「封筒に、この表にある人の住所と名前を書いてくださいね」
私が、サラリーマンだったころの話である。
アルバイトの若い女性に、宛て名書きを頼んだ。当時はパソコンなどな
い。彼女は、言われたとおり、封筒にせっせと宛て名を書き始めた。
小1時間たったころ。
「はい、できました」
「お疲れさま……!?」
受け取った封筒を見て、私は絶句した。
何とそこには、住所と(まさしく敬称のついていない)名前だけが書か
れていたのだった。
「あんた、手紙を書いたことがないのか!」
こうどなりつけたい気持ちをぐっとこらえて、私はにっこりとほほえみ
ながら、こう諭すように言った。
「宛て名を書く時には、名前の後ろに『様』をつけてくださいね」
彼女は、けげんそうな顔をしながら、渋々と取り掛かり始めた。きっと、
心の中でこう毒づいているのだろう。
「それならそうと、最初から、そう言ってくださいよ」
いや、ひょっとすると、こう思ったのかもしれない。
「この人、すご~い! 何でもよく知ってる~!」
ただ、それにしては、表情が暗かった。案外、そのどちらでもなく、こ
んな可能性も考えられる。
「この人、感じ悪いから、わざとミスして恥かかせてやろうと思ったのに、
気がつかれてしまったみたいだわ。ああ、残念!」
今となっては、真相は知るよしもない。しかし、いずれにしても、何と
も「様」にならない話ではある。
私が、サラリーマンだったころの話である。
アルバイトの若い女性に、宛て名書きを頼んだ。当時はパソコンなどな
い。彼女は、言われたとおり、封筒にせっせと宛て名を書き始めた。
小1時間たったころ。
「はい、できました」
「お疲れさま……!?」
受け取った封筒を見て、私は絶句した。
何とそこには、住所と(まさしく敬称のついていない)名前だけが書か
れていたのだった。
「あんた、手紙を書いたことがないのか!」
こうどなりつけたい気持ちをぐっとこらえて、私はにっこりとほほえみ
ながら、こう諭すように言った。
「宛て名を書く時には、名前の後ろに『様』をつけてくださいね」
彼女は、けげんそうな顔をしながら、渋々と取り掛かり始めた。きっと、
心の中でこう毒づいているのだろう。
「それならそうと、最初から、そう言ってくださいよ」
いや、ひょっとすると、こう思ったのかもしれない。
「この人、すご~い! 何でもよく知ってる~!」
ただ、それにしては、表情が暗かった。案外、そのどちらでもなく、こ
んな可能性も考えられる。
「この人、感じ悪いから、わざとミスして恥かかせてやろうと思ったのに、
気がつかれてしまったみたいだわ。ああ、残念!」
今となっては、真相は知るよしもない。しかし、いずれにしても、何と
も「様」にならない話ではある。