寒来光一の日替わり笑話

お笑い作家・寒来光一(さむらいこういち)が、毎日(たぶん?)、笑いのネタをお送りします。

おつり(笑ートエッセイ)

2010-11-20 00:36:03 | 笑ートエッセイ
 コンビニのレジで、精算をする。980円だという。
 あいにく小銭の持ち合わせがなく、1000円札を出す。
「おつりはいらないよ」と言う度胸もなくおどおど立ち止まっている
と、当然おつりを受けとめる羽目となる。
 私が左手のひらを上に向ける。すると、女性店員の両手が私の手の
ひらに伸びてきたのだ。
 右手に10円、そして左手に10円を握っているのかというとそう
ではない。右手でつまんだ20円を私の手のひらに載せ、左手は私の
手のひらの下10センチほどの空間に、差し出している。

 何かのおまじないかと思ったが、どうもそうではないらしい(それ
が証拠に、なんの追加料金も請求されなかった)。
 となると、私がよほど頼りなく見え、おつりさえも満足に受け取る
ことができないと思ったのかもしれない。万が一、おつりをこぼした
ときの用心に備えたとしか思えないのだ。

 もし、その万が一のときには、お金はどちらのものになるのだろう
か。
 法律的には折半かもしれないが、やはりそこはお客様第一という店
の方針で、私のものになりそうな気がする。
 いや、たかが20円だ。そんな時には、私が失敗の責任を取って、
「つりはいらないよ」と見栄を切って、出ていってやろう(200円
だったらそうはいかないが)。

 しかし、問題はそんなことではない。
 私だって、いくら頼りないとはいえ、おつりぐらい98%の確率で
きちんと受け取ることができる自信がある。
 その客である私のプライドを傷つけるというのは、あまりにも無神
経な行為ではないだろうか。
 繊細な私の心は、かなり傷つきながら、次の客の様子をさりげなく
観察していた。
 すると、どうだろう。次の客に対しても、その店員は同じ動作をす
るのだ。
「やった! 私と同じぐらい頼りない仲間がいた!」と、喜んだのは
一瞬のことである。どう見ても、私よりしっかりした感じの男性なの
だ。
 かなり厳しい目を持った店員なのだなと思い、次の客の様子を探る。

 それは、見るからにしっかりとした、女性客である。まさかそんな
ことはあるまいと思ったが、やはり2度あることは3度あるのだ。

 その後数人の様子を観察した後、私の疑惑は確信に変わった。
なんのことはない。年齢、性別、背の高低、服装の色、眼鏡の有無な
どに関係なく、だれにでもそうしているのだ。
「おつりを返却する際は、万が一に備えて、お客の手のひらの下の
10.5センチに、自分の手のひらを差し出すこと」などというマニ
ュアルが存在するのかもしれない。

 そうと分かれば、安心である。今度からは、その店の方針に協力す
るために、店員の手のひらの下10.5センチに、私の右手を差し出
すことにしよう。
 そうすれば、万が一どころか億が一に備えることになる。やはり、
危機管理は、万全にしておくことが大切である。



   小倉の繁華街で、角を曲がる前に立ち止まってメールを打ってい
   ると、声をかけられました。
   何と数か月ぶりに会う友人だったのです。
   あの角を曲がっていれば、出会っていなかったわけで、何とも不
   思議な縁でした。 
   友人とは、12月の再会を約して別れました(実を言えば、近日
   中に連絡をとる予定だったのですが、その手間が省けたというわ
   けです)。
コメント
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