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北大生支援の元教授インタビュー 公安の事情聴取を受けた中田考氏が語る「イスラム国」
「イスラム国」に戦闘員として渡航計画を企てていたとして、10月6日に北海道大学の男子学生が警視庁公安部から事情聴取を受け、東京都杉並区の宿泊先などの家宅捜索を受けた。小誌は、この学生の渡航支援を行ったとして、同じく事情聴取と家宅捜索を受けた中田考氏に9月24日の段階で接触していた。9月に現地を訪れたばかりの中田氏が語る「イスラム国」とは――。
中田 考(なかた・こう)氏
カリフメディアミクス代表取締役社長、同志社大学高等研究教育機構客員教授、イスラム学者(c)Takashi Suga
Wedge編集部(以下、――)なぜ「イスラム国」へ行ったのか。
中田考氏(以下、中田)9月上旬に「イスラム国」に招かれ、シリア国内の彼らが支配する地域へ行ってきた。「(編集部注:8月にシリアでイスラム国に拘束されたとみられる)湯川遥菜氏の裁判をしたい。公正に裁きたいと思うのだが、英語も通じず、話にならないので、通訳にきてくれ」という幹部の依頼を受けてのものだ。アラビア語と日本語の通訳ができ、かつイスラム学の知識がある人間として私に白羽の矢が立った。この時点でほとんど人は限られる。結局、折悪しく空爆が激しくなり、幹部たちが散り散りに身を隠してしまったため、湯川さんとは会えず、虚しく帰ってきた。
――渡航費は出してもらったのか。
中田 全額自分で支払った。大変だった。
――危険な目には遭わなかったのか。
中田 私は招かれて行っている立場なので、捕まることはない。
――印象に残ったことは。
中田 彼らは金銭的な余裕がなく武装面では非常に弱い組織、という印象を受けた。中東各国の富裕層などが彼らを資金面で支えている、という報道もあるが、基本的には彼らは自分たちのお金で組織を回しており、貧しい。「政府軍を追いやるぐらいなので、お金があり強いはずだ」という意見もあるが、政府軍が極端に弱いだけの話。弱い組織ともっと弱い組織の戦い。現地にいってそれを目の当たりにしてきた。そもそも停電が常態で電気もろくに通じていないような世界。
――であればアメリカが地上軍を投入すれば簡単に倒せるのか。
中田 それは無理だ。アメリカ軍は強いイメージがあるが、本当に弱い。その理由の1つとして法の縛りが挙げられる。彼らは随分ひどいことをしているが、それでもシリアのアサドやイラクのフセインの軍隊に比べれば、一応軍規がある。軍規があるとやはり弱い。
――実際の戦闘を目にしたか。
中田 「今からシリア政府が管轄する軍用空港を攻撃しに行くから来い」と言われてついて行った。上から明確な命令があったわけではなく、「ちょっと行くか」という感じだった。指揮命令系統はしっかりしていない。彼らは死ぬことをまったく恐れていない。喜んで死ぬ。一方の政府軍は死を嫌がって逃げる。だから弱い。
――「イスラム国」へはどんな人が集まっているのか。
中田 世界各地から「イスラム国」へ集まっている人の多くは中東出身者のイスラム教徒。稀に白人を見掛けたが。
――彼らが「イスラム国」の活動に参加する理由は。
中田 実際に話したわけではないが、普通にイスラム圏でイスラムの世界なので、「イスラム国」にいたほうが気持ちよいのだと思う。そこへ集まる人たちはムスリムなので。
――給料は出ているのか。
中田 月50ドル出ている。もちろんムジャヒディン(ジハードを行う人)になると、たとえばガソリンをいくらもらえるとかあるらしいが。現地で50ドル札を見せてもらったが「大変なんだよ、これを一枚もらうのが」と話していた。
――現地に日本人はいたか。
中田 いなかった。これから増えると思うが。
――なぜ。
中田 増えるに違いない。日本にいて何かいいことがあるだろうか。毎年3万人も死んでいくような国。自殺するよりまし。「イスラム国」へ行けば、本当に貧しいが食べてはいける。
――「イスラム国」指導者のバグダディ氏がカリフ(預言者ムハンマドの後継者の意で、イスラム国家最高権威者の称)を名乗った。
中田 彼らは建国宣言で、「イスラム国は『イスラムのカリフ制』であり、アブー・バクル・バグダディ氏は全ムスリムのカリフである」と宣言した。ただ、カリフについては「恐るおそる言ってみた」という感じであった。やはりあれは「イスラム国」であり、カリフではないと言ってもいい。
――彼ら自身もカリフであるということを強く主張はしていないということか。
