:00:13
TB致しました。
中学生の時に見て以来、三十余年マイ・ベスト1をずっと維持しています。
今回は135分の完全版を観ましたが、やはり見事でした(ちょっと異論気味ですが、御免なさい)。
何度も観ましたが、100分版になかった場面はどこかよく解りません。^^:)
塹壕内での会話やパブの場面はなかったかもしれないなあ。

双葉さんの採点が私と同じ☆☆☆☆★★であるのを知ったのはつい最近ですが、これは嬉しかったなあ。
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100分版は・・・ (十瑠)
2007-03-13 20:36:47
ホントにあるのかどうかは分かりません。ネットの情報が違っているのかも。

先日のBS放送も録画保存しましたが、記憶は1年前のまま。ラストが唐突な感じで呆気なかったなぁという印象が残っています。

若者が怪我をして一度故郷に帰るシークエンスがありますが、あの若者の心情がヘミングウェイの短編の主人公とオーヴァーラップしました。彼らロストジェネレーションの作家達もこの大戦後に出てきたんでしたねぇ。
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主人公は (オカピー)
2007-03-14 02:33:38
帰郷した時に判るのですが、蝶のコレクターなのでした。それを考えるとそう唐突でもないと思いますです。如何でしょうか。
ポール(パウル)を演じたリュー・エアーズは「最後の猿の惑星」に出ていたと思います

日本での戦前公開版は検閲による短縮版、1965年にリバイバル公開されたのが最初の完全版(100分或いは105分?)らしいです。私は二種類のビデオを持っていますが、そのうちの一つは120分くらいだったはずです。
どうなってんの、という感じですね(笑)。

手元にある3バージョンを見比べてどれが一番良いか比べるのも面白そうです。
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オカピーさん (十瑠)
2007-03-14 14:28:00
そんな伏線情報がありましたか。1年前なので、その辺りは忘れました。

短縮版に二種類の完全版。映画の情報も色々ですねぇ。
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がさごそ(探索中)・・・あったぁ~~!(笑) (viva jiji)
2007-03-15 13:40:35
こ、これじゃ~ないかしら~!
え~~と、表紙がね、コンバットのヴィック・モローに酷似の兵士のお写真、モノクロ、
オリジナル全長版、103分ですって。
そいで、これのビデオになったのが・・・字がちっちゃくて、マジ、虫メガネで見ましたわよ。
1986年ですって。

このビデオの裏に書いてあったんですけど日本公開時は検閲でズッタズッタにされたんですってね。

でも~、
3種類もあるっていったい、ドコとドコをな~~に?
どうしたってわけ~??
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検閲か・・・ (十瑠)
2007-03-15 17:44:07
viva jijiさん。
おっ、納戸の中にありましたか?

86といえば戦後40年。なにもズッタズタ版をビデオにしなくても・・・、オリジナルは手に入らなかったのでしょうかねぇ。
考えたら、昭和一桁時代の映画なんですよね。ヤワな部分だけ削ったんでしょうか。それとも・・、ラストシーンも無かったりして。

ン? なんだか、大日本帝国の検閲がどんなことをしたのか興味が湧いてきましたな。
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ううん、十瑠さん、ちがうってば~!(笑) (viva jiji)
2007-03-15 19:43:59
この86年版は、ズッタズッタじゃなくて、完全オリジナル版って書いてあります。

おそらくこれはプロフェッサーのおっしゃっている65年にリバイバルされたのを
ビデオ化したものでしょう。

日本初公開時(昭和31or2年頃かしら?)のは検閲でズッタズタにされたのを上映したんですわ。

私の書き方がおかしくてゴメンして下さい。
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わぁーーー!今度は私がオカシクなってるぅーー! (viva jiji)
2007-03-15 19:51:33
昭和じゃなくってーーー
1931or2年頃かしら?に大訂正!!

パタパタパタ!(ごまかしモード全開!)(笑)

viva jijiの~、アホッ!アッホーーー!

アッ、ッホーホケキョ!♪(笑)

この桜のスキン、キレイやわ~~!

ねぇ~、十瑠さん!!

・・・ふぅーーー、つかれた!(笑)
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