中田 大して強く主張していない。一応カリフと言ってみたというところ。イスラム法上の正当性があったとしても、認められるかどうかは別なので。彼らは「多分これは認められないだろうな」と思っている。ただし、私は一応カリフの依頼を受けたということで、今回の渡航費も全額自分で支払った。空爆の関係で現地到着後、3日間放置されて、やっと伝令が来るという状況だった。携帯電話を使うとGPSで把握されて爆撃されるので、伝令が来るのだが、「今から(湯川氏のところへ)連れていくけど、1週間いてくれ」と言われた。事前に帰国する日が決まっており、「カリフ制を名乗っているなら約束を守れ!」と言って断って帰ってきた。本当にカリフだったらカリフにそんなことは言えない。「1週間いろ」と言われたら、1週間いないといけない。
――カリフはどう決めたのか。
中田 彼ら自身が決めた。ボードメンバーが「よし、そろそろカリフ制にしよう」と言ってカリフ制にした。それはそれで合法性はあるが、合法性があることと、他の人間が認めることは別の話。じゃあそれだけしかないのかといったらそうとも言い切れない。他にいない、というのは非常に強く、基本的にはバクダディ氏がカリフであろうという話。
――彼らは何がしたいのか。
中田 非常に大雑把にいうと、「コーランの教えをしっかり守る国をつくる」ということ。礼拝を行い、酒は飲まず、泥棒など法に背く行いをした人間には罰を与えると。そのため、コーランの教えに公然と反対し背教したイスラム教徒には非常に厳しい対応をし、見せしめのために公開処刑も行う。ちなみに公開処刑を行っているのは「イスラム国」だけではない。シリアは首切りでなく、首吊りを公開で行っている。基本的には見せることによって、刑罰に対する恐怖心を掻き立てて犯罪を防止するということ。これに効果があるかというのは学説で分かれるところだが。先日現地へ行ったときも、アサド側のスパイが見付かったらしく、司令官が銃殺をしたが、市民から「なぜちゃんと首を切らないのだ」という抗議を受けて、結局司令官が謝罪させられたという一幕があった。
――スパイは多いのか。
中田 イラクもシリアもスパイ国家のため、「イスラム国」には多くのスパイが入り込んでいる。殺害されたジャーナリストの一部はどうも本当にスパイだったようだ。イスラム法では成人男子の戦闘員の捕虜の処刑は合法なので、ある意味では殺されて当然ともいえる。ただ、私は個人的にはジャーナリストを殺害するのは反対だ。彼らには国に戻って「イスラム国」の実態を伝えさせるべきだと考えるからだ。
――支配地域で暮らす一般の民衆は、彼らを支持しているのか。
中田 一般の民衆は何を考えているかというと、日本と同じように、政治やイデオロギーに興味をもっている人は非常に少ない。99%の人は何の興味もない。たとえばアサドが戻ってくるなら「アサド万歳」と言うはず。
――なぜこのタイミングでこうしたことが起こったのか。
中田 非常に簡単に言ってしまえば、世界がおかしいから。イスラムの世界もおかしいし、世界全体がおかしい。イラクとシリアはイスラムの世界においても、世界レベルでみても、ほぼ最悪の残虐な政権。イラクは単に野蛮で、シリアはもっと計算された冷酷な野蛮さ。人を殺すことも、嘘をつくことも平気な人たち。そういうところを倒すには、それに対抗できるような、ある意味での強さみたいなものがなければならない。
――今後の展開は。
中田 ともかくアメリカが空爆を始めてしまったので、さっき言った99%のあまり意識のない民衆がかわいそう。意識のある人間は死んでも平気なのでよいが、一般の民衆がかわいそう。アメリカが彼らを根絶やしにすることは非常に困難であるし、「イスラム国」の活動には、今後日本人を含めて多くの人が参加するものと考えている。彼らの勢いはまだまだ衰えることはないだろう。
(聞き手・構成/Wedge編集部)
中田考への任意の聴取及び家宅捜索に対する弊社見解
2014年10月8日
株式会社カリフメディアミクス
代表取締役社長 中田考
代表取締役CEO 宮内春樹
10月7日、弊社社長 中田考が「私戦準備及び陰謀」の容疑で捜索を受けている北海道大学学生の参考人として家宅捜査を受けました。以下に、本件における弊社と中田考の見解を記します。
本件に至るまでの経緯
弊社は、正義と人道に基づくグローバリゼーションの理念を表現する論文、ノベル及びコミックス等の企画、編集、制作及び出版等を主な目的としており、中田は「一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教」を集英社から出版するなど、自社の理念の達成のために精力的な活動を続けています。
本件は、中田がイスラーム国の前身であるヌスラ戦線、イラクとシリアのイスラーム国を訪れ、現地の友人たちから彼らの月給が30-50ドルであることを聞き知り、それをツイッターなどで人々に知らせたことから、既知の古書の店員がイスラーム国に行けば戦闘員として有給で暮らせると理解し、店舗に求人の貼り紙を掲載したのが発端です。古書店員の周りには、変わった職業に興味を持ち求職中である若者が多く集まっていると伝え聞いており、本件張り紙はその活動の一環としてなされたものと推測しております。一部では、中田がイスラム国のリクルーターであり、張り紙は古書店員の方に依頼し中田が貼らせた、と報じられていますが、全く事実とは異なります。イスラーム国はそもそも日本で義勇兵のリクルートなど行っておらず、中田はイスラーム国のメンバーでもなく、リクルートを行う立場にもなく、また貼り紙の求人についても予め知ってもおらず、関与もしていません。古書店員は求人を見て興味を持ったという北海道大学の学生を中田に紹介し、中田は古書店で求人を掲載していたことを把握していませんでしたが、紹介を受けた学生のイスラム国渡航のための支援を開始しました。
イスラームの教えと本件における中田の思惑
中田は、イスラム世界において幅広い人間関係を持ち、本件以外でもエジプト・トルコ・イラン・マレーシアなどへ、希望する学生の留学の手配を行っており、本件もその一環に当たります。また厳密に言うと本件は戦闘員(ムジャーヒド)である前に、移民(ムハージル)として日本人が一人イスラム国に行くということが中田からイスラム国幹部に伝えられています。
一部報道においては、「学生は自殺するためにイスラム国入りを希望していた」「人を殺したいためにイスラム国を希望していた」とされ、「それを斡旋する元大学教授・中田考の良識を疑う」旨伝えられております。しかし、イスラームにおいては、他人の内心を詮索することはしません。信仰告白をした人間であれば、誰であってもイスラム教徒として扱う義務が生じます。そして、すべてイスラム教徒はカリフが支配する地で暮らすことが義務であり、中田は他にカリフのいない現状においてはイスラム国指導者のアブー・バクル・バグダディ師を現時点における正当なカリフとみなすのが最も妥当であると認識しております。以上のような事由により、渡航を希望している学生の斡旋をすることは、何ら不自然な点はなかったと認識しております。
また、こと本件においては中田の思惑としては平和憲法によって培われた戦後日本と他の先進国とは異なる「イスラーム過激派」とされる組織らとの関係の中で、学生にイスラーム国と日本の架け橋になってほしいという考えもありました。中田は以前から、同志社大学にターリバーンの幹部を招聘し宗教対話を行うといった活動をしてきました。そうした活動が、政府により積極的に阻害されないことが、「イスラーム過激派」とされる組織らが日本に一定の信頼を寄せる根拠になっていました。
言うまでもなく、「イスラーム過激派」といわれる組織にも一定の論理があり、正義があります。それを平和的言論で国際社会に伝えること、そしてそれが可能になる素地を作り、守ることが自身の使命であると、中田は考えております。しかし、強まるイスラーム国への国際社会の批判と、それに追随する日本政府という構造の中で、今回の捜査はなされました。今後は集団的自衛権を根拠としたイスラム国への武力行使もあり得るかも知れません。これまで「イスラーム過激派」と欧米との架け橋としてあり、今後もなり得た日本という国の特殊性は失われつつあり、本件はその表出であると考えております。
弊社見解
中田が日本という国家の枠内で定められた「私戦準備及び陰謀」という法律においてその容疑がかけられる余地が全くないかと言えば、否定せざるを得ず、外交的見地からも、真相を究明するために公安当局の捜査が入ることもやむをえないと考えます。しかし、真実が明らかになれば、法律的見地からも、違法とはみなされず、イスラームの教えおよび国際社会の平和という観点において本件の中田の行動に非はないことが明らかになるであろうというのが弊社の見解です。公安当局の厳正で中庸な捜査とマスコミの事実を綿密に調べた上での適切な報道を希望します。
担当者:株式会社カリフメディアミクス代表取締役CEO 宮内春樹 問い合わせ先: echiy9@gmail.com
